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休日

 まるでバケツをひっくり返したかの様に雨が降る中、昨日オークの集落を襲撃した際の疲れを取る為に、冒険者に成ってから初めての休日をとっていた。

 だが休日とはいえ、宿屋で何もせずにじっとしている事が出来ず、結局は魔法の鍛練を始めたエイト。

 鍛練の内容は、銅製のゴーレムを超える鉄製のゴーレムを錬成する為の鍛練で、紙に鎧兜の精密な絵をひたすら描き、脳内で明確にイメージし、また紙に描き、またイメージする。それを何度も何度も繰り返していた。

 そしてそれが終わると、次は鉄の成分表を作り一つ一つの成分の色や重さ等を、またイメージして………と言う事を、朝目覚めてからずっとやっていた。

 オークキングを倒したというのに、全く驕る素振りも見せないのは良いことだと言える。

 ただしエルドラドの魔術師の殆どは、エイトが今行っているような方法でイメージを固めるような事はしない。手間が掛かるし、何より鉄の成分を知っている魔術師など存在しないからだ。鍛治師ですら細かく知ってはいないだろう。

 そう考えるとエイトの鍛練方法は間違っているように思える。

 しかし、エイトはゴーレムカヴァリエを錬成した時、アイアンランスを錬成した時、砂塵嵐を錬成した時、等々の魔法は全て今やっている事と同様の行為で制度と威力、そしてゴーレムの動作性を向上させていたのだ。

 故に、エイトのやっている事は……エイトにとっては無駄だとは言えないだろう。


「ふぅぅぅ、次は……実際に錬成してから微調整するか」


 天井に顔を向けて一度深く息を吐き、椅子から立ち上がると早速ゴーレムを錬成する為に体から魔力を溢れ出させる。

 するとエイトの目の前に、鉄製のゴーレムカヴァリエが姿を現した。

 エイトにとっては、これが初めての鉄製のゴーレムとなる。その為、普通なら喜ぶところなのだろうが、エイトは顎に手を当てながら顔を顰め、納得出来ないと言った様子で鉄製のゴーレムカヴァリエを睨む。


「…………駄目だな……粘度が低いし、脆すぎる。これじゃあ一度攻撃を受けただけで破壊されるだろうな」


 エイトの言葉通り、錬成された鉄製のゴーレムカヴァリエでは容易く破壊されてしまうだろう。

 一言に鉄と言っても様々な種類が存在していて、用途によって鉄の性能は多岐に渡り驚くほど変化する。

 そして、今回錬成したゴーレムカヴァリエは、強大な力や魔法を持つ魔物との戦闘には明らかに向かない物と判断出来た。


「うぅん……どうせなら、鋼鉄製のゴーレムにするか? 炭素の比率を今よりも遥かに少なくすれば良いんだし。0.3%位かな?」


 鉄は鉄で良いところもあるのだが、エイトは早々に都合の良い鉄の成分を探すことを諦め、鋼鉄製のゴーレムを錬成することに意識を傾け始める。

 不純物を全て取り除き、銀色に輝く鋼鉄をイメージする。それはまるで日本刀のような鋼鉄を。

 そして、イメージを固め終わると一気に錬成を始める。


「おお!? やっぱり鋼鉄製の方が雰囲気あるなぁ! 強そうだ!」


 騎士然とした鋼鉄製のゴーレムカヴァリエを見たエイトは、嬉しそうに笑みを浮かべて眺める。

 そして一頻り眺めると、ゴーレムを操作して動きを確かめる。

 しかし、やはりと言うべきか……青銅製のゴーレムカヴァリエと同様の作りでは、動作に不安な面が出てきた。

 その不安な面とは、関節部分の動作についてだ。

 拳を握る、肘を曲げる、膝を曲げる、そう言ったあらゆる動作が不自然になっている。

 しかし、それを見ても気落ちした素振りもなく、エイトは小さく頷きながら呟く。


「まぁ、当然と言えば当然か。青銅製とは違うから、重さも変わるしな。関節部分は微調整していくしかないだろう。……それはそれとして、ゴーレムの動きを更に良くすることも検討するか。……それから、ゴーレムカヴァリエとは全く違う見た目のゴーレムも作っとこう。重量級の物や、軽量級の物……青銅製とは違って鋼鉄製は硬く粘りも強い、色々とゴーレムの幅が広がるだろうな」


