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戦闘狂との模擬戦

 駆け出したのはアーロンだけではなく、魔術師であるエイトもだった。

 エイトならばゴーレムを錬成し、要所要所で遠距離攻撃をすればいい筈なのだ。だが、エイトは全力で大地を蹴り走っている。恐らくは何か作戦があるからこそなのだろう。

 そんなエイトの行動を目にしたアーロンは、エイトの真意が理解出来ず困惑の表情を浮かべる。しかし、それも数瞬のことでしかなく、すぐに獰猛な笑みに戻すと手に持つ槍にいっそうの力を込める。


「くはははは!! その心意気は良し!! だが、魔術師であるのに前に出るのは悪手だぞ!!」


 確かにアーロンの言う通り、魔術師であるエイトが前に出るのは最悪の手だろう。

 だが、エイトは前へ前へと突き進み、銅製のロングソードを抜くと呪文を唱え始めた。


『我が意のままに、我が魔力を依り代に、狂い咲け!』


 アーロンとエイトの距離は、もう極僅になっている。

 しかし、アーロンの間合いに入るその前に、エイトの呪文が唱え終わる。


『無慈悲なる槍! 槍山葬送!!』


「っ!?」


 アーロンとしては、エイトが破れかぶれに鋼鉄製のゴーレムと一緒に特攻する、というのが作戦なのだろうと考えていたのだ。しかし、アーロンの予想は大きく外れる結果になった。

 何故なら、エイトがアーロンの間合いに入ると思われた瞬間、地面から無数の槍が天に向かって生えたからだ。

 アーロンは驚愕に目を見開き、その無数の槍を避ける為5mも垂直に飛び上がり、大地に向かって技を放つ。


「槍乱武神!!」


 再びアーロンが放った技により、地面から生える無数の槍は一本残らず塵芥に変わった。

 そして、アーロンは安全になった地面へと着地する。内心で、惜しかったな、そうエイトへと賛辞を送りながら。

 だが、そこからがエイトの策の本番だったようだ。

 それを証明するように、着地した瞬間を狙ってゴーレムシュツルムが長い腕から生える鉤爪で斬り掛かった。

 これは幾らなんでも決まった。そう確信するエイトだったが、アーロンから突如放たれた目に見えない衝撃波によってゴーレムシュツルム共々吹き飛ばされる。

 あまりにも非現実的な現象。魔法とは明らかに異なるものに驚愕の表情を浮かべ呆然としてしまう。


「おいおい……………冗談だろ?」


 倒れたまま上半身だけを起こして呟くエイト。

 そんなエイトへと視線を向け、アーロンはクツクツと笑いながら口を開く。


「なかなか良かったぞ。今の策ならば、ランクBに上がったばかりの冒険者になら通用するだろう。だがしかし! そこに居るアランには通用せんだろうな! 無論、俺には全くの無意味でしかない! お前の最強のゴーレムを見せてみろ!!」


 そう告げるアーロンの言葉には、驕り、侮り、などの負の感情は一切感じられない。純粋にエイトの策を褒め称え、しかしそれでは自分に通用しないという事実を伝えているに過ぎない。

 それを感じ取ったエイトは、非現実的な強さを持つアーロンに苦笑しつつ、全てのゴーレムを魔素へと変換する。

 そして目を瞑り、身体中から強大な魔力を迸らせながら不敵な笑みを口元に浮かべ、静かな口調で呪文を紡ぎ始めた。

 無論、そんな表情をエイトが浮かべれば、自然とアーロンの笑みも深いものへと変わる。相手の闘志に呼応するかのようなアーロンは、間違いなく戦闘狂と言えた。

 エイトが呪文を唱え終わると、三体のゴーレムが姿を現す。全長3m、桜の花びらの刻印が所々に施されており、それぞれに巨大な武器を所持したゴーレムゴライアスだ。一体は、3mを超える日本刀。一体は、何を想定して作られたのか疑問に思う程のハンマー。最後の一体は、これまた巨大なアックス。

 そのゴーレムゴライアスを視界に入れたアーロンは武者震いなのか、少しだけ体を震わせると歓喜の咆哮を上げる。


「くはっ! くははははははは!!! 素晴らしい! これ程の存在感を放つゴーレムとは!! はぁーはっはっはっ!!! どんな美酒より、どんな美女より、どんな宝石よりも俺の心を沸かせる!! さぁ、掛かって来るが良い!!!」


 アーロンは自分の体内に流れる血が沸騰するかのような興奮を感じ、今回の模擬戦が始まってから初めての殺気を放つ。しかも、セオドアとの戦闘でアランが放っていたのより濃密な殺気を。

