第三話 空飛ぶモフモフと、森の栄養満点キッシュ
銀狼に「シルバー」という名前がついてから、秘境カフェの朝はより賑やかになった。
「アルト、僕が持ってきた太い薪、ここに置くニャ!」
「私も手伝うぞ」
朝の爽やかな光が差し込む庭で、シルバーが太い薪をくわえて運べば、その背中に乗ったラテ丸が誇らしげに指示を出している。
二匹の息はぴったりで、すっかり仲良しな相棒同士だ。
「二人ともありがとう。助かるよ」
アルトが二匹の頭を優しく撫でると、ラテ丸は「ふにゃ〜ん」と目を細め、シルバーも気持ちよさそうに目を閉じた。
朝の準備を終え、カフェの扉を開けた昼下がりのことだった。
パササ・・・と、カフェのテラス席にある大きな木の枝から、羽音が響いた。
見上げると、そこには丸くて大きな影があった。
体長一メートルはあろうかという、ふかふかの灰色の羽毛に包まれた巨大なフクロウ――【フクロウ神獣】だった。
まんまるな大きな瞳は少し眠たげで、どこか疲れ切った様子でペタリと枝にしゃがみ込んでいる。
「・・・ふはぁ・・・夜通し森の見回りをしておったら、なんとも香ばしく魅力的な匂いが漂ってきたのじゃ・・・」
幼さと老練さが混ざったような、不思議と心地よい念話が頭の中に響く。
「いらっしゃい。夜のお仕事、お疲れ様。お腹が空いているのかな?」
アルトがテラス席から優しく声をかけると、フクロウは首をクルリと百八十度回転させてびっくりしたように目を丸くした。
「む・・・人間か。いや、それ以上に・・・美味しそうな匂いの元はお主か? 我は森の夜の守護者。肉や魚など、力の出るご馳走を求めて飛んできたのだが・・・」
「怯える必要はないニャ、おじいちゃんフクロウ!」
すかさずラテ丸がテラスのテーブル跳び乗り、胸を張った。
「アルトの料理を食べれば、夜更かしの疲れなんて一発で吹き飛ぶニャ! シルバーのボサボサ毛並みだって、僕の耳のコリだって一瞬で治ったニャ!」
「何・・・? シルバーだと? あの気高き銀狼までもが・・・?」
フクロウが視線を下に移すと、テラスで気持ちよさそうに丸くなっていたシルバーが「本当だぞ」と優しく鳴いた。
それを見たフクロウは安心したように羽を休め、パサリとテラスの止まり木へ舞い降りた。
「よし、それなら栄養満点で力の出るお魚とお肉の料理を作ろうか」
アルトは厨房へ向かうと、万能スキルを発揮して調理にとりかかった。
今回用意するのは、新鮮なサケ(サーモン)とたっぷりの旬野菜、そしてジューシーなベーコンを惜しみなく使った「特製キッシュ」だ。
サクサクのパイ生地に、サーモンの旨味と濃厚なチーズ、卵、ミルクを合わせたアパレイユをたっぷり注ぎ込み、オーブンでじっくりと黄金色に焼き上げる。
さらに、じっくり煮込んだ「濃厚コーンポタージュ」と、新鮮なハーブを添えた温かいスーププレートの完成だ。
「お待たせしました。サーモンと旬野菜の特製キッシュプレートです」
焼きたての香ばしいバターとサーモンの旨味が混ざり合った芳醇な香りが、テラスいっぱいに広がる。
「ホ、ホーーーーッ!? 何という香ばしさじゃ・・・! 魚とお肉、そして濃厚な乳の香りが交ざり合って、生唾が止まらん・・・!」
フクロウは翼を羽ばたかせると、器用に爪でキッシュを一口サイズにつまみ、口へと運んだ。
――次の瞬間。
「〜〜〜〜〜〜っ!??!」
フクロウの大きな瞳が極限まで見開かれた。
サクサクッとした香ばしいパイ生地の食感の直後、口の中でジュワリと広がるサーモンとベーコンの圧倒的な旨味。濃厚な卵とチーズがそれらを優しく包み込み、噛むたびに幸福感が脳裏を突き抜ける。
「う、美味い・・・美味すぎるぞ!! サーモンの濃厚な味わいと香ばしさが、疲れた身体の隅々にまでじんわりと染み渡っていく・・・!!」
興奮のあまり、フクロウはパタパタと翼を大きく羽ばたかせ、頭の羽毛をぽわぽわに逆立てた。
あまりの美味しさと、アルトの魔法による疲労回復効果によって、夜更かしで重かった身体が嘘のように軽くなっていく。
スープも一滴残らず飲み干すと、フクロウはまんまるな体をさらに丸くして、「ほーう、ほーう・・・」と心底満足そうに鳴いた。
「はは、綺麗に食べてくれてありがとう」
「お主・・・只者ではないな。我が名は【ホーカ】。これほどの美味と力を与えてくれたこと、心より感謝するぞ」
ホーカはアルトの肩にそっと丸い頭を擦り寄せてきた。羽毛はまるで極上の羽毛布団のようにふっくらとしていて、暖かかった。
「ふふ、こちらこそ。またいつでも羽を休めにおいで」
「ふにゃあ! 今日からホーカも、このカフェの仲間ニャ!」
ラテ丸が嬉しそうにホーカの足元にすりすり寄っていき、シルバーも嬉しそうに尾を振った。
テラス席の大きな木には、ホーカのためのお気に入りの止まり木が作られ、猫と狼、そしてフクロウという賑やかな仲間たちが揃った。
森の風がやさしく吹き抜け、木漏れ日がみんなを暖かく包み込む。
追放された万能職の小さなカフェは、今日も美味しい料理と、たくさんのモフモフたちの笑顔で満たされているのだった。