 自身の考えを口に出しながら、エイトはゴーレムの可能性を思い浮かべ嬉しそうに口角を吊り上げる。






 エイトが宿屋の一室で魔法の鍛練に励んでいる頃。

 ブリッツの街の冒険者ギルドでは、昨日と同様に……いや、昨日よりも更に混乱を深めた様子で喧々囂々と冒険者達が声を荒げていた。

 そんな冒険者達をメアリーやパメラが宥めながら、落ち着かせる為にどうしたのかとゆっくりとした口調で尋ねる。

 しかし、冒険者達は全く落ち着ける様子もなく、口々にこの混乱の理由を説明し出した。


「森の中にオークの死体が!」


「そうだ! しかも無数の死体があったらしいんだ!!」


「それだけじゃない! オークキングの死体もあったって話しだぞ!!」


「危険な兆候よ! オークキングが統率する一団を易々と倒す魔物が現れたってことよ! とても落ち着いていられないわ!」


 冒険者達からの説明を……と言っても、ただただ混乱した冒険者達が一斉に声に出していただけだが。

 ともかく、それらの説明をなんとか一つに纏めたメアリーとパメラが、その危険性に気が付き表情を顰める。

 そして、そのことを自分達の上司に話しに行こうと素早く決断した時、2mを優に超える屈強な男を中心とした三人の冒険者達が、メアリーとパメラを引き止める。


「待て。ギルドマスターへ説明しに行くなら、直接見て来た俺達三人も一緒に行った方が良いだろう」


 屈強な男を目にしたメアリーとパメラは、顰めていた表情を驚愕した物へと変える。


「ボスコさん!? 確か依頼で王都に行ってたのでは?」


 ボスコとメアリーに呼ばれる男が現れてから、冒険者ギルドの中は一気に静寂へと一変する。

 その様子からボスコと呼ばれる男とその後ろに立つ二人の女性が、高いランクの冒険者だと判断出来る。

 事実、ボスコはランクA、二人の女性はそれぞれランクBと高い。しかも、三人はパーティーを組んでいて、ヴァイスハイトに存在する冒険者パーティーの中で最も依頼達成率が高い冒険者パーティーだと有名だ。

 そんな冒険者パーティーが現れたからこそ、他の冒険者達は落ち着きを取り戻せたのだろう。もしくは、言葉を失っているだけかもしれないが。


「あぁ、その依頼は無事に終わったよ。……それより、早いとこギルドマスターへ説明しに行かないか?」


「え? あっ、そうですね。分かりました。それでは、すみませんが一緒にギルドマスターへの説明をお願いします」


 メアリーは一度だけ深く頭を下げた後、ボスコと二人の女性を連れて三階のギルドマスターの部屋へと案内する。

 そして、ギルド内部にある扉の中で最も美しい細工が施されている扉を、煩くない程度に4回ノックする。

 扉の細工から見るに、流石はギルドマスターの部屋だと納得出来る。ギルドマスターが、どれだけ冒険者ギルドにとって高い位置付けにあるのかを証明しているかのようだ。

 ともあれ、ノックの音に反応して扉の奥から鈴の鳴るような声が聞こえてきた。


「入りなさい」


 美しい声に促され、メアリーとパメラ、続いてボスコ達が部屋へと入る。

 冒険者ギルドで働く者達にとってはギルドマスターと会うのは初めてではない為、慣れた様子でギルドマスターの前に立つ。

 一方、ボスコ達は初めてギルドマスターと会うのだろう。ブリッツの街の冒険者ギルドの頂点に立つ者の姿を見て、ボスコ達の目が驚きに見開かれている。

 その反応も不思議ではない。

 何故なら、ギルドマスターの容姿が18歳程の女性だったからだ。しかも、戦いとは無縁の深窓の令嬢とでも例えられるような外見の女性だ。

 紫色の髪に緑色の瞳、魅力的な胸。だが、首から下は一切肌を見せないように長い袖と長い裾があるドレスを着ていて、それが深窓の令嬢と例えるのが最適だと思わせる。

 そんな姿をしたギルドマスターを見たら、驚くのも無理からぬことだろうと言える。とても魔物との戦闘を生業にする冒険者達のトップとは思えないからだ。


「……あんたがブリッツの新しいギルドマスターか? 正直言って……」


「一つの街の冒険者ギルドの頂点に立つには力不足に見える。………と言ったところですか?」


 ギルドマスターがボスコの言葉に続けるようにして被せてくる。

 そして柔らかな笑みを浮かべつつ、一度視線を外し紅茶を口に含んでから言葉を続ける。


「新たにこの街のギルドマスターに就任しました……クリスティン=ド=エルキンスと申します」


「あんた……貴族か? まぁ、何だって良い。ギルドマスターに成れたってことは、少なくともレベル100以上はある高レベル冒険者だったってことだろ? だったら別に問題も無いしな。……俺の名前はボスコだ。宜しく頼む。……で、こっちの金髪の方がエイダ。銀髪の方がアルダだ」


「「宜しく」」


 ボスコはクリスティンにたいして然程気にした様子は見せないが、エイダとアルダは懐疑的な視線をクリスティンへと向けている。

 貴族としての権力を使ってギルドマスターという地位に就任したのではと、エイダとアルダは疑っているのだろう。

 実際ギルドマスターに成れる者の絶対条件は強い者であることだ。しかも、ただ強いだけじゃなくランクAの冒険者と同等の強さを持つこと。 あるいは、ランクAの冒険者であることだ。

