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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中


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3/12

新しい出会い

 松山駅に着くと、リニューアル工事が済んでいる駅は清潔感もあり、現代的な作り! 注目すべきは天井部分だ。木材が波打つように見えるのは、瀬戸内海の波をイメージした唐破風からはふモチーフのデザインをしているからだ。


 唐破風自体はお城や神社で用いられ、かの松山城でも見られるモチーフである。


「あ! 駅を出ると周辺は絶賛工事中なのね」


 駅を中心とした再開発工事は2031年以降に完成予定とされている。ある意味、工事中の景色をこの目で見られるのはここ数年だけ。


 ということで松山駅の駅舎に続き、周辺の様子もスマホで撮影し、路面電車の乗り場へ向かう。


 東京では都電荒川線が路面電車だが、数えるほどしか乗車したことがない。


(せっかくだから、レトロな車両に乗りたい!)


 伊予鉄道の路面電車は新型車両とレトロ車両、さらには観光用の坊ちゃん列車が走っている。


挿絵(By みてみん)


 坊ちゃん列車は観光用で、今回の移動ルートでは使われていない。そして主流は新型車両であるが、せっかくなのでレトロ車両の到着を待つ。


「あ、来た!」


挿絵(By みてみん)


 木の温もりを感じさせる一両編成のレトロ車両で、10分ほど揺られると、松山市駅に着いてしまう。


 だがこの短い区間でお楽しみがある。それは「ダイヤモンドクロス」と呼ばれる平面で線路が交差する場所のこと。高浜線の線路と路面電車の軌道が、大手町駅前付近で垂直に交差する──この様子は、日本ではここだけで見られる景観だ。


 窓からその様子をうかがっていたが、残念! 交差地点で高浜線の通過はなく、そのまま走って通過だった。


 松山市駅に到着すると、伊予鉄道の高浜線に乗り換え、フェリー乗り場がある高浜港を目指す。ここで事前に調べておいた、窓際の席を確保。「ダイヤモンドクロス」のリベンジとなる!


 路面電車では、通過する高浜線を見る立場だったが、今度は逆。私が高浜線に乗っているので、踏切で待つ路面電車と車を、確実に眺めることができるのだ!


「お父さん、もうすぐだよね?」

「そうだよ。踏切で路面電車と自動車が待つ様子を、車内から見えるぞ」


 この後すぐ、親子連れの言葉どおりの景色を目の当たりにする。


(見られた! でもあっという間ね)


 だがお楽しみはまだこれから。ここから20分ほど電車に揺られ、港方面へ向かうのだ。そうなると再び、海──瀬戸内海を見ることができる!


 ということで梅津寺駅が近づくと、海がすぐそばに見えてきた。


「あああ、すごい!」


 これはもう最大でテンションが上がってしまう。


 瀬戸大橋でも海が近かった。だが橋を渡るので、どうしても鉄骨に目が行く。特急しおかぜでも海は近かったが、電車と海の間に堤防などが挟まる。


 ところが高浜線ではガードレールがなく、柵も低く、電柱も少ない。地面が見えず、海は数メートルのところにある。水平線まで視界が抜けるので、まさに海上を走っているよう。


(大好きなアニメ映画で、電車が海の上を走るシーンがあったけど、それを思い出すなぁ)


 一番の感動ポイントは梅津寺駅のホームに着いた時だ。


 ホームの柵の向こう側は海! 駅名が書かれた看板(駅名標)の向こうには海が広がっているのだ。

 しかも……。

 ドアの開閉音、車内アナウンス、モーター音などが途切れた時。


 ザザン、ザザンと聞こえるのは波の音……!


 これはもう「すごい! 電車の中にいるのに、波音が聞こえる!」と誰かに言いたくなり、ふと西園寺さんの顔が浮かぶ。


(……いや、未練がましいよ、私!)


