第四話 ぴょんぴょん看板っ子と、甘くて温かなキャロットケーキ
秘境の森のカフェに、今日も澄み切った朝日が差し込んできた。
「みんな、おはよう。今日もいい天気になりそうだね」
アルトが焼き立ての香ばしいパンをバスケットに盛ると、カウンターやテラスから賑やかな声が返ってきた。
「おはようニャ、アルト! 今日の朝ごはんは何ニャ?」
「おはよう、アルト。今日も清々しい朝だな」
「ホッホ、おはようじゃ。朝の光のなかでいただくお主の飯は格別じゃからのう」
看板猫のラテ丸、銀狼のシルバー、そしてフクロウのホーカ。賑やかな神獣たちが勢揃いし、思い思いの場所でアルト特製の朝食を美味しそうに平らげていく。
みんなのお皿を回収し、店内を拭き掃除しながら、アルトはふと笑顔で呟いた。
「シルバーやホーカも常連になってくれてお店も活気が出てきたけど・・・僕が厨房で料理を作っている間、注文を聞いたりお皿を運んだりしてくれる『フロア係』がいてくれたら、もっとみんなに快適に過ごしてもらえるかなぁ」
「むニャ? 案内ならこの僕がマイ・スプーンを持っていつでもやってあげるニャ!」
「はは、ラテ丸はカウンターで可愛くどっしり構えていてくれるだけで、立派な看板猫だよ」
アルトがラテ丸の頭を優しく撫でていると――カランコロン、とドアのベルが控えめに鳴った。
「いらっしゃいませ!」
アルトが振り返ると、開いた扉の陰から、ピコピコと愛らしく揺れる二つの長い耳が覗いていた。
そこに立っていたのは、雪のように真っ白でふわふわな毛並みをした、小さなうさぎだった。
「あ・・・あの・・・すみません・・・」
消え入りそうな声で口を開いたのは、うさぎの神獣だった。
はにかみ屋なのか、くりくりとした赤くて大きな瞳を潤ませ、お店の中をおずおずと伺っている。
「いらっしゃい! 怖がらなくて大丈夫だよ。入っておいで」
アルトがかがんで優しく目線を合わせると、うさぎの神獣はトコトコと小さな足音を立てて店内へ足を踏み入れた。
「私・・・森の奥でお野菜を育てている神獣のルナと申します・・・。お店から、とっても温かくて甘い良い匂いがしてきたので・・・つい、引き寄せられてしまって・・・」
「ルナちゃんっていうのかニャ! 遠慮はいらないニャ、ここはアルトの絶品料理が食べられる天国みたいなカフェニャ!」
ラテ丸が胸を張って出迎えると、ルナは「ふふ、可愛い猫さんですね」と少し緊張がほぐれたように耳を揺らした。
「ルナちゃん、お腹が空いているのかな? お野菜が好きなら、とっておきの料理を作るよ」
アルトがそう声をかけると、ルナの長い耳がぴーんと立ち上がった。
「本当ですか・・・!? お野菜、大好きなのです・・・!」
「よし、任せておいて」
アルトは厨房へ向かうと、さっそく万能スキルを発揮して調理を始めた。
万能魔法【生活魔法極化】と【素材抽出】を注ぎ込み、旬の野菜の旨味を極限まで引き出していく。
しゃきしゃき食感を残したキャベツと根菜を、濃厚なミルクと特製コンソメでじっくり煮込んだ「温かいミルクコンソメスープ」。そして、甘みの強い新鮮な野菜を香ばしく焼き上げた「焼きたてハニーグリルドベジタブル」だ。
さらに、アルトは特別なスイーツも準備した。
すりおろした人参を生地にたっぷり練り込み、ほのかなスパイスとナッツを効かせてしっとり焼き上げた「特製キャロットケーキ」。上にはまろやかな自家製チーズクリームを添えてある。
「お待たせしました。特製のお野菜プレートと、キャロットケーキです」
「わぁ・・・! すごく綺麗・・・!」
目の前に運ばれた料理から漂う香ばしさと優しい甘みに、ルナは鼻をピクピクと動かした。
さっそく、グリルした人参を小さなお口でかじってみる。
――次の瞬間。
「〜〜〜〜〜〜っ!??!」
ルナの白い耳が「ぴーん!」と真っ直ぐに跳ね上がった。
「な、何ですかこの甘みは・・・! 外は香ばしいのに、中はじゅわっと果物みたいに甘くて・・・! スープも野菜の旨味がミルクに溶け込んでいて、お腹の底からぽかぽかしてきます・・・!」
感動のあまり、小さな身体を震わせながら料理を平らげると、いよいよデザートのキャロットケーキへ。
フォークで切り分けた一口をパクリと含んだ瞬間、ルナの瞳からぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「美味しい・・・っ! 人参の優しい甘さと、しっとりした生地、甘酸っぱいクリームが合わさって・・・こんなに温かくて幸せなケーキ、食べたことがありません・・・!」
「ふふ、喜んでもらえてよかった。ルナちゃんが大切に育てたお野菜があったら、もっと美味しい料理ができるかもしれないね」
アルトが微笑みながらハンカチで涙を拭いてあげると、ルナは小さな手でぎゅっとアルトの手を握りしめた。
「あの・・・! 私、ここで働かせていただけませんか・・・!?」
「えっ、働きたいの?」
「はい! 私、美味しいお野菜をたくさん持ってきます! 注文を聞くのも、お掃除も、お客様をお手伝いするのも頑張ります! アルトさんのこの温かいお店で、みんなを笑顔にするお手伝いがしたいのです・・・!」
必死に想いを伝えるルナの姿に、アルトはほっこりと胸が温かくなった。
「ありがとう、ルナちゃん。こちらこそ、ぜひ頼みたいよ!」
「ふにゃあ! やったニャ! 今日からルナちゃんも大切な仲間ニャ!」
「フフ、可愛らしくて頼もしい仲間の誕生だな。よろしく頼むぞ、ルナ」
「ホッホ、我が愛するこのカフェがますます賑やかになって嬉しいわい」
ラテ丸が嬉しそうにルナの周りを跳ね回り、シルバーも穏やかに目を細め、ホーカも大きな羽を優しくパタパタと動かして新しい仲間を歓迎した。
さっそくアルトは万能クラフトで、ルナの身体にぴったりな小さくて可愛いレースのエプロンを仕立ててあげた。
「いかがですか・・・? 似合っていますか・・・?」
胸元に小さな人参の刺繍が入ったエプロンを身につけ、ルナがクルリと一回転してみせる。
「すごく似合っているよ! とっても可愛いフロア係さんだ」
「よく似合っているぞ。どこからどう見ても立派なフロア係だ」
「ホッホ、あまりの愛らしさにカフェの評判がさらに上がってしまうのう」
みんなに褒められ、ルナは照れくさそうに耳をパタパタと揺らしながら、心からの笑顔を弾けさせた。
「はいっ! フロア係のルナ、精一杯がんばりますっ!」
ふわふわのうさぎのフロア係が加わり、秘境のカフェはさらに笑顔と優しさで満たされていく。
テラスから吹き抜ける心地よい風に乗って、焼き立てケーキの甘い香りとみんなの楽し気な笑い声が、森の奥深くへとどこまでも広がっていくのだった。




