助けて欲しくば……情報を
「なっ!?」
「何時の間に背後に!?」
突如として自分達の背後に現れた四人に、死のアウルのメンバー全員が目を見開いて驚愕を顕にしている。
貴族の嫡男━━ミッチ達の勘違い━━、伯爵の娘、ボスコの三人が、他の四人を捨て駒にしてヘヴィーゴングから逃げたと思っていただけに、その驚きもひとしおだろう。
そんな死のアウルを前にして、クーパーはゆっくりと鉄製の弓に矢を番え、ガルシアは肩に乗せていたハルバードを確りと握りこむと体を搾るように捻らせた。
しかし、二人はその姿勢で止まったままピクリとも動くことは無かった。あくまでも威嚇でしかない、ということだろう。
ミッチ達死のアウルのメンバーが緊張した面持ちを見せる反面で、エイダとアルダの二人が微笑みながら口を開いた。
「アタシたちをクズ呼ばわりするなんて、本当に心外だわ」
「まったくだな。私達のような清廉潔白な冒険者を前にして、良く言えたもんだよ」
微笑んではいるが、とても和やかな雰囲気とは言えない。寧ろ、不愉快そうに見える。
クズと呼ばれれば誰でも不愉快になるだろうが、それはエイダ達もその例に漏れなかったようだ。
ミッチは微笑む双子と今にも戦闘を始めようとしている二人を見て、ゴクッと生唾を飲んだ。隙を突けば勝てると算段していたが、流石に正面切って戦えば勝てないのは理解しているらしい。
もっとも、彼らに隙など皆無と言って良いし、唯一隙が存在するのはエイトとエヴァの二人だけだろう。
ともあれ、自分達が絶対絶命の危機に陥っている事実を理解したミッチは、この場を乗り切る方法を思案する………思案するのだが、幾ら考えども答えは出てこない。
その事実に顔を顰め、冷や汗を流す。そして、この場所が自分の死に場所なのを理解した。
しかし、それでもミッチにはミッチなりの意地がある。
だからこそミッチは、キッと鋭い目付きで双子のエイダとアルダを睨め付けながら強い口調で叫んだ。
「アイン、ライ、ブレイ、ブッチ、シャルン、シイツの七人は静寂の剣の双子と騎士団の二人を殺しな!残りのメンバーは、アタイと一緒に後方のボスコ達を襲うよ!!」
未だに背後から急に現れたクーパー、ガルシア、そして双子のエイダとアルダに戸惑っていた死のアウルのメンバーはミッチの声で我に返った。
しかし我に返る事は出来たが、本来は隙を突いて襲撃する筈だったのにこの状況で勝てるのかと不安そうな表情を浮かべ、ミッチの指示に従う素振りを見せない。
それも当然だろう。何せ、双子のランクはBという高ランクだし、クーパーやガルシアは武で有名なアーロン伯爵が有する騎士団の中でも強いとブリッツの街で噂される程の二人なのだから。
そんな四人と正面切って戦うのは自殺行為でしかない。それを理解しているだけに、死のアウルのメンバーは武器に手を伸ばす事は出来ないでいた。
「何してるんだい!! ヘヴィーゴングを倒したからここにコイツらが居るんじゃないか! だったら、その大量の素材と装備を丸ごと頂くチャンスさね!」
大声で自分の仲間達を叱責しつつ、ほんの少しだけ欲望を刺激するミッチ。
普通の者達なら、こんな言葉には乗せられる事はないと断言出来る。しかし、そこは普通とは違う者達が集まった盗賊紛いの集団だ。
となれば当然………甘い言葉にまんまと乗せられた面々は、徐々に欲望に濁っていく瞳をギラギラとさせながら武器に手を掛けた。
ミッチはそれを合図にボスコ達の方向へと走り出した。無論、ミッチだけではない。アルダ達の対応を指示されていない面子もミッチと同様に駆け出した。
ミッチと共に走る面々の瞳も、欲望に染まり濁っている。最早、この後に割り振られる自分の報酬の事にしか興味はないらしい。
しかし、そんな面子に対して彼らの想像とは全く違った言葉がミッチから掛けられた。
「ボスコ達に真っ向から挑んでも死ぬだけさね。アタイ達は逃げるよ」
「「「「「っ!?」」」」」
ミッチの言葉に驚愕する面々。アルダ達の対応を任せた仲間を見捨てる………否、捨て駒にすると言外に言っているのだから驚くのも無理からぬことだ。
ミッチは、そんな反応を見せる自身の妹を含めた仲間の様子を気にした素振りも見せず、エイト、エヴァ、ボスコの三人が居る方向とは別の方向に向きを変えて進み始めた。勿論、走る速度はそのままに。いや、寧ろ逃げる事に全力を費やす為に、先程よりも若干速いくらいのスピードかもしれない。
仲間達は、ミッチの非情な行動に動揺するものの、自分達の中でも最も強いミッチが勝てないと判断した為、本当に自分達では勝てないのだろうと素早く思考を切り替え、ミッチの背中を追い始めた。
やはり、こういう行動を取るのが盗賊と似通ったところだろう。ミッチもミッチだが、仲間もミッチの言葉に反論しないところを見ると同種の人間だと言える。
一方、自分達が捨て駒にされたと知らない面々は、シイツをその場のリーダーとして戦いを開始していた。
だがその戦いは開始早々にも関わらず、既に死に体となった者達が、剣や槍、弓を杖代わりにしてなんとか立っていると言う状態で、戦闘は終わっていると表現していい状況だった。
そんな死のアウルのメンバーを視界に入れたまま、クーパーが苦笑しながら口を開いた。
「そんなんで良く僕たちに挑んで来たね。はっきり言うけど、君たち……ザコ過ぎるよ」