 それを考えると、クリスティンはとてもランクAの冒険者とは思えないし、ランクAの冒険者と同等の強さを持つとは思えない。

 クリスティンは、アルダとエイダの視線を受けてどこか納得したような表情を浮かべて口を開く。


「ふふふ。私が貴族の権力を使ってギルドマスターに成ったのではとお疑いですね? ご心配なく。これでも私は、ランクAの冒険者ですよ」


 自身が冒険者であることと、ランクAという高ランク冒険者だと述べる。

 すると、エイダとアルダの目が、この部屋に入って来た当初と同じく驚きに目が見開かれる。

 そんな状況を見ていたメアリーとパメラは、自分達も初めてクリスティンと対峙した時は驚いていたなと小さく何度も頷く。


「それで? メアリー、パメラ?」


「あっ! すいません。えっと……」


「俺が説明しよう。直接目にした者からの方が良いだろうしな」


 説明とは? そんな疑問を口にしたクリスティンへと、ボスコが椅子に座りながら説明を始める。


「ブリッツの街から西に少し行った所にある小さな森を知ってるか?」


「えぇ、勿論知ってますよ。低レベルの魔物しか存在しない森ですよね?」


「そうだ。……だが、その森の中にオークの集落を発見した」


「それが何か? 確かに低レベルのオークでも集落を作る程に集まっていれば問題でしょうけど……ですが、それでもたかがオークですよね? 上位種でも出ましたか?」


「あぁ、メイジにアーチャー。……それにオークキングがな。……しかも、ゴブリンの集落も恐らくだが同じ森の中に存在するだろう」


 オークキングという名称を聞いたクリスティンは、眉間に深い皺を寄せる。

 オークキングの討伐ランクはDになる。つまり、冒険者ランクがD以上の者以外は手を出すなという指標となっているのだ。

 ランクDとは冒険者にとって特別な意味がある。ランクD未満の者は半人前、ランクDからは一人前と判断されるからだ。

 その一人前と判断されるランクと同等の討伐ランクに位置付けされてあるオークキングだが、一人のランクDの冒険者だけでは討伐するのは非常に困難を極める。

 何故なら、オークキングとは無数のオークを束ねる魔物だからだ。そうなると必然的に沢山のオークを一度に相手することになる。

 それを考慮すると、オークの集落を襲撃するには一人前と判断されるランクDの冒険者が少なくとも10人は必要になるだろう。

 そのことに気が付いたクリスティンは、オークやゴブリンの被害が出る前に素早く討伐する為にどうすれば良いかを考え始める。

 だが、そんなクリスティンの様子を見たボスコは意味ありげな笑みを浮かべて口を開く。


「心配する必要は無い。少なくとも、オークに関しては、な」


「……なる程。既に貴方の手によって討伐されたのですね」


 納得したように頷くクリスティンだったが、ならば何故、態々自分の所に来たのかと疑問に思う。

 そんなクリスティンへと、ボスコは肩を小さく竦めて話しを続ける。


「この目でオークの集落を見て来たが………何者かに討伐され、解体された後だった。オーク達の死体を見たところ、死後1日って感じだったな」


「死後1日………メアリー、パメラ。オークを討伐した冒険者は?」


「えっと、今現在は分かっていません。オークキングの魔石や討伐証明部位を持って来た冒険者はいませんので」


「オークキングを倒して1日が経過しているのにですか? ブリッツの騎士団からは何も聞いていませんし……そうなると、腕の良い冒険者達でしょうね。ですが、その冒険者達はギルドに換金しに来てはいない。……何か事情があるのでしょうか?」


 誰に話し掛けるという訳でもなく、自身の考えを纏める為に呟くクリスティン。

 それを見て、ボスコは笑いながら自らの考えを口に出す。


「はっはっはっ。そんなことはどうでも良いじゃねぇか! 最近のブリッツの冒険者は、なよっちい奴ばっかりだったからな。この街にとっては嬉しいことだろ? この街のひよっこ冒険者達にとっても、な。……良い起爆剤になるだろうよ。俺達静寂の剣はゴブリンの集落でも襲撃しに行って来るぜ。じゃあな!」


 訝しげな表情を浮かべるクリスティンとは違い、ボスコは快活な笑みを浮かべたまま部屋を出て行く。

 そしてそれに続いて、エイダとアルダはギルドマスターのクリスティンへと深く一礼してボスコの後を追う。

 因みに、ボスコの言う静寂の剣とは彼等のパーティー名のことで、ボスコ、エイダ、アルダの三人が通った後には生きた魔物が存在しないことから呼ばれるようになった通り名だ。

 そんな彼等、静寂の剣が去った後、クリスティンはメアリーとパメラへオークキングを倒した冒険者達が何者かを調べるように指示を出す。

 それが済むと、メアリーとパメラの両名は自分の仕事に戻る為に一階へと移動した。


「ギルドマスターに就任して1ヶ月で面倒なことが起きるとは……最悪ですね。まぁ、オークキングを倒した冒険者達がおかしなことをするとは思えませんし……ですが、まだゴブリンの方が残ってましたね。はぁぁ………」


 静かになったギルドマスターの部屋では、深い溜め息だけが響いていた。 

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