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騎士の女性

「そこまで落ち込まんでも良いじゃろ。ほれ、これで試してみよ」


 ガックリと項垂れていたエイトに、デズモンドが苦笑しながら真っ赤な色をしている魔石を手渡した。

 その魔石は、色から察するに火属性だと判断出来る。

 エイトはそれを受け取ると、実践練習ばかりで知識の方は疎かにしていたことを悔やみつつ、魔力を魔石に込めながらゴーレムゴライアスを錬成し始めた。

 だが、幾ら経てども肝心のゴーレムゴライアスは錬成されない。そのことに不思議そうに首を傾げつつ、デズモンドに視線を向ける。

 すると、先程と同様に苦笑しているデズモンドが、エイトを安心させるように優しい声音で声を掛ける。


「いやいや、失敗でも才能が無い訳でもないぞ。エイトよ、もう一度魔力を込めてみるのじゃ。そして、魔力を込めたら手前に放ると良い」


「?……はぁ、分かりました」


 エイトはデズモンドの真意が分からず、疑問げな表情で言われた通りに魔石に魔力を込めると、1mほど手前に魔石を放り投げた。

 すると、魔石が一瞬にして巨大な魔素の塊に包まれ、その魔素は次第にゴーレムゴライアスへと変化した。ゴーレムを錬成しようとして魔力を込めた訳でもないのにも関わらず、だ。


「うおっ!? 何で!?」


「ほっほっほっ、さっき説明したじゃろ。しかし驚いたのう。初手から成功させるとは、流石に思ってもみなかったわい」


 デズモンドは、呆然としているエイトへと声を掛けつつ、錬成されたゴーレムゴライアスに手を当て目を瞑る。

 そして、そのまま動かず十秒ほど経過すると、目を開け視線をエイトへと向けて口を開く。


「うむ。どうやら、このゴーレムゴライアスは火属性の魔法も使えるようになっておるようじゃの。この部屋の中では試せぬので確証はないが、恐らく武器に火属性を付与させることが出来る筈じゃ。無論、火の耐性も得ておるぞい」


「マジで!?」


 未だに混乱しているのか、エイトはデズモンドの説明に反応して驚愕の声を上げつつも視線はゴーレムゴライアスに釘付けになっている。

 そのゴーレムゴライアスなのだが、火耐性や火属性の魔法を得たわりには外見に変化はないようだ。火というくらいだから鎧兜の色が赤くなったりしても良さそうなのだが、そう言った変化は一切見受けられない。魔石も鎧兜の中にあるせいで、外見上は通常のゴーレムゴライアスと何ら変わらないようだ。

 そんなゴーレムゴライアスを前にして、そんなに性能が上がったとはすぐに信じられないのも仕方がない。何せ見た限りでは変化が無いのだから当然だ。

 しかし、不老という秘術を編み出したデズモンドが言うのだから事実なのだろう。

 エイトも同じ結論に至ったのか、漸く冷静になったようで、満面の笑みを浮かべて口を開く。


「スゲェ!! これで戦力の大幅アップですよ!!」


「ほっほっほっ、そうじゃな」


 嬉しそうに飛び跳ねるエイトを見て、デズモンドも同様の笑みを浮かべている。

 新しい玩具を与えられた孫を、微笑ましそうに見つめる好好爺と言ったところだ。

 しかしそんな二人には悪いが、確かに火耐性は有用だと言えるが、火属性は別段必要とは言えないだろう。事実、武器に火属性を付与したとしても、切れ味が増すことはないのだから。寧ろ、熱せられた武器は切れ味が数段落ちてしまう。それに、敵の体に切り傷を与えると同時に、止血もしてしまうのだから有効だとはとても言えない。

 もっとも、これから冒険者として活動していれば、新たに魔石を手に入れる機会も当然やってくることになるのだから、その時に有効な属性を持つ魔石を使って強力なゴーレムを錬成させれば良いのだが。

 ともあれ、ハイテンションで喜び続けるエイトに、デズモンドから少々残念な事実が告げられる。


「しかしのう………マジックアイテムに使う魔石は、ランクB以上の魔物が持つ魔石でなければならんのじゃよ。ランクB未満では、何の効果も現れんのじゃ」


「えぇぇ………マジっすか……」


 上げて落とされるとは正にこのこと。エイトは先程の喜びようが嘘のように、ガックリと項垂れる。

 しかし、考えてみれば当然だと言えた。何故なら、低ランクの魔物の魔石でマジックアイテムが製造出来るのなら、エルドラド全域でマジックアイテムが安価な値段で溢れるのことになるのだから。

