パーティーの裏での密談
ピートが率いていた襲撃者達の殆どを殺し、更には重要な人物は全て生きたまま捕らえる事に成功した。
もっとも、重要人物にあたるブラドー、セオドアの二人に関しては別だが。
ともあれ、エイトを含めジュード達は全員無事に戦いを終わらせたのは素晴らしい結果だったと言える。ある意味、出来すぎだと思えるくらいだ。
しかし、戦いが無事に終わったとは言え、後始末が残っている。
五十を超える死体、二十を超えるテントや食料物資等々だ。それらを放っておくと魔物が一ヶ所に集まり、やがてその魔物がブラント村まで押し寄せて来る可能性もある。それ故、後始末は念入りに行わなければならなかった。
エイトは戦闘で多量の魔力を消費してはいたが、それでもエイトにとっては別段多くはない量だった為、警備兵達と共に全員で後始末に従事した。
巨大な穴をゴーレムに掘らせ、そこに死体を投げ入れる。薪や油といった燃焼促進剤も一緒に。
そして一気に燃やし、食料物資等についてはブラント村まで運ぶ。そうやって全ての処理が終わる頃には、二つの太陽が自己主張し始めていた。
魔力は充分に残っているが、それでも流石に体力は同じようには残っていない。その為、エイトは非常に疲れた表情を浮かべ、フラフラと体を左右に揺らしつつブラント村に戻ると、一枚だけ服を羽織っただけのピートを警備兵の一人に預け、宿屋へと姿を消して行った。
無論、ピートは口煩く叫ぶ為、扱いはぞんざいなものだった。
そして二日が経過した現在、領主館に存在する庭では三十人を優に超える貴族が集まっていた。
その貴族達の中には一番高い地位に居る者で伯爵、低い者で準男爵が来て居る。皆が皆、噂の椿油を本命に集まって来た者達だ。
勿論、中には新しい物好きの者もおり、椿油を用いた新たな料理を楽しみに来た者も居たのは間違いない。
そんな思惑が混在する貴族達を前に、ジュードは芝居がかった仕草で声高に声を上げる。
「この度は私の館まで御越しいただき誠に有り難う御座います。今日皆様に集まって貰ったのは、新たな料理を皆様と分かち合いたいと思ったからに他ありません。前置きはこの辺りにして……では、早速その料理を楽しんで頂きたいと思います」
ジュードはテーブルの上に置かれているグラスにフォークを数度当てる。
チンッという小気味良い音が庭に響くと、メイドやコック達が無数の料理を運んで来た。
貴族達は皆興味深くその料理を眺める。すぐに口にしないのは、料理とはまず目で楽しんでからだという考えが貴族達全員の共通認識によるものだからだ。
質の高い教育を受けているのを、全員から感じられる。そこは流石といったところだ。
そんな貴族達が、それぞれのタイミングで料理を口にする。
すると数秒だけ館の庭から一切の音が消え、その後には歓声が上がった。
「おぉ! これは魚を使った料理ですが、外はサクサクとしており、非常に旨いですよ!」
「こちらは………恐らく山芋でしょうか? 外はカリカリ、中はシットリとしている。それに塩が良い塩梅で、実に旨い!」
「驚きですわ! あぁもうワインが今まで以上に美味しく感じられるわ!」
「素晴らしい! これが椿油とやらを使った新たな料理という訳か!」
招待されて来た貴族達の反応は上々といって差し支えない………いや、寧ろ絶賛の嵐と表現しても過言ではない。
そんな貴族達の反応を見て気分良さそうに笑みを浮かべるジュード。
しかしそれも少しの間だけで、すぐに真剣そうな表情に変えると、招待した貴族の中でも最も高い地位になる貴族の下へと移動し、小さな声で話し掛ける。
「(すいません。お話ししたい事がありますので、場所を変えさせて頂きたいのですが。よろしいでしょうか?)」
突然ジュードに背後から小さな声で話し掛けられた男は、怪訝な表情を浮かべるものの、一度だけ頷き了承した事を示す。
