第二章
烏を救出してから、数週間が経った。
|狭野はいつものように、沈んでいく夕日を追いかけるように学校から帰っていた。
すると、一羽の烏が近くの塀に止まっていた。
「だいぶ、元気になったな」
足を止めて、烏の方を向いて話しかける。
逃げる様子のない烏に対して、狭野も近づきすぎずに適度な距離を保っている。
正直なところ、この烏があのときに助けた烏なのか、狭野にはわからなかった。
ただ、狭野があの時のようにガードパイプに腰掛けると、烏も同じ距離感を保ちつつ、近くに寄ってくる。
「……今日も俺の話を聞きに来たのか?」
いつしか、これが狭野の日課になっていた。
近況を烏に話して家に帰る……傍から見れば、奇妙な高校生だろう。
ましてや、動物の声が聞こえるわけでもない。だが、狭野は不思議とこの時間が心地よかった。
「……俺さ、ずっと後悔してることがあるんだ」
いつものように話し始める狭野を、烏は静かに見ていた。
「もう、伝えることができないけどな……だから、お前が代わりに聞いてくれよ」
狭野は目線を下げて、烏と目を合わせた。変わらず、優しい瞳をしている。
「……俺の友人さ、凄い奴なんだよ。動物の助けを求める声が聞こえるんだって……変な特技だよな。それでその声を聞いて、勝手に救いに行ってたんだよな。俺と一緒に帰っている時もしょっちゅう」
傍から見れば、ずっと独り言を話しているおかしな奴。
時折、自分のことを客観視するかのように、狭野は話を続けた。
「勿論、助からない時だってある。その時はわざわざ墓を作って弔うんだ、あいつ」
よく公園に植えてある木の近くに、手で土を掘ってはそこに埋めて、弔っていた。
「本当に変な奴だけど……優しい友人だった。ただ、周りからは気味悪がられて……仲間外れにされてたんだ」
その当時のことを思い出して、狭野は顔を歪ませた。
「俺は馬鹿なことだと思って、気にせずあいつと一緒にいた。けど、“狭野くんは僕と一緒に居ない方がいいよ”って言われた」
狭野は今でもその時のことを鮮明に覚えていた。
なぜなら、いつも帰っているこの道で言われたからだ。
その日は雨だった。友人の表情は傘で見えなかった。
人には見せられないような顔をしていたのではないかと、狭野は思った。
「一緒にいると俺も無視されるって……だから、あいつの言葉通りに距離を置いた」
その日を境に、俺は一人で帰るようになった。それから、わずか一週間後だった。
唐須が交通事故に遭ったのは。
「……本当は、ずっと謝りたかった。でも、もう言えないんだ」
狭野の声は震えていた。
「……ごめん、唐須」
狭野は空を見上げた。
烏は、ただ静かに狭野を見ていた。




