未開地の異常の原因を排除!
アルダ達が戦いを開始したのを遠くから見ていたエイト達は、それを眺めつつゆっくりとした歩調で進んでいたのだが、こちらに走り寄って来ていたミッチ達が急に方向を変えて逃げ始めたのに戸惑う。しかし、ボスコの「無視しろ」の一言で追う事はせず、そのままアルダ達と合流することになった。
既に合流した時はシイツと名乗る男一人が生き残っているだけで、他の者達は全員息絶えていた。
それに少しだけ驚くエヴァ。何せ、当初のアルダの話では殺さずに聞きたい事を聞き出す手筈になっていたからだ。
地面に倒れ伏す者達の致命傷になったであろう傷を見て、エヴァがジト目でクーパーとガルシアに視線を向けるものの、二人は顔を逸らして誤魔化すばかりだった。
そんな貴族兼騎士団の面々を余所に、聞き出した情報とそれを元にしたこれからの行動を話し合い始めた静寂の剣の三人とエイト。
そして暫しの時が過ぎ、出た結論はミッチ達が逃げた方向にテリトリーを持つゲッコー種三種類の討伐だった。
当然と言えば当然。今回の未開地探索は、未開地での異常の原因を発見、もしくは排除なのだから。
「それなら、早いとこ行こうぜ。ゲッコー種は夜行性だから、動きの鈍い日中に戦うのが一番良いからな」
ボスコの提案は至極真っ当なものだった。となれば当然、その提案に否やはない。アルダ達は無言で頷いた。
そして、治療の終わっていたシイツを約束通り逃がす事になる。エイトとしては逃がす事に納得出来ない様子だが、自分より圧倒的強者であるボスコ達が決定した事に反論出来る筈もなく、結局は渋々ではあるが同意した。
しかし、本当に心の底から同意した訳ではない為、若干不満そうな表情や態度を表に出しているがそれも仕方ないだろう。この世界には何か発生した場合、迅速に動く警察と同様の組織は有っても、現場に直ぐに移動出来る交通手段がないのだから悪人は見つけ次第排除した方が世のため人のためになる。そう考えているエイトからしたら、目の前に存在する悪を放っておくのは下策だと思っているのだ。
それ故の態度で有るのはボスコ達も気が付いているからだろう。不満そうなエイトに向けて、ボスコが冷静な口調で声を掛けた。
「エイト、あの男は未開地から脱出出来ないから大丈夫だ。……十中八九、魔物の餌食になるのがオチだろう」
そう、実はアルダ達がシイツを見逃す理由には、そんな隠れた理由があったのだ。でなければ、クーパーやガルシアと言った治安を守る騎士団員が、悪人をむざむざ見逃す訳がない。
エイトは、未開地に入ってからの事を脳裏に浮かべると、漸く納得したようで小さく数度頷いた。
「まぁ、確かに一人では無理かもね………それじゃあ、逃げて行った奴らはどうすんの?」
「あれならゲッコー種の囮に丁度良いだろうから、後ろからバレないように追跡すると良い」
「あぁ……成る程、撒き餌ってことか」
少々酷いかもしれないが、確かにボスコの提案は的を射ている。
それに、これまでのミッチ達の所業を鑑みれば自業自得と言えるかもしれない。
ボスコは、未だにジト目でクーパーとガルシアの二人を睨み付けるエヴァに視線を向けて口を開いた。
「エヴァ……クーパーとガルシアの説教も程々にしてやれよ。逃げた奴らの追跡もあるからな」
「……分かりました」
騎士団での階級はクーパーとガルシアの方が高いのだろうが、自分達に非があるのを理解出来ているだけに、エヴァの無言の圧力に屈していたらしい。しかし、それもボスコの一言で解放されると、ホッと胸を撫で下ろしてそそくさと追跡の為の準備を始めた。
準備と言っても武器の簡単な手入れ位で、他にする事はないのだが。
ともあれ、今後の方針も一応決まっている為、それに則り行動を開始する面々。無論、先頭を歩くのはボスコ達静寂の剣の三人だ。それぞれが高レベルであり、戦闘だけでなく探索の能力も高いのだから当然ではある。
そんな三人は、ミッチ達が逃走の際に踏んだと思われる草を目印にして平原を進んで行く。
勿論、エイトとエヴァでは気付く事も出来ない小さな目印だ。それ故、本当に今進んでいる方向で大丈夫なのか疑問に思うものの、今までボスコ達の先導で無意味な戦闘をする事もなかった為、間違いはないだろうと自分で自分を納得させるしかない。
そんな風に進む内、ふと疑問に思ったエイトが誰に向けた訳でもなく、小さな声でポツリと呟いた。
「……なんでロアンの町に逃げずに、未開地の奥の方に行ったんだろう?」
「それは僕たちに捕まらずロアンまで逃げられたとしても、騎士団員である僕やガルシアがロアンの町の警備兵に話を通せばすぐに警戒体制になるからね。逃げられないと判断したんじゃない?」
