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決着

 エイトが向けた視線の先では、右足と右腕………正中線から右に集中して血を体から流している男と、異常な程の殺気を振り撒くアランの姿があった。

 無論、血を流している方はセオドアである。アランのレイピアによって、穴だらけになっており、流石に自分とアランとの腕の差を感じ焦っている。

 確かにセオドアの実力も侮れないのは事実だが、それは剣道の技を知らない者にとって、という注釈が付く。

 実際アランは、エイトからかぶり技を教えられているからこそ動揺せず、惑わされる事もなく対処出来ていた。

 かぶり技とは、一種の初見殺しと言った部分があり、技の内容を知っている者にとっては別段脅威に感じる程の剣技ではない。勿論かぶり技の他に、抜き技、切り返し技、といった剣技を同時に用いた場合ならば、対処する事は困難になる。

 しかしセオドアの剣技は浅く、かぶり技以外の剣技は知らないようで、はっきり言って剣道を習った者からすると幼稚なものにしか見えない。

 恐らく、セオドアはかぶり技を何らかの要因で習得しただけで、その技を使用する事で自分が強い剣士だと勘違いしたのだろう。だからこそ、アランと対峙した当初は、多少の余裕があったのだと判断できる。


(こんなもんか? これなら、エイトの方が剣士として遥かに上だな。………つまらん、もう殺すか……)


 体に穴を開けられた事による苦痛に顔を顰めるセオドアを見て、アランは心底呆れたといった様子の視線を向け内心で呟いた。

 確かに強いかもしれないが、万全の父上だったならば打ち倒せただろうと考えるアラン。

 事実、毒による効果がなければ、モーガン家の前当主であるアイザックでも対処できたかもしれない。

 無論、無傷でとは言わないが。


「糞っ! 何故、なぜだ!? 何故、俺の剣術に対処出来る!?」


 セオドアは苦痛と焦りにより、声を荒げながらアランへと疑問を投げ掛ける。

 しかし、アランはその疑問を無視し、腰を低く落としレイピアを構えると、小さな声で呟く。


「お前の声は聞くに耐えん。………死んでろ、糞野郎」


 アランが構えると同時にセオドアが剣を左肩に担ぎ上げ、かぶり技を使用するのだが……………。

 アランの、目にも止まらぬ素早い突きが放たれると、セオドアの右手を貫き、心臓をも容易く穴を開けた。

 セオドアは心臓を貫かれ数秒後、漸く自分が致命傷を受けた事を理解し、驚愕の表情を浮かべる。


「………………なっ!? 糞ったれ………折角ここまで這い上がって来たのに………糞っ……クソッ………くそ…………く………そ………」


 徐々にゆっくりと、だが確実に………セオドアの瞳から命の灯火が消えていき、終には完全に消え去り、レイピアに貫かれた状態のまま後ろに倒れた。

 それを般若の表情そのままに眺めていたアランの下へ、エイトがゴーレムゴライアスを錬成したまま駆け付け、静かに声を掛ける。


「そいつが?」


「あぁ」


「終わりか………いや、まだだったな。豚がまだ残ってる」


 エイトはレイピアに貫かれた状態のセオドアへと視線を向けたまま呟くと、新たに現れたゴーレムゴライアスに驚愕の表情を浮かべる五人に視線を移す。

 ジュードから悪名高いブラドーの容姿を聞いていた為、すぐにピートの側近だと気付き、口を開く。


「お前がブラドー、だな? 豚は……お前の雇い主は領主館に居るのか?」


「…………………………………………………………………………」


 無言。

 その無言は、雇い主であるピートを庇ってのものではなく、ただ単純に恐怖故から来る結果だ。

 そんなブラドーへと、エイトが再び問い掛ける。


「もう一度だけ聞く。答えないなら、殺す。俺はクズには容赦しないと決めたばかりだからな。有言実行させて貰うぞ。…………お前の、雇い主は、領主館に居るのか? それとも、ここに来てるのか?」


 ここに来てるのか、という問いは、もしピートが来ているのなら手早く済ませられるといったエイトの願望から来るものなのだったのだが、ブラドーは一度だけ体をビクッと震わせると、口元を歪ませた。


