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未開地での初戦闘

 エイト達の姿を視界に入れるなり、もうスピードで近寄って来ていた巨大な魔物は、突如出現した3mを超えるゴーレム三体を見て急停止した。自分の体躯に匹敵するゴーレムを警戒しているようだ。

 その魔物の名称は、グランドボア。現在確認されている猪型の魔物の中でも最も強く最も大きな体をしていると言われている。ちなみに、昨夜エイト達が食べた肉の正体がこのグランドボアである。

 エイトはグランドボアを睨み付けながら、ゴーレムゴライアス三体に向けて叫んだ。


「ゴライアスよ、各自の判断で戦え!」


 現在錬成出来るゴーレムの中でも、最強のゴーレムがゴライアスだ。それだけに、いくら未開地に恐怖を抱いていると言っても、少なくない自信がある。だからこそ、ゴーレム自身の判断に委ねたようだ。

 そんなエイトの考えを理解している訳ではないのだろうが、ゴーレムゴライアス三体はそれぞれに持つ武器を一度だけ高く掲げグランドボアへと近付き始めた。

 グランドボアの方は、ゆっくりと近付いてくるゴライアスに警告するように大きな体を震わせる。そして、同じく警告の為の唸り声を上げた。


「グヒィィィ! グヒィグヒィィィ!!」


 グランドボアの体が大きいこともあり、威嚇する様子を見れば普通の冒険者ならば躊躇するだろう。しかし、そのグランドボアが相手をするのは感情を持たないゴーレムだ。それ故、ゴーレムゴライアスは何の躊躇もすることなく進む。

 グランドボアはそれを見て威嚇は無意味だと判断したようで、前足で二度三度地面を叩くと勢い良く真ん中に位置していたゴライアスに突撃を敢行した。

 ドスンドスンという足音を響かせながらどんどんスピードが増していく。そして、ドゴンっという衝撃音が周囲一帯に響き渡った。

 ゴーレムゴライアスの大きさと鋼鉄製という事実に驚いていたクーパーとガルシアは、流石にグランドボアの突撃には対処出来ないだろうと考えていたが、その予想はハズレることとなった。

 何故なら、ゴライアスは武器を手放すと自由になった両手で、グランドボアの突撃を受け止めると共に、グランドボアを確りと掴まえたからだ。


「おおお!? 凄いな!」


「僕の予想では吹き飛ばされると思ってたんだけど、あれは予想外だね! 凄い力と防御力だ!」


 ゴーレムゴライアスの残り二体の内巨大なハンマーを持った一体が、グランドボアの背中目掛けてハンマーを振り下ろす。

 再び周囲に響く轟音。しかし、今度の轟音は肉を打ち付ける鈍い音だった。


「グヒィィィイイイ!!!」


 このエルドラドに生まれ落ちてから一度も味わったことのない苦痛がグランドボアを襲う。あまりの痛みにもがくことも出来ず、膝を折って倒れ込むグランドボア。

 しかし、未だ呼吸はしている。それを見てとったハルバードを持つゴライアスが、ハルバードを大きく振り上げた。


「グヒィ…………!」


 グチャッという音と共に、グランドボアの最後の悲鳴が響いた。


「エイトのゴーレムを見たことはあったが、ここまで強いとは思わなかったな」


「そうね。ここまでとは予想外だったわね」


「素晴らしい………動いていると、更に美しさが際立つな!」


 鎧兜マニアの言葉は無視したとして、ボスコとエイダの感想には頷ける。事実、クーパーとガルシアの二人は同意するように何度も大きく首を縦に振っていた。

 そんな全員に、何故か得意気に胸を張るエヴァが、更なる驚きを招く事実を告げる。


「エイト殿には、火属性を操るゴーレムも存在するんですよ」


 エヴァの言葉に、クーパーとガルシアは驚き固まってしまった。エイトが火属性の魔法を使うならば素直に感心出来ていただろうが、ゴーレムが火属性の魔法を操るということは理解出来なかったらしい。

 そんな二人とは正反対の反応を見せるのが静寂の剣のメンバー三人だった。ボスコとエイダの二人は素直に感心したように笑みを浮かべるに留まったのだが、鎧兜マニアであるアルダは二人とは違う反応を見せた。

