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魔物の群れ

 休憩を終えて、平原から森へと調査の場所を移行させたエイト達一向。それを死のアウルのメンバーが苦々しげな表情を浮かべて眺めていた。


「どうする? ビーのギフトでも、流石に森では役に立たないぞ」


「ミッチ姐さん、森の外で待っていた方が良いんじゃない? 平原では幸いにも魔物の数が少ないし、中に入るよりも安全だよ」


 森の中では、木々が邪魔をして監視が難しい。しかも、魔物の警戒もしながらだと余計厄介な場所になる。それ故、死のアウルのメンバー全員の表情はすぐれない。

 リーダーの女………ミッチと呼ばれたリーダーは、エイト達一向を追って森に入るか、それとも森の外で出て来るのを待つべきか思案する。


(普通に考えれば、外で待つのが得策さね。でも、この森は広いのが問題になるねぇ………何処から出て来るのか分からない現状では、森の周囲を広範囲に見張らなくちゃならなくなる。それは悪手さね)


 ミッチの考える通り森の面積は非常に大きい為、全員を等間隔に森の周囲に配置しなければならない。しかし、ここは高ランクの魔物ばかりが跳梁跋扈する未開地だ。そうとくれば、一人で居る時に魔物と遭遇してしまえば死ぬことになる。少なくとも、死のアウルのメンバーのレベルではそうなるだろう。何せ、一人当たりのレベルは高くてもレベル50なのだから。

 暫し熟考していたミッチは、漸く考えを纏めたらしく、メンバーに視線を向けて口を開いた。


「少し危険だけど、奴らを追うよ」


 意を決したミッチの言葉に、メンバーの者達は難色を示した。


「森の中では、どこから魔物が接近しているか察知しづらいぞ」


「俺もそう思うぜ。それに平原の魔物とは違って、森の魔物はランクが高いのばかりだしな」


「姐さん、森には入らない方が良いよ。アタシの魔法では木が邪魔になって役に立たないし」


 メンバーの者達はミッチの提案に懐疑的なようだ。と言うのも、彼らが指摘する通り森の中での監視は危険が大きいし、それに何よりも、楽をして儲けたいという考えが有るからだった。

 勿論、楽をしたいのはミッチも同じ気持ちだったが、森の外でエイト達一向を待つよりは、森に入った方が後々の事を考慮した場合スムーズに事を進められるという打算も有る為、一喝してメンバーの気持ちを引き締めた。

 盗賊まがいの冒険者とは言え、こういうところがミッチがリーダーになっている理由なのだろう。とは言っても、しょせん楽をしたい者達なのだから統率する者が一番強いという単純明快な理由が一番だと考えられるが。


 ともあれ、ミッチの一喝によって森に入るのに否定的な事を述べていた者達は口を閉ざした。

 ミッチは一度だけ溜め息を吐くと、肩を竦めながら口を開く。


「やれやれ、アンタたちには呆れるよ。少しは考えたらどうだい? 森の中に入るのも危険だけど、外で監視の網を張る方がよっぽど危険さね」


 心底呆れたと言いたげなミッチの言動に腹を立てるメンバーだったが、暫くすると何かに気が付いた様子だ。

 それを見てとったミッチは、一度だけ頷いた。


「そう、森の周囲に監視の網を張るなら……数百mの間隔で人を配置しなきゃならなくなるさね。そうなると、魔物に襲われた際には一人で対処しなきゃならないんだよ。

 アンタたちの中で、グランドボアを一人で殺せる奴が居るかい? 居ないだろ? 少なくとも、アタイには無理さ」


 漸く気付いたメンバーに、またも溜め息を吐くミッチ。メンバーに対して頼りないと思っているのだろう。あるいは、頭の悪さに辟易としているのかもしれない。


「分かったんなら、急いで先に進むよ。ボスコたちが森に入ってから随分経つからね」


 ミッチの指示で若干早足で森に侵入していくメンバー。

 ボスコ達が森に入ってから一時間が経過していたが、森の中は木の根や倒木が邪魔をしている為、なかなか進むのは容易ではない。しかし、それはボスコ達も同様で、早いペースで進む死のアウルは苦もなく追い付くことに成功した。

