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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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いきなり……

「生き返りました……」

「うん。その水、全部飲んでいいので。いや、むしろ、飲んでください」


 10キロのお米を持て余し、さらに目の前に続く坂道に呆然としていた。そんな私の前に現れた救世主──波野さん。私のそばに来ると、彼はハッとした表情になる。そして「まさか友坂さんの家から徒歩でスーパーまで行き、このお米を担ぎ、ここまで来たのですか!? 中島は坂が多いから、徒歩の人なんてほとんどいませんよ? しかも9月とはいえ、日中はまだ普通に夏です。白石さん、自覚できていますか? 額にすごく汗をかいていますよ。……軽トラックで申し訳ないですが、冷房も利いていますし、水もあるので、乗ってください!」と言ってくれたのだ……! さらに車内にあった600mlのペットボトルの水を飲むようにと言う。


 ありがたくお水をいただいた私は──。


(うーん! よく冷えていて美味しい! アルコール以外で、しかもただのお水がこんなに美味しく感じるなんて!)


 感動した私は「生き返りました……」と伝えたわけだ。そして……。


「ありがとうございます! 波野さん、神です!」

「……もし俺がここで白石さんに気づかなかったら……本物の神に会う事態になっていましたよ!」


 軽トラックの助手席に座る私に、波野さんは真顔で伝える。


「え、そこまでは」

「だって白石さん、ご自身のペットボトルの水、もう半分もないですよね? それで残り三十分……お米もあるから、そう早くも歩けないでしょうし、その距離を歩いたら……脱水症状を起こしますよ!」

「……!」

「汗が引いても、服は汗だくでしょう。今度はそれで体も冷えます。このまま友坂さんの家まで送ります。それでいいですか?」


「いいですか?」と言いつつも、波野さんは軽トラックを発進させるための準備をしている。しかもその動作が男らしくカッコよく感じてしまうというか……。


(スーツを着た男性は三割増しとよく聞くが、車の運転をする男性も増し増しな気がする。男の色気が増します!)


 思わず頬を緩ませながら、波野さんを見ていると、「!」となった彼が手を伸ばす。私の頬に触れた手は、少しヒンヤリして心地よく、滑らかで心地よい。しかも波野さんがこちらを覗き込むようにするので……。


(え、いきなりキス!?)


「白石さん、大丈夫ですか? 何だか顔も赤く、ぼーっとしていませんか!?」

「!」


(それは波野さん、あなたのせいです……! 今、キスされると思ったから、一気に全身が熱くなり、顔だって赤くなります! なんなら耳や首だって赤い気が……)


「というか、首も赤くないですか?」

「ひゃん!」


 私は首筋に触れられるのが弱く、思わず変な声を出してしまう。


「あ、ごめんなさい!」

「い、いえ! 私くすぐったがりで! 波野さんの手が少しヒンヤリしていたので、ビックリしちゃいました」

「そうとは知らず、失礼しました」

「そうと知っていたら驚きですよ!」

「それは……そうですね。昨日初めて会ったばかりなのに」


 そこで目と目が合うと、二人して吹き出して笑ってしまう。整った顔立ちのイケメン波野さんの破顔した顔は……。


(やっぱりハンサム! 月並みな言葉になるけど、かっこいい!)


「では友坂家に向かいますね」

「はい。よろしくお願いします。本当にありがとうございます!」


 ◇


 私が波野さんの軽トラックで友坂家に戻ると、ようやく目覚めた夫妻が「入って、入って! 麦茶出すから」と波野さんと私を迎えてくれる。そして衝撃の事実を告げられるのだ!


