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未開地の異常の原因を排除!

 ヘヴィーゴングに襲われた一夜とは違って、のんびりと充分な休息を取れた面々は、泉に向けて出発していた。

 魔物が多く活動している泉の周辺に行く理由は、単純にゲッコー種の縄張りだからだ。未開地の異常を排除したいエイト達からしたら、その泉に向かうのは当然という事になる。


 一行が一定の速度を保ちながら進んでいると、何時しか平原には背の高い草木が目立つようになっていた。

 そしてエイトが、ふと気付く。水の流れる音が微かに聞こえているのに。

 無論それはエヴァも同様だったようで、泉が近い事を悟り、緊張しているように見えた。

 そんなエヴァに、クーパーとガルシアが少しだけ緊張した様子で声を掛けた。


「エヴァ、何時でも剣を抜けるようにしていた方が良いよ」


「あぁ、さっきから何かの気配がしてるからな。用心しといた方が良い」


 確信に満ちた物言いだが、言われた本人はなんの気配も感じる事は出来ていなかった。

 しかしそうは言うものの、自分よりも圧倒的に強い者が言い切っただけに、エヴァは素直に何時でも戦闘出来る体勢を整える。

 そして、そんな中ゆっくりと進む内、緊張感が最高潮へと達した。

 その時…………


『ウワァァアア!!』


『魔法だ! 魔法を使うんだ!!』


『離れな! 距離を保って魔法を撃ち込むんだよ!!』


 ミッチ達と思われる叫び声が周囲一帯に響き渡った。無論、エイト達の耳にも入っている。

 叫び声からして、魔物と戦闘になっているのは間違いないだろう。


 エイト達は今居る場所に留まり、泉にはボスコのみが様子を見に行く。エイトとエヴァの二人が、気配を消す事が未熟だからだ。


 ボスコは周囲に存在する木や草の影に隠れながら、素早く移動して行く。そして、1kmも進まないうちに目的の泉を視界に入れ足を止めた。


「ファイアアロウ!」


「駄目だ! まったく効いてねぇ!」


「ミレー、目を狙ってもう一度魔法を撃ち込みな!」


 ボスコ達から逃げ出した時より人数が減っており、今は四人で必死に“狂気"と呼ばれる熊の魔物三体を相手に抵抗しているミッチ達。

 しかし、かろうじて数で勝るものの、何れ狂気の餌に成り果てるのは時間の問題だろう。何故なら、魔法を使える者の二人が、魔力の枯渇寸前までに陥っているのだから、この後の事柄は容易に予想出来た。


 ボスコは、そんなミッチ達の現状を確認すると、まるでその場から消えるように草木の影に身を消して行った。

 そして、ボスコがエイト達を引き連れて泉を視界に入れられる程の距離まで再度近付いた時には、辛うじて生き残った二人が、苦しそうに呻き声を上げているだけで、既に戦闘は終了していた。

