Episode.5
宿を後にして、商人ギルド目指す事にする。
宿屋の主人に場所を聞くと、丁寧に地図までくれて、行き方を教えてくれた。
「見れば一目でわかりますよ」
そんなに目を引く建物なのかなと思う。
物の売買、価格の調整、信用の保証。
そして――
(銀行の役目も果たしている、か)
神から聞いていた情報を思い返す。
日本での貯金は、すでにこの世界の通貨へ換算され、商人ギルドに預けられているはずだ。
(まずは、それを確認しないとな)
玲は地図を見て、大通りの先へ向かった。
やがて見えてきた建物を前に、思わず足を止める。
「……でかいな」
商人ギルドの建物は、街の中でも明らかに異質だった。
三階、いや四階はあるだろうか。
石造りで、柱は太く、正面の扉だけでも宿一軒分はありそうだ。
装飾は控えめだが、隙がない。
実用と権威を両立させた、まさに“組織の顔”。
(そりゃ、一目で分かるって言うよな、
それに、金、情報……全部ここに集まる)
中へ入ると、さらに圧倒される。
広いホールには豪華がシャンデリアがいくつもぶら下がっていて、豪華な雰囲気を醸し出している。
カウンターは複数あるにも関わらず、行列ができるほど人が溢れている。
行き交う商人、冒険者、貴族らしき者。
金の匂いがする――そう言っても過言ではない。
カウンターに並び、順番を待つ。
20分程待った所で、俺の番になった。
「こちらを利用するのは初めてなのですが」
「では新規登録をしますね」
受付に立っていたのは、落ち着いた声の男性職員だった。
「はい、陣内玲といいます」
「え?名字をお持ちなのですか?」
「名字を持っていると何か?」
受付の男性はどまどった声を出す。
「みよじを持たれるのは貴族様だけです」
「あ・・アキラです!ただのアキラ」
危ない!
名字は名乗らない。
平民である以上、それが自然だ。
「こちらがギルドカードです」
渡されたのは、小さな銅色の金属板。
紐が通されており、ネックレスのように首から下げられる。
「では、一滴この板に血を置いて下さい」
そう言われて針を渡される。
俺は左の一指し指に針を突き、ギルドカードの上に血を置く。
すると、単なる板だったギルドカードに文字が彫られた。
文字を見ると名前が彫られている。
それ以外の情報は一切見れなかった。
「身分証明、信用証明、取引履歴の管理、全て兼ねています。
紛失しないようお気をつけください」
「分かりました」
(日本の社員証より重要だな)
内心でそう思いながら、受付の男性にギルドカードを渡す。
次に、預けられている資金の確認だ。
「預金を確認したいのですが」
そう言うと、受付の男性は何やら機械のような物にギルドカードをかざす。
「600万リラ、確かにお預かりしております」
数字を聞いた瞬間、心底ほっとした。
(……ちゃんと、ある)
神の言葉は嘘ではなかった。
「スキルも登録されますか?」
受付の男性に聞かれ、就職に有利だろうと思って、
ギルドカードにスキルも登録してもらう事にする。
「はい、お願いします」
そう言うと、受付の男性は何やら細かい宝飾がなされた台に丸い石が置かれているのを持ってきた。
「この鑑定の石の上に手を置いて下さい」
「はい」
すると丸い石が光って、石の内部に文字が浮かびあがる。
ギルドカードといい、この辺、確かにファンタジーだよなと思っていると。
「“鑑定”?」
受付の男性が叫ぶように言い、その瞬間、空気が変わった。
わずかに引き締まった声で話かけられる。
「少々、お待ちください」
そう言って奥へ下がっていく。
(……反応、早いな)
数分もしないうちに、別の人物が現れた。
白髪交じりの老人。背筋は伸び、目は鋭い。
「君が、鑑定持ちかね?」
「はい。アキラと申します」
「私はグラハム。
この商人ギルドの長を務めておる」
(……ギルド長、直々か)
アキラは内心で驚きつつも、表情は崩さない。
「率直に言おう」
グラハムは、微笑んだ。
「ここで、働いてみる気はないか?」
「……いきなり、ですか」
「鑑定スキルは希少だ。ぜひこの商業ギルドで働いてもらいたい」
視線が、値踏みするように、しかし嫌味なく向けられる。
「待遇は悪くせん。
給料も、住み込みの部屋も用意しよう」
(住み込み……)
その言葉に、アキラは即座に利点を計算する。
家賃不要。
治安良好。
情報の中心。
(……最高の環境じゃないか)
「食事は朝、昼、夜と食堂で食べられる、
食堂で食べる以上無料だ。
給料はそうだな・・・月50万リラでどうだ?」
「50万?」
(おいおい、課長の給料より多いぞ!?)
驚いていると、グラハムが続ける。
「いや、少なかっかたか・・・60万リラ出そう」
服屋でスーツを売った時と同じパターンだなと思いつつ、あわててOKを出す。
「もちろん!よろしくお願いします」
「決まりじゃな、前の職場でも高い立場だったそうだ、それなりのポジションは用意しよう」
グラハムは満足そうに笑った。
前世の情報が分かっているのに驚くと共に、
まったく未知の仕事で、過剰な期待でないか不安になったが、これ以上の職場はないと決意する。
こうして、二人は固い握手を交わした。
そうして、銅色だったギルドカードは、
銀色のギルドカードへと変更になり、
今俺の胸元で輝いている。
俺ってかなりついているな、
というか、”鑑定”スキル選んで本当に良かった。
心の底からそう思ったのだった。




