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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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10/29

物より思い出

「白石さん、申し訳ないです」


 濃紺のポロシャツに白のクロップドパンツ、腕にはレザーブレスレット。


 気負ってオシャレをしているわけではない。それなのに雑誌から登場したかのように、波野さんはカッコいい。国宝級のカッコよさであるにもかかわらず、彼は会った瞬間から謝罪をしている。


「いえ、謝らないでください! むしろ、今日のこの観光、一生忘れないと思います!」


 東京から持参した服の中で、一番清楚に見える白のチュニックに細身の黒のサブリナパンツの私は、懸命に言葉を紡ぐ。だが波野さんは……。


「忘れない……そうですね。ある種の黒歴史」

「そんなことはないですよ! ちゃんと冷房も利いていますし、音楽も聴けます。座席の座り心地だっていいですから! ガタガタ揺れることもないですし、遮音性もあると思います」


 今、私はイケメンで親切な波野さんと、中島一日観光に向け、友坂家を出発した。天気は快晴。まだまだ夏の名残を感じる九月。波野さんの軽トラックはまさに快調で道を進んでいる。


 そう、とっても快調なのに!


 波野さんは軽トラックで観光することになる私に「申し訳ないです」と謝罪してくれる。だが正直、波野さんと一緒だったら、たとえ自転車の二人乗りだろうが構わなかった。


 ただ、不思議に思うことはある。それは――。


「生活の足が軽自動車ではなく、軽トラックなんですね」


 軽トラックの助手席に座る私が尋ねると、波野さんは「参りました」という感じで首を傾けながら、答える。


「……身一つで移住したんです、中島に。リフォームした古民家はある程度は備え付け家具になっていますが、足りない物は全部、自分で揃える必要があって……。大型の家具は松山で購入し、軽トラックに積んだままフェリーに乗せ、中島に戻る……。特に荷物がない時は、スクーターを使えばいい」

「買い出しなどで荷物があるなら軽トラック――使い分けていたんですね」


 私の言葉に波野さんは「その通りです」と頷く。


「誰かを乗せる必要もないので、軽自動車ではなくても事足りていたわけです」

「なるほど……」


 とても落ち着いた様子で応じているけれど、今の言葉に私の鼓動はトクトクと強く反応している。


(今すぐ律子に連絡したいわ! 誰かを乗せる必要もない……ということは、遠距離恋愛している彼女もいない。そう考えていいのかしら!?)


「友坂夫妻が軽自動車を使うとわかっていたら……別の知り合いに借りておいたのに」


 波野さんは私の観光ガイドを務めると言ったものの軽トラックしかないと、すぐに気付いた。でも友坂さんに軽自動車を借りればいいと思っていたのだけど……。まさかの夫妻は外出の予定があったのだ!


 そこで誰かに車を借りようと大騒ぎになりそうだったので、私が「軽トラックでいいですよ! ここでもたもたすると予定が狂いそうですし」と伝えた結果、軽トラックで出発することになった。


(でも波野さんがこんなに謝罪してくれるのは、今日の外出を特別に思ってくれているから……とか?)


 遠距離恋愛中の彼女はいないと思うと、すべてをポジティブ解釈してしまう。だからこんなふうに答える。


「波野さん、本当に私は気にしていませんから! それに私、この軽トラック、気に入っています!」

「え……?」


 軽トラックが気に入っている……これには怪訝そうな表情になる波野さんに私は伝える。


「波野さんに乗せてもらったのは、この軽トラックが初めてでした。しかもすごーくピンチだった私を救ってくれたのが、この軽トラック。冷房は快適だったし、ちゃんと友坂家まで運んでくれた。優秀です。今回も私が気になっていた場所に連れて行ってくれるんです。『軽トラックくん、がんばって!』という気持ちでいっぱいです」


 私の言葉を聞いた波野さんはフッと口元に微笑を浮かべる。


「女性は、自身が乗る車は高級であったり、外車だったらいいと思っている……と考えるのは偏見でしょうか」

「偏見とまでいかないと思います。実際のところ、自身の乗る車にスペックを求める女性は……一定数いると思います。ただ、私は気にしません! 物より思い出派。この軽トラックでいい思い出があれば、それが全てです!」