 だが、不自然な点が一つ。それは、狂気にとっての戦利品とでも言えるミッチ……そして、そのミッチの妹であるミレーを残して、他の死体だけを持ち去っていた事だ。

 本来なら、ミッチとミレーも狂気の餌になっている筈なのだが、何故か彼女達二人だけが泉に残されていたのだ。


 そんな二人を遠目に見ながら、エイトが訝しげな視線をボスコに向け、無言で尋ねた。


「ん? あの生き残っている奴を助けたいのか?」


「いや、そうじゃなくて……何で狂気は二人を残して消えたのかって事が聞きたいんだけど」


「あ~……それなら、泉の中心を見ていたら分かるぜ」


 何が何やら分からないエイトだったが、ボスコの言う泉に視線を向ける。

 しかし、泉に視線を向けても何もないし、何も居ない。

 エイトは首を傾げながら、再度ボスコに尋ねようと口を開きかけた瞬間…………ボスコの意図を理解した。

 泉の中心にうっすらではあるが、黒い影が確かに見えていたのだ。


 全長10m程の黒い影を見たエイトは、影だけではあるが、その確かな迫力に生唾を飲み込んだ。


「……デカっ!? あれがブラックゲッコー?」


「あぁ、あれがブラックゲッコーだ。それに、気配は上手く隠していて気付けないだろうが、泉の奥の雑木林にも居るぞ」


 エイトはボスコに促され、奥の雑木林へと視線を向けた。

 だが、残念ながらエイトには確認する事が出来なかった。それほどゲッコー種の気配を消す技術の高さがエイトを上回っているのだろう。


 その事に悔しそうに舌打ちしたエイトは、この先の手順をボスコ達へと尋ねるべく口を開いた。


「何時までジッと眺めていれば良いの?」


「何を言ってんだ? もう動いてるぞ」


「はぁ……?」


 ボスコの発言の意味が分からないエイトは、素っ頓狂な声を上げてアルダとエイダの二人に説明を求めようと視線を向けるのだが、何時の間にか二人はこの場から姿を消していた。

 その事に驚き、まるで忍者だなと小さく呟くが、気付けばガルシアとクーパーも居なくなっていた。


「あれ!? ガルシアとクーパーも居ないじゃん!」


「え!? 凄い……何時の間に四人とも移動していたんですか!?」


 純粋に驚くエイトとエヴァの反応を見たボスコは、苦笑しつつ説明を始めた。


「エイトが泉の奥に視線を移した時だな。……それより、この後の手順について説明するぞ。

 先ずは、ゲッコーの群れが全部姿を見せるまでは動かず待つ。そして、あの………なんだっけ? 死のアウルだっけ? 兎に角、あの二人の生き残りを食べようと近付いた瞬間、面倒なスノーゲッコーとブラックゲッコーをクーパーの弓で牽制して、その間に他のダイオライトゲッコーを先に排除する。

 ダイオライトゲッコーを仕止めるのは、アルダとエイダ、そして俺とガルシアだ」


「俺とエヴァは?」


「待機、だな。……悪いが、二人にはまだ早い。だから、俺たちだけでヤる。

 お前らは、俺たちの戦闘を見ながら自分ならどう戦うか学んでおけ」


「「……………」」


 言外に力不足だと言われている事に憮然とした表情を見せる二人。自分でも力不足は理解しているが、人から言われると流石に素直に納得出来ないようだ。

 しかし、この状況で我が儘を言えるほど物知らずな訳でもない為、渋々ではあったがボスコの提案に同意を示した。


 それから暫くの時間が経過すると、泉の奥からダイオライトゲッコー五体、スノーゲッコー一体、そして泉の中からブラックゲッコー一体が姿を見せた。

 そのどれもが巨大な体躯をしており、容易に討伐する事が出来ないのを示しているかのようだった。


 エイトとエヴァの二人は、その凄まじい迫力に口を半開きにして呆然と眺めるだけだ。巨大な体躯を誇るかのように見せつけるゲッコー種を見れば、その反応も仕方ないと言える。


 そんな二人とは反対に、今まで気配を完全に消していたボスコは、鋭い殺気を身体中から迸らせながら木の影から身を乗り出した。

 それを合図に、クーパーの弓から放たれたと思われる矢が次々にスノーゲッコーとブラックゲッコーの巨体に突き刺さっていく。


 スノーゲッコーとブラックゲッコーは、矢が飛んでくる方向へと顔を向け、ピタッと足を止めた。


「今だ! ダイオライトを仕止めるぞ!!」


 ボスコはスノーゲッコーとブラックゲッコーが足を止めるのを確認すると、力強く叫び声を上げてダイオライトゲッコー五体の下へと駆け出した。勿論アルダ達も同様に、それぞれに持つ武器を掲げながら突撃している。