 1km程先にボスコ達の姿を捉えたミッチは、メンバーに視線を向け片手を上げることで停止させる。


「灯りが見える………火を焚いてるってことは、夜営の準備だろうねぇ。アタイたちも休憩にするよ」


 まだ時刻は三時を過ぎたあたりだったが、エイトとエヴァ二人の体力、精神力の二つを考慮したボスコ達は少し早いが夜営する事にしたようだ。

 それを知らないミッチからしたら、ボスコ達も存外体力がないね、そう内心で考え多分に嘲笑の色を含む笑みを浮かべる。


「またシイツにチャンスが有るかどうか夜に調べさせるのか?」


「いや、今日は奴らが動くかどうか見張るだけでいいさね」


「了解、それじゃあ交代で見張り、ってことでいいな?」


「見張りは三人組で交代制だよ。アンタが適当に見張りのメンバーを見繕いな」


「分かった」


 森の中を早いペースで進んで疲れた為か、ミッチは少々投げやりな口調で指示を飛ばす。体力という面ではエイトとどっこいどっこいと言ったところのようだ。

 なのにも関わらず、自分の事を棚に上げてボスコ達に蔑んだ視線を向けていたのは、阿呆としか言ようがない。


 ミッチは干し肉を取り出し口に含むと、水で胃に押し流した。

 エイト達が暖かい食事を摂っているのとは正反対の食事。それに少しだけ不満を感じるが、焚き火をすればエイト達からも灯りが見える為、仕方ないとは言える………もっとも、エイトが空間倉庫のギフトを持っているからには、焚き火をしようがしまいが暖かい食事を摂れる為、その不満も見当違いなのだが。


 それはともかく、手早く食事を済ませたミッチは仲間の一人に向けて口を開いた。


「アタイは先に寝るよ。奴らに動きがあれば起こしな」


 仲間には見張りをさせ、自分は充分な休息を取る。狩りの時は何時もそうなのだが、いち早く眠り始めたミッチに不快感を持つメンバー。

 だが、それを言えば自分達より強いミッチに殺されるかもしれない。そう内心で考えているメンバー達は不満げな様子で自分達も食事を摂り始めた。


 ここまでの道程は、ミッチにとっては予想の範囲内に事を進めることが出来たと言って良い。無論、エイトとエヴァの二人を除くと全員に死のアウルの監視はバレているのだが、それを知らないミッチからしたら順調だった。

 だが、それはこれから起こる出来事で一変することになる。

 それがミッチ達にとってチャンスとなるのか、はたまたピンチとなるのかは判断出来ないが………。


 森の中の異変に気が付いたのは、シイツが最初だった。そして、その後に続くように他のメンバーも異常な様子を見せる森に緊張した面持ちを窺わせる。

 木々が倒される音。魔物の叫び声と思われる耳をつんざくような声。そして、一体や二体ではない数多の足音。

 それらの音が森の中に次々と響き渡り、未だ寝ていたミッチが漸く目を覚ました。


「……なんだい!? 何が起こっているんだい!?」


 まだ寝起きのせいか、ミッチは現状の把握が出来ていないようで、周囲に響く異様な音に混乱しつつメンバーに問い掛けた。

 その疑問に答える為、メンバーの一人がミッチの傍に寄る。そして一言、ヘヴィーゴングの群れが現れた、そう告げながら顔面蒼白になっている顔をビクビクとしながら周囲に向け続ける。


 ヘヴィーゴング、そう呼ばれる魔物のランクは、ランクBに指定されている。強靭な腕力、屈強な体、そして高い知能を持つ魔物だ。

 彼ら死のアウルのメンバーでは一体を相手するのでも危険極まる魔物。それが群れで自分達の近くに出現したという事実に、ミッチは戸惑いながらも声を潜めながらメンバーに呼び掛ける。


「恐らく、ヘヴィーゴングはボスコ達が焚いてる火に向かっている筈さね。………周囲から音がしなくなったら、全力で逃げるよ」


 鬼気迫る表情でメンバーを見詰めながら話すミッチに、ますます恐怖が体全身を這うような感覚を覚える面々。

 それを見てミッチは、ゆっくりとした口調を意識的に出して言葉を続ける。


「アタイの合図で一斉に走るんだよ。それまでは、出来る限り姿勢を低くして遣り過ごすんだ。……いいね?」


 完全に落ち着かせるという事は無理だが、それでも多少は冷静さを取り戻したようで、メンバー全員が震えながらも頷いて了承した………いや、この混乱した状況ではとても自分で判断出来ない為、自分達の中で一番腕が立つ人物の意見が正しいと本能が悟っているだけなのかもしれない。

 

