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再会の約束

 エイトがブーストの訓練を兼ねたレベル上げを始めてから三週間が経過していた。実りの森での修練は激しく、傍目から見てとても楽しいと思えるものではなかったのだが、エイトにとっては最良の結果を出せたのだから良かったのだろう。

 そんな三週間では、様々な出来事があった。


 まず始めに、ピートの処刑が執行されたことだ。伯爵であるアーロンが統治するブリッツの街で、沢山の衆目の前に晒されたピートは、執行官に己が犯した罪状をつらつらと読み上げられ、最後には断頭台で醜い悲鳴を残して首を斬り落とされた。

 漸くモーガン領の全員にとっての復讐が終わった瞬間だった。きっと亡くなった者達も、これでゆっくりと安らかな眠りにつけることだろう。


 そして次は、モーガン家の汚名返上がされたことだ。ピートの処刑の際、犯した数々の罪状が読み上げられたことで、モーガン家の失策ではないと沢山の人々に周知られた結果、ブラント村へとやって来る者達の姿が襲撃を受ける前と同等になった………いや、椿油や新たな料理などが存在する今の方が、以前よりも遥かに多くなっているだろう。

 これでまたブラント村にお金が落とされていくのは間違いない。


 最後は、ブラント村の復興が始まったことだ。とは言え、本当に始まったばかりであり、今は焼け落ちた家々の残骸の処理をしている最中である。しかし、襲撃を受ける前には存在していた冒険者ギルドが再開されたことは非常に高い効果があった。

 何故なら、沢山の冒険者が押し寄せて来たからだ。冒険者達は村の周辺の魔物を狩り、村の安全を確保してくれる。しかも、倒した魔物の素材を売り、そのお金を村で使ってくれるのだ。となれば当然、村の財政は潤うし、素材目当てに無数の商人が出入りする。

 そんな風に、経済の発展に無くしてはならない存在のお陰で、村の復興は着々と進み出した。

 これからのブラント村の未来は、間違いなく明るいものになるだろう。


 そして肝心のエイトの成果は、当初は十数秒しか維持出来なかったブーストなのだが、現在では一分も維持していられるようになっていた。

 もっとも、そうは言っても一分もの時間ブーストを維持していれば、当然その後は強烈な反動で指一本動かせなくなってしまうのだが。

 しかし、それでもたいしたものだと言っても良いだろう。アーロンやアランには遠く及ばないとは言え、ランクDの冒険者では少数の者しかブーストを使用することが出来ないのだから。

 それに、その少数の者達の中でも、ブーストの最長維持時間は三十秒程度なのである。それに比べればエイトの維持時間は随分長く、短期間の訓練で身に付けたにしては上々の結果だと言えた。

 三週間で確かな収穫を得たエイトは、それだけではなくレベルも五つ上昇させることに成功していた。

 実りの森での修練は、エイトにとって最良の経験となったのは間違いなかった。


 そんなある意味修行漬けの毎日を送っていたエイトは、約束を果たす為にブリッツの街へとやって来ていた。

 エイトにとっては一ヶ月ぶりのブリッツだが、特に変化がある訳では無いため為、待ち合わせの場所の癒しの雫亭へと真っ直ぐ寄り道せず向かう。

 そして、その宿屋の扉を開き中へと入ると、丁度受付でチェックインをしていた約束の人物が居た。

 その人物の名は、デズモンド=ディーンハルト。エイトが雷に打たれ、エルドラドへと転移した際に、死んでいたエイトを蘇生した人物であり、魔法の師でもあるデズモンドだ。

 ちなみに、二人だけで居る時以外はサミュエルと読んでいる。

 エイトはそのデズモンドを視界に捉えると、満面の笑みを浮かべて口を開く。


「サミュエルさん! お久し振りです!」


「おぉ、エイトか。久し振りじゃのう。元気にしておったか?」


「えぇ、勿論ですよ。サミュエルさんも、お元気そうで何よりです」


「ほっほっほっ。なにはともあれ、取り敢えず部屋で話しをするとしよう」


 デズモンドは相変わらずの口調と仕草でエイトに返答すると、チェックインしたばかりの部屋へと促す。

 エイトはデズモンドの提案に頷き了承する。

 そして部屋に入ると、デズモンドが紅茶を淹れ一口啜り口を開く。


「この数ヶ月、エイトはどんなことをしていたのか聞かせて貰えるかのう?」


「俺の人生で怒涛の三ヶ月でした。マジで色々ありましたよ。デズモンドさんと別れてから俺が最初にしたのは………」


 エイトは笑みを浮かべたまま、三ヶ月前にデズモンドと別れてからの出来事を時系列順に話していく。

 初めての魔物との戸惑いながらの戦闘、オークキングという強力な魔物との激闘、怖気立つ外見の百足や蟻といった昆虫型の魔物との戦い。それらのことを身振り手振りを交えて伝え、そして話しは貴族との戦いに入る。一つの悪によって、無数の悲劇を生んだことを伝える際には、エイトの表情は流石に暗くなっていたが、自身がジュード達という友人を得られたことを話す時には、実に嬉しそうに話した。

 そうやって今までの出来事全てを伝え終わると、デズモンドが微笑ましそうに笑みを浮かべて小さく何度も頷きながら口を開く。


「エイトにとって、実に有意義な経験を積めた三ヶ月じゃったようじゃの。レベルも既に30に達していようとは、まっこと驚いたぞい」


「レベル30になったことで、ゴーレムの最大制御数もかなり増えましたよ。それに、あれから鋼鉄製のゴーレムも錬成出来るようになりましたし」


「ほう、それは是非ともこの目で見たいものじゃな」


 デズモンドの反応を見たエイトは、椅子から立ち上がり自慢気に胸を反らすと、ゴーレムシュツルムとゴーレムゴライアスをそれぞれ一体ずつ錬成する。

 かたや手足の長い異形のゴーレム。かたや全長3mを超える巨大なゴーレム。それを見たデズモンドは、少しだけ目を細めてゴーレム二体を眺めると、じかに手で触れて出来映えを確かめる。


