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新たな調理法

 エイトは当初の目的であったウォーターリザードの討伐を完了させると、翌日からアランに案内された"実りの森"と呼ばれる森でレベル上げの毎日を送っていた。

 それはエイト自身が望んでいた事で、実際エイトの望み通り僅か七日間という短期間で、レベルを5も上昇させる事に成功していた。

 レベル上げという1日の終わりに温泉に満足するまで浸かる。そんな毎日が、エイトの心に充足感を感じさせていた。

 しかし、そんなエイトの唯一の誤算…………それは実りの森に出現する魔物の全てが、虫、だという事だろう。

 日本で………否、地球全体を見回してもその目にする事が無かった程の巨大な昆虫が、存在する事が当然かのように数十種類も居るのだ。

 体長1mを越える蜂や蟻、はては2mを優に越える蜻蛉。

 流石に異世界とはいえ、エイトの予想範囲外であったのは間違いなく、その昆虫達と面と向かっての戦闘はエイトの精神を、ひいては心を、少しずつ削っていった。

 余程の昆虫好きでなければ、実りの森は恐怖の対象となるだろう。

 勿論、エイトも例に漏れず、昆虫の魔物を前にして引き吊った表情を浮かべ、連日戦っていた。

 だがエイトにとって、戦うのはまだマシだったのだ。もっとも、ギリギリ許容出来る範囲ではあるが。

 しかし、そんなエイトが許容出来なかった事がある。それは、昆虫の魔物の解体だ。

 外見だけで恐怖の対象となり得るのだが、戦闘後はその魔物を解体しなければいけない。

 しかも、エイトにとってより最悪な事態は、オーク等と違い使える素材が沢山存在するという事だ。

 それ故、エイトはアランの指導の下、この世の終わりのように絶望した表情で、昆虫の体にナイフを突き立て、あるいは切り裂き、使える素材を回収していく。

 その作業は、アランにとっては慣れたものなのだろうが、エイトにとっては絶望そのものであるのは間違いない。


 そんな恐怖と絶望の七日間であり、ある種満足出来る日々を送ったエイトは、一週間ぶりにブラント村にある領主の館に来ていた。

 その館の一室であるキッチンで、エイトはジュードとアラン、並びにコック達を前にして口を開く。


「それでは、これから椿油を使用した新たな調理法をお見せします。きっとハマる事間違いなしですよ!」


 自信満々に胸を張って、以前にラウール湖の側に生っていたジャガイモを空間倉庫から取り出すエイト。

 ジュード達は、どんな料理が出てくるのか楽しみな様子だったが、エイトが空間倉庫から取り出したジャガイモを見た瞬間、驚愕の声を漏らす。


「そ、それは!?」


「待って下さい!!」


「一旦ストップ!!」


 ジュード、コック、アランの順で悲鳴に近い声が上がる。

 その事に不思議そうに首を傾げるエイトだったが、自身のギフトである空間倉庫に驚いたのだろうと考え、納得したように一度頷くと落ち着かせるようにゆっくりとした口調で声を掛ける。


「あー……そうか、これは空間倉庫というギフトですよ。因みに、これは秘密にしといて下さいね。…………ん? アランには何度も見せたのに、何で驚いてるの?」


「違うっつうの!! ジュード達が驚いた理由は初めて見たのもあるだろうが、少なくともオレはそれで驚いたんじゃねぇよ!」


 エイトの言葉が見当違いであると力強く否定するアラン。

 それに同調するようにコックとジュードが頷き、エイトの持つジャガイモに苦々しい視線を向けて口を開く。


「確かに、私は空間倉庫というギフトを初めて見て驚きましたが………それだけではなくてですね……」


「エイトさん……あなたは手に持っている物が何かご存知ですか?」


 コックとジュードの視線の先を、エイトは同様に確認する。

 そして再度、何に驚いているのか分からないと言った様子で首を傾げ、手に持つ物体の名称を告げる。


「…………ジャガイモ、ですけど?」


「それが何か? みたいな感じで言ってんじゃねぇよ! 知ってるなら分かるだろうが!」


 アランは口元を引き吊らせながら、エイトの持つジャガイモに視線を向けている。

 それに益々疑問符を脳内に浮かべるエイトだったが、暫くして理解出来ていないエイトに気付いたコックが、領主であるジュードの客人に失礼が無いように丁寧な口調で説明し始めた。


「ジャガイモという名称をご存知ならば、当然知ってらっしゃると思いますが………一応、私から説明させて頂きます。……えー、そのジャガイモですが、それには希に毒を有している物が確認されています。食べてしまえば、最悪死ぬ者も居るのだとか。ですから、ジャガイモを普通の人間は食べませんし、人間以外の人種も勿論食べません。………以前に飢饉のせいでジャガイモを食べた村があったそうですが、その時は村の半分がジャガイモの毒で苦しんで死んだそうです。………はっきり言って、ジャガイモを食べるという行為は一種のギャンブルのようなものですね。どのジャガイモが毒を持ち、どのジャガイモなら大丈夫か判断出来ませんから」


 確かにコックが述べたように、ジャガイモは毒性を含んでいる。

 しかし、それはジャガイモの芽や緑色に変色した物ならばという事だ。

 ジャガイモの色は肌色をしている物が通常なのだが、日光を大量に浴びたジャガイモは皮を緑色に変化させる。その変色した部分、並びに芽には、ソラニンという天然毒が含まれていて、食べてしまえば嘔吐、下痢等の食中毒を起こしてしまう。そして、最悪の場合には死に至る。

