子供が二人
ジュードとエイトにからかわれたアランは、肩を勢いよく上下させながらエイトを背にしてラウール湖へと到着した。
まだ先程のエイトとジュードのやり取りを気にしているらしい。
そんなアランに、エイトは苦笑しながら声を掛ける。
「それで、どこが一番ウォーターリザードを誘き寄せるのに適しているんだ? どこでも良い訳じゃないだろう?」
エイトの言う誘き寄せるとは、ウォーターリザードの好物である陸上の魔物の肉を浅瀬に投げ込むことだ。
そのエイトの疑問を聞いたアランは、ニヤニヤとした笑みを浮かべると肩を竦めながら口を開く。
「おやおや、さっきまで偉そうに講釈をしていたのにそんなことも知らないとは……困った新人冒険者だ。ギフトでもレア中のレアである空間倉庫を持ち、魔法も使う者とは思えない無知さ加減………はぁぁぁぁ、ホント呆れるしかねぇってやつだなぁ」
どこか芝居がかった様子で大袈裟に溜め息を吐きながら米神を押さえるアラン。先程の仕返しの絶好の機会だと言わんばかりに攻め立てている。
しかし、流石にみえすぎていた為、エイトは素知らぬ顔で受け流す。
これではどちらが大人なのか分からない。もっとも、エイトは外見上子供なだけで、中身は立派な大人ではあるが。
「アランが知らないならそれはそれで構わないけどな。少しづつ場所を変えながらやれば良いし」
「し、知らないとは言ってねぇだろ!」
アランはエイトの言葉に即座に否定すると、憮然とした表情でブツブツと小さな声で愚痴を言いつつエイトを案内する。
そんな案内の際中に、アランは流石に先程の言動は露骨過ぎただろうかと内心で悔やむ。確かに第三者目線からすると、いきなりの仕返しのチャンスに舞い上がり過ぎていたと言わざるを得ない。もっと然り気無く嫌味を入れねば駄目だろう。
しかし、良い意味で真っ直ぐな性格のアランには向いていないことだと断言出来るし、それがアランの美徳だとも言える。
だが貴族であるならば、自分の発する言葉に含みを持たせる様な言動が出来なければ駄目だ。敵対、あるいは商人等との交渉で、安易に言質を取られて相手優位にことが運ぶ可能性もあるのだから。
とは言え、それも見越してアランはジュードに家督を譲ったのだろう。だからこそ交渉の場で不用意な発言はしないだろうし、恐らくそういった場では自分から喋ることは無いと思える。
それぐらいアランのモーガン領に対する思いは強く感じられる。彼の様子を見ていれば一目瞭然だ。
それはそうと、アランの先導で暫く進むこと数十分。エイトが漸く辿り着いた場所は、何の変哲も無い今までと変わらぬ湖面沿いであった。
それに納得いかない様子のエイトは、この場所の何がウォーターリザードを誘き寄せるのに適しているのかをアランに尋ねる。
「陸上から見ただけじゃ分かんねぇだろうが、水中を見ると理解出来るぞ」
アランが意味ありげにエイトの疑問に答えるのだが、実際に水の中に潜っていれば……………。
「………水中を見れば、ねぇ……って、それが本当だとしたら俺がウォーターリザードに襲われるだろうが!」
「クククッ、ハッハッハッ! 流石に引っ掛からないか!」
してやったりと言った風に笑うアラン。
アランは暫く笑い続けると、漸く仕返しが出来て満足したのか、ゆっくりとした口調で説明を始めた。
「実際に水の中に入れば一目瞭然なんだが………まぁ、この場所は浅瀬が無くてな。三歩ほど進むと、いきなり推進が深くなるんだよ。だからウォーターリザードは好んでこの場所を狩場にしてるんだ。陸上の生物が水を飲みに来た瞬間に襲う姿は圧巻だぞ」
エイトはアランの説明を聞いて、自分が本当に水中に入っていたらどうするつもりだったんだと内心で文句を言いつつ、湖面を眺めながら納得したように一度頷く。
