↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

第三章

 唐須は動物の声が聞こえる少年だった。

 ただ、声が聞こえるわけじゃない。助けを呼ぶ声が聞こえるのだ。


「……なんだよ、それ」


 公園のベンチに座りながら、狭野は不思議そうに聞いた。

 夏の暑さを少しでも紛らわすために、近くのコンビニで買ったアイスを頬張っている。


「……おかしいよね。変なこと言ってごめんね、狭野くん。忘れてもらっていいから……」


 唐須がこのことを誰かに話すのは初めてだった。


「確かに変わってるけど、否定してるわけじゃない。なんていうか……唐須っぽくていいんじゃない」

「…………本当に?」

「本当に。それっていつも聞こえてるのか?」


 狭野が最後の一口を食べ終えると、ゴミをくしゃりと潰して袋に入れた。


「詳しくは僕にもわからないんだけど、動物が近くにいると聞こえるみたい」

「へえ、なんていうか……凄いな、お前」


 変人だと思われてもおかしくないと思っていた唐須にとって、狭野に褒められるとは思ってもみなかった。


「ってか、まだアイス食べてんのか。いい加減溶けただろ」

「え、あ……うん。飲むタイプだから大丈夫」


 そういって、唐須はアイスを飲み干した。その姿に、狭野は呆れながらも、ふっと笑った。

 こんな日常が、唐須にとってかけがえのないものだった。



 唐須が狭野に自分のことを話した数日後、その日は雨だった。

 目の前で一羽の烏が倒れていた。黒い羽が雨に濡れて光っている。


「……君が、呼んでいたんだ。ちょっと待ってね」


 鞄からビニール手袋を取り出すと、烏を屋根のあるベンチまで手早く移動させる。いつもこうしている唐須にとって、ビニール手袋は必需品だ。


「大した怪我じゃないみたいだね。羽に水分が含まれ過ぎてうまく飛べなかったみたい」


 屋根のあるベンチでしばらく見守っていると、羽が乾いてきたのか、立ち上がって毛繕いをしたり、うろうろと歩き回った。


「思ったより元気そうでよかった!」


 烏の様子を見守りながら安堵する。バチッと目が合う。


「……怖がらせちゃったかな?ごめんね」


 唐須は謝罪の言葉を口にしながら目を逸らした。

 烏は何も言わない。静かに見ている。


「……うん、大丈夫そうだね。そろそろ行くから、次は気をつけるんだよ」


 烏に優しく言葉をかけ、傘を差してそのまま家へと帰る。


「カァ」


 唐須が去った後、寂しそうに烏が鳴いた。

 

 *


 唐須が動物と話せるという噂は、あっという間に学校中へ広まった。

 たまたま、唐須が烏に話しかけている姿を、クラスメイトが見ていたらしい。

 それをきっかけに、唐須は周囲から距離を置かれていく。ただ、狭野だけは変わらずに唐須と接していた。


「……お前は気にするな」


 その言葉に、唐須は何度救われただろう。しかし、日が経つにつれて、味方でいてくれることに罪悪感を抱くようになった。

 狭野は学年一の秀才だ。そんな彼まで、同じような目で見られてほしくないと思った。

 二人はある日、いつもと同じように一緒に帰っていた。この日は雨が降っていた。


「……狭野くん」

「どうした、唐須」

「狭野くんは僕と一緒に居ない方がいいよ」

「まだそんなこと言ってるのか。俺のことは気にするなって……」

「気にするよ!」


 狭野の言葉を遮るように、唐須は叫ぶ。


「……僕が無視されるのは、もういいんだ。けど、狭野くんがそんな扱いを受けるのは嫌だ……。君は本当に優しい人だから、傷付いてほしくないんだ……」


 泣きそうになるのを必死に堪えながら、唐須は自分の気持ちを吐き出していく。


「唐須……」

「僕のことは気にしなくていいから。だから、明日からは一人で帰るよ……じゃあね、狭野くん」


 唐須は狭野の返事を聞かず、そのまま走って帰った。



 唐須が一人で帰り始めて、一週間が経った。いつものように帰っていると、一羽の烏がこちらを見ていた。

「あれ?君って、あの時の烏だよね?」


 気付いた唐須は、声を掛けながら道路を渡ろうとしていた。

 その時、横から来ている車に気づくのが遅れた。大きな衝撃が走り、唐須の身体が宙に浮いた。


「…………っ、あ」


 唐須は全身の痛みに耐えながら、意識が遠のいていくのを感じていた。ふと烏の方を見ると、こちらをじっと見ていた。

 よかった、轢かれていなかったと頭の片隅で考えながら、唐須は安堵した。


「……ご…………めん……ね」


 このまま死んでしまうことを悟りながら、謝罪の言葉を残し、唐須の意識はそこで途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。