Episode.4
日が暮れきて、宿に泊まる事にする。
商人ギルドに行くにももう時間が遅い、
明日行った方がいいだろう。
最初に玲が向かったのは、通り沿いの宿だった。
看板には素朴な文字で《黄金の木馬》と書かれている。
豪華さはないが、人の出入りは多く、雰囲気も悪くない。
「一泊、朝食付きで3000リラだよ」
「……3000?」
思わず聞き返すと、宿の主人は不思議そうな顔をした。
「高かったか?」
「いえ、安いです」
即答だった。
(3000円……いや、3000リラ)
日本の感覚が抜けきらない自分に苦笑しつつ、
玲は財布を握る。
部屋は簡素だが清潔で、鍵もきちんと付いている。
シーツは白で清潔そうで、ベッドも硬すぎず、寝るには十分だった。
(……これで3000)
続いて、街で食事を取る。
パンとスープ、肉の煮込みで200リラ。
気になっていた魔物肉の串焼きも買った。
日本の焼き鳥の3倍はあるだろう大きな肉が5つもついていて、
かなり大きな串焼きだった。
このボリュームで50リラ。
(物価……かなり安いな)
計算は自然と頭の中で始まる。
だいたい5000リラあれば、1日が暮らせそうだ。
(600万リラあれば……)
もちろん、突発的な出費や病気、事件を考慮すれば短くなるが――それでも。
「しばらくは何とかなりそうだ」
胸の奥に、ふっと力が抜ける感覚が広がった。
異世界に放り出された直後の不安が、
初めて“数字”によって溶けていく。
――だが。
街を歩くうち、別の現実も見えてきた。
大通りは賑やかで、商人も冒険者も行き交い、
子どもが走り、笑い声がある。
しかし、一本裏へ入ると空気が変わる。
建物は古く、舗装もされず土と雑草の道、視線が突き刺さるようになる。
(……露骨だな)
ボロ布を纏った者。
明らかに仕事を持たない若者。
こちらの懐を探るような目。
(貧富の差……日本より、ずっと分かりやすい)
日本では、制度や建前が緩衝材になっていた。
だがここでは、それがない。
金を持つ者は守られ、
持たぬ者は、自己責任。
(裏道に入る理由は……今はない)
アキラは即座に判断し、踵を返した。
無用なリスクは取らない。
英雄でも、冒険者でもないのだから。
大通りへ戻ると、空気が一変する。
巡回する警備兵。
商人同士の笑顔。
活気。
(治安は……場所次第、か)
現実的で、分かりやすい。
玲は歩きながら、心の中で整理する。
(住める。生きられる。だが――甘くはない)
だからこそ。
(情報と、信用と、仕事)
それが必要だ。
鑑定スキルを持つ自分ははたしてどこで活躍できるのだろう?
一番思いつくのは商店だ、大きな店なら仕入れなどで、
鑑定などが必要になるかもしれない。
まずは商人ギルドに行って、貯金の確認をして、
それから、求人の見方を聞いて、商店を当たってみるか。
おおよその方針を決め、宿を後にした。