 顔色が紅葉したかと思うと、すぐにエイトの背中目掛けて飛び掛かったのだ。


「うわっ!?」


「エイト! 火属性を操るゴーレムを見せてくれ! どんな形状のゴーレムなんだ!?」


 興味津々と言った様子のアルダが、興奮した口調でエイトの背後から抱き付いた。

 普通なら美女に抱き付かれれば嬉しいと思うのが男だと言える。しかし、アルダは全身鎧を装備しているのだ。そうであれば、当然ゴツゴツとした鎧がエイトの後頭部に接触することになる。つまり、端的に言うならば、非常に痛いのだ。

 エイトは、自身の後頭部に当たる金属の感触に苦悶の表情を浮かべつつ、火属性を操るゴーレムについて説明し始めた。


「ゴーレムゴライアスと全く同じ形状だから、見ても代わり映えしないよ。武器は、さっき猪っぽい魔物の体当たりを受け止めた奴が持ってたのと変わりないし。

 ………だから、落ち着いてくれ。後頭部が潰れる」


 背後から抱き付いた姿勢のまま何度も体を揺するものだから、エイトの後頭部に幾度となくアルダの鎧がゴンゴンと鈍い音を響かせていた。だがエイトが意識的に冷静な口調で説明すると、意外な程スッと拘束が緩められた。

 エイトは少々涙目になりながら自身の後頭部を撫でつつ、背後に居るアルダに視線を向ける。すると、非常にガッカリとしたアルダが項垂れながら溜め息を吐いていた。


(いやいや、こっちが溜め息を吐きたいし!)


 エイトの内心の叫びももっともだと言える。何せ、何度も後頭部を金属製の鎧で殴打されたのだから。


「残念だ。………だが、新しいゴーレムを考えついたら教えてくれ! あるいは、錬成出来るようになってからでも良いぞ!」


 先程まで残念そうにしていたのが嘘のように、アルダは笑みを浮かべつつキラキラした目をエイトに向けて頼み込んだ。立ち直るのが異常に早いと言うべきか、それとも鎧兜馬鹿………いや、立ち直るのが異常に早いだけだろう。


 ともあれ、少し天然なところは有れど、自分のゴーレムを素直に凄い、あるいは美しいと評してくれる存在だけに、エイトも拒絶する事はせず苦笑して頷いた。


「約束だぞ!」


「分かった、約束する。……何なら、今構想段階のゴーレムを見てみる? まだ設計図だけで、錬成は出来ないけど」


「見たい見たい! 是非、見たい!」


 エイトの提案に、アルダはピョンピョンと跳ねながら返答する。

 そんなアルダの反応を見たエイトは、本当に心の底から鎧兜が好きなんだな、そう内心で呟きながら空間倉庫から新たなゴーレムの設計図を取り出した。そして、それをアルダへと手渡す。


「多分、誰も見たことのない形状の鎧兜だと思うよ」


 少しだけ新たなゴーレムについての特徴を口頭で伝えつつ設計図を手渡すと、ボスコ達全員も興味を引かれたようで、アルダの肩越しに設計図へと全員の視線が注がれた。

 端から見ると少々間抜けな絵面に苦笑するエイト。しかし次の瞬間、図面を見ていたアルダの絶叫で、その苦笑も引っ込んだ。


「何だこれは!!!? こんな形状の鎧兜は見たことがないぞ!!! それに、この設計図に書いてあるタングス……タングステン? この材質も聞いたことがない!!!」


 アルダの絶叫により、エイトは素早く両耳を押さえた。無論、それはエイトだけではなかった。アルダの肩越しに設計図を眺めていたボスコ達は、エイト以上に被害を受けているらしく、顔を顰めながら耳を押さえている。