「これは驚いた。数百年前に存在していた、最も偉大な土属性魔術師の錬成するゴーレムに迫るほどの存在感じゃな」


 一頻りエイトの錬成したゴーレムを褒め称えるデズモンド。

 エイトはその賛辞に、照れた様子を見せながら頬を指先で掻く。デズモンドのお世辞などではない真っ直ぐな誉め言葉には、純粋に嬉しく平静ではいれなかったようだ。

 そんなある種の微笑ましさすら感じさせる雰囲気の中、突然デズモンドが真剣な表情を浮かべる。

 それを不思議に思ったエイトは、錬成したゴーレムに何か不都合などがあったのかと疑問に思う。

 しかし、それは検討違いだったようで、デズモンドが続けて発した言葉がそれを証明していた。


「………それはそうと……先程話していたピートとかいう貴族のことじゃが……エイトよ、気を付けるんじゃぞ」


 ピートは既に処刑されている。この街………ブリッツの街の中央広場で。

 なのに何を気を付けるのか理解出来ない。といった様子で、小首を傾げるエイト。


「というと? さっき言ったように、ピートは処刑されてますよ?」


「うむ。そのピートとやらは処刑されているが、そやつが所属していた謎の組織は健在なのじゃろう? どの時代のどんな国であろうと、闇がついてまわるものじゃ。その謎の組織もそんな闇の一つにしか過ぎないのじゃろうが、何をしようと考えているのか分からない現状では、身の安全を確保することには注意しておくべきじゃ」


 確かにデズモンドの言う通り、表向きはどんなに平和な国だとしても、裏の顔が存在しているものだ。事実、地球に存在する沢山の国では、政府の主導で極秘の計画が進んでいることも珍しくはない。それに、強大な国は強大な敵を持っているものなのだから。

 もっとも、そうは言っても謎の組織の正体がヴァイスハイト国ということはないであろうが。

 アーロンやジュードは、国の中枢に近い者がトップに立つ組織だと睨んでいる。根拠というものはないが、比較的平和なヴァイスハイト国では情勢が安定している為、貴族達の地位が変動することがないので、上の地位に登りたい何者かが画策しているのではと考えているのだ。


 ともあれ、そんな謎の組織が活動しているのだから、気を付けておくにこしたことはない。デズモンドの忠告ももっともだと言える。

 それ故、エイトは険しい顔をしながら、素直に頷く。


「確かに、それはそうですね。まぁ、伯爵と知り合いにもなれましたし、何かあれば助けて貰おうと思います。それに、本格的に危なくなったら、デズモンドさんの所に逃げ帰りますよ」


「ほっほっほっ、そうじゃな。それなら、エイトに転移石を渡しておこうかの」


「転移石、ですか?」


 聞き慣れない名称に、エイトは不思議そうにしている。

 そんなエイトの表情を見て、デズモンドは笑いながら懐から白く輝く石を取り出しエイトへと手渡した。


「これが?」


「うむ。マジックアイテムの一つで、それに魔力を流すと儂の家に転移出来るのじゃ。ちなみに、それは儂が造った物で、次空間魔法を魔石に込めたものじゃな」


「へぇ~。魔石って何に使っているのか初めて知りました。こんな風に使うんですね」


 手渡された転移石を眺めながら、何気なくエイトが発した一言。それを聞いたデズモンドは、疑問げな表情を浮かべて顎髭を弄りつつ口を開く。


「エイトは魔石を使わんのか?」


「え?」


「うむ?」


 話しが噛み合わない様子を見せる二人は、揃って小首を傾げる。


「えっと………俺の魔法で、魔石の使い道ってあります?」


「いや、当然あるじゃろ。例えば、火属性の魔石を使ってゴーレムを錬成するとしたら、ゴーレム自体に火の耐性が付くし、上手くいけば火属性の魔法も使えるゴーレムが錬成出来るかもしれんぞ。………それに、錬成されたゴーレムに込められた魔力が切れれば、魔石を使っていないゴーレムと同じく消えてしまうが、再度魔石に魔力を込めるだけで錬成出来るのじゃぞ」


 デズモンドが淡々と告げる事実に、エイトは目を見開いて驚きを露にする。しかも、驚き過ぎて声も出ないようだ。

 そんなエイトの様子に苦笑しながら、内心で知らなかったのかと呟きつつ、デズモンドは更に説明を続ける。


「まぁ、戦闘中にいちいち魔石を取り出して錬成するのは非効率じゃし、時間がかかり過ぎるがのう。とは言え、それでもエイトには大きな意味がある筈じゃ。何せ、エイトは土属性しか扱えないのじゃからな。……エイトに渡した本に書いてあった筈じゃが、見ておらんのか?」


 エイトは衝撃の事実に、ただ呆然と頷いてデズモンドの問いに答える。

 余程ショックだったのだろう。とは言え、若干驚き過ぎだと思えるのだが。

 ともあれ、エイトは無言のまま、デズモンドから渡されていた本を空間倉庫から取り出すと、穴が開くほど本を睨め付けながらページを捲り確かめる。

 するとそこには、確かにデズモンドの説明通りのことが記してあった。

 そしてエイトはそのページを見ながら、更に落ち込むのだった。

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