決戦の時
アランの激しい殺気に晒されたブラドーを含めた五人の男達は、絶対的な恐怖を目の前にして足をすくめている。
それも当然だろう。アランは人外と呼ばれるランクBの冒険者なのだから。
アランと同じランクBに位置する冒険者は、ヴァイスハイト国でも非常に少ない。
そんなアランの殺気は尋常ではなく、ブラドー達にとってはドラゴンに睨まれたと同然であった。
「おい、どうしたんだ? セオドアって奴はお前らの中には居ないのか? 何も答えないんだったら………全員死ぬか?」
「ひ、ヒヒヒ。お前がアランか………どうやら、噂以上の実力らしいな。………だがなぁ、こっちにも腕の立つ剣士を用意してるんだよ! ヒヒヒ、ヒァハハハハ!!」
般若のような顔を見せるアランに、ブラドーが喉の奥から絞り出すように声を出した。
どこから見ても、強がりにかしか見えない。
だが、それを否定するかのように少し背丈の高い草むらから剣を手に持つ男が飛び出し、アランに襲い掛かった。
しかしアランの意表を突く事は出来ず、軽々と避けると襲い掛かって来た男を確かめるようにじっくりと下から上まで視線をやる。
そして、男が手に持つ剣が片刃になっている事に気付くものの、一応の確認もかねて口を開く。
「お前がセオドアか?」
「そうだ。悪いが………死んで貰うぞ!」
アランの表情、そして殺気に一切怯む様子を見せないセオドアは、自身がセオドアであると認める。
そして、次の瞬間には鋭い突きを放った。
剣術で最も早いと言われる技。それが突き技だ。
しかし、先程と同様にアランは軽々と避けると、般若の表情をそのままに、セオドアを挑発するかのように声を掛ける。
「つまらん技を使って様子見をするのは止めろ。お前の最高の技で掛かってこい。でないと……」
途中で言葉を区切ると、ブラドー達の目には見えないスピードで素早い突きを放ち、セオドアの頬に傷を付けた。
「っ!? クッ……流石にコンスタンティン流の剣術は素早いな。………分かった、本気を出すとしよう」
「グダグダ喋るのも止めろ。本当なら既に五回は死んでるぞ、お前」
セオドアに対して、アランは冷淡に事実を告げる。俺が本気なら、もう何度も死んでいると。
因みに、セオドアの言うコンスタンティン流とは、レイピアを使用する事を前提にした突き特化の剣術の事だ。地球で言うところの、フェイシングだと考えるのが妥当だろう。
ともあれ、戦闘による緊張から知らず知らず余計な力が入っていた為、それを解すように首を回し、セオドアは剣を中段に構える。
アランはそれを見て、漸く復讐を果たす時が来たと確信して獰猛な笑みを浮かべる。
一方その頃、エイトの目の前では…………。
疲労困憊といった様子を見せる襲撃者達が、どうにかこうにかゴーレムカヴァリエの全てを破壊していた。
しかし、エイトは余裕の笑みを仮面の下に浮かべ、剣も抜かずに立っている。
そんなエイトの様子を見て、独身三人組のホッヂンズ、パーカー、ザックは焦りながら口々にエイトへと声を掛ける。
「おい、ヤバいぞ!」
「ゴーレムの全部が破壊されたッスよ!」
「エイト、魔力切れかぁ!?」
エイトは今回の襲撃で、既に80体のゴーレムを錬成している。それを考えると、独身三人組の言葉も当然だと言えた。
アランと共に新たにやって来た警備兵達も同様に考えているらしく、エイトの前に肉の盾として立ち塞がろうとするのだが、それをエイトが両手を広げる事で止める。
そんなエイトに訝しげな視線を向ける警備兵達。
エイトはそんな視線を気にする素振りを見せず、深手を負い疲れきっている襲撃者達に更なる絶望を与える為、芝居がかったような口調と仕草で立ち振舞い、口を開く。
「諸君、お疲れかな? だが、良くぞ俺のゴーレムカヴァリエを打ち倒した!! しかし、安堵するのはまだ早い!! 初めて人の目に触れる事になるゴーレムを紹介しよう!!」
エイトの言葉が平原に響き渡ると、襲撃者達全員の視線が集まる。