「クーパー、少しやり過ぎじゃないか?」
「なんで?」
「アルダが森の中で言っていただろう。未開地の情報が知りたいから殺さないように、と」
「大丈夫だよ。皆殺しにはしないように、何人かは足しか狙わなかったからね」
苦しそうに、そして痛そうに表情を崩す死のアウルを前に、クーパーとガルシアが淡々と会話を続ける最中で、一人……また一人と地面に倒れ死んでいく者達が居た。
それを見てガルシアが「ほら、どこが大丈夫なんだよ。お前は悪人に容赦しなさ過ぎるぞ」と、真剣な表情で忠告するものの、死んだ者達の四肢の一部が切断されているのを見ると、どっちもどっちだと言わざるを得ない。
騎士団では敵を捕縛する訓練などせず、確実に排除する容赦の一切ない戦闘訓練しかしない為、ある意味仕方ないのかもしれないが。
それは兎も角、こんな状況でのんびり会話する二人は、流石は戦闘集団の騎士団だと納得させられる。
そんな二人を尻目に、双子のエイダとアルダは辛うじて生き残って居る男………シイツへと視線を向け口を開いた。
「今後二度と悪さをしないと言うのであれば、助けてやるぞ」
「そうね。アタシたちは別に殺しが好きな訳でもないし………それに、質問に答えてくれるなら治療もしてあげるわよ」
手と足の両方に矢が刺さった状態のシイツは、絶望的な状況においての生存への僅かな可能性にすがるように首を何度も縦に振るった。
「や、約束するし、何でも答える! だから命だけは!」
エイダとアルダは、自分達の期待通りの反応にニヤリと口元を歪めると、ゆっくりと互いに視線を交わらせて一度だけ小さく頷いた。
そして、再度シイツへと視線を向けてアルダが尋ねる。
「それじゃあ、尋ねるが……嘘偽りなく答えろよ。
………未開地でも浅いこの場所では最近変わった事が無かったか? ヘヴィーゴングの異常な程に巨大な群れが形成されていたような……そんな例が有ったんじゃないか?」
「……………」
何でも答えると言ったシイツだったが、アルダに質問されるなり、俯いて無言になってしまった。
その様子は、何かの情報を言わなければ殺されるかもしれない為に、嘘の情報をでっち上げようとでもしているような雰囲気ではない。本当に未開地で起きている現在の異常を思い出そうと懸命に考えているように見える。
暫くの間、シイツ以外に生き残っていた一人の男の激しい息遣いだけが響いていただけだったが、漸く何かを思い出した様子のシイツが、地面に向けていた顔をバッと勢い良く上げた。
「た、確かにそれらしい群れを見たという話を聞いた事がある。………だが、ヘヴィーゴングのような巨大な群れじゃないんだ……」
「詳しく教えてくれない?」
「俺が直接見た訳じゃない……ロアンの町にある酒場で聞いた話しなんだが………。
地竜の亜種であるブラックゲッコー一体とスノーゲッコー一体、それにダイオライトゲッコー五体の三種類が一つの群れを作っていたらしい。
あんたらなら知ってるだろうが、三種類とも本来は一体で行動しているのが普通で、群れを作るなんてあり得ない。でも、何故か群れで行動していたらしいんだ………。
今思い返すと、そのゲッコーの群れが目撃されるようになってから、未開地のこの浅い場所での魔物の生態系が変化し始めたように思える」
シイツの言うブラックゲッコー、スノーゲッコー、ダイオライトゲッコーを簡単に説明すると以下の通りとなる。
☆ブラックゲッコー☆
真っ黒い体表の蜥蜴で、地竜のように個体によっては属性攻撃をしてくる。成体のブラックゲッコーは全長8m程になる。
素材は錬金術で使用される部分が非常に多い為かなり高額で取引されているが、ゲッコー種の数が少ないので市場に回る事は皆無と言って良い。
☆スノーゲッコー☆
真っ白い体表の蜥蜴で、地竜のように個体によっては属性攻撃をしてくる。成体のスノーゲッコーは全長13m程になる。
素材は錬金術で使用される部分が非情に多い為かなり高額で取引されているが、ゲッコー種の数が少ないので市場に回る事は皆無と言って良い。
☆ダイオライトゲッコー☆
大部分は真っ白い体表で覆われているが、所々に斑点のように黒い紋様がある。地竜のような属性攻撃はしないが、非常に気性が荒く攻撃性が高い。成体のダイオライトゲッコーは全長10m程になる。
ゲッコー種の中では発見数が多い個体になるが、気性の荒らさや攻撃性の高さからなかなか討伐される事が少ない為、やはり高額で取引されている。
これがシイツの告げたゲッコー種についての簡単な説明になるが、一番大切な事はこの三種類のゲッコー種は全てヘヴィーゴングと同じランクBに指定されている事だ。
しかし同じとは言え、その強さは一線を画す。ヘヴィーゴングがランクBでも一番下に位置するのに対し、ゲッコー種でも上記の三種類はランクBの中で最も強いと言っても過言ではないだろう。
それにブラックゲッコーとスノーゲッコーは、個体によって何の属性攻撃をしてくるか分からないのだから非常に厄介な相手なのだ。
そんな事実を瞬時に脳内で思い返したアルダ達は、面倒な戦いになるかもしれないと溜め息を漏らした。
きつね様、ご指摘ありがとうございました。
またストーリーに無理があると思った場合は、ご指摘して頂けるとありがたいです。