 ぐっと唇を噛み、深呼吸した時、スマホの画面にメッセージの新着通知が届く。


『いや、マジ、うらやま! こっちは絶賛仕事中だし! というか、朝に出発したよね? まだ着かないんだ。あ、でもあえてゆっくりルートにしたんだもんね。いいなぁ、のんびり旅! でもこれだけ東京を離れたんだから。思い出すなよ、別れた男のことなんて! 未練たらたらだと、新しい恋もやってこないぞ、あずさ!』


 律子のメッセージを見た瞬間。


(新しい恋……)


「そうだよ! 捨てる神あれば拾う神あり。この旅でなんかいいこと、あるかもしれないし!」


 そう自分で自分に言い聞かせる。


 目の前には非日常な景色が広がっているのだ。


(終わった恋より、次の出会い!)


 ◇


 高浜港に到着し、フェリーに乗ると、いよいよ目的地は近い。


 大浦港には律子の知り合いである友坂夫妻が車で迎えに来てくれることになっていた。


 あらかじめこの時間のフェリーになることは伝えている。重ねてちゃんと乗船したことなどを伝えると……。


『あずさちゃん

 長旅、お疲れさまです!

 港から家までは車で15分程度。

 ゴールはもう少し!

 ファイト、ファイト!』


 友坂夫人は御年五十歳と聞いているが、絵文字とスタンプが盛り盛りで、若々しく感じてしまう。


 思わずクスッとした後、私は窓の外に目をやる。


 フェリーの乗船時間は1時間ほど。青々とした空から日没へ向け、色の変化が少しずつ始まっている。


 空はほんのり黄色くなってきていた。


「観光ですか?」


 不意に声をかけられ、ハッとして後ろを見る。


(……!)


 アッシュブラウンに近い明るい髪色。前髪は軽く横に流し、キリッとした眉毛が見え隠れしている。


 その眉毛の下には、黒目の大きなスッキリとした瞳。そしてその瞳の間からスッと伸びる鼻筋、形のいい唇に、綺麗な顎のライン。


 小顔で首周りもスッキリしているが、Tシャツからのぞく鎖骨や腕から、引き締まった体躯であることが伝わってくる。


(うわぁぁぁ……! どなたですか!? え、モデルさん? 芸能人??)


 あまりにも整った顔立ちに息を呑み、無言になりかけたが、「観光ですか?」と問われたことを思い出す。


「観光……そうですね。中島に知り合いの知り合いがいて、訪ねるところです。一カ月ほど滞在します」

「なるほど。中島は初めて……ですよね?」

「そうです!」

「夕陽が気になりますか?」

「はい! 中島に行くことを決めたのも、夕焼けの写真を見たからなんです!」


 私の言葉に青年はふわっと優しい笑顔になる。


 その笑顔はまさに国宝級に思え、かつ自然に私も笑顔になってしまう。


「夕焼けが見たいなら、ここではなく、デッキ席へ行くといいですよ」

「!」

「海風は多少ありますが、寒いわけではないですから。デッキ席の右の方へ行くと、夕焼けの景色を楽しめます。日没は18時半頃だから、完全な夕焼けにはなりません。でも夕焼けの始まりはそこから見えますよ。地元の人はデッキに行かないから、空いていますし、おすすめです」


 イケメンな上に親切な青年に、私の胸はときめく。


「ありがとうございます! そうしてみます。教えてくださり、ありがとうございます!」


 そう伝え、スーツケースを手に、移動しようとすると……。


「俺はここの席にいるので、スーツケースは見ておきますよ」

「あ、いいんですか!?」

「あっちにスーツケースを置けるスペースもありますけど、俺でよければ見ておきます。……勝手に開けたり、盗んだりはしませんよ」

「! 鍵はかかっていますし、盗まれて困る物は入っていないので……ではお願いしてもいいですか?」

「ええ、遠慮なくどうぞ」


 青年の言葉にぺこりと頭を下げ、私はデッキ席へと向かった。


お読みいただき、ありがとうございます!

汽車のような路面電車が”坊ちゃん列車”で

オレンジ色の電車がレトロ車両です!

レトロ……に見えないかもしれませんが

60年以上走り続け、フォルムも丸みを帯びた車両なんですよ~

ということで続きはまた明日、更新しまーす☆彡

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