それを確認したジュードは館の中にある応接室へと男を案内し、ソファーに座る事を促すと、メイドに料理を運んで来ることを頼む。
そして暫くの沈黙の後、メイドのミーナが運んで来た料理を口にしつつ、ジュードが先に口を開いた。
「実はアーロン殿にお願いがありまして……」
ジュードにアーロンと呼ばれた男は、ブリッツの街を統治する大物貴族であり、未開地に接する辺境の伯爵だ。
ゴツゴツとした顔、2mはある大きな体。それを一目見れば、武闘派なのは誰でもすぐに理解出来る。
そんな大物の貴族であるアーロンは、ジュードの言葉を聞いて、ポテトチップスを口に頬張るとワインで流し込み肩を竦める。
「……それで……? 盗賊、魔物、そういう類いなら喜んで力を貸してやるぞ。最近は、とんとそういう類いの事は無かったからな。少し前に"弱者の森"で騒ぎが有ったようだが、冒険者が片をつけたようだし………体や槍の技が鈍ってしょうがないんだよ」
残念そうに告げるアーロン。
その言葉通り、アーロンは自ら戦闘の最前線に身を置く事を心情としており、更にいうなら闘う事が大好きな人間なのだ。
因みに、アーロンが言った"弱者の森"とは、エイトが当初レベル上げをしていた森の事だ。だが、冒険者の間では、弱者の森という名称は印象が良くない為、通称では呼ばれていない。
もっとも、それは低ランクの冒険者だけであり、高ランク冒険者達の間では通称である弱者の森と呼ばれていたりする。
ともあれ、ジュードは苦笑しながらそう告げるアーロンに向けて口を開く。
「確かに、私からのお願いは先程アーロン殿が仰ったような事と似てはいますね」
「ほう………良いね」
アーロンは獰猛な笑みを浮かべると、実に楽しそうに目線で先を促す。
それを受けてジュードは、困ったような表情を浮かべて続きを話し始めた。
「まぁ、そうは言っても既に終わっているんですが……」
ガックリと首を落とすアーロンだが、ジュードは気にせず説明を続ける。
「一昨日、隣の領主であるピートに襲撃されましてね。ピートが雇った者達の殆どは皆殺しにしましたが、ピート及び側近達は捕らえました」
「あのクズ貴族か! ジュード殿、中々やるではないか! くはっ、くっくく、くははは!!」
数秒前の残念そうな表情は鳴りをひそめ、心の底から可笑しそうに笑い出した。
アーロンとしても、ピートの事はどうにかしたいと思っていたのだろう。だからこその今の反応なのだろうとは理解出来る。
しかし、現在の喜びようを見ると、それだけではなさそうだ。
「奴の配下は、レベル25を超える者達を中心に雇っていた筈だ! それを皆殺しにするとは、ジュード殿を見直したぞ! くはは! 惜しむらくは、俺もその戦闘に参加したかった!」
アーロンの言葉から判断すると、配下の殆どを皆殺しにした故に強い興味を持ったようだ。
もっとも、それをした人物はジュードではなく、エイトだったりするのだが。
「有り難う御座います。実は、一年半前の襲撃もピートの指示の下での行為だったようです」
「何!? ………………………………アイザック殿は、奴のせいで死んだのか!!」
「はい。二日間痛めつけ聞き出しましたので、まず間違いないかと。それに、事前にそうだと気付いた上で今回の襲撃を待っていたので、言い逃れは無理ですね。現行犯ですし」
「……………………………貴族の面汚しのクズめ!! アイザック殿は保守的過ぎる傾向が有りはしたが、名君であったのは間違いない!! そのアイザック殿が、あんなクズのせいで!!」
ジュードの説明を聞き終わるやいなや、憤怒の炎を瞳に灯し怒りを露にするアーロン。
ジュード家の前当主であるアイザックとは知己の仲なのだろう。それ故、ここまで怒りを露にしているのかもしれない。
