謎の組織
「成る程。では、その冒険者一人で殆どの襲撃者達を始末したのか。くはっ! 実に興味を引く冒険者だな! ランクはBと言ったところか!?」
エルドラドでは深夜に相当する午後9時。
貴族を招待したパーティーは既に終了しており、再び応接室に場所を変えて、アーロンとジュード、アランの三人が酒を飲みながらピート率いる襲撃者達との戦闘を話していた。
その戦いで最も目立っていたと言っても過言ではないエイトの事を伝えると、アーロンは途端に鼻息荒く笑い出し、獰猛な笑みを浮かべてジュードに問い掛けた。
五十人を相手に一人で戦ったと聞いた戦闘狂のアーロンは実に興味深そうにしているが、それを否定するようにアランが手を左右に振って答える。
「いや、あいつはランクDだよ。それに、一人で……ってのは間違いだな。まぁ、生身の人間は冒険者のエイトだけだったけどな」
若干含みのある言い方に、アーロンは顎に手を当て考え込む。
ちなみに、アランが伯爵であるアーロンにタメ口で接しているのは、小さい頃から面識がある故だ。無論、だからと言って普通の人間がアランと同様の対応をとれば不敬罪で罰せられる。しかし、それが許されているのも、アランの魅力なのかもしれない。
そんなアランの言葉に、暫し思考の海に沈んでいたアーロンが顔を上げ、確信したとばかりにニヤッと口元を歪めると口を開く。
「その冒険者は魔術師、だな?」
「クククッ、おじさんは相変わらず鋭いな。そう、エイトは魔術師だよ。それも、最弱の土属性魔術師のな」
アランが告げる事実に、アーロンは目を見開く。
「土属性!? ならば……いったいどうやって五十人を超える襲撃者達を相手にしたのだ? 待てよ……以前に、宮廷魔術師の爺が青銅製のゴーレムを錬成していたのを見た事があったな。だが、その爺でも三体の牛型ゴーレムを操るので精一杯だったし、すぐに魔力切れになっていたぞ」
考えを口に出して情報を整理していくアーロン。
そんな風にアーロンが取り乱すのは、ジュードとアランには珍しい光景だったのか、クツクツと笑いながら黙って眺め続ける二人。
しかして、考え続けるアーロンを眺めるのにも飽きたアランが、新たに情報という名の爆弾を投じる。
「ちなみに、エイトが襲撃者達との戦闘で最初に錬成したのは、青銅製の人型ゴーレムだったぜ。……しかも、四十体のな」
「四十!? 待て待て、四十の人型ゴーレムを一度に操っていたのか!?」
とても信じられないといった様子で、アーロンは厳つい顔に更に驚愕の色を深く見せる。
それも当然だろう。土属性魔術師の操るゴーレムの数は、現在の魔術師で最高でも五体程だと認知されているのだから。
エイトはその四倍の数を一度に制御しているのだ。驚くのも仕方がないと言える。
実際、初めてエイトの錬成したゴーレムを見たアランも、かなり取り乱しパニックに陥っていた程だったのだ。
伯爵という高い地位にいるアーロンでさえも、見た事も聞いた事もない事実であるのだから驚くのは当然だと言えた。
そんな驚きを露にするアーロンに、まるで悪戯が成功したのを面白がるように無邪気な笑みを浮かべるアランが、更なる爆弾を投じる。しかも、特大の爆弾を。
「まだまだ驚くのは早いぜ。エイトの現在の最強のゴーレムは、鋼鉄製の3mを超える巨大な人型ゴーレムなんだよ。あれを見た時は、流石に頭の中が真っ白になって訳わからん事を叫んでたよ……クククッ、オレもまだまだだよな」
鋼鉄製で3mを超える巨大人型ゴーレム。
その言葉を聞いたアーロンは、爆弾を投じたアランの予想とは大きく違う反応を見せた。
アランとしては、かつての自分のような醜態を見せると考えていたのだ。
しかし、帰って来た反応は………………。
「くはっ!……………くははははははは!!! 気に入ったぞ!! その冒険者……エイトとの模擬戦を希望する!! 血沸き肉踊るとは正にこの事!! 堪らんな!!」
人外と形容されるランクBの冒険者であるアランでさえも引く程の獰猛な笑みを浮かべ、心底楽しそうに歓喜の咆哮を上げるアーロン。
パーティーの真っ最中に行ったジュードとの会談の内容を加味すると、余程戦闘欲とでも言えるものが溜まっていたのだろう。
だからこそ、それを発散出来る絶好の対象を見付けた故の歓喜だと判断出来る。
しかし、それはジュードだけであり、アランは理解するどころか会談の際中の内容は知らない為、突然のアーロンの変化に顔を引き吊らせている。
