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フランソワとワタル新世界 第二部 ~なせばなる、の旗のもとに~  作者: リレイ飛鳥


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第10章 トリプルアタック

 師範の娘だという店主の女性が、店の奥から顔を出し、「お父さん」と声をかけながら近づいてきた。


「なんだ」

 と師範が応じる。


 女性は俺たちに軽く会釈し、すぐに師範へ向き直った。

「ハズキは?」

「みんなと一緒じゃないのか?」

 と逆に師範が聞き返す。


「いないよ」と店主。

「どういうことだ」

 師範は眉をひそめ、椅子を押しのけるように立ち上がった。


 その気配に合わせ、俺とスグルも席を立ち、礼を述べて店を出た。


「それでは、行くか。車はすぐそこの駐車場に入れてあるから」

 スグルはそう言うが、俺――いや、フランソワの身体は動かなかった。


「どうした?」

「なんか変ですよね」

「なにが?」

「なんか……不穏な感じが……」


 スグルが目を細める。

「え? 不穏? フランソワがそう言っているのか?」

「フランソワは黙っています。というか……体は緊張しているような感触があって……僕の感覚……かな? すっきりしない、というか……」


 脳裏に、さきほど写真を撮ってきた中国人観光客らしき若い男の影がよぎった。


「ちょっと見てきます」

 そう言うと、俺の体は勝手に公園へ向かって歩き出していた。


「また公園に行くのか?」

「そのお店で待っていてください」

 と言うと、

「何杯も飲めないだろう」

 と、スグルの愚痴る声が聞こえた。


 俺は舞台の前まで歩いた。今は誰もいない。

 周囲を見渡すと、公園の奥――ビルの谷間のほの暗い一角に、黒い背広の男が立ち、こちらを見ていた。

 それに気がつくと、男は細い路地へと姿を消した。

 俺は小走りで追う。

 途中、「ハズキちゃん!」と呼びながら走り回る会員たちとすれ違った。どうやらハズキ剣士は本当に行方不明らしい。


 公園の裏から路地へ出て、ビルの谷間を駆け抜ける。()えた匂いが鼻を刺した。

 路地を抜けるとT字路になっており、そこに黒いハイエースが停まっていた。窓はスモークで中は見えない。


 俺は慎重に近づく。

――ガンッ。

 サイドドアが突然開いた。

 中には、頭からずた袋をかぶせられ、座らされている少女。


 ハズキ剣士だ!

 そう思った瞬間、首筋に激しい衝撃。 電撃が全身を駆け抜け、視界が白く弾けた。

――電子銃だ!

 理解した瞬間、意識が闇に沈んだ。

 ……

 はっと目が覚める。

 フランソワの身体を両側から抱えて歩く二人の男が見える。俺の意識は、三人を斜め上から見下ろしているのだ。


「え? 俺って死んだの?」

「幽体離脱……?」


 そんな疑念よりも、フランソワの危機が先に胸を締めつけた。


「起きろ!」

  声にならない叫びを、ぐったりした自分の背中へ叩きつける。

「起きろ! フランソワ!」


 瞬間、視界が切り替わった。 アスファルトが見える。両肩に男の腕が絡んでいる。引きずられている感触。


 フランソワが覚醒した!

