Episode.6
商人ギルドでの生活は、思っていた以上に快適だった。
個室は思っていた以上に広く、ワンルームとは言え、
日本で言う所の12畳程の広さで、防音もしっかりしている。
机と棚、寝台があり、生活に必要な物は揃っている。
窓にはカーテンまで備え付けられていて、何も買い足す必要はない程だ。
食事も支給され、治安の心配もない。
(これ以上望むのは贅沢だな、
この環境以上の成果を仕事で上げないと……)
自然と気合が入る。
深く息を吸った。
本日から――正式に、鑑定士としての仕事が始まる。
「主に頼みたいのはポーションの鑑定です」
そう言って案内してくれたのは、
鑑定をしてる人の中でもリーダー的な人だった、
リーダーのはずなのに、どこかおどおどして遠慮している風もあるが、
最初なので仕方ないと思う事にする、
徐々に打ち解けていければいい。
「ポーションは品質の差が激しい。
出来の悪い物は、効き目が薄いどころか危険なんです」
「……なるほど」
「しかし、液体なので鑑定が難しく、性能が分かりにくい、
なので”鑑定”スキルで、ポーションの状態を見て欲しいんです」
並べられたのは、大小さまざまな瓶。
アキラは一つ手に取る。
(……“鑑定”)
意識を向けた瞬間、
頭の中に情報が流れ込む。
――回復ポーション(B)
効果:軽度の外傷回復
状態:良好
推定売価:120リラ
呪い:なし
(……見える)
感覚としては、
長年の経験が一瞬で整理されるような感触だった。
「これは、良品ですね」
「そうですか」
次の瓶に手を伸ばす
「効果は安定しています。
軽度の外傷回復効果があり、
保存状態も良く、正規価格で問題ありません」
次の瓶。
――回復ポーション(D)
状態:劣化
効果:胃の不調を和らげる
推定売価:40リラ
副作用:軽い吐き気の可能性
「……これは、売らない方がいいですね」
「理由は?」
「劣化しています。
一応胃薬ですが副作用があって勧められません」
リーダーは一瞬黙り、やがて満足そうに頷いた。
「分かりました、”鑑定”は流石ですね」
(……日本と同じだな)
誤魔化せば、短期的な利益は出る。
だが、長期的には必ず信頼を失う。
こうして、ポーションの鑑定を続け、
その内容を書いて瓶に貼るという作業を、1日500個以上続けていった。
ある日、回されたのは、
他の鑑定師が首を傾げていた品だった。
古びた小さな箱。
装飾はあるが、素材が分からない。
(……普通の目では、判断できないな)
アキラは集中する。
――古代交易用計算箱
用途:取引補助
状態:経年劣化
推定売価:修復前 300リラ
修復後 2,000リラ
呪い:なし
(……計算箱?)
「これは、古代の商人が使っていた物です。
取引の計算を補助する道具ですね」
「本当か?」
「はい。
修復すれば、価値は跳ね上がります」
周囲がざわついた。
こうした“分からない物”を見抜けること。
それこそが、鑑定士の真価だった。
ただし――
(神ランク……それだけは、見えない)
鑑定の情報が途切れる感覚も、
すでに何度か経験している。
(無理はしない。
分からないものは、分からないと言う)
それもまた、信用だ。
仕事の合間、
アキラは資料室へ足を運んだ。
棚には、分厚い書物が並ぶ。
過去の取引記録。
歴史的な遺物の解説。
国ごとの貨幣価値の変遷。
(鑑定は“答え”をくれるが、“理由”は自分で理解しないといけない)
鑑定結果と、書物の内容を照らし合わせる。
なぜ価値があるのか。
なぜこの年代なのか。
(……面白いな)
数字と歴史。
価値と背景。
日本での仕事と、どこか似ていた。
こうして、アキラは少しずつ、
この世界の“物の価値”を学んでいく。
派手さはない。
だが確実に、
鑑定士としての評価は積み上がっていた。
異世界アルセリオンでの生活は、
剣も魔法も振るわずに――
静かに、確実に、軌道に乗り始めていた。




