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普通のおじさんの異世界鑑定譚  作者: あいら


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32/44

Episode.32

砂漠階層を抜けた先に静寂があった。


 熱も、風も、魔物の気配もない。

 白い石で整えられた円形の空間。


「セーフティゾーンか」


 セーフティゾーンは3階ごとにあり、

 3階、6階でもセーフティゾーンで休憩は取っている。


 今回は9階のセーフティゾーンという事だ。


 アキラは、肩の力を抜いた。


 床の中央には、淡く光る魔法陣。

 周囲には簡素なベンチと、水晶灯。

 ここは完全に安全だ。


「ワフ……」


 ナイトも、伏せるように座り、

 ようやく気を緩めた様子を見せる。


 アキラは、壁際に腰を下ろし、

 マジックバックを下ろした。


「……助かったな、ここ」


 疲労自体は大きくない。

 だが、緊張は確実に溜まっていた。


 ふと、周囲に視線をやる。


 すでに、いくつかのパーティが休憩していた。


 三人組の剣士パーティ。

 二人の魔法使いと前衛の混成。

 どこも、疲れ切った表情をしている。


「……あ、従魔?」


 一人が、ナイトに気づいて声を上げた。


「しかも、羽……?」


 視線が集まる。


 だが、アキラは慣れていた。


「はい。護衛です」


 それ以上、詳しく話さない。


 それでも、十分だった。


「……あんた、意外と疲れた様子がないな」


 剣士が苦笑する。


「砂漠、地獄だったろ?」


「正直に言うと……うちは、そこまででも」


 アキラがそう答えると、

 周囲から溜め息が漏れた。


「羨ましい……」


 休憩を兼ねて、軽い交流が始まった。


 食事。

 水分。

 応急処置。


 アキラは、地上で買い込んでいた物を、

 マジックバックから取り出した。


「……それ、保存食?」


「はい。あと、これ、塩と乾燥野菜」


「え、そんなの持ってきたのか?」


 冒険者たちは目を丸くする。


 ダンジョン内での食事は、

 栄養効率が最優先。


 特に、砂漠階層を越えた後では、

 塩分と味のある食事が、何よりありがたい。


「一緒に食べますか?」


「いいのか?」


「ええ、大量にありますから」


「なら、少し買わせてもらえると助かる」


「分かりました」


そうして、格安で水や食料を提供した。


「正直、喉が生き返る」


 アキラは、苦笑した。


「キャンプみたいで、つい買いこんでしまったんです」


 それが、思わぬ形で役に立った。


 逆に。


「これ、もう使えないな」


 一人の冒険者が、

 いくつかの物を処分しようとしているようだった。


「重いし、売れもしないし」


 だが、アキラは、反射的に《鑑定》を使っていた。


「……」


 一瞬、表情が変わる。


「それ、捨てるなら……安くで譲ってもらえませんか?」


「え? いいよ、タダで」


「いえ、さすがにそれは」


 アキラは、少額のリラを差し出した。


 結果的に、双方が納得する取引になった。


 その中には――

 修復すれば価値が跳ねる素材や、

 加工次第で希少になる部品が混じっていた。


「……どうしてそんな物がほしいんだ?」


 剣士が不思議そうに言う。


「鑑定士なんで」


「なるほど……」


 セーフティゾーンは、安全な場所だ。

 だが同時に、情報と価値が集まる場所でもある。


「……ここ、嫌いじゃないな」


 転移盤が、淡く輝いている。

 あれに乗れは地上に戻れ、また続きからダンジョンを攻略できる。


 さっきの砂漠で十分中級冒険者レベルの地点まで着ていた。

 これから先は更に過酷になる。


 「そろそろ帰らないか?」


 ナイトに問いかけるが、ナイトは走り出し、

 何?といった顔で見る。

 まったく帰る気ないな……


 「仕方ない……よし、行こうか」


「ワフ!」


 こうして、更に下の階段へと足を踏み入れ、結局12階まで進んだのだった。


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