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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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朝食

「いや~、波野くんさ、若いのに、料理上手だね」

「本当だわ~。もしもこんな息子がいたら、嫁にやりたくないわ」

「理恵子さん、嫁にやる、ではないよ。婿にやる、だよ」

「え、婿にやる? 婿養子にするの?」

「あ、違うか。こういう場合は何と言うんだっけ……?」


 まだ寝惚けているのか、波野さんの準備した朝食をいただきながら、友坂夫妻は夫婦漫才のような会話を繰り広げている。そんな様子を炊き立てのご飯を頬張り、眺めていると――。


「それにこうやってあずさちゃんと波野くんが並んで座っていると、息子夫婦みたいに見えるわ」

「確かに。僕たちに息子がいたら、波野くんぐらいの年齢でもおかしくない!」

「なんだかお似合いの二人ね~! あ、これってセクハラかしら?」


 こんなことを言われた私は、あれだけ「煩悩退散!」と念じていたのに。

 頭では想像してしまう。

 波野さんとの新婚生活を。


――『歩くん。今日はゴーヤの天ぷらを作って見たよ。味見する?』

――『あ、本当だ。美味しそうにできましたね。味見は……あずさ。俺達は新婚ですよ。するなら……あずさの味見をしたいかな!』


 そう言った波野さんがエプロン姿の私を抱きしめる……。


(あ、いい。我ながらいい妄想。永久保存版にして脳内保管しておきたい……!)


「……で、どうなのあずさちゃん?」


 友坂夫人に問われ、我に返る。

 甘い妄想をしてしまい、まったく話を聞いていなかった。


「あ、えーと……」

「まあ、困るわよねぇ。これといった観光スポットもないから。でも釣りはいいらしいわよ? 今の時期だとアジ! 夜にはタチウオも釣れるらしいわ」

「釣りはなぁ……あ、あれはどうだ? 釣島にある灯台! 2024年に重要文化財に指定された灯台!」

「でもあれよ、朝、出発して、帰りの船は夕方までないのよ。食堂もなくて、港の近くに酒店と自販機ぐらいしかないって。6時間ぐらい、とにかく景色をぼーっと眺める。さすがに飽きるわよね?」


 友坂夫妻の会話から、中島で観光はどうするのかと聞かれているのだと理解する。


「白石さんはビーチには行きたいですか? この通りの気温なので、今ならまだ海に入れます。8月だと観光客で混み合うビーチも、今なら貸し切りに近い状態です。クラゲに注意すれば泳げますけど」


 波野さんに言われ「ビーチ……!」となる。

 私が夕焼けを見たい長師海岸の辺りには姫ヶ浜海水浴場があり、確かにそこは9月でも泳げるらしい。


(でもアラサー28歳。すでにビキニは卒業と思い、水着は……持参していない!)


「泳ぐことは考えていませんでした……! 海をぼーっと眺めるのは、いいかなぁと思いますけど」

「絶対に泳ぎたいわけではないなら、無理にビーチに行かなくてもいいかと。でも海を眺める……眺めるのがありでしたら……眺めて……あ、桑名神社に参拝し、その後、泰ノ山城跡(たいのやまじょうあと)から暮れ行く街並みを見て戻る――どうですか、このプラン? いいと思いませんか!?」


 波野さんの言葉に、卵焼きを飲み込み、友坂さんがすぐ同意を示す。


「ああ、それはいいプランだね。午前中にビーチへ行き、港の方でランチ。その後、桑名神社へ移動する。参拝したら、泰ノ山城跡へ向かい、そこで夕暮れの街並みを見て戻ってくる。車でぐるっと中島一日観光! あずさちゃん、どう?」


 尋ねられた私は、味噌汁の入ったお椀をテーブルに置きながら「桑名神社は行きたいと思っていました!」と応じる。


「調べたところ、海運業が盛んになった室町時代に、瀬戸内の各地にある問屋から奉納された絵馬が、桑名神社には飾られているんですよね? そして桑名神社本殿と奉納された『船の絵馬』は、いずれも松山市指定有形文化財で、本殿は建造物、船の絵馬は絵画として指定されている。チャンスがあれば見たいと思っていました!」

「白石さん、すごいです。そこまで調べているなら、見た時に『これが!』と感動できると思います」


 波野さんに褒められ、私は思わず笑顔になる。すると笑顔の私を見て、友坂夫妻がお互いの顔を見つめ合う。


(? どうしたのかしら……?)