 その殺気を体全身で浴びたエイトは、若干の強張りを感じるものの、それを払拭するように力強くゴーレムゴライアスに指示を出す。


「全力で相手をしてやる!! ゴーレムゴライアスよ、パワーを活かして敵を圧し潰せ!!」


 エイトとは違ってゴーレムには感情がない。故に、アーロンが放つ殺気をものともせず前進し始めた。

 その一歩を踏み出したゴーレムゴライアスの存在感は実に凄まじいのだが、アーロンに躊躇は見えない。それどころか、益々嬉しそうに歯を剥き出しにて笑うと槍を構え、巨大なハンマーを持つゴーレムゴライアスに向かって駆け出した。

 そして、三度目になる槍術の技、槍乱武神を放つ。

 ゴーレムのその身にアーロンの技が接触すると、その途端に甲高い音が周囲に響く。まるで耳を擘くような音に、模擬戦を観戦していたジュードとアランの二人が耳を抑えて唸る。


「うおっ!?」


「っ!? アーロン殿の事は昔から知ってましたが、エイトさんの方もとんでもないですね」


 アランはそうでもないようだが、ジュードからしたら最早エイトも人外の枠に入っているように見えるらしい。

 もっとも、エイトを恐れての発言ではなく、感心しての言動のようだが。

 ともあれ、流石にアーロンの技でも一撃で破壊する事は出来なかったのか、ゴーレムゴライアスの体に多少の傷を付けただけに留まった。

 そして、次はこちらの番だと言いたげに、ハンマーを持つゴーレムゴライアスが強烈な一撃をアーロンに向けて横薙ぎに放った。


「ぬぅおぉおおおおお!!??」


 フルプレートアーマーの重量とアーロン自身の体重も合わせると、合計200kgに達する筈なのだが、ゴーレムゴライアスの一撃を受けたアーロンは10m以上も吹き飛ばされた。

 その事実も凄いのだが、吹き飛ばされて尚空中で態勢を整えると着地したアーロンは、それ以上に凄いとしか言えなかった。

 そんなアーロンが、驚異的な一撃を放ったゴーレムに驚愕の視線を向けて口を開く。


「なんというパワー!! くはっ! 実に面白い!! 良いだろう、俺の本気を少しだけ見せてやる!!!」


「本気だろうが何だろうが、俺のゴーレムが全て潰すだけだ!!」


 エイトはアーロンの言葉に反論するのだが、実は強がりでしかなかった。心と頭では理解していたのだ。アーロンは圧倒的な強者であり、今の戦闘では実力の半分も出していない事を。

 そんなエイトの気持ちを汲んだように、三体のゴーレムゴライアスが一斉にアーロンに迫る。

 その迫力は圧巻のものだったが、やはりアーロンにはその迫力も通用しなかった。

 そして…………………………………… 。


「喰らうがいい! 正中斬撃一閃!!!」


 槍乱武神は真っ直ぐに槍を標的へ向け突き出す技だったが、今回放たれた槍の軌跡は上から下へと通ったものだった。その軌跡はまるで、剣を扱うものと同様に見えた。

 その槍とは思えない使用法の技によって、ハンマーを持ったゴーレムゴライアスが正中線から真っ二つに切断された。

 想像を超える驚異的な一撃。

 現在のエイトが錬成出来る最強のゴーレムを容易く両断する一撃。

 正に人外、正に戦闘狂、正に………人を超えし、超越した存在。

 そんな人物であるアーロンを、ただ呆然と眺めるしかないエイト。


「くはははは!! 楽しませて貰ったぞ、エイト!! また今度やるとしよう!!」


 未だ呆然としたままだったエイトに、アーロンがスッキリした笑みを浮かべて声を掛けた。戦闘狂の戦闘欲が、程好く満たされたようだ。

 エイトはその声を聞いて我に返ると、残りのゴーレムゴライアス二体も倒され、何時の間にか魔素に戻っていた事に気付く。

 そんなエイトの様子を見ていれば容易に分かる。どれだけ混乱しているのか、どれだけショックを受けているのかを。

 でなければ、残りのゴーレムゴライアスを破壊された時の事を、その両目で認識している筈なのだから。


「……………あんたは…………本当に人間なのか?」


 小さく呟かれたエイトの疑問を聞いたジュードとアランは、初めてアーロンと戦ったら皆そう思う事だから気にするな、と苦笑しながら同じく小さな声で呟いた。

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