 ともあれ、暫して周囲から音が消え去ったのを感じたミッチが、その場でジッとしていた面々に向け静かに叫んだ。


「今だ! 足が千切れるまで走りな!」








 森からの離脱を始めた死のアウルとは異なり、ボスコ達は周囲から響く物々しい叫び声に警戒しつつお互いに点呼して戦闘準備を終わらせていた。

 しかし、そうは言うものの、未だ敵の正体が分からない状態に戸惑うエイトとエヴァは、突然の叫び声などを前に冷静さを保つのに精一杯だった。

 その二人とは反対に騎士団でも有数の実力者であるクーパー、ガルシアの両名、ならびに静寂の剣のメンバー三人は武器を軽く振り回しながら体の凝りを解している。この辺が経験の大きな差だと言えるだろう。


「この鳴き声は……ヘヴィーゴングか?」


「うん、そうだろうね。しかも、群れの数が異常なヘヴィーゴング、だね」


 騎士団二人の言葉に同意するように、ボスコ、エイダ、アルダの三人が言葉を続ける。


「オレたちなら問題なく対処出来るだろうが、エイトとエヴァじゃあ………キツいかもしれないな」


「普段のエイトならゴーレムに自分の護衛を任せる戦術がとれるだろうけど、この狭い場所では木々のせいでゴーレムゴライアスは自由に動けないし、かなりキツいでしょうね。

 エヴァは騎士団でも次世代を担う存在だけど、現状の実力ではヘヴィーゴング一体でも無理よ」


「エイトとエヴァの護衛に一人回すか? なんなら私が護衛になっても良いが?」


 森に響く声、そして気配から100近い数のヘヴィーゴングが周囲に居ることを感じとったボスコ達は冷静に対処する為に話合っている。その姿はある意味異常にも見える。何せ、ランクBに指定されている魔物が無数に居るのだから、それを前にして別段焦る事もなく平然としていられるのは可笑しいとしか言えない。


 そんなボスコ達が会話している間、エイトは混乱した思考を正常に戻すのに苦労しつつも、どう対処するべきかを素早くいく通りも思案する。

 だが、考えが纏まりそうになるとヘヴィーゴングの叫び声がタイミング良く響き、そのせいでこの状況を切り抜ける算段が霧散してしまう。

 エイトは苦悶の表情で、落ち着いて考えを纏められない現状に舌打ちした。


「チッ………かなりの数の魔物みたいだし、ここでボスコ達が消耗するのは最悪だな。この後に、更なる魔物の集団に出会す可能性も有る……どうする……どうすれば……」


 ブツブツと下を向いて呟き続けるエイト。この突然の状況と、落ち着いて考えを纏められない現状にパニックに陥らないまでも、かなり焦っているようだ。

 そんなエイトの様子に気付いたエヴァが、安心させようと口を開きかけた瞬間…………


『我が魔力を依り代に、我が想像のままに、この世に顕現せよ! 出でよ、ゴーレム毘沙門天!!』


 突如として大量の魔力を身体中から漲らせるエイトに困惑するボスコ達。この状況にパニックに陥ったのかと考えているのだろう。

 しかし、それは間違いだ。何故なら、エイトはエイトなりに考えて、ボスコ達を消耗させないようにする為にゴーレムを錬成させ始めたのだから。

 そのエイトの考える通り、ボスコ達を消耗させるのは悪手だと言える。彼らがエイトとエヴァにとっては命綱なのだから当然だ。もっとも、ボスコ達にとっては多少疲労は溜まるだろうが、余裕を持って対処出来る事象に過ぎず、その心配も杞憂であるのだが………。


 ともあれ、エイトの詠唱が済むと、それに呼応して二十体のゴーレム毘沙門天が出現した。その毘沙門天の姿は、鋼鉄製に見えるが本質は異なる。鋼鉄製の倍以上も重く、鋼鉄製の倍以上も硬いタングステンで構成された新しいゴーレムだ。しかも、その姿はゴーレムカヴァリエと日本古来の甲冑を融合させた異様な姿をしていて、身長は2mを超えている。そして武器は薙刀、十字槍、野太刀━━大太刀とも呼ばれる━━と呼ばれる150cmにもなる長刀を所持していた。


 そんなゴーレム毘沙門天を視界に入れたこの場に居る全員が驚愕の表情を浮かべた。ちなみに、その内の一人は狂喜乱舞している。


「クソッ………目眩が酷いな。

 ……ゴーレム毘沙門天よ、目につく魔物は片っ端から斬れ! 斬って斬って、斬りまくれぇえ!!」


 制御数の限界までゴーレムを錬成したエイトは、脳を圧迫される感覚に不快感を示すものの、ゴーレム毘沙門天に向けて力強く指示を飛ばした。

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