 友坂夫妻は不思議なアイコンタクトを交わした後、私を見る。


「じゃあ中島観光はそれで決定だね」と友坂さんが言うと、波野さんは「せっかくここまで来たのですから、中島だけと言わず、瀬戸内全般の観光をされたらいいのでは?」とさらに提案してくれる。


「それは……そうですね。私は猫好きなので、尾道は行ってみたいと思っていました。あと瀬戸内=アートなイメージがあるので、直島も見られたらいいなぁって」


 その言葉を聞いた波野さんは、空になったお茶碗をテーブルに置きながら、友坂夫妻を見る。


「あずさちゃん、大丈夫だよ! フェリーもあるし、車もある。両方行けるよ。理恵子さんなんて、直島、何度も行っているから達人だ。それに大山祇神社(おおやまづみじんじゃ)や厳島神社も、せっかくだから見て欲しいよね。瀬戸内を守る神様だから」


 友坂さんがそう言えば、ナスの浅漬けをもぐもぐし終えた友坂夫人もこう言ってくれる。


「中島を気に入り、選んでくれたのは嬉しいわ。でも瀬戸内は見所が沢山ある。お休みが一カ月あるなら、思いっきり堪能しましょう」

「そう言っていただけると嬉しいです! ありがとうございます!」

「でもまずは中島観光よね……」


 そこで友坂夫人が波野さんを見る。


「中島一日観光ぐらいなら、歩くん、お任せできないかしら?」

「え」

「お仕事、忙しい?」


 問われた波野さんが固まっているのを見て、私は助け舟を出す。


「そんな急に言われても、リモートワークとはいえ、波野さん、お忙しいかと」

「……実はいくつか抱えていた案件が三日前にようやく片付いたんです。次の案件スタートは9月下旬からが多くて……」


 そう言うと波野さんはポットのお湯を急須に注ぎながら話を続ける。


「仕事の依頼を受けている企業は、4月~翌3月を会計年度にしているところが多い。下期は10月からスタートで、9月は上期の終わり。だからいろんな案件の区切りもつくわけで……。そして9月はキックオフで、社内の意識のすり合わせをしているところが多い。つまり今、わりと時間があるんですよね」


 波野さんはそう言いながら、落ち着いた様子で急須のお茶を湯呑に注いでいるが……。私の心臓はトクトクと高鳴ってしまう。


(え、もしかして中島一日観光は、波野さんがしてくれるということ!?)


「そうなのね。せっかく時間に余裕があるなら……あ、何か他に予定がないなら」

「はは。仕事以外の予定なんて……こうやって理恵子さんや友坂さんのご厚意で、美味しい食事をご馳走になり、飲むぐらいしかないですよ」


 波野さんがそう言って笑いながら、お茶を入れた湯呑を友坂夫人に渡す。


「それならば波野くんにお願いしていいのかな? あずさちゃんの一日中島観光?」


 今度は友坂さんが湯呑を受け取りながら、波野さんに尋ねる。


「ええ、いいですよ。……白石さん、俺でよければビーチ、神社、城跡をぐるっと巡る観光ガイドをさせていただきますが、どうです?」


 波野さんがふわりと柔らかい笑顔で私を見る。


(こんな……こんな国宝級のイケメンが、自ら観光ガイド役を申し出てくれた! 断る理由なんてあり得ない! たとえ……遠距離恋愛の彼女がいようとも。本人がガイドすると言ってくれたのだ!)


「ありがとうございます! ぜひお願いします!」


 力強く答え、波野さんが差し出す湯呑を受け取った。


お読みいただき、ありがとうございます!

いよいよ始まる中島観光~

更新楽しみにしています!ということで

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