 もっとも、その最悪の場合は、多量に口にしない限りは大丈夫だ。それに、実は緑色の部分は相当にエグい為、普通は死に至るまでの量を食べる事は無い。

 因みに、ジャガイモの毒を口にしてしまった場合の治療法はなく、対処療法しかない。


 ともあれ、エイトはコックの説明を聞いて、ジュード達全員がジャガイモを敵でも見るかのように睨んでいた理由を漸く察する事が出来た。

 確かにコックの説明を聞く限り、今までにエルドラドに来てから一切ジャガイモを使った料理が出てこなかった理由が分かる。

 だが、それならばこそ、その考えを改めさせなければならないとエイトは強く考える。

 何故なら、ジャガイモは飢饉の際には強い味方となるからだ。

 故にエイトは、上記のジャガイモについての説明をジュード達にし、次いでジャガイモの有用性を説く為に口を開く。


「………………と言うわけですね。だから、ジャガイモの皮や芽を丁寧に取っていれば問題ありません。それから、小ぶりのジャガイモは強い毒を含んでいる場合があるので、大きい物ほど食用には好ましいですよ。………それと、ジャガイモは他の作物よりも比較的収穫しやすい物です。なので、モーガン領でも育てる事を推奨します。まぁ、モーガン領は緑豊かなので飢饉が訪れても大丈夫そうですけど」


 長々とした説明を終わらせると、エイトは早速ジャガイモの皮を剥き始めようと…………した瞬間、ジュードがキラキラとした目で、テーブルから身を乗り出して来た。


「本当ですか!? ソラニンなどと呼ばれる毒は初めて聞きました………しかし、この情報は素晴らしいですよ! 油に勝るとも劣らぬ程です!! それにしても、どうして日光を浴びると毒を含むようになるんですか!? もっと詳しく教えてください!!」


 ジュードの好奇心、もとい悪癖が出るなり、アランは苦々しい表情で席を立ち室内からの逃亡を試みる。

 しかし、直ぐ様ジュードの冷たい視線がその背中に注がれる事になった。


「兄上、どこに行かれるので?」


「ほ、ほら………ちょっとだけ酒でも飲んで来ようかな、と。………な、なんちゃって」


「大変貴重な情報をエイトさんが提供してくれている今ですか? モーガン領の食料事情が変わるかもしれない今?」


「だ、だよねぇ………は、ははは」


 ジュードが、ガックリと項垂れるアランを席に再度座らせると、先程までの冷たい視線が嘘のように、子供のような目をエイトに向け先の質問の答えを待つ。

 そんな兄弟の一連の様子を苦笑しつつ、エイトは再び長い説明をしていく。何故ジャガイモが毒を含むようになるのかを。

 そして、一時間程してその説明が終わると、漸く調理に取り掛かる。

 因みに、アランはエイトが説明している最中に、しきりに早く終らせろとジェスチャーで示すが、エイトは素知らぬふりで説明を続けていた。


 そんなこんなで、漸く出来た一品目。

 それはエイトが食べたくてしょうがなかった物。その品物の名称は……………


「ポテトチップスです! 食べ始めたら止まらなくなりますよ!」


 そう告げるエイトの様子は、自信に満ち溢れた姿だった。

 ジュードは先程のエイトの説明を全部ではないが、ある程度は理解出来ており、そのお陰でポテトチップスを口にしても問題無いと判断している為、直ぐに皿に手を伸ばす。

 コック達三人の方は半信半疑といった様子だ。しかし、領主であるジュードが口にするのならと恐る恐る手を伸ばしている。

 そして、最後のアランはエイトの説明を一切信用してないようで…………と言うよりも理解出来ていないようで、腕を組んでジュードとコック達の様子を訝しげに眺めている。


「……これは!? 確かに、ングング、止まらなく、ングング、なりますね!」


「パリパリしていて………モグモグ、絶妙な塩加減で、モグモグ、お酒に合いそうですな!」


「お館様、モグモグ、これは絶品ですな!」


「それだけではないですぞ! ……モグモグ、これなら、モグモグ、サッと作れるので、モグモグ、手間も掛かりません!」


 食べ始めるやいなや、猛烈な勢いでポテトチップスを口に次々に運んで感想を述べるジュードとコック達。

 その姿を満足げに眺めつつ、エイトは次の調理に取り掛かる。

 そんなジュード達の様子を訝しげに眺めていたアランが、ゴクリと喉を鳴らし自身も手を伸ばす。

 だがしかし、そのアランの手を上から叩くようにして邪魔する者がいた。


「な、何だよ!」


「兄上、貴方は私が食べるのを黙って見ていましたね?」


「そ、それがどうしんだよ…………?」


「ングング…………領主より早く食べるべきじゃなかったんですか? なのに、ングング、私に毒味をさせた後に食べようとするとは……兄上には罰としてポテトチップスは無しです」


「なっ!? べ、別に、そんな意図はなかったっつうの! エイトがさんざん説明してたじゃねぇか、大丈夫だ、ってよ!」


 ジュードに叩かれた手を擦りつつ、アランは焦ったように弁解する。

 確かにジュードの告げた言葉は真であり、アランの弁解も真であった。

 しかし、そんなアランにコックの一人の言葉が痛烈に突き刺さる。


「であれば、モグモグ、日光を多量に浴びたジャガイモに、モグモグ、含まれる毒の名前がお分かりになりますよね?」


「………………………………………………………………………………………………………………………………………トリカブト?」


「アラン様、モグモグ、ソラニンですよ」


 アランに告げられた絶望的な返答。

 その答えに苦悶の表情を浮かべたアランは、ただただ皿一杯に入れられたポテトチップスが無くなるのを眺め続けるしかなかった。

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