「エイトとやらは、今は何処に居るんだ!? 宿屋か!? はたまた、この館の中か!?」
早く戦いたくて仕方がないといった様子で、ジュードとアランに詰め寄るアーロン。
戦闘狂もここまでくるといっそ清々しくもある。
だが、今の時間はエルドラドでは深夜に相当する午後9時なのだ。
ブラント村の住人は全員寝静まっているし、エイトも同様であった。
ジュードやアランにとっては恩人でもあり最高の友人でもあるエイトの眠りを妨げるのは忍びなく、意図してという訳ではないが、結果として焚き付けてしまったアーロンをどう処理するか頭を抱え込むアラン。
そんなアランに変わって、ジュードがオーガのような笑みを浮かべるアーロンに忠言する。
「アーロン殿、今は深夜ですので明日が良いのでは? その方がエイトさんも万全の状態で戦えるでしょうし」
「む、確かにそうだな! しかし、これでは興奮して眠れんぞ!」
ジュードの言葉ももっともだと判断した辺り、戦闘狂とは言え多少の冷静さはあるようだ。
だがそれでも不満は拭えないようで、悶々とした様子を見せるアーロン。
それを見てジュードは、頭を抱えているアランに視線を向け、妙案が閃いたとばかりに笑みを浮かべると、再度アーロンに視線を移し口を開く。
「それなら、兄上を相手に発散したらどうです?」
「っ!?」
ジュードの提案を聞いたアランは、絶望に落とされたかのような暗い表情を見せ、ジュードに恨みがましい視線を向ける。
しかし、ジュードは素知らぬ顔で視線を無視する。
そして、その提案をされた本人…………つまりアーロンは、嬉しそうにニヤリと笑うとソファーの後ろに立て掛けられていた槍を手に取り…………。
「久し振りに手合わせをするとしようか! あれから何れ程腕を上げたか見てやる! 庭に行くぞ!!」
「ちょっ、オレは酒飲んでるし。今日は……」
「ならん! ランクBに上がってからは一度も会ってなかったからな! 一度見ておかねばと思っていたのだ! ほらっ、行くぞ!」
抵抗を試みるのだが、それを意に介さないアーロンに腕を掴まれ、無理矢理引き摺られて行くアラン。
「オレよりジュードの方が………」
「えぇい、喧しい! ジュード殿はモーガン家の当主であり、知略に秀でておる人間だろうが! それに引き替え、お前は武力に秀でた男だろう!」
そんな風に庭へと連行されたアランを相手に、アーロンは満足するまで槍を振るい続けた。それはもう楽しそうに。
そしてその後は疲れ果てたアランをよそに、ピートを尋問…………もとい、拷問して聞き出した話しをアーロンに伝えるジュード。
無論、先程までの雰囲気とは違い、険しい雰囲気に包まれた室内で。
その会話の内容の一番の不審点を、アーロンは気に入らないといった様子を隠しもせず、眉間に深い皺を寄せ呟く。
「組織内での地位向上の為にモーガン家の領土を欲していたのか………しかし、その組織の正体はピートも深くまでは知らない、という訳か」
険しい表情でそう呟くアーロン。
「はい。ただ、その組織に所属する人間は………恐らく、上位貴族だと思われます。何の為に金を欲しているのか、何をしようとしている組織か……それは判断する事が出来ません。ピートは組織の目的も何も知らなかったようですからね」
「だが、その謎の組織が有している権力は……ピート曰く強大である、と」
「そのようですね。ピートは強大な権力を欲して組織に入ったと言っていましたから」
何やら不穏な影の気配を感じて、ジュードとアーロンの二人は苦虫でも噛んだように顔を顰める。
両者共に、気に入らないと言いたげな様子だ。
しかし、その謎の組織の情報は全然ないのが現状なのだ。それ故、これ以上謎の組織について話し合っても無意味の為、二人はそれ以上口を開く事はなく、ジュードは地面に倒れていたアランを部屋に連れて行き寝かせると、自身の部屋に姿を消した。
そしてアーロンの方は、館の一室を宛がわれそこで眠りについた。
その翌日。
宿屋の一室で休んでいた何も知らないエイトの下へ、アランとジュード…………そしてゴツゴツとした顔、丸太のような腕、2mはある体躯をした男アーロンが獰猛な笑みを浮かべてやって来た。
無論、エイトは誰か分からない為…………。
「ジュードさん、アラン、おはよう。それで……その人は誰?」
そう尋ねるエイトに、ジュードとアランは苦笑を浮かべるのだった。
これから嫌でも知る事になる。
そう二人の目が訴えかけていた。




