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独特な発展を遂げた町 、そしてエイトの苦い思い出

 エイト達が宿屋の部屋に移動し、終始監視していた者が立ち去った直後。未だ宿屋の根性亭というネーミングセンスから不安を拭いきれていないエイトが、自分達男組が泊まる部屋の前で扉のノブに手を掛けた。

 装飾は一切ない頑丈さだけを優先した建物だけに、機能性という意味で不安を持つのは当たり前だろう。あまりに殺風景すぎたのだから仕方ない。しかも、宿屋の名前が根性亭なのだから尚更だ。

 エイトは不安を振り切るように、勢い良く扉を開いた。


「へ………?」


 意外にも建物の外見とは異なり、内装は悪く無かった………いや、どちらかと言われれば美しいと言わざるを得ない。その事実に、エイトは暫し驚き目を点にさせるものの、ボスコ達が部屋の中に入って行き豪勢なソファに腰掛けたのを見て、自身も足早に中に入る。

 テーブル、ソファ、ベッド、室内にある物はそれだけなのだが、そのどれもが見目麗しい装飾が施されており、根性亭に先程まで抱いていた印象がガラリと変わる。エイトも同様らしく、室内をグルッと見回すと感心したように声を漏らした。


「中はメチャクチャ豪華だなぁ。建物の外見とは大違いじゃん」


「ははは、それには理由があるんだよ」


 エイトの独り言に反応したのは、騎士団でも一番の弓の名手クーパーだった。


「理由?」


「そう、このロアン独特の理由だ。この町の周囲には、エルキンス領でも……いや、ヴァイスハイト国内で最も強力な魔物が出現するんだけど、それを警戒してロアンの町の建物は全て装飾を排除し、頑丈さを優先して建てられているんだ。

 その一方、住民の関心は内装に目がいくことになった。それで、建物の外見とは大きく違ってるってことだね」


「外装に金銭を掛けなくて良い分、中に力をいれるようになったのか」


 この町の独特な進化の事情を説明されたエイトは、それに納得した様子で大きく頷いた。

 そんな二人の会話を聞いていたガルシアが、自身の腹を擦りながら口を開いた。


「少し早いが、夕食にしよう。腹が空いて仕方ない」


「違いねぇ。馬車に乗っていただけだったが、妙に腹が空いてるんだよな」


 ガルシアの提案に、ボスコも自分の腹を擦りながら同意した。恐らく、馬車の中でジッと座っていたのがストレスになり、その反動で腹が空いたのだろう。

 そんな二人とは反対に、御者台で馬の手綱を握っていたフランは普通に腹が空いているらしく、夕食という言葉に反応して腹の虫が鳴いていた。

 フランは、その腹の虫の鳴き声を誤魔化すようにソファから立ち上がる。


「それでは自分が先に食堂に行って注文しておきますので、少し経ってから御越しください」


 フランは、そう告げるとそそくさと室内から出て行った。

 恥ずかしがり屋なのかな? そんな風に内心でフランの性格を判断したエイトは、ここまでの道中フランとは殆ど会話をしていなかったことに気が付き、同じ騎士団に所属するクーパーとガルシアに視線を向け尋ねた。


「ねぇ、フランさんてどんな人?」


「フランか? フランとは別部隊だからあまり知らんな。クーパーは同じ部隊だったろ?」


「同じ部隊って言うか、僕の直属の部下だね。

 彼は士爵家の三男で、槍も剣も弓も、そつなくこなすタイプだよ。そして、性格は………恥ずかしがり屋かな?」


 クーパーの言った士爵家という言葉に首を傾げるエイト。アーロンの娘であるエヴァが騎士に成っているのも当初は疑問に思っていたが、貴族の地位では同じとは言えないまでも、それでも士爵という貴族家に生まれたフランが何故騎士になったのかと疑問に思ったようだ。

 それを知ってか知らずか、クーパーの説明に続くようにガルシアが言葉を紡ぐ。


「三男か……俺と似たようなものだな。家では苦労しただろう」


「そうだね。家では将来の為に、勉学と戦闘術を熱心に学んでたって言ってたよ。

 僕は男爵家だったけど五男だったから、子供の頃は必死だったなぁ」


 感慨深い様子で会話する二人の発言を耳にし、ますます疑問が深まるエイト。貴族に生まれたなら、苦労することもないのでは? そう考えているのが容易に判断出来る。

 だが二人の会話からは、一切そう言う類いの感想は聞こえてこない。

 エイトはその疑問を払拭するべく、貴族家に生まれたと言っている二人に尋ねる。


「何で貴族なのに苦労するの?」


「なんでって……」


「そりゃあ……」


 尋ねられた二人は、一度言葉を途切らせるとお互いに視線を交わして同時に口を開く。


「「跡継ぎじゃないから」」


 エイトへと告げられた事実は、実に簡潔な言葉だった。


「はっははは! そりゃそうだろ!