 そんな中でも一番被害を受けていたと思われるのがエイダだった。何せ、目を白黒させているのだから一目瞭然だ。

 そのエイダが目を白黒させつつも、アルダの後頭部に恨めしげな視線を向けて平手打ちを放った。相も変わらず、小気味良い音が鳴り響く。


「痛っ!? 何するんだ!?」


「急に大声出さないでよね! 鼓膜が破れたかと思ったわよ!」


 今回の未開地探索が始まってから何度目になるのか判断出来ないが、最早お決まりになったやり取りが繰り広げられる。

 エイト達は流石に慣れたようで苦笑するに留まっているが、何時も一緒に行動している筈のボスコは何故か爆笑していた。彼にとっては何度見ても面白いものらしい。

 暫くした後、二人の言い合いは息切れと共に終了した。


「はぁ、はぁ………全く、勘弁してよねぇ」


「はぁ、はぁ……今回のは、私は悪くない筈だぞ。

 ……それはそうと……エイト、この設計図の鎧兜はどこの国の物なんだ? 少なくとも私は見たことがないし、この材質の金属も聞いたことがない」


 流石に鎧兜マニアだけはある。一目見てそれが既存の鎧兜かそうでないかはすぐに判断出来るようだ。


「どこの国って言われても………無いよ」


 エイトが少し困った表情で答えた。

 そのエイトの表情につられた訳ではないのだが、エイトの返答を聞いた全員も困ったように眉を寄せて首を傾げた。

 無いよ、とはどういう意味なのか困惑しているのだ。


「無い、とは?」


 皆の疑問を代表して尋ねたのはガルシアだ。その疑問に同意するように、そして早く答えが聞きたいらしく、他の面々が一斉に視線をエイトへと集中させた。

 それを受けてエイトは苦笑しながら口を開く。


「この世界、エルドラドには絶対に存在しない筈だよ。存在するのは、俺の頭の中だけ……いや、正確に言えば、その設計図と俺の頭の中だけ。そう言った方が良いかな?

 まぁ、つまり……完全オリジナルってことだよ」


 エイトの答えは、ある意味嘘であり同時に本当のことだと言える。それは何故か、それを説明するには、まず図面のゴーレムについて説明しなければならないだろう。

 今回エイトが新たに制作し始めたゴーレムは、日本の甲冑とゴーレムカヴァリエを混ぜ合わせた形状をしている。つまり、この世界には存在しない鎧と、この世界に存在する鎧をエイトが改良した鎧、その二つを合わせた鎧が新しいゴーレムなのだ。

 だからこそ、どこの国にも存在しないというのは嘘ではないし、完全オリジナルというのは嘘になる。


 ともあれ、ガルシアの質問に答えたエイトに、全員が感心したように大きく頷いた。そして、全員が再度アルダが手に持つ図面へと視線を向ける。

 皆が皆、同時にまったく同じ反応をするものだから、エイトは面白くなってしまったらしく、クスっと笑い口を開いた。


「それと、材質については………鉄鉱石に含まれる成分の一つだよ。ただその名称については、それもオリジナルだね」


 勿論、これも嘘と本当を混ぜたものだ。まず鉄鉱石に含まれるというのは事実だが、名称についてはオリジナルではない。


「エイトは錬金術にも精通しているんだな」


「みたいだね。知り合いに鍛治師が居るんだけど、その人は鉄鉱石に含まれる成分を細かく知ってる訳じゃなかったんだよ。

 例えば、鋼鉄を作るにはどうすれば良いかなんて、経験や親方から教えて貰って、鉄を溶かして叩くことで出来るってのを知ってるだけなんだ。だから成分なんて知らないし、名称も勿論知らないのが普通らしいよ」


 全員が図面に視線を落としつつ、ガルシアとクーパーのやり取りを耳に入れると、再び全員がエイトへと内心で感心する。

 ちなみに、ガルシアの述べた錬金術とは、物質の成分を細かく分類してそれを様々な別の物と混ぜ合わせ、全く新しい物質を生み出すことを錬金術と呼ぶ。そして、マジックアイテムを制作するのも錬金術を学んだ者達で、その者達は錬金術師と呼ばれている。


「エイト、良い物を見せて貰ったよ。それから……完成するのを待ってるぞ」


「ははは。分かってる、その時はちゃんと見せるよ」


 暫く図面を眺めていた面々は、漸く満足したのかエイトへと図面を返した。

 エイトは地面に倒れたままだったグランドボアと返された図面を同時に空間倉庫へと収納すると、それを合図にボスコ達静寂の剣のメンバーが先導しながら移動し始めた。

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