 まるで弾丸のようなスピードでダイオライトゲッコーの体へと剣が届く間合いに近付いた面々は、躊躇や恐れなど微塵も感じさせない動作で素早く武器

を振り下ろす。

 肉を切り裂く音が、そして次に響き渡ったのは甲高い悲鳴。


 ダイオライトゲッコー四体は、痛みに身を竦ませている。残り一体のダイオライトゲッコーは、突然現れた人間に驚き、困惑しているようだ。


 それを幸いに、ボスコ達はもう一度武器を振り上げると、勢い良くトドメの一撃をゲッコーの脳へと与えた。

 そして残ったダイオライトゲッコー一体に目掛けて、静寂の剣の三人とガルシアが一斉に強烈な一撃を、それぞれ背部、頭部に放った。


 ここまで僅か数秒の出来事だ。

 ランクBでも最強の一角に数えられる魔物が、こうも容易く討伐される様子を見ていたエイトとエヴァの驚きは筆舌に尽くし難いだろう。


 しかし、問題はここからだ。何せ、属性攻撃をしてくるスノーゲッコーとブラックゲッコーが残っているのだから。


 エイトとエヴァが周囲の警戒をする事を忘れ呆然と眺め続ける中、クーパーの放つ矢によって足止めされていたスノーゲッコーとブラックゲッコーの反撃が始まった。

 よくも何本もの矢を好き勝手に放ってくれたな、と言いたげにスノーゲッコーがエイトの使用するアイアンランスとよく似た土属性攻撃を、クーパー目掛けて放ち始めた。そしてブラックゲッコーは火属性攻撃であり、避けるのが難しいと思わせる程の広範囲攻撃を、ダイオライトゲッコーを倒した四人に目掛けて火炎放射のように放った。


「クーパーはスノーゲッコーの攻撃を避け続けろ! ガルシア、エイダ、アルダ! 俺たちは一先ず泉に入り、炎を遣り過ごすぞ!」


 エイトとエヴァの二人は、突如として猛烈な反撃を始めた二体のゲッコーに驚くと共に、その攻撃の苛烈さに息を飲み込んだ。

 二人の視界には、まるで巨大な鉄製の杭が無限にクーパー目掛けて幾つも飛んで行き、泉に身を沈めた四人の方には際限が無いと思わせる程の火炎放射が途切れる事もなく放射され続けていて、そのさまは地獄を連想させていた。


 そう、地獄だ。


 スノーゲッコーがエイトと似た魔法を使うと言っても、その規模には歴然たる差があり、とても目の前の事象が現実だとは簡単に認識出来ないだろう。

 それに、ブラックゲッコーが放つ火炎放射も同様だ。何せ、火炎が湖面の水を容易に蒸発させ、白い蒸気が周囲一帯を包み始めているのだから、余計にエイトにとっては地獄を連想させていた。


 ゲッコー二体が属性攻撃を始めてからどれくらいの時間が経過したのだろうか………少なくとも、五分以上が経過したのは間違いないだろう。

 クーパーは必死にスノーゲッコーの放つ巨大な杭を避け続けており、周囲は杭で滅茶苦茶になっている。しかし、その杭で狙われていた本人は未だ無傷ではあった。

 そして泉に潜っていた四人は、エイトとエヴァの二人からは見えないが、一切の火傷も負う事もなくクーパー同様に無傷だった。


 そんな戦闘を眺めていたエイトだったが、ハッとした様に我に返ると、クーパーはともかく水中に潜っているボスコ達の息が何時までも続く訳が無いと気付き、焦った様子で口を開いた。


「エヴァさん! ゴーレムを護衛に付けますので、少し離れていて下さい!」


「えっ!? まさか、あの戦いに割って入る気ですか!?

 危険過ぎます! あの方達に任せるべきです!」


 エヴァの忠告ももっともなのだが、エイトの耳には入っていないようで、エイトは呪文を唱えると同時に魔力を身体中から迸らせる。

 そして、数秒後にはエヴァの左右にゴーレムゴライアスが二体錬成され、エイトの周囲には二十体のゴーレム毘沙門天が錬成されていた。


「良し、大幅なレベルアップのお陰で目眩も感じない! ゴーレム毘沙門天よ、ブラックゲッコーに死の恐怖を与えてやれ!!」


 何とかボスコ達に反撃の隙を与えようと、エイトは錬成したばかりのゴーレム毘沙門天に指示を飛ばす。

 ゴーレム毘沙門天は、その指示を忠実に守るべく、巨大なブラックゲッコーに向け勢い良く駆け出した。

 叔父の体調がかなり最悪で、身体中の痛みのせいで話も出来ない状態です。それで昨日、最後の会話をした後、息を引き取る迄薬で強制的に眠らせる事になりました。

 病院側の説明では、もって一週間という話でした。その為、恐らく一週間から二週間は更新出来ないと思いますが、ご了承ください。m(__)m

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