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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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6/29

坂道が

「……坂道が……多い。坂、キツイ……」


 私は担いでいた米10キロが入ったトートバッグを道に下ろす。


(ちょ、ちょっと、休憩!)


 ペットボトルの蓋を開け、口に運ぶ。


(……! もうぬるく感じる! 購入した時は結構冷えていたはずなのに……!)


 港の近くにある地域密着型スーパーを出発して、10分ぐらいしか経っていなかったが。9月の上旬は、まだ夏も同然。もうすぐ十五時ではあるが、お昼と変わらないぐらいの強い陽射しが降り注ぎ――。


(歩いている人なんていない。せめて友坂夫人の自転車を借りればよかった……)


 目の前に続く坂道を見て、私は「やっちまったなぁ……」と芸人のように呟いた。


 ◇


 私の歓迎会は日付をまたぐギリギリで終了となった。


 友坂さんの家までスクーターで来ていた波野さんは、徒歩で帰る……ことはしない。歩いて帰れない距離ではないという。もしもっと大勢で飲んでいたなら、みんなで歩いて帰るのも選択肢だった。だが波野さんは一人。時間も遅い。リビングにはソファ以外にカウチもあり、それはかなりゆったり大き目だった。つまり男性でも横になれるサイズ。波野さんはそのカウチで休み、私は用意してもらった部屋で就寝となった。


 枕が変わると眠れないことも多いのだけど、お酒も結構飲んでいた。それに初めての土地に一人で来たのだ。道中、昼寝をしたり、ウトウトしている時間もあったが、ぐっすり休んだわけではない。あえてののんびり旅で7時間かけて移動した疲れもあり、私は深い眠りに落ちていた。


 目覚めるとお昼過ぎ。


 チャンポンせず、ひたすらレモンサワーと地酒しか飲んでいない。おかげで二日酔いにはなっていない。その代わり(?)なのか。あれだけ沢山食べたのに、お腹は……。


「ぐる~きゅるるる~」


 ハッキリと鳴いて「お腹空きました!」と合図を送って来たのだ!


 そこで私はTシャツにスパッツという装いから、ロングワンピースへと着替え、部屋を出る。友坂夫妻と波野さんはどうしているのかと、まずはキッチン、ダイニングルーム、リビングルームを確認する。


 しかしそこに夫妻の姿はない。カウチに波野さんもいなかった。ただ、リビングルームのテーブルには置手紙がある。


『友坂さん、理恵子さん


 昨晩はご馳走様でした。

 理恵子さんの手料理は

 やはりとても美味しかったです。

 愛する奥さんの手料理。

 羨ましくなりました……!


 また飲みましょう。


 PS:白石さん

 長師海岸に行きたければ案内しますよ。


 波野』


 敷地には夫妻の軽自動車と軽トラック、自転車しかなかった。波野さんのスクーターはないので、家に帰ったことが確定する。


(となると友坂夫妻は……)


 トイレやバスルームの様子を探るも、気配なし。それぞれの仕事部屋、さらに庭や物置、陶芸で使う窯が置いている場所まで確認するが、夫妻の姿は見当たらない。ただ飼い犬のロキくんが元気に私を迎え、「ご飯!」という感じで鳴かれてしまう。そこでドッグフードを見つけたので、お水と餌を与えた。


(……寝ている。多分、まだお二人は寝室で寝ているんだ)


 庭から見上げると、夫婦の寝室のカーテンは閉じたまま。


(うん。寝ている。あれだけ飲んだのだし、友坂夫人は酔って爆睡だった。無理に起こさない方がいいだろう)


 しかしロキくん同様、私は腹ペコ。


 そこで冷蔵庫を確認し、昨晩の残り物でひとまず胃袋を満たしたが……。


(ご飯がない。やっぱり炭水化物を食べないと、物足りないな)


 そこでお米を炊くことを思いつく。


 炊飯器はすぐ目に付く場所にあったが、お米が見つからない!


 シンクの下の収納、冷蔵庫、棚など、ありそうな場所を探すが、見つからなかった。


(昨晩、鯛飯も沢山作っていたし、お米は使い切っちゃたのかもしれないわ!)


 ならばとスーパーへ買いに行くことを思いつき、ソファに座り、スマホでお店を検索する。


(そうか。スーパーと呼べるお店はここだけなのね。あとは小さな商店が点在している)


 地図アプリを開き、スーパーまでの距離と時間を計測すると、徒歩で40分ぐらいで行けるようだ。


(……結構歩くな。自転車使えたらいいけど鍵は……。無理に二人を起こしたくないし、いい散歩になるはず。昔は位置情報ゲームで距離を稼ぐために、都内をよく歩き回っていた。40分なんてすぐのはず。行こう!)