 エイト、お前が何を疑問に思ってるかは分かるぞ。貴族様なら金銭に困らないだろうと思ってるんだろ?」


 心底面白そうにソファの背もたれに仰け反りながら笑うボスコが、まるでエイトの疑問が手に取るように理解出来ているらしく、簡単に指摘してきた。


「そう、それだよ。だって貴族なんだから、平民よりも裕福でしょ? なら、別に騎士にならなくても生きていけるんじゃないの?」


 ボスコの指摘に同意して自分の考えを伝えると、再度笑い出すボスコ。

 しかしボスコの反応とは違い、クーパーとガルシアの二人は苦笑して困ったように頬を掻いた。


「それも間違いじゃないがな」


「だね。でも、それは領地持ちの貴族の話しだね。僕たちやフランの場合、法衣貴族だから……長男と次男以下は放逐されるんだよ」


「法衣貴族?」


 法衣貴族とは、領地を持たない代わりに国の政務に就いている者達のことだ。つまり、国から直接給料を貰っているのが法衣貴族で、領地持ちの貴族は自分の領地から徴収した税の一部を貰い、残りは国に支払うという違いがあるのだ。

 ただし、そこに法衣貴族と領地持ち貴族の大きな違いが出てくる。それは、貴族家の跡取り以外にも仕事があるかどうか、だ。

 法衣貴族には領地がない為、跡継ぎである長男と、言い方は悪いが予備である次男は家に残される。しかし、その下は必要ない為、成人すると家から出されるのだ。

 一方、領地持ち貴族の方は、自身の領地を管理する為に、盗賊や魔物対策に騎士団を有していなければならず、信頼出来る人材が少しでも欲しいのが実状になる。その為、次男以降も仕事があり、放逐されることは余程家計が苦しくない限りあり得ないのだ。


 そういった貴族の説明をクーパーとガルシアの二人から受けたエイトは、貴族とは言え世知辛いものなのだと理解した。


「貴族でも苦労するんだね」


「そ、大変なんだよ」


「あぁ、貴族でも苦労するもんだ」


 エイトがポツリと感想を口にすると、クーパーとガルシアの二人が、大きな溜め息と共に過去を思い返しながら同意した。

 そんな三人を見て、何が可笑しいのか爆笑するボスコ。三人はそれぞれ視線を笑っている張本人に向けると、コイツは苦労を知らなそうだなと内心で呟く。

 勿論、ボスコほどの人物が苦労をしていない筈はない。しかしボスコ本人が、苦労を苦労と感じなければ、それは苦労ではなくなる………つまり、ボスコは能天気な性格をしている為、今までこれと言った苦労を感じたことがないのだ。だからこそ、他人の苦労をこんなに笑っていられるのだろう。


 ある種独特の雰囲気に包まれる室内であったが、それを掻き消すかのように部屋の扉が開け放たれた。

 扉を開けたのは二人。エイダとアルダだ。

 その二人は、一人爆笑し続けるボスコを不思議に思い首を傾げるものの、ある意味笑い上戸であるボスコだからと納得し、ジト目で笑うボスコを見ている三人に向けて声を掛ける。


「食堂で夕食にしましょうよ。少し早いけど、皆お腹が空いてるんじゃない?」


「エイト、この宿屋の食事は旨いぞ。何せ、未開地に居る珍しい魔物の肉が出るからな」


 エイダとアルダのお陰か、三人の関心が夕食へと移る。三人の腹の虫が鳴いているのがその証左だ。


「珍しい魔物の肉か……楽しみだけど、珍しいだけで不味い訳じゃないよね?」


 日本では珍味と呼ばれている物を食したことが有るだけに、エイトは素直に信用出来ないらしい。勿論、珍味と呼ばれる物の中にも美味しい物も有るのは知ってはいたが、当たり外れの落差が激しい事実を知っているエイトは少し眉間に皺を寄せた。

 そんなエイトの表情を見て、エイダがまたもや発作を起こしかけるが、事前にアルダの左手が動くことで機先を制した。

 パパンッと鋭く素早い二連打がエイダの後頭部に放たれ、実に良い音を響かせた。そして、次いでエイダの悲鳴が響く。

 アルダはそれを無視し、笑みを浮かべると胸を張って自信満々にエイトの疑問に答えた。


「無論だ。猪のような見た目の魔物だが、味は牛肉よりも旨いぞ。それに、さっきも言ったがこの宿屋の料理は旨いからな」


 ここまで断言するのならば、ほぼ間違いなく大丈夫だろうとエイトは納得し、ホウッと息を吐いて胸を撫で下ろす。何故ここまでエイトが魔物の肉に危機感を持っているのかと言うと、少し前に実りの森でアランから唐突に串焼きを手渡され食べたのだが、それが昆虫の魔物の肉だったのが原因なのだ。それ以来、エイトは事前に何の肉か尋ねる癖がついてしまったのだった。


 それはともかく、クーパーとガルシアの二人はもう慣れてしまったのか、エイダとアルダのやり取りをあっさりと流していた。ボスコは腹を抑えながら笑っているが………。

 

 ともあれ、恨みがましいエイダの叫びはボスコ以外の面々はサラリと流しつつ、アルダに促され食堂へと移動する。そして、ブリッツでは食べられない貴重な食材を使用した料理を楽しむと、部屋に戻り明日の為に早めの就寝につくのだった。

 先日、初めて蜂の子を食べたのですが………見た目がグロ過ぎて味などまったく感じる暇がありませんでした。もう絶対に食べたくないです!

 しかも、その日の夜に出てきた夢では、バッタがこれでもかと皿に山盛りになっているのを食べさせられるという拷問のような夢でした。


 この小説を読んでくれている方にお聞きしたいのですが………自分はまだバッタを食べたことはありませんが(夢の中以外で)、美味しいんですか?  見た目があれなんで、少々気になりました。

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