Episode.3
視界が、白から色へと変わった。
風の匂いがする。
土と石、そしてどこか香辛料の混じった、異国の空気。
「……ここが、アルセリオン……」
そう呟いた瞬間、自分の声が自然に周囲へ溶けた。
違和感はない。
耳に入ってくるざわめきも、理解できる言葉として脳に届いている。
(……本当に、言葉は問題ないんだな)
目を開けた先は、都市部だった。
石畳の広い通り。
三階建てほどの建物が並び、木と石を組み合わせた造りが多い。
露店の呼び声、馬車の音、人々の足音。
ファンタジーの世界――だが、想像以上に“生活感”があった。
「魔物肉の串焼き! 安いよ!」
「ポーション補充は済んだか? 今日は森が騒がしいぞ」
耳に入る単語に、自然と眉が動く。
(……魔物、ポーション、冒険者)
通りを歩く人々の中には、明らかに武装した者たちがいた。
剣、斧、弓。
革鎧や軽金属の防具。
彼らは堂々としていて、街の人々も特別視していない。
(冒険者が“職業”として成立している文化か)
日本で言えば、自衛官や消防士のような存在かもしれない。
むしろ自分の方がじろじろ見られている。
どうしてだろう?と思ってはっと気が付いた。
「スーツのせいか」
この世界の服装としては、かなりおかしな服装なのだろう。
まず、服を何とかしなくては・・・
と思って鞄の中を開ける、
財布を見ると、日本の円から、何やら硬貨に変わっていた、
おそらくこちらのお金なのだろう。
手持ちは2万円ちょっと、
神様は商人ギルドに日本の貯金分は置いてあると言っていたので、
とりあえず600万円分ぐらいはある事になる。
日本では決して少なくない額だが、
異世界でどれほど保つのかは分からない。
宿代はいくらか。
食費は。
家賃は。
何より――
(仕事をしなければ、減る一方だ)
当たり前の現実が、異世界でも変わらないことに不安を覚えた。
通りの端で立ち止まり、周囲を観察する。
耳が長い人がいる、いわゆるエルフだろうか?
大きなハンマーを持った小柄な男性はドワーフかなと検討をつける。
しかし、いわゆる獣人といわれる、耳や尻尾のついた人はいない。
少なくとも、外見は皆人型をしていた。
冒険者らしき集団が屋台の前で話し込んでいる。
酒場らしき建物から、笑い声と音楽が漏れている。
商人が値段交渉をしている。
とりあえず服屋だな・・・
と思って服が大量に置かれている店に行く。
店にはずらりと服が並んでいるが、何を選んだらいいのか分からない。
とにかく店主に声をかける事にした。
「すみません」
「はいよ」
「服が欲しいのですが、どんなのがいいか分からなくて・・・」
「おや、お兄さん、随分と変わった服を着ているね、異国の人かい?」
「えっと、はい、遠くから来ました」
「そうかい、そうかい、どんな服をお探しで?
普段着かい?仕事用かい?」
しばらく考えて、職を探さないといけないので、
仕事用を買っておこうと思う、
それ以上は荷物になるし、この国でどんな立場の人が、
どんな服を着るかも分かっていない、
もう少ししてから、買い足してもいいだろう。
「とりあえず仕事用の服で」
「そうだね、今も立派な生地の服だから・・・この辺りかね」
と、ほいほいと5着程出してくれた、
それを試着させてもらい、体にフィットして、
見た目も良いものを購入する事にする。
「これいくらですか?」
「5000リラだよ」
5000リラ、そう思って財布を見る、
すると不思議とこの硬貨が5000リラだと分かる。
神様が、言語に苦労はしないと言っていたが、ここにも効果はあるようだ。
財布から5000リラを出して渡す。
「まいど・・・それとこれは商談なんだが」
「なんですか?」
「今まで着ていた服売ってくれないか?1万3000リラでどうだ?」
買った服より、売値の方が高くて驚いていると、迷っていると受け取ったらしく。
「いや、1万6000リラ出す!頼む!」
そこまで言われて、正直相場とかはまるで分からないが、
持っていても荷物になる所なので、売る事にする。
「分かりました、売ります」
「そうか!」
そう言うと、店主は握手を求めてきて、硬く握手をして、
スーツの代金を受け取った。
その後、服屋の店主と別れ、また街中をきょろきょろしながら歩く。
食べ物は店が立ち並び、露店も多い、
調理できなくても、問題なく生活できそうだ。
(住む場所も必要だな)
野宿など論外だ。
治安がどうであれ、拠点がなければ動けない。
(次に、仕事)
冒険者になるつもりはない。
だが、鑑定スキルが役立つ場は、必ずあるはずだ。
情報を集めないとな。
串焼き売りのにおいにつられ、食べてみようかと思いながら、
街をまた歩き出した。




