第35章 神殿のお告げ
アルセリオン王国の神殿は、窓から差し込む光に照らされて淡く輝いていた。
大理石の床は冷たく、光が反射して神殿内の空気を清めているようだ。
大広間の中央に立つのは、王国屈指の“予知”スキル保持者、巫女イザベルだった。
彼女の手に握られた水晶球からは淡い青白い光が揺らめき、まるで時間そのものを映し出すかのように光っている。
長く銀色の髪が肩から垂れ下がり、その瞳は鋭くも優しく、神秘的な光を宿している。
「予言を得ました」
彼女の声は穏やかだが、その一言で周囲の空気が引き締まる。
「この国に破滅をもたらす存在が現れます」
周りにいる巫女達の表情が一気に硬くなる。
イザベルの予言が外れた事はない、
そして、イザベルの予言は、国の大事の時しか発揮されないからだ。
「では、お告げを始めます」
イザベルの声が響くと、水晶球の光はさらに強く揺らめき、周囲の空気が微かに震える。魔力の振動が、足元の石畳まで伝わり、巫女達は息を呑んだ。
静寂の中で、青白い光の糸が天井に向かって伸び、まるで時間の流れを見せるかのように場内を照らす。しばらくして、イザベルの口が開く。
「ドラゴンが、王都北東のオルデン平原に現れます」
その瞬間、広間の空気がさらに重くなる。王都の近くにドラゴン――これは国家にとって最大級の脅威だ。集まった巫女たちも、息を呑んで視線を固める。
「到来は、三日後の正午ごろ」
その言葉に、巫女の頭は瞬時に計算を始める。
平原までの距離、準備に要する時間、王国の兵力や武器の有効性。理知的な頭脳が自然と動き出す。
だが、重要な情報が続く。
「通常の武器では、このドラゴンに傷をつけることはできません。剣、槍、弓、すべて無効です」
静かな口調ながら、言葉の重さは王国全体の緊張を示していた。
巫女達は唇を固く結ぶ。これまでの経験から、この事態の深刻さはすぐに理解できた。
「攻撃は魔法と聖剣の物理攻撃のみ、ドラゴンは魔法が効きにくい、聖剣が必要です」
イザベルの予言は、すぐさま王に伝えられた。
「アキラ殿、王宮からの再度の依頼です」
商業ギルドで、いつも通り鑑定をしていたアキラは、王宮からの手紙に驚く。
つい最近、王宮の宝物館を鑑定した所だ、何か不備でもあったのかと、心臓がどくどく言う。
『王宮に保管されている数千本の剣の中から、聖剣を選んで頂きたい』
「聖剣?」
一応商業ギルドでの仕事もまだ残っているが、王宮からの依頼である、
しかも、至急との事だった。
ひとまず、グラハムに相談する事にした。
「聖剣だと・・・するとドラゴン関連かもしれん、
よし、分かった、商業ギルドの仕事はいい、すぐに王宮に向かってくれ」
「分かりました」
グラハムの指示もあり、王宮へ向かう。
手紙を見せると、すぐに剣が収められている場所に案内された。
しばらく歩くと、王宮の奥深く、武器の保管庫に到着した。
壁一面に並ぶ剣は、まるで歴史を語るかのように光を反射し、
数千本に及ぶ。どれも精巧で、見た目だけではどれが聖剣か見分けられない。
アキラは息を整え、鑑定スキルを起動する。
数時間の作業が続く。
「これは聖剣ではありません……」
「こちらも錬金で強化されているが聖剣ではない……」
ひとつひとつ、精密に見極める。
一言で剣と言っても、飾り用と間違うかのような繊細な装飾が施されているものから、冒険者が使い捨てで使いそうな物まで、様々な物がある。
神ランクかどうかは、見ただけ、振るってみただけでは決して分からない。
普通の切れ味とはまた違う効果、これを判定するのは、鑑定師の鑑定以外には不可能だ。
やがて、『SSSランク 聖剣』と表示される剣を手にした。
「これだ……」
アキラは小さく息を漏らす。
最終的に、数千本の中から選ばれた聖剣は21本。
どれもが、ドラゴン討伐のために不可欠な存在である。
王国の運命を託されるに相応しい武器たちだ。
また”修復”によって聖剣として蘇りそうな剣も3本程あった。
「この剣は、鍛造時の魔力結晶の配列が少し乱れています。
修復すれば、潜在的な神力を引き出せます」
王宮の担当者は頷き、王都にいるスキルⅢの”修復”スキルを持つ人物に、
修復依頼がかけるそうだ。
現在この国にはスキルⅢの修復スキル持ちは3人、そのうち2人が王都にいるので、
何とかドラゴンが来る前に間に合うだろうとの事だった。
また、戦いの中で剣が損傷する可能性もあるので、
修復師は王宮に招かれ、待機する予定らしい。
ちなみに、”鑑定”スキルでⅢを持つ人物は存在しない。
Ⅱの人は俺ともう一人、大きな商社で働いている人で、
主に他国からの輸入品の価値を測っている。
もう一人がいろんな国を渡り歩き、なかなか捕まらないというのと、
俺の方が商業ギルドというどちらかというと公的機関に近い所で働いているため、
王宮からの依頼は俺にきているようだ。
そう考えると、”鑑定”スキルがいかに貴重なスキルか分かる。
こうして国の未来を左右する仕事をして、
神様にもらったスキルのありがたさをしみじみと実感する。
王宮の帰り道、ナイトは軽く羽を震わせ、先導する。
夕陽が大理石の床に反射し、黄金の光の道を作る。
アキラは小さく笑みを浮かべ、リリアーナの顔を思い浮かべる。
(――これで、戦いの準備は整った)
神レベルの品を見極める鑑定は、朝方までかかった為、
さすがに疲労困憊だったが、それ以上の満足がアキラを満たしていた。




