Episode.7
商人ギルドの会計室は、静かだった。
紙をめくる音。
ペンが走る音。
時折、金貨が触れ合う乾いた音。
普段鑑定用の部屋に籠りがちなアキラだが、
鑑定をしていて、どうしても気になった事がでてきたのだ。
「すみません、会計の担当者は・・・」
「俺だ」
ひょろりとした、ぶっきらぼうな男性が現れる。
「俺は、鑑定師のアキラです」
そう言ってギルドカードを見せる、
ギルドカードが金色という事で、ある程度信頼になると分かったからだ。
「俺はロイドだ、それで?」
ロイドと名乗った男性は、めんどくさそうに先を促す。
「……ここ、少し気になりませんか?」
「どこだ」
ロイドは即座に身を乗り出す。
ロイドは金に厳格で、金が好きで、
数字に関する話題には誰よりも反応が早い。
「このポーション取引です。
仕入れは安定していますが、
販売先ごとの価格差が曖昧です」
「……ふむ」
「冒険者向けと、一般市民向けで、
品質基準と価格を明確に分けた方がいい」
帳簿の数字を指でなぞりながら、アキラは続ける。
「冒険者は効果重視。
市民は価格重視。
同じ物を同じ値で売る必要はありません」
「……利益率は?」
「平均で、三%ほど上がります」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、ロイドの目が輝いた。
「三%だと……?」
「年間取引高を考えれば、
金貨にして――このくらいです」
さらさらと数字を書き出す。
ロイドはそれを見て、喉を鳴らした。
「……いい。実にいい」
(反応、分かりやすいな)
アキラは内心で少し笑う。
日本でも、数字が分かる人間同士は話が早かった。
「……お前、商人向きだな」
「元は、会社員です」
「会社員?」
「ええ。数字と調整役が仕事でした」
ロイドは、にやりと笑った。
「なるほど。だから話が合うわけだ」
その日以降。
ロイドは、事あるごとにアキラを呼ぶようになった。
「この数字、どう見る?」
「この取引、危なくないか?」
単なる鑑定士ではない。
“数字が分かる仲間”として。
そして――
「なあ、アキラ」
仕事終わり、帳簿を閉じたロイドが言った。
「飲みに行かないか」
「……酒ですか?」
「当然だ。金と数字の話をした後は、酒だろう」
(日本と同じだな)
アキラは、苦笑しながら頷いた。
向かったのは、ギルド御用達の酒場。
木の香りと、濃い酒の匂い。
冒険者と商人が入り混じる、賑やかな場所だ。
「まずは乾杯だ」
杯が鳴る。
酒は強めだが、嫌な味ではない。
「……うまいですね」
「だろう?
安くて、量があって、度数が高い。最高だ」
ロイドは本気で幸せそうだった。
「お前みたいな鑑定士は貴重だ」
「そうですか?」
「ああ。価値を見る目があって嘘をつかない」
一拍置いて、続ける。
「……信用できる」
その言葉に、アキラは少しだけ目を伏せた。
日本で、何度も聞いた言葉。
そして、何度も裏切られた言葉。
だが――
(ここでは、違うかもしれない)
杯を重ねる。
金の話。
数字の話。
少しだけ、人生の話。
異世界アルセリオンで。
アキラは初めて、
“仕事仲間以上の関係”を築き始めていた。
剣も魔法も使わずに。
才能と誠実さで。