 右側の男の足へ自分の足を絡め、前へ倒れ込ませる。 同時に左肩をひねり、左の男も前へ引き倒す。

 二人の男は俺の前で激突し、頭をぶつけて後ろへ倒れた。

 フランソワは即座に二人の鳩尾へ正確な蹴りを叩き込む。 二人は悶絶し、そのまま気絶した。


 前を見てみる。 サイドドアが開いたままの車。その奥にハズキ。

 そして――

 黒い背広の大柄な男が三人、連続して飛び出してきた。 日本人のようだ。


 一人がいきなり正面蹴りを放つ。 フランソワは片手で払い、後退した。


『空手……しかも有段者だ』


 三人は同時にスティックを伸ばし、構え、フランソワを包囲する。


 次の瞬間、三方向から矢のような連撃。

 スティックが風を裂き、腕や脚に当たるたび、鈍い痛みが走る。

 三人の連携は見事で、攻撃の隙を与えない。


『警察の護身術……混じっている。こいつらは素人じゃない』


 しかし、フランソワは達人からカンフーを学んだ身。 三人でも倒せない相手ではない。

 だが、連携が完璧すぎる。 懐へ入る隙がない。 防戦一方。 腕や脚が腫れ始める。


『長引くな……まずい』


その時――


「フランソワ、これを!」


 怒鳴り声。

 声の方向を見ると、脇差『サダムネ』が宙を飛んでくる。 その向こうにスグルが見える。


 フランソワは跳躍し、スティックを伸ばしてきた男の背中へ蹴りを叩き込み、前方へ飛ぶ。

 男は一回転して転がり、蹴りを受け流した。


 空中でフランソワは『サダムネ』を掴む。

 着地の瞬間を狙い、男の一人がスティックを振り下ろしてきた。

 フランソワは着地寸前、鞘から抜刀し、横に払った。


 ――居合術。


 刹那、男の腕が肘から先ごと宙を舞った。

 あまりに速く、男は切られたことに気づいていない。 だが、肘から血が噴き出し、男は失神した。


 その陰から現れた次の男が回し蹴りを放つ。

 フランソワは上体を沈めてかわし、剣を下から上へ振り上げた。

 男の右足が膝から先ごと飛んだ。 血飛沫を上げて倒れ、そのまま動かない。


 確認する間もなく、三人目が上段からスティックを振り下ろす。

 だが、その動きの “起こり” が生まれた瞬間には、すでにフランソワは動いていた。


穿心歩(せんしんほ)


 一歩で相手の懐へ潜り込み、伸び上がるように体を伸ばし、真剣の切っ先を相手のお腹に突き刺していた。

 男は激痛に見舞われ倒れた。そのまま失神してしまう。


三人は倒れた。

『サダムネ』を見てみる。 血が一滴もついていない。


ー魔剣……?ー


 それはフランソワではなく、俺の心の奥から湧いた言葉だった。


「大海の果てにある国に、魔剣がある」

  どこかで聞いた伝承。 だが、日本ではないはずだ。


 その時、車のエンジン音が響いた。 サイドドアを開けたまま、逃げようとしている。

 フランソワは剣を納め、スティックを拾って走る。 運転席の窓を叩き割り、運転手の頭を殴りつけた。

 車は壁に衝突して停止した。


 フランソワは車内へ飛び込み、少女の袋を外す。

 猿轡(さるぐつわ)を噛まされたハズキが怯えた目でこちらを見る。


「大丈夫だよ」


 猿轡を外し、太ももに縛り付けていたナイフで拘束バンドを切る。


 スグルが覗き込み、「大丈夫だったか?」

  と聞いてくる。

 「はい」


 少女を抱えて車を降りる。

 ハズキはまだ咳き込みながら、俺にしがみついていた。 14歳の少女には、あまりに恐ろしい体験だったのだ。


「おーい! ハズキー!」


 師範と会員たちが駆け寄ってくる。


「おじいちゃん!」


 ハズキは師範に抱きついた。そのとたん、安心して泣き出してしまった。


 周囲には五人の男が血を流して倒れ、車は塀に突っ込んでいる。 会員の中には吐き気を堪える者もいた。


 落ち着いたところで、師範が俺たちへ向き直る。


「助けてくださってありがとうございました。ですが、この人たちは、あなたたちと関係あるのですか?」


「いや、まったく自分たちは知りません。いままで関わったことはありません」

スグルは強く否定した。


「わかりました。孫娘を救ってくれて、本当にありがとうございました」

 師範は深々と頭を下げた。


 その時、視線を感じた。 遥か向こうからカメラを向けている男―― さきほどの中国人だ。

(奴はすべてを見ていた)


パトカーのサイレンが近づいてくる。


「行くぞ」

 スグルが小さく言う。俺はうなずいた。


 スグルは師範に向かい、

 「私たちのことは…」と言いかけたが、師範がすぐに言葉を継いだ。

 「わかっております。これらのことは私どもがおこなったことです」


 俺はひらめき、ハズキへ近づいた。

 泣き止んだハズキは、恥ずかしそうにこちらを見る。


 俺は腰から脇差『サダムネ』を鞘ごと抜き、片手で握って差し出した。

 ハズキは驚き、師範が「いけません」と止めようとする。

 だが俺は無視し、刀を彼女の胸元へ差し出した。


「この刀は、生涯あなたを守る」


 ハズキは涙目で両手を差し出し、刀を受け取った。

 捧げ持ち、師範へ見せる。 師範は大きくうなずいた。


「行きましょう」

 俺はスグルに言い、二人で駆け出した。



   第11章 意外な隠れ家 に続く


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