「……わかりました。白石さんの前向きな言葉を信じます!」


 そんな会話をしていると、歩くと四十分かかった港方面に、軽トラックでは十五分ほどで到着となった。


 ◇


「ここが姫ヶ浜海水浴場です」


 駐車場に軽トラックを止める前から、海の美しさは伝わって来ていたが……。

 いざ海を目の前にすると――。


「透明感がとても高い……! 砂浜が明るいので、海の美しさが際立ちますね。東京の海を見慣れているから、これは……感動します!」


 私の言葉に波野さんはふわっと笑顔になる。


「東京湾とは違い、ここは砂地のビーチですからね。それに今は太陽がお昼を目指し、どんどん上昇している時間です。そして風も穏やかだから……今日は特に透明感が増している気がします」

「つまり条件が重なった時、ここまで綺麗に見えるんですね」


 スマホで写真を撮りながら波野さんを見ると、彼はサングラスをかけながら、こちらを見る。


「そうです。……もしかして泳ぎたくなったのでは?」


(サングラスの波野さん、かっこよさが増し増し! 何だかクールで大人っぽい……!)


 ドキドキしながら、そしてドキドキをしていることがバレないようにと思いながら、明るく伝える。


「それは……そうですね。水着、持ってくればよかったです」

「松山に行けば手に入るでしょうけど……(ここ)では難しいでしょうね」


 そこで言葉を切った後、波野さんはドキッとする一言を告げる。


「また来年、来ればいいじゃないですか」


 まさに魔法のような一言だった。


(また……来年……! また来年、私が中島に来ればいいと……私に会いたいと思ってくれているの……?)


 胸の高鳴りと共に尋ねてしまう。


「……来年、ちゃんと水着を持参したら、またここへ案内してくれるんですか?」

「ええ。その時は軽トラックではなく、ちゃんと車を用意しますよ」


 そう言って明るい笑顔になった波野さんは……。

 降り注ぐ陽射しを受け、全身が輝いて見える。


(今の一言がリップサービスだったとしても。すごく……嬉しいな。この笑顔を絶対に私、忘れない……)


 波野さんのことをどんどん好きになっていた。


 ◇


「お待たせいたしました。中島みかんジュースとハンバーガーです」


 姫ヶ浜海水浴場で美しい海を存分に眺めた後、大浦港の方へ移動し、ランチとなる。

 二年前にオープンしたばかりの店内は、ラグジュアリーな雰囲気でリゾート感にあふれていた。


「十時から通しメニューで、お酒やおつまみも日中から頼めるんですよ。お洒落だから、島の若い子たちが喜んで足を運びます。7月や8月はいつも混雑していますが、9月の平日ですからね。落ち着いて利用できますよね」


 そう言って微笑む波野さんは、このお店の雰囲気にピッタリ。ポロシャツの胸元にサングラスを飾る姿もさりげなくおしゃれだし、組んだ長い脚も様になっている。


「あ、ハンバーガーの写真ですか?」


 気づいたら私はスマホを構え、あまりにも絵になる波野さんの写真を撮ろうとしていて、本人から声をかけられてしまう。


「そ、そうです……! このお店、ハンバーガーが名物とホームページに書かれていたので……! それに中島のみかんジュースを飲めます!」

「写真、撮りましょうか?」

「え」

「白石さんとハンバーガー、そして中島みかんジュースのスリー・ショット」


(できればそのスリー・ショットは私ではなく、波野さんで撮りたいな)


 そう思っていたら……。


「写真撮りますよ!」


 なんとオーナーが写真を撮ってくれることになった。


「ありがとうございます……!」


(私のスマホの中に波野さんが降臨した……!)


 もはやあまりにも波野さんが素敵なので、何だか推し活をしているような心地になっている。


(尊いお姿がスマホに……!)


「白石さん、その写真、共有してもらえますか? そしてよくよく考えると、まだ連絡先を交換していませんでしたね。このQRコード、読み取ってもらえます?」


 波野さんが、あの黒目の大きな瞳を細め、眩しい程の笑顔になった。


お読みいただき、ありがとうございます!

スマホに波野さん降臨祝いで

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