その視線には、今回の襲撃を終えた後に貰える事になっている報酬に対しての欲望の色など微塵もなく、ただただ再び更なるゴーレムが現れるのか、という深い絶望の色しか見えない。
『我が魔力を依り代に、我が想像のままに! 我が敵に絶望の二文字を刻みつけろ! 出でよ、ゴーレムゴライアス!!』
エイトが魔力を身体中から迸らせつつ呪文を紡ぐ。
そして、呪文を唱え終わると、大きな魔素の塊が三つ出現した。
その魔素の塊は、やがて月夜に照らされつつ消えていき、代わりに銀色に輝く3mを超える巨大なゴーレムが姿を顕した。
そのゴーレムは、これまた巨大な日本刀を手に持っており、視線を向ける者達………つまり、襲撃者達へと強烈な死のイメージを与えた。
「巨人………」
「…………そんな………もう、終わりだ……」
「俺は聞いてねぇぞ………こんなゴーレムを錬成出来る魔術師が居るなんて…………」
「……もう………無理だ………」
「……まだ死にたくねぇよ……」
深い絶望に直面した襲撃者達は既に戦う気力を失ったのか、口々にネガティブな言葉を漏らし、武器を手放す。
それを見た警備兵達は、ゴーレムゴライアスをその目で見て恐怖しているようだが、これで安全に襲撃者達全員を捕縛出来ると考え安堵の溜め息を吐く。
しかし、エイトは襲撃者達を捕らえるつもりがないようで…………否、つもりがないと言うより、襲撃者達全員を皆殺しにする事しか考えていないようで、先程まで仮面の下に浮かべていた笑みを消して、何の感情も見えない表情で無感情に襲撃者達に告げる。
「お前らは、ブラント村の住人を皆殺しにするつもりだったんだろ? 俺の友人のジュード、アランも含めて。………なのに、武器を手放せば、捕まりはするが最低でも生きていられると何故思う? ジュードの部下達は、お前らクズ共を捕縛するつもりだが……俺は聖人じゃない。善人ではあるがな。……だが、お前らを生かすつもりはない。精々悔やむんだな、糞豚領主の指示に従った事を………」
淡々と告げるエイトから、徐々に体を刺すような強烈な殺気が溢れ出す。
エイトの後ろに立つ警備兵達は、それに気付き息を飲み呼吸する事も出来ず呆然とエイトへと視線を向けている。
襲撃者達の方は、呆然として地面に膝をついていた。
そんな襲撃者達に、エイトからの最後の声が掛けられる。
「じゃあな、クズ共。…………全員、死ね」
これといった抑揚も感じられない冷淡な口調に従うように、ゴーレムゴライアス三体がゆっくりと前進し始めた。
襲撃者達にとっては、ゴーレムゴライアスの一歩を踏み出す音は、まるで断頭台の階段を登る足音に聞こえるだろう。
事実、襲撃者達の殆どは抵抗も見せず、両膝をついた状態で自身に訪れる死を黙って待っている。
勿論、死にたくない、助けてくれ、そう叫ぶ者も居るにはいるが。
ともあれ、襲撃者達の下へと辿り着いたゴーレムゴライアス三体は、巨大な刀を振り上げ、無慈悲に降り下ろす。
たった一刀で数人の者の体を腹部から上下に両断し、平原に内臓を撒き散らしていく。
一人、また一人と。無感情に、無慈悲に。
ほんの、一、二分で全ての襲撃者達は全員死体となった。
「す、すげぇな」
「………エイト君って、結構エグいッスね」
「そうかぁ? 俺はスッキリしたけどなぁ」
一切の容赦も見せなかったエイトに、素直な感想を漏らす三人。
確かに無抵抗になった者達を全員殺したのは………行き過ぎた行為なのかもしれない。
しかし、襲撃者達はブラント村に住む者達を皆殺しにするつもりだったのだ。それを考えると、ある意味当然の報いだとも言える。
それに、たとえここで捕まっていても、犯罪を犯した者は奴隷にされる為、結局は最悪の未来しか襲撃者達には残っていなかったのだ。それを考慮すれば、今殺された方がマシだっただろう。それほど犯罪奴隷の扱いは劣悪なのだから。
もっとも、襲撃者達の中にはそれでも生きていたかった者もいただろうが。
(さて、と。アランは終わったか?)
初めて人を殺めたエイトだが、特に忌避感もないようで、無数の死体がひしめく平原の先へと視線を向けた。