そんなアーロンに、ジュードは頼みがあると話を切り出した。
「そこで、アーロン殿にお願いがありまして。奴を公式に裁いて頂きたいのです」
「相分かった!! このアーロン=ブリッツ=ド=エルキンスの名にかけて、クズの裁きを公平に処すと約束しよう!!」
ヴァイスハイト国での貴族は、上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、士爵となっている。
そして、アーロンのように伯爵である者は四人しかおらず、その伯爵である四人には罪人を公式に裁く権限が国から与えられている。庶民だけでなく、貴族をも裁く権限が。
だからこそジュードは、アーロンにピートを公式に裁いて貰う事を頼む為、今回のパーティーに招待していたのだ。
それに、アーロンは武闘派で有名なのだが、清く正しい貴族と認知されてもいる。それ故、きっと公正に裁いて貰えるだろうという考えもあったからだ。
そんなアーロンの返答を聞いたジュードは、安心したのかホッと胸を撫で下ろす。
「これで漸くモーガン家の汚名返上をする事が出来ますよ。感謝します、アーロン殿」
「構わん、俺はクズが嫌いだからな。だが、あんなクズのせいでアイザック殿が……悔やまれる事実だ。しかし、ジュード殿が言う通り、汚名返上になるだろうな。それに、陛下からお褒めの御言葉もあるだろう。……きっとアイザック殿も草葉の陰で喜んでいる筈だ」
「えぇ、あの世で安心してくれていると嬉しいですね。………あぁ。それはそうと、実は今噂になっている椿油なのですが……」
少々しんみりした雰囲気に包まれる中、ジュードが思い出したように椿油の事を切り出した。
実際は最初から椿油の事も宣伝する筈だった為、別に忘れていた訳ではなかったのだが、現状の雰囲気を変える為に敢えて今思い出したかのような口調で切り出したのだ。
そんなジュードの言葉を遮るように、アーロンが言葉を被せる。
「あれはジュード殿が関係しているのだろう? クズの話しを聞いてピンと来たよ。恐らく椿油をエサに、奴がもう一度襲撃するように仕組んだ………違うか?」
武闘派と呼ばれていても、やはり伯爵なのだなと妙に納得するジュードは、ただ黙って頷く。
それを見て感心したように小さく何度も首を上下に揺らすと、アーロンは素直な感想を口にする。
「アイザック殿の御子息はなかなかだな。クズ共に対する非情とも言える覚悟、そのクズを誘き寄せる罠、そしてこのテーブルに並ぶ新しい料理とそれに必要な椿油。どれもこれも素晴らしい。モーガン家はジュード殿が存命の限り、安泰なのは確実だな!」
「いえいえ。優秀な家臣と、人生で最も得難い最高の友人のお陰ですよ。………今回のお礼という訳ではありませんが、椿油の方はブリッツを中心に販売させて頂こうと思っています」
「良いのか? 俺としては嬉しいが……」
「えぇ。それでは、その椿油の宣伝もあることですし、庭の方へ参りましょう」
「うむ。それはそうと、後でクズとの戦闘の話しを深く聞きたいぞ!」
良い意味で武闘派、悪い意味で戦闘狂。
そんな戦闘狂の言葉を聞いたジュードは、困ったように苦笑すると、庭に移動して招待した貴族達に椿油を製造しているのがモーガン家だと宣伝し、尚且つ製造法を発見したのが自分だと宣伝する。
因みに、エイトは目立ちたくないため、そうして欲しいと告げていたからこそ、ジュードは自分が発見したと宣言したのだ。
それはそうと、その事実を聞いた貴族達は、我先にとジュードに椿油を売って欲しいと話しを持ち出し始めた。
そんな貴族達の喧騒の中心にいる中、これで漸くブラント村に訪れた長い冬も終わる、そう内心で呟きつつ、ジュードは宿屋の方へと視線を向け心の中でエイトに叫ぶように何度も何度も礼を述べていた。