「あずさちゃん、我が家は芸術家夫婦でしょう。二人ともスイッチが入ると、創作作業に没頭しちゃう。そうなると買い出しも、そっちのけになりがち。だから冷蔵庫は二台、実は裏口の方には冷凍庫も別にあるの。そこにたっぷり冷凍食品もあるし、棚には山ほど缶詰もあったでしょう? あれは台風とかの影響でフェリーが欠航した時に備えているだけではないの。創作活動に没頭した時でも、何とか買い出しに行かずやり過ごすためでもあるのよ。そしてね、お米」


 友坂夫人がそう言い、目配せする。

 すると友坂さんがキッチンのシンク前の床にある金具を摘み、持ち上げる。


「見ての通り、ここ、床下収納になっているのよ。で、ここに密閉容器に入れたお米を仕舞っているの」

「そうだったのですね……!」

「でもわざわざ買いに行ってくれたのは嬉しいわ! ここ最近のお米の価格、上がったり、下がったりだから。ありがたくいただくし、一緒に食べましょう、あずさちゃん!」


 波野さんに脱水症状を起こすところだったと指摘されながらも買いに行ったお米は……実はその必要はなかった。しかし友坂夫人は優しく「一緒に食べましょう」と言ってくれた。


「波野くんはどこかへ向かう途中だったのでは? あずさちゃんを送り届けてもらえて助かったけれど、予定は大丈夫なのかい?」


 友坂さんに問われた波野さんは「!」となり、次の瞬間、お腹を鳴らす。


「あー……歩くんもしかして食事……遅い昼食?」


 友坂夫人が尋ねると、波野さんはその整ったイケメンな顔を右手で覆うように隠し「失礼しました」と謝罪、そして――。


「そうなんです。今朝、家に帰った後、二度寝してしまって……。起きて料理するのが面倒だったので……」


 それを聞いた私は申し訳ない気持ちになる。


(だって腹ペコだったのに、私を気遣い、友坂家まで送ってくれたんだよ、波野さんは……!)


 ここが自分の家だったら、今すぐ冷蔵庫にある物を使い、波野さんの胃袋を満たすものを作ってあげたくなる。でもここは友坂さんのお宅であり……。


「なんだ! だったら一緒にBBQしましょうよ。そのつもりでお肉、どっさり買っておいたの。準備が整うまでは、レモンサワー、じゃこ天、冷ややっこ、枝豆、みかん! どうよ、歩くん!」


 友坂夫人が提案すると「昨日に続き、よいのでしょうか?」と波野さんが尋ねる。


「いいわよ、全然! あずさちゃんもこんなおじさんとおばさんと食事するだけじゃ、つまんないわよ。歩くんみたいな若者がいる方が、楽しいわよね、あずさちゃん?」

「友坂ご夫妻との食事でも十分楽しいですが、腹ペコのまま波野さんを帰すなんて……人としてできません!」

「白石さん、大袈裟ですよ」


 そこで波野さんが朗らかに笑う。


 その笑顔が素敵で、胸がキュンキュンしている。


「ごちゃごちゃ言わず、飲もうじゃないか!」


 私達三人が話している間に、なんと友坂さんはすでにテーブルに焼酎や炭酸水、レモンを用意している!


「ほら、じゃこ天なんて、冷蔵庫から出すだけ! あ、あと南蛮漬けもあったわ。どうぞ!」


 友坂さんと波野さんが飲み始め、私は友坂夫人とBBQの準備を手伝う。そうしていると、近所の人たちが友坂家にやって来た。


「東京からお友達が来ているんでしょう、理恵子さん! よかったらアジの刺身、その子に食べさせてあげて」

「うちの畑のゴーヤを持って来たよ! 東京から来た子に、天ぷらにして食べさせてあげるといいよ」


 島民は3000人程度、そして移住者はゆるくつながりを持っている。みんな初対面なのに、優しく私を迎えてくれて――。


 日没からスタートしたBBQには、出たり入ったりで近所の人が顔を出し、お酒もつまみも尽きることはなかった。


 ワイワイがやがやと楽しく飲んだのに。

 その翌日はとんだハプニングに遭遇することになる。


お読みいただき、ありがとうございます!

この後、待ち受けるハプニングとは……!?

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