エイトの一人言に反応し、返答してきたのはクーパーだ。
彼なりの推論は、実に的を射ていると言っても良いものだった。戦闘集団の騎士団員とは思えない論理的な思考には、エイトも素直に感心しつつクーパーの考えに同意した。
「このまま進むと明日の昼頃には泉に着く筈だから、エイトも心の準備をしとくと良いよ。勿論、エヴァもね」
「「準備?」」
クーパーが勿体振った物言いで告げると、エイトとエヴァの二人が訝しげな表情を浮かべて口を開いた。
それに対して、クーパーは少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべて説明し始めた。
「人間が暮らす場所でも、水がある所では沢山の動物や魔物が徘徊してるのが普通だろ? それは未開地でも一緒なんだよ………いや、むしろ未開地の方が酷いかもね。何せ、高ランクの魔物が存在する未開地だけに、泉には強い魔物が多く居るから」
「それで心の準備をしとけって事か」
「その通り。何時でも戦闘を始められる状態を保つのも大切なんだ」
「分かった、気を付けとくよ」
「分かりました」
素直に頷いた二人を見ながら、クーパーとガルシアは頻りに首を縦に振り、うんうんと頷いている。
「僕やガルシアも、レベルが低い頃は先輩から色々教えて貰ったもんだよ。ね、ガルシア?」
「あぁ、厳しい先輩だった。いつか自分が強くなったら、容赦なくぶん殴ってやろうと毎日思ってたな」
「「…………」」
「そうそう。あの先輩はムカつく奴だったもんね」
「あぁ、今でも思い出すと腹が立つ」
「「…………」」
軍隊のあるあるとでも言ったら良いのか……なんと声を掛けるべきか分からないエイトとエヴァは、ただ無言で苦笑するしかない。特に、エヴァの方は先輩の先輩にあたる人物の話だけに、不用意に同意する事も出来ず、無言を貫くしかなかった。
そんな少し反応に困る会話が続く内に、何時しか空の色も暗くなり始め、夜営の準備をすることになった。
エイトはヘヴィーゴングとの戦闘で極端なレベルアップが出来ていた為、然程の疲れは感じていなかったが、それとは対称的にエヴァの方は疲労困憊のようで地面に腰を降ろして自分の足をマッサージしている。
それを見てエイトは、空間倉庫から冷えた果実水の入った水筒、次いでブリッツの街で買ったドライフルーツを取り出すとエヴァに差し出した。
「ありがとうございます……………プハァ、冷えてて美味しいですね」
エヴァはエイトから水筒を受け取るなり、一気に喉へと流し込んだ後、リンゴのドライフルーツを口に含み嬉しそうに笑みを浮かべた。
疲れた際には甘い物が良いと言われるが、疲れているからこそ通常よりも美味しく感じるのだろう。エヴァは先程まで感じていた疲労が、スウッと体から消えていくのを実感しているようだ。
そんなエヴァに、エイトは空間倉庫から更に取り出した食料を手渡す。串焼き、胡桃パン、サンドイッチ等々。勿論、自分の分も取り出している。
そしてエヴァと共に食事を始めるのだが、何時しか匂いに釣られた他の面々の視線が集まっているのに気付いたエイトは、苦笑しながら全員の分も空間倉庫から取り出して大皿に載せて差し出した。
「なんか悪いね。催促したみたいになって」
皆を代表して礼を述べたクーパーは、やはり最初の一口も代表して逸早く料理を口に運んだ。
そして一言、「旨い!」そう呟きながら本当に嬉しそうにガツガツと食べ始めた。それを合図に他の面々も大皿に載せられた料理を食し、満足げに舌鼓を打つ。
野営している状況で、出来立てホヤホヤの料理を食べられるというのは、やはり贅沢なものなのだろう。エイトからしたら自分が持っているギフトの効果の為、あまり有り難みはないが、他の面々からしたら筆舌に尽くしがたい程のギフトなのは間違いなかった。
そうやって一同が食事を楽しんだ後は、就寝となる。無論、全員が眠る訳ではない。
ここは高ランクの魔物が跳梁跋扈する未開地なのだから、当然見張りを立てた状態で、交代での就寝になる。
エヴァが一番疲労が溜まっているのを考慮したクーパーとガルシアが、先ず初めの見張りとなり、次に見張るのがエイトとなった。そして、静寂の剣の三人、最後がエヴァ。
そんな風に見張りの順番が決まると、見張り番以外の面々は眠りについた。
親戚の叔父が癌になり、叔父の見舞いの為に叔父の奥さんの送迎などをしており、更新がかなり遅くなっています。
まだ少しの間、更新が遅くなりがちになると思いますが、ご了承下さい。m(__)m