実際、エイトが水中に入ろうとしたら、アランはそれこそ馬鹿にしたように言いながら止めるつもりだったのだろう。入るにしろ、入らぬにしろ、アランには仕返しの絶好のチャンスだったと言うことだ。
「なんか納得いかない部分もあるけど……早速試してみるか」
空間倉庫に収納していた魔物の死体を、エイトは無造作に取り出し湖面へと投げ入れる。
その死体……コボルトの死体は湖に大きな音を立てて着水すると、ゆっくりと沈んで行った。
「……………………………………………で? 何も起きないんだけど?」
暫し湖面を眺め続けていたエイトが、何も起きないことに疑問を持ち、訝しげな表情でアランに尋ねる。
しかし、そんな視線を向けられたアランは、肩を竦めながら然も当然かのように口を開いた。
「いやいや、何時もウォーターリザードがこの場所に居るとは限らないだろう?」
確かにアランの言うように、一ヶ所に留まり続ける魔物など通常存在しないだろう。無論、例外は居るのかもしれないが。
それに、水中に棲む魚だって眠っている間以外は、時間によって自分のテリトリー内を餌等を求めて移動するものだ。
そう考えるとアランの説明にも納得出来る。
事実、エイトもアランの言葉に納得したようだ。
しかし、それならどうするのかとエイトはアランに尋ねる。
その問に帰って来た返答は、暫く時間を置いて再度試す、というものだった。
当たり前と言えば当たり前の答え。エイトはその答えにガックリと項垂れる。
「その間は暇になるってことか………って言うか、浅瀬に投げ込むんじゃなかったのか? 一昨日はそう言ってただろ?」
「ん? あぁ、確かにそう言ったな。まぁ、浅瀬でも有効だが、ウォーターリザードが現れる可能性は低いぞ。この場所と比べると、な。…………それより、暇ならお前のゴーレムを見せてくれよ。一応確認しておかなきゃ糞領主と殺り合う時に混乱するかもしれないからな」
思い出したように提案するアランではあるが、その提案ももっともなものだと判断出来る。
しかし、暇潰しの意味合いも多分にありそうな印象も受けるが。
だが、エイトはそれには気が付かないようで、小さく、確かに、と呟くと一体ずつそれぞれのゴーレムを錬成する。
そして、そのゴーレムの性能を一体ずつ丁寧に説明し始めた。
「…………と、こんな感じだな。いずれはゴーレムの種類も増やしていくつもりなんだけど、今はこれで全部だ」
「……………………………え?…………………………………………は?…………………………………いや………………………………………………………金属製?……………………………………巨人?……………………」
「アラン……口閉じてないと虫が入るぞ……」
エイトの言う言葉が指す通り、アランは呆けたように口を開けて固まっている。
ゴーレムサンド、次いでゴーレムロックまでは余裕を持って眺めていたアランだったが、青銅製のゴーレムカヴァリエが錬成されると、これでもかと目を見開き、異様な姿のゴーレムシュツルムになると一歩後ろに退いた。そして、最後に錬成されたゴーレムゴライアスに至っては、口を大きく開いて呆ける始末だ。
そんな様子を見せるアランに、エイトは首を傾げる。
「どうしたんだよ…くくっ…はははっ…はっはっはっ、そ、その変な顔を止めろよな! アホ丸出しだぞ!」
暫し呆然としていたアランだったが、エイトの笑い声が耳に入ったのか漸く視線をエイトに向けると、一度深く深呼吸をして叫ぶように声を張り上げる。
「何なんだお前は!! 金属製のゴーレムなんて、土属性魔術師の奥義じゃねぇか!! エイト、お前は何処の宮廷魔術師だっつう話しになるだろが!! しかも、ヴァイスハイトで最高の土属性魔術師でも青銅製のゴーレムが精一杯なんだぞ!! なのに鋼鉄製のゴーレムとか凄過ぎるだろうが!! アホか!! バーカ、バーカ!! アホー!! 変態野郎!!」
一気に捲し立てるようにして叫ぶアラン。
