Episode.32
砂漠階層を抜けた先に静寂があった。
熱も、風も、魔物の気配もない。
白い石で整えられた円形の空間。
「セーフティゾーンか」
セーフティゾーンは3階ごとにあり、
3階、6階でもセーフティゾーンで休憩は取っている。
今回は9階のセーフティゾーンという事だ。
アキラは、肩の力を抜いた。
床の中央には、淡く光る魔法陣。
周囲には簡素なベンチと、水晶灯。
ここは完全に安全だ。
「ワフ……」
ナイトも、伏せるように座り、
ようやく気を緩めた様子を見せる。
アキラは、壁際に腰を下ろし、
マジックバックを下ろした。
「……助かったな、ここ」
疲労自体は大きくない。
だが、緊張は確実に溜まっていた。
ふと、周囲に視線をやる。
すでに、いくつかのパーティが休憩していた。
三人組の剣士パーティ。
二人の魔法使いと前衛の混成。
どこも、疲れ切った表情をしている。
「……あ、従魔?」
一人が、ナイトに気づいて声を上げた。
「しかも、羽……?」
視線が集まる。
だが、アキラは慣れていた。
「はい。護衛です」
それ以上、詳しく話さない。
それでも、十分だった。
「……あんた、意外と疲れた様子がないな」
剣士が苦笑する。
「砂漠、地獄だったろ?」
「正直に言うと……うちは、そこまででも」
アキラがそう答えると、
周囲から溜め息が漏れた。
「羨ましい……」
休憩を兼ねて、軽い交流が始まった。
食事。
水分。
応急処置。
アキラは、地上で買い込んでいた物を、
マジックバックから取り出した。
「……それ、保存食?」
「はい。あと、これ、塩と乾燥野菜」
「え、そんなの持ってきたのか?」
冒険者たちは目を丸くする。
ダンジョン内での食事は、
栄養効率が最優先。
特に、砂漠階層を越えた後では、
塩分と味のある食事が、何よりありがたい。
「一緒に食べますか?」
「いいのか?」
「ええ、大量にありますから」
「なら、少し買わせてもらえると助かる」
「分かりました」
そうして、格安で水や食料を提供した。
「正直、喉が生き返る」
アキラは、苦笑した。
「キャンプみたいで、つい買いこんでしまったんです」
それが、思わぬ形で役に立った。
逆に。
「これ、もう使えないな」
一人の冒険者が、
いくつかの物を処分しようとしているようだった。
「重いし、売れもしないし」
だが、アキラは、反射的に《鑑定》を使っていた。
「……」
一瞬、表情が変わる。
「それ、捨てるなら……安くで譲ってもらえませんか?」
「え? いいよ、タダで」
「いえ、さすがにそれは」
アキラは、少額のリラを差し出した。
結果的に、双方が納得する取引になった。
その中には――
修復すれば価値が跳ねる素材や、
加工次第で希少になる部品が混じっていた。
「……どうしてそんな物がほしいんだ?」
剣士が不思議そうに言う。
「鑑定士なんで」
「なるほど……」
セーフティゾーンは、安全な場所だ。
だが同時に、情報と価値が集まる場所でもある。
「……ここ、嫌いじゃないな」
転移盤が、淡く輝いている。
あれに乗れは地上に戻れ、また続きからダンジョンを攻略できる。
さっきの砂漠で十分中級冒険者レベルの地点まで着ていた。
これから先は更に過酷になる。
「そろそろ帰らないか?」
ナイトに問いかけるが、ナイトは走り出し、
何?といった顔で見る。
まったく帰る気ないな……
「仕方ない……よし、行こうか」
「ワフ!」
こうして、更に下の階段へと足を踏み入れ、結局12階まで進んだのだった。