 それに、もしそうなっていたのなら、エイトが持つ銅製のロングソードもマジックアイテムになっていただろうことは間違いない。

 現実は甘くない。それを痛感したエイトは、渋面でどうにかならないかとデズモンドに視線を向けるのだが……………


「いやいや……そんな目で儂を見ても、どうにもならんぞ」


 苦笑しながら手を左右に振って、そう答えるデズモンド。


「……そりゃそうですよね」


 エイトは苦々しくも頷くしかなかった。

 物理法則ならぬ、魔法法則とでもいうものが存在するのだろう。そんな風に納得するしかないエイト。

 その後は何気ない話しをお互いにして笑いあっていると、朗らかな雰囲気に包まれる室内に突然ノックの音が響き渡った。

 客人が来る予定は無かったのだろう。デズモンドは訝しげな視線を扉へと向け口を開く。


「どなたかな?」


「私は、アーロン=ブリッツ=ド=エルキンス伯爵に仕えている騎士だ。入ってもよろしいか?」


 デズモンドの問いに返って来たのは、女性と思われる鈴のなるような声だった。

 エイトはアーロンと知己の仲になっていることから、不思議そうに首を傾げる。デズモンドもアーロンと知り合いだったのだろうか、そんな風に考えているのだろう。


「えぇ、結構ですぞ」


「失礼、私の名はエヴァ。冒険者のエイト殿はどちらだ?」


 真っ赤な髪にブルーの目をしたエヴァと名乗る人物は、エイトを探しているらしい。

 しかし、どちらがエイトかと尋ねてはいるが、エヴァの目はデズモンドの方に行っており、どう解釈してもデズモンドのことをエイトだと勘違いしているのは明らかだった。

 そんなエヴァの問いに答えるべく、エイトが片手を上げつつ口を開く。


「俺ですけど………何かご用でも?」


「君が!?」


 理由は分からないが、何故か目を見開いて驚くエヴァ。

 エイトの見た目は、特に外見上は変わったところはない………地球では目立つだろうが、髪が白いことや目が赤いことは別段エルドラドでは目立つ要所にはならない。

 ならば何故そんなに驚くのか、それが分からないエイトは心底不思議そうに首を傾げる。

 デズモンドはそんなエイトに代わって、エヴァに問い掛ける。


「それで、いったい何用で参られたのかのう?」


 デズモンドの冷静な口調で我に返ったエヴァは、ワタワタした様子で困惑した表情を浮かべると、佇まいを直す。ポカンと口を開けて呆けていた自分に気付き、恥ずかしかったのだろう。


「し、失礼した。エイト殿がブリッツに来ていることを知った伯爵が、直接お会いして話したいことがあるとか。……これから領主館に、ご同行願いたい」


「えっと……」


 どうしたものか、そう内心で呟きつつエイトはデズモンドに視線を向ける。まだデズモンドと話したいことなどが沢山あるのだろう。

 デズモンドもエイトと久し振りに会ったのだから、当然もっと話していたかったのだろう。しかし、伯爵という高い地位の者がエイトを呼んでいることを考慮し、一度頷くと口を開く。


「儂のことは気にせんでも良いぞ。何かあれば、会いに来ると良いしのう」


 そうデズモンドに告げられ、エイトは先程手渡された転移石を思い出し、納得した様子で頷く。

 確かに転移石があれば、何時でも会おうと思えば会える。

 もっとも、転移石など所持している者はエイトぐらいであり、エルドラド全域を探しても見付からないほどの超希少なマジックアイテムなのだが。

 ともあれ、エヴァを放っておくのは失礼だと考えたエイトは、視線をエヴァに向けて淡々とした口調で告げる。


「分かりました。それじゃあ、案内をお願いします」


「手早く準備を済ませてくれ。私は先に外で待っておく」


 エヴァはそう告げると、早々に部屋を後にしていった。

 そんなエヴァの背中を見送ったエイトは、初めて騎士という者を見て、女性でも騎士になれるんだな、などと取り留めの無いことを考える。

 確かに、女性が騎士というのは珍しいと言えた。中世ヨーロッパでは、女性の騎士は皆無と言っても過言ではなかったのだから、エイトがそう考えるのも不思議ではなかった。

 しかし、エルドラドでは女性の騎士は珍しくない。男性の騎士と比べれば、少ないのは事実だが。

 それはともかく、エイトは申し訳なさそうな表情でデズモンドに一度だけ大きく頭を下げた。


「本当はもう少し話していたかったんですが……また会いましょう。デズモンドさん、お体に気を付けて下さいね」


「ほっほっほっ。儂は大丈夫じゃよ。エイトの方こそ気を付けるんじゃぞ」


「はい! 次にお会いする時は、更に高性能なゴーレムを錬成出来るようになっていることを約束します! それでは!」


 エイトは胸を張って堂々と宣言すると、もう一度頭を下げ、外で待っているであろうエヴァの下へと移動する。

 そんなエイトの宣言を聞いたデズモンドは、小気味良い発言を耳にして笑みを浮かべると、小さく何度も頷く。


「楽しみじゃのう。ほんに楽しみじゃ。ほっほっほっ」


 エイトの背中を見送りつつ呟くデズモンドの表情は、本当に心の底から楽しみなのだろうと思えるほどの笑顔を見せていた。

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