 友坂夫人から、既に家の鍵は預かっていた。


(では行ってきます!)


 スニーカーを履き、帽子を被り、地図アプリを起動したスマホを手に、家を出発した。


 ◇


 歩き出してすぐに空気が美味しく感じられる。東京では家を出ると埃っぽいというか、深呼吸したい気持ちにはならない。でもここでは何と言うか太陽の陽射しも心地よく、日焼けを気にするより、その光をもっと浴びたい気持ちになるのが不思議だった。


「あ!」


 民家は密集しているわけではない。古い家と移住者向けの新しい家がほどよい距離感で点在している。そしてその家と家の隙間から、ちらっと瀬戸内の海が目に入るのだ。


 しかもあちこちで目に付くのは、みかんやレモンの木。どちらも青い実を実らせている。


 歩き出してすぐ、自分の行動が正解に思えてきた。


(友坂夫人は『観光するような場所なんてないけど、行きたいところがあれば、すぐに車を出すわよ~。私も旦那も、出社時間が決まっている会社員とは違い、自由だから!』と言ってくれている。でも創作活動をしているのだし、邪魔をするわけにはいかない。一人でも徒歩でこうやって歩くだけで、楽しい気持ちになれる。何気ない景色を見ても、満足できる!)


 最初は、目に飛び込んで来る景色に満足していた。ところが午後のこの時間、車の往来は少ない。そうなると聞こえてくるのだ。セミと鳥の鳴き声が。


(東京で一人暮らしをしているマンションの部屋は11階。街路樹もひょろっとしたものばかり。セミの鳴き声がこんなに聞こえるのは……)


 都会とは違う、島の世界。心が和む。


 さらにちょっと開けた場所に出ると、海がはっきり見えるのだ!


(海は青いものと思ったけど、元気な陽射しを受け、白銀にきらめている。波が立つと光が砕け、キラキラと煌めく。そして時折、青が深くなる)


 さらに胸が躍るのは、遠くに見える島影。ここが瀬戸内海の島であることを実感できる。


 フェリーの汽笛も聞こえ、目指すスーパーにはあっという間に到着した気がしていた。しかもスーパーにはカフェがあり、そこにはイートインスペースもある!


(気持ちよく歩けたけど、やっぱり少し疲れた。ここは休憩ね!)


 買い物をする前に、カウンター席で大きなあんドーナツとコーヒーをいただくことにした。


(観光客も地元の人もこのスーパーを愛用しているのね)


 ソファ席では観光客らしい女性二人組、外のテラス席では親子が談笑し、飲み物や食べ物を楽しんでいた。そんな様子をぼんやり眺めていると、すでに私もこの島の住人気分だ。


 さらにカゴを手に店内をウロウロすると、「あ、お惣菜がいっぱいある!」「うーん、肉は少し高いな」「あ、野菜はばら売りなんだ!」とすっかりこの場に馴染んでいる。


(いろいろ買いたくなるけど、お米10キロゲットが今日の目標。しかも徒歩だから、後は我慢!)


 こうして私はお米とペットボトルの水だけ手に入れ、スーパーを出る。


 お米を入れたトートバックはずしりと右肩に重いが、あんドーナツとコーヒーでまだ元気だった。しかし店を出て10分も経つと……。


「……坂道が……多い。坂、キツイ……」


 ギブアップとなる。


(……休憩して、それで歩けるかな……)


 そもそも行きに40分も歩いた時点で疲れている。位置情報ゲームで歩き回っていたのは五年も前なのだ。その頃みたいに歩けるわけがなく……。


 トホホになっていると、ガタッという音に続き、排気音が聞こえる。


 振り返ると軽トラックが止まり――。


 彼のアッシュブラウンに近い明るい髪が、陽射しを受け、輝く。ふわりと風で前髪が揺れている。黒目の大きなスッキリとした瞳が、私に向けられた。


「……白石さん? こんなところで一人、何をしているんですか?」


 白シャツにベージュのスリムパンツの波野さんが、軽トラックから降り、私の方へ歩み寄った。


お読みいただき、ありがとうございます!

島の坂道とお米10キロのコンボ

そして暑さ!

これは確実にダメージがくるぅ~

ということで限界を迎えたあずさの前に神降臨!?

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