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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中


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4/5

何だか似ている……

 平静を装い、青年から離れ、通路を進む。


 だが声をかけられて以降、ずっと心臓はバクバクしている。律子にも即、『フェリーでイケメンに出会った!』とメッセージを送りたくなっているが。


(ひとまず、デッキへ出よう!)


 そこでデッキへ出ると……。


「あっ……!」


 見渡す空はオレンジ色を帯び、夕焼けの入口が近づいている。海面は低くなった陽射しを受け、水面に反射、波の揺れも相まって、輝いて見える。


(あの絶景の夕焼けの時間帯ではない。それでも夕焼けの始まりを海上で体験するのは初めてだわ……)


 あの青年の言った通りだ。デッキ席から海も空もよく見えるのに、人はほとんどいない。


 そもそもこのフェリーは観光船ではなく、島民の足なのだ。夏休みも終わったこの時期、そしてこの時間は通勤通学の生活利用者が多い。船内でも学生らしき制服姿の男女を見かけている。


(あの青年も間違いなく、島民なのだろう)


 一旦、壮大な景色を眺めることで、昂ぶりまくっていた気持ちは落ち着くが……。


(東京から約7時間のローカルなフェリーの中で、あんな国宝級のイケメンと出会うなんて!)


 再びテンションは上がっていく。


 インターネットもない時代、タレントのスカウトキャラバンで全国に散らばる原石をオーディションで発掘しようとする気持ち──わかるなぁ。


(だって、まさかまさかだもん! あんな素敵な人に声をかけられるなんて! しかも親切!)


 あのランクのイケメンなら、ツンと澄ましていてもおかしくない。無言でも女性は寄ってくるだろう。よって私に声をかけたのは本当にいい人なのだと思えた。


(もしかして新たな出会い……!?)


 そう思うも、ここからどうしたらいいのか。


 自分で書いた数々の恋愛ハウツーコラムを思い出す。


(あ、あった! 見知らぬ人と連絡先を簡単に交換出来る方法が!)


 それは気になる相手と一緒に写真を撮ればいい。そしてこの一言を言うだけ。


「今、撮った写真、送ります。メッセージアプリのアカウント、持っています?」


 たいがいの人がアカウントを持っているので、これで連絡先はゲット出来る。


(でも……肝心の写真を一緒に撮る理由が思いつかない。というかその前に……)


 咄嗟だったが本能(?)で、薬指の指輪チェックをしていた。そして指輪はつけていないし、跡もなかったが、そもそも若く見える。


(肌に透明感があって、とても綺麗なんだよね。あれは若さゆえの美しさ)


 アラサーの私に対し、あのイケメンは……。


(大学生? 三年生とか四年生? それなら結婚していなくて当然。結婚はしていなくても、恋人は……いると思う。あの整った顔立ちと優しそうな性格で、彼女なしのわけがない! 中島の女性たちが放っておくはずがない!)


 新しい出会いだ!──なんて気持ちは盛り上がってしまったが、現実は厳しい。あの容姿と性格で、もしも彼女がいないとしたら──。


(実はヤンデレ系だったり、恋愛対象が女子ではなかったり、実は許嫁がいたり……)


 薔薇が美しく咲けるのは、棘があるから。

 もしあの美青年がフリーであるならば。

 何かとんでもない理由があるはず……!


(結論。新しい出会いなどではなく、この場限りの出会い)


 そう自分自身に言い聞かせ、席へと戻ったが……。


「どうでしたか?」

「おかげさまで人も少なく、存分に楽しめました! それもこれも荷物を見ていただけたからです。本当にありがとうございます」

「いえいえ。……とても奇遇なのですが、俺もあの写真を見て、中島への移住を決めたんです」


(てっきり中島生まれかと思ったら、移住者だったのね……! しかも……)


「あの夕焼けの写真を見て、移住を決めたのですか!?」

「そうなんですよ。東京に住んでいたんですけど、もうあの写真を見て『あ、ここでこの夕焼けを見たい』となって……。最初は移住までするつもりはありませんでした。旅行者として訪れたんです。あなたのように、一人でこのフェリーに乗って」

「中島に滞在し、すっかり気に入ってしまったのですね」

「そうですね。……まあ、東京でいろいろあった──というのもありますが」


 そこで少し遠い目をした彼を見ると、思ってしまう。


(この容姿で、性格も優しくて、気さく。こんな人でも遠い目をしたくなるような出来事があったのね……)


 私もまた東京で、忘れたくなるような出来事があり、中島へやって来た。


(こんなことを言ったら何様かもしれないけど、彼と私、何だか似ている……)


 それは東京を離れたくなる理由があるだけではない。あの夕焼けの写真を見つけ、中島までやって来たところも含めて、だ。


(だって中島はそこまで有名な場所ではない。釣り人や瀬戸内の島巡りの一環で訪れる。ここを目的地にする人は、少ないと思うから……)


 私と同じことをイケメンな彼も感じていたようだ。こんなふうに言ってくれる。


「あの夕焼けの写真。とても素敵な写真ですが、検索してすぐ出てくるわけではありません。同じ写真を見て、中島へ行きたいと思った人と出会えるなんて。なんだか親近感を勝手に覚えてしまいました」


 イケメンのこの言葉に、ときめかないなんて無理な話。さっき落ち着いたはずの鼓動が、またもうるさくて仕方ない状態になっている。


「長師海岸へ夕陽を見に行くんですか?」

「はい。見に行きたいなって、思っています!」


 ドキドキしたまま席に座り、後ろを振り返る。

 すると彼は真っ直ぐに私を見て問い掛ける。


「中島には一カ月滞在するんですよね?」

「そうなんです」

「それなら10月に入ってから行くのがいいですよ」

「あ、そうなんですね」


 なぜだろう?という感じで首を傾げると、彼は優しく微笑み、その答えを教えてくれる。


「湿度が下がると、空気がクリアになります。10月上旬だと、まだ日中は半袖でもいけるかもしれません。それでも今より、朝晩は冷え込みます。その涼しさが夕焼けを綺麗に見せてくれる。あの写真ほどではなくても、今よりぐんとオレンジから赤への濃淡を感じられると思います」

「なるほど。詳しいんですね」

「気になることはきっちり調べたくなる性分なんですよ。ちなみに秋になると、巻雲が出やすい。夕焼けを反射した雲で風情のある景観になります」


 そんな感じで彼は夕焼けの話から始まり、中島の名物、観光地と言う程ではないが、せっかくなら行くといい場所を教えてくれる。さらに話は中島だけではなく、瀬戸内を満喫するメジャーどころからマニアックなところまで、ぜひ観光するべきだとアドバイスしてくれるのだ。


 そんな感じだったので、フェリーでの時間はあっという間に過ぎ、そして――。


「まもなく中島、大浦港に到着いたします」


 船内にアナウンスが流れる。


「……すみません。すっかり話し込んでしまいました。もっと夕焼けを見たかったんじゃないですか!?」

「そんなことありません! 貴重な現地の方の観光情報を聞けて、よかったです!」

「いろいろ話しましたが、島民の知り合いからも聞けることですよね……」

「それはそうですが、もし一人だったら、デッキへも行かず、ここでぼーっと窓からの景色を眺めているだけでした」

「そんなふうにぼーっとした時間を過ごすために来たのでは?」

「それでも地元の方と話せたことは、いい思い出になります! 本当にありがとうございました」

「そう言っていただけでよかったです」


 お互いに最後まで名乗ることはなかった。


 やっぱりこの場限りの出会い、そう思っていたが――。


お読みいただき、ありがとうございます!

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