第38章 鏡の”修復”
今も、騎士達はドラゴンと戦っているのだろうな・・・・
時々感じる地響きを聞きながら感じる。
俺ができるのは、聖剣の鑑定だけだ。
分かっていても、何もできない自分に無力感を感じる。
そんな空気を打ち破るかのように、リリアーナが明るい声で言った。
「アキラさん、報告があります」
どこか自信に満ちた顔。その手には、見慣れた小さな装備袋がある。
「どうしたんだ?」
アキラはソファに座り、テーブルの上のピンチョスをつまみながら聞いた。
「私の修復スキル、ついにⅢになりました」
アキラは思わず口を開いたまま、フォークを止める。
Ⅲ――それは修復スキルの最上位、通常ではほとんど到達不可能な領域だった。
ⅠからⅡに上がるだけでも大変な努力と才能が必要で、Ⅲになることは想像を絶する。
「本当に…これで、聖剣も修復できるんだな…」
アキラの心に安堵と期待が同時に湧き上がる。
これまで多くの聖剣や特殊な武具が戦場で必要となるたび、修復の限界に悩んでいた。
今、リリアーナの手にかかれば、どんな損傷も修復可能――国家の命運を握る武器の準備は、もう恐れることはない。
その時、俺の中で何かが閃いた。
あのダンジョンの鏡も修復できるんじゃ…
あの鏡はあやゆる魔法を跳ね返す、つまりはドラゴンの炎も跳ね返せるはず……
俺は思いついた事をリリアーナに告げる。
すると、
「冒険者ギルドへ行きましょう」
リリアーナは手早く準備を整える。
二人はナイトを伴い、街の喧騒を抜けて冒険者ギルドへ向かう。
ナイトも一緒で、守護者として頼もしい存在に目を細める。
ギルドに到着すると、受付の女性や他の冒険者たちの視線が二人に集まる。
ナイトの威厳ある姿と、リリアーナの凛とした雰囲気に、多くの者が息をのんだ。
アキラは受付で叫ぶように言う
「ギルドマスタのグライブ殿はいらっしゃいますか?」
驚く受付に、面識のあるスタッフが俺に気付き、声をかけてくれた。
「ギルドマスターに何の用事ですか?」
「ドラゴンの対策ができるかもしれないのです」
驚いた顔をしたスタッフは、
「分かりました」
とギルドマスターに連絡を取ってくれて、ギルド長室に案内された。
「よく来てくれた」
大柄で鷹揚な男性、グライブは歓迎してくれた。
「時間が惜しい、さっそく要件を聞きたい」
「はい」
俺は、ダンジョンで得た鏡なら、ドラゴンの炎も反射できるかもしれない事、
その鏡をリリアーナなら”修復”で作れるかもしれない事を話した。
「分かった、すぐに用意しよう」
グライブの命令で、地下倉庫にダンジョンの鏡の破片が集められる。
「これで全部だ」
「ありがとうございます」
「代金は」
「国の大事だ、国に請求する、気にするな」
俺は頭を下げた。
リリアーナが真剣な表情をする。
「修復するわ」
リリアーナは鏡を手に取り、微細な傷や亀裂、魔法の残滓まで丁寧にチェックする。
その手の動きはまるで儀式のようで、アキラは息を呑む。
「ここは、魔法反射の力が残っている。慎重に…」
リリアーナの指先から淡い光が放たれ、鏡表面を覆う微細なひび割れが次々と消えていく。
光の粒子はまるで生きているかのように揺れ、鏡の内部構造に沿って流れる。
アキラは手を伸ばして触れたくなる衝動に駆られるが、ぐっと堪える。
作業が進むにつれて、鏡の表面は完全な滑らかさを取り戻し、光を反射する角度も鮮やかに整う。破損前と比べて輝きが増し、魔法反射の力も明確に強化されているのがわかる。
「これで完了…」
現れたのは2階建ての家ぐらいの大きな鏡。
リリアーナが息を吐く。
鏡を見る姿はまるで光を操る女神のようだった。
アキラは鏡を手に取り、軽く振って角度を変えながら魔法反射の確認をする。
鏡の中に映る自分の姿は、以前より鮮明でくっきりとしており、微細な魔法も確実に反射できることを感じた。
「ありがとう、リリアーナ…これで、あのドラゴン戦も少しは戦力になる」
アキラの声に、感謝と期待が混ざる。
リリアーナは微笑み、少し照れたように顔を赤らめる。
ナイトは鏡を守るように周囲を巡回し、アキラとリリアーナが向かう方向を見守る。
その存在は、これから始まる決戦において絶対的な安心感を与える。
アキラはナイトの背中を見ながら、心の中でつぶやく。
「さて…ドラゴンの元に向かうか」
「アキラ殿が行かれるのですか?」
「ナイトがいる俺が、一番適任だと思うので」
マジックバックを借りて鏡を入れる、
熟練の冒険者の馬の後ろに乗せてもらう。
「気をつけて」
心配そうなリリアーナに、俺は頷く。
街の出口からドラゴンが現れる地点へと向かう。
ナイトは空中に軽く浮かび、護衛としての役割を全うする姿勢を見せる。
アキラは前方に立ち現れる荒涼とした地形を見据えた。
視界の先、山岳の尾根に立つ影が、彼らの心を一層引き締める。
ドラゴンはすでにその存在感を示しており、空気を震わせる翼の動きが遠くからでもわかる。熱風が吹き、砂塵が舞い上がる。
圧倒的な脅威だ。
ドラゴン出現地点に向かう道は、既に戦場の空気を帯びていた。
火と風、魔力の気配が渦巻き、息をつく暇もない緊張感が包む。
それでも、アキラは胸の奥で静かに決意する。
「準備はすべて整った。後は騎士たちを信じ、そして…ナイトを信じるだけだ」
そう決意して、ドラゴンの元へと向かっていった。