「………ひ、ヒヒヒ。モーガン家にこんな化け物が居るとは計算外だった。アランの強さも、な」


 エイトの問いには答えず、少しでもこの状況を自分有利にする為、敢えて笑みを浮かべる事で余裕を持っていると見せつけるブラドー。

 絶体絶命の状況から何とか脱しようとしているのは称賛に値する。通常、普通の人間なら絶対に諦めるだろうと言えるからだ。

 しかし、今回の対応は誤りだった………いや、今のエイトを前にして取る対応としては最悪だったと言った方が正しい。

 事実、エイトはゴーレムゴライアスに視線を向けて、指をパチンと一度だけ鳴らした。

 すると、次の瞬間……………。


「な、なんだ!? 離せ!! や、止めろ!! 止めてくれ!!」


「俺の問い掛けに答えなかったお前が悪い。あの世で反省してろ、クズ」


 ゴーレムゴライアスの一体に両手を捕まれているセオドアに向かって、エイトは冷淡に告げる。

 その言葉に、漸く自分の対処が間違っていた事を悟ったセオドアは、焦った様子で早口で捲し立てる。


「ま、待ってくれ!! ひ、ヒヒヒ。ピート様は、あの奥の丘を越えた所に居る。………喋っただろ、助けてくれ、頼む。な? ひ、ヒヒヒ。頼むよ………なぁ」


 必死に懇願するセオドア。

 だが、エイトは……………。


「遅いんだよ、クズ。……………ゴライアス、殺れ」


「ま、待て。待て待て待て待て待て、待ってくれ!!ま………ギッ、ギャアアアアア!! 止めて、止めて下さいぃいいいいいいい!! ギャァアアアアアア!!!」


 ゴーレムゴライアスは、ブラドーの両手を全力で引き千切り、辺り一面に血を撒き散らせる。

 その様子を見ていたピートの側近達は、腰を抜かし地面にへたり込んでいた。

 それも当然と言えば当然。人間が虫のように手をもがれて死ぬところなど、見たことも聞いた事もないだろうからだ。

 そんな側近達とは反対に、エイトとアランはなんの反応も見せず、視線を丘へと向ける。

 そして、アランが視線をそのままに、警備兵達に向けて指示を飛ばす。


「そいつらが反抗しようとすれば、容赦せず殺していいぞ。………オレとエイトは丘の向こうに用事がある」


「ホッヂンズさん達も、ここに居て下さい。アランが居れば、護衛も必要ありませんしね」


 エイトの言葉を聞いた独身三人組は、寧ろアランが居なくても問題ないだろう、と内心で呟きつつゴーレムゴライアスに視線を向けたまま頷く。

 彼ら警備兵達全員にとって、ゴーレムゴライアスは恐怖と絶望の権化に見えるようだ。そんなゴーレムを錬成するエイトに、そうそう勝てるだけの力量を持つ者は存在しないだろうと判断しているらしい。

 事実、現在のエイトに対抗出来るのは、アランと同様にランクB以上の冒険者、あるいは、それと同等の力を持つ騎士くらいだろう。

 もっとも、魔物は除外して考えた場合ではあるが。


「では、行ってきます」


 まるで散歩へと行くかのように軽く声を掛けると、エイトとアランはゆっくりと丘へと進み出した。恐怖と絶望の権化であるゴーレムゴライアスを伴って。

 そして、丘を登りきったエイトとアランの視線の先には、二十を超える数のテントが存在していた。

 その中でも一際大きいテントに目を付けたアランは、エイトへと視線を向けて口を開く。


「エイト、お前のロングソードを貸してくれ」


「? 別に良いけど、何に使うんだよ?」


「レイピアじゃあ切り裂けないだろ?」


 アランはエイトから銅製のロングソードを手渡されると、一際大きいテントに向かって三度振り抜く。

 その三度でテントの一部を切り裂き、そこからゆっくりと中へと入る。


「な、なんだ!? 貴様達は何者だ!? 我がテイラー領を統治する高貴なる貴族だと知っての狼藉か!!」


 ピートはお楽しみの真っ最中だったようで、裸の女性を前にイチモツを立てている。大きな体とは違い、イチモツは非常に小さい。

 それを見たエイトは堪らず笑い出した。


「ぶっ………くくく、はぁはっはっは! なんだよ、豚野郎のイチモツは、正に豚みたいだな! ちっせぇー! あれじゃあ、女も喜ばせられないだろ! あっはっはっはっ!」


 大きな肥満体に不釣り合いな小さなぺニス。

 そのアンバランスさに、先程まで殺し合いをしていた事を忘れるほど可笑しくなったのか、エイトは涙を流しながら笑い続ける。

 それは意識したものではなかったのだろうが、エイトの言葉と一連の様子を見ていたピートは、額に青筋を浮かべて怒りを露にする。


「貴様ぁあああ!!! 下賎の者が我を笑うなど、許されざる行為だと教えてやる!!」


「下賎なのは、お前のイチモツだろうが。……それにしても、マジで小さいな」


 ある意味感心したように呟くアラン。

 その言葉を聞いたエイトは、更に大きな笑い声を上げる。

 そして、腹筋を両手で抑えながら、苦し気に喉から絞り出すようにしてアランに向けて声を掛けた。


「……く………くくく……や、止めて。もう勘弁して。………ははは……笑いすぎて腹の筋肉が千切れそう …………」


 仮面を被っている為表情を見る事はアランには出来ないが、そう呟くエイトの声から本当に限界なのだろうと考え、苦笑する。

 ピートを目の前にすれば恐らく冷静では居られないだろうと考えていたアランだったが、マヌケな姿を晒すピートを見て、多少ではあるが冷静になれたようだ。

 ある意味、小さなぺニスのお陰で身の安全を確保したピート。無論、ピートは笑われた事に未だ怒りを露にしているが。

 そんなピートに向かって、アランは呆れた様子を隠しもせず、命令するように口を開く。


「服を着ろ。………っつうか、何でまだ立ったままなんだ? こいつ、見られて興奮する変態かよ」


「はっははは! だ、だから、勘弁して………マジ、もう無理。俺、外に出る………くく、ははは……ゴーレムゴライアスに連行させるから、俺は先に行くぞ」


 途中片言になりつつアランにそう告げると、ぺニスを立てたままのピートを視界に入れないようにして、エイトはテントの外に出て行った。

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