エイトのゴーレムを見て驚きの余り取り乱してしまったようで、最早最後の言葉に至っては、ただの悪口でしかない。余程エイトのゴーレムは常識外れのようだ。
そんなアランの言葉に、何時もなら冷静に対応するエイトだが、今回に限っては強く反論し出した。恐らく、唐突に取り乱したアランの様子に驚いたのと、そんなアランの発した言葉が幼稚過ぎたのが原因だろう。
「バカじゃねぇし! バカって言う方がバカだし! アホー! アランのアは、アホのアだな! それに、鋼鉄製のゴーレムだって別に凄いものじゃねぇし! 俺が師匠から貰った本には、ダマスカス製のゴーレムとかオリハルコンのゴーレムとか載ってたし! そう考えると中位のゴーレムにすぎないし! アランはバカでアホだし!」
「はぁぁぁああ!!?? 鋼鉄製のゴーレムも、ダマスカス製のゴーレムも、それにオリハルコンのゴーレムも、神話とか物語にしか出てこねぇだろうが!! それに、アランのアは、アり得ないほどカッコいいのアだろうが!!」
お互いにヒートアップしながら、同時にお互いに何故言い合っているのか疑問に思いつつ暫く罵り合うこと十数分。
最後の方は、まるで子供同士の口喧嘩のようになった後、漸く二人とも幾分か落ち着くことが出来たようだ………と言うよりも、お互いに息切れしたので口喧嘩を止めただけでしかないが。
ともあれ、醜く低俗な言い争いによって乱れた息を整えたエイトが、アランが言っていた一つの発言に疑問を持ち、罵っていた相手に視線を向けて口を開く。
「…………ヴァイスハイトの土属性魔術師が錬成出来る最高のゴーレムが、青銅製のゴーレムだってのはマジで言ってんの? それとも冗談?」
先程とは打って代わった真剣な声音のエイトの言葉を聞いたアランは、こちらも真剣な表情で昔を思い出しながら然も当然のように答える。
「…………あぁ、マジだ。一度だけだが……小さい頃に貴族のパーティーで、直にこの目で見た事がある。エイトの人形のゴーレムと違って、牛形のゴーレムだったがな。その時に父上に言われたんだが、牛のゴーレムを錬成した人物がヴァイスハイトに居る最高の土属性魔術師って話しだ。それに、その牛のゴーレムがその時点での最強のゴーレムらしい」
「へぇ……土属性魔術師の質が低いのかな? ………って、牛!? そうか、別に人形に拘る必要は無いもんな! なんで気付かなかったんだろう……」
人形以外のゴーレムの可能性に考えが及ばなかったエイトは、そのことにガックリと項垂れる。
自分で気付きたかったのだろうが、元居た世界で知っていた神話がエイトの視野を狭めていたのかもしれない。
因みに、エイトはこの国の土属性魔術師の質が低いのかもしれないと考えているが、実はそんなことは無い。寧ろ、この国だけではなく、エルドラドに存在する全ての国の土属性魔術師の質が低いと言った方が正しいだろう。
遥か昔には、エイトが所持している本にも記してあるように、ダマスカス製やオリハルコン製のゴーレムも錬成出来る土属性魔術師が存在していたのだが、時が経つにつれ技術が廃れ錬成出来る者が居なくなったのだ。
その理由は至極単純なもので、派手な火属性や水属性、そして目に見えないという不可思議さを持つ風属性に興味を持つ魔術師が溢れたからに他ならない。
それらの結果、何時しか土属性は属性魔法の中で最弱と呼ばれるようになった。そして、それが現在の魔術師達の主流の考えになる訳だ。
「何に落ち込んでんのか知らねぇが、エイトのゴーレムは見事なもんだな。牛のゴーレムと違って、使いがってが良さそうだし」
何気なくエイトのゴーレムについての感想を述べるアラン。
その素直な感想に、項垂れていたエイトは嬉しそうに笑顔を浮かべると、勢いよく立ち上がった。
「そうだろう! はっはっはっ。良し、そろそろ狩りを再開するか!」




