表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/29

ガツンと来る

――「大好きです、白石さん!」


 にわかには信じられない言葉であり、その意味が……わからなくなっていた。ダイスキって……ダイスキって……と言葉のゲシュタルト崩壊が起きてしまう。


 そんな私に波野さんは「ごめんなさい。せっかく夕陽を見に来たのに。それどころではなくなりましたよね。10月に改めて案内します」と言ったが、こくこくと頷くのが精一杯だった。そうしているうちに日没が終わり、ブルーアワーに入った。


「この辺りは街灯も少なく、完全に暮れると車でも怖く感じると思うので、港へ戻りましょう」


 波野さんの提案に従い、車の助手席にちょこんと座る。ゆっくり車を発進させると、放心状態の私を気遣うように、波野さんが静かに語り出した。


「最初に白石さんを見かけた時は……『あ、こんな綺麗な女性が一人で、中島に何の用だろう?』と思いました」


 サラリと口にされた一言に、心臓がドキッとする。


(え、波野さん、雑草のような私を見て、綺麗だと思ってくれたの!?)


 ドキドキし始める私の横で、波野さんは運転を続けながら、話も続ける。


「白石さんはそのとき、窓の方を気にするように見ていたから、『夕陽を見に来たのかな』とすぐに気づきました。そうしたら……いつの間にか声をかけていたんです。普段の俺は、船で夕陽を見ようとしている人がいても、特に女性には声をかけません。変に誤解されても困るので……。でも白石さんは違いました。もう、その時点で一目惚れだったのかもしれませんね」


 柔らかく微笑む波野さんを見て「ああ、推しはどなたかと恋に落ちたらしい」と、俯瞰した気持ちになる。まだゲシュタルト崩壊は続いていた。


「まさかそのきっかけが俺と同じ写真を見たから……これには驚きでした。驚き、親近感を覚えましたよ。自分と同じ感性の人に興味を持つ――自然な心の動きですよね。『この人と一緒に夕陽を見たら、感動を分かち合えるな』って。だって東京からわざわざ一人で中島まで来ているんですよ? 余程ですよね、いくら知り合いがいても。厳島神社のある宮島、アートで有名な直島なんかに比べたら、中島は観光地として、そこまで有名な島ではないですから」


 そこで思い出し笑いをしたらしい波野さんの表情は、限りなく優しい。


「初対面以降の白石さんは……いつも俺の想像の斜め上をいっていて、ぐいぐい心を鷲掴みにしていく。洗面所のハプニングでは、悲鳴を上げて廊下に飛び出すかと思ったら、じっと見つめてくるし。おかげで俺が恥ずかしくなりましたよ! しかも10キロのお米を担いで、あの坂道だらけの道を炎天下に歩くなんて無茶をするし、かと思えば思春期の男子のように鼻血を出してぶっ倒れたり。もう目が離せないですし、その無自覚な天然さで、俺の懐にぐいぐい入ってくるんですよ! ……たまらないですよね? 何度もハラハラドキドキさせられ、でもその笑顔を見たら……。すごく可愛い……。気づいたら俺は白石さんに夢中です!」


 私にムチュウ? ムチュウ……。ムチュウ……。


「どこか破天荒なところもありますけど、白石さんって底なしで優しいですよね。友坂夫妻がゾーンに入っても、文句など言わず、仕方ないと許してしまう寛大さ。懐の大きさ。そんな姿を見たら、俺がどうにかしてあげたい!――そう心から思えました」


 そこで車はゆっくり駐車場へ向かった。


 姫ヶ浜海水浴場に行った後、波野さんが連れて来てくれた、ミートソースが美味しくてラグジュアリーでお洒落なあのお店に、再び来ていた!


「今回の旅では圧倒的に和食が多かったので、久々に洋食です」

「いいと思います!」


 店内に入ると、カウンター席に横並びで座り、メニューを開く。


「カルボナーラピザとか、どうですか?」

「食べたいです!」

「シーズンパスタは……中島レモンとサンマのオイルパスタ。秋を思わせるメニューですね。まだまだ残暑ですが」

「レモンでさっぱり、サンマで秋の気配。いいと思います!」

「あとは野菜をいくつか。よし。注文しましょう。……お酒は? 白石さん、心ここにあらずだから、一杯ガツンとくるものを飲んだ方がいいんじゃないですか?」

「え、でも」

「中島のレモンを使ったレモン・ドロップ。リクエストすれば作ってくれると思います。甘酸っぱくて白石さんが好きだと思います」

「……中島のレモンを使ったお酒なら……では一杯だけ」


 こうして注文を終えると、「さて」と波野さんは言ってから、私を見る。横並びで座っているので、波野さんが近い……! その吸い込まれそうな黒目の大きな瞳に、ドキドキしてしまう。


「俺はかなり早い段階で白石さんに夢中になったと話しました。そして今回の旅行で絶対に気持ちを伝えたい……そう思うようになったのには、理由があります」


 そこでテーブルに乗せた自身の腕に体重をのせ、少し前傾姿勢になり、私の顔を上目遣いで覗き込むようにして、波野さんが話を続ける。私はその整った顔で覗き込まれるような状態に、鼓動が激しくなってしまう。


「なぜ中島へ来ることにしたのか。白石さんが竹原で話してくれましたよね。過去の恋愛についてとやかく言うつもりはなく、ただ嬉しかったんです」

「……嬉しかった?」

「そうです。秘めておきたいはずの胸の痛みを、出会って間もない俺に打ち明けてくれたこと。信頼されているのかなって、とても嬉しく感じました」


 そこでレモン・ドロップとジンジャーエールが到着した。それぞれグラスを持つと、波野さんが音頭をとってくれる。


「それでは旅が無事終わったことに、乾杯」

「乾杯!」


 レモンの爽快な香りを感じながら、一口飲むと……。

 確かにガツンと目が覚める。

 酸っぱいけれど甘く、癖になる味わい!


「白石さん」

「はい!」

「さっき俺、結構いいこと言ったと思うのですが、ちゃんと聞いていました?」

「!」

「……今の一口でガツンと来て、ようやく覚醒できたみたいなので、改めて伝えます」


 テーブルにのせていた私の手に、波野さんの手がそっと触れた。


「こういうふうに触れられるの、嫌ではないですか?」

「嫌なわけがないです! 波野さんは私の推しですから……って、あ!」


 その瞬間、波野さんの手に力がこもる。

 ぎゅっと手を握られ、胸がキュンと熱くなってしまう。


「推し……ということは、俺を好き――そう理解していいんですよね?」

「……それは……!」

「俺は白石さんが好きです」

「!」

「大好きですよ」

「あ、あ、あ」


 ぽすっと波野さんの手が私の頭にのせられ、「落ち着いてください、白石さん」と言い、そのまま――。波野さんの胸の方に抱き寄せられ、目の前のお酒からではなく、彼からレモンの爽やかな香りを感じる。


「俺を好きなら頷いてください」

「!」


 波野さんを好きか? それは勿論、大好きだった。


 優しくて気遣いもでき、私のことを考え、いろいろ調べ、動いてくれた波野さん。何度もからかわれるが、その距離感が愛おしくて。ずっと、ずっと、一緒にいたい――その気持ちは好きだから生じているもの。


 こくりと頷くと、「よかった……!」と波野さんが安堵する気配が伝わってくる。


「その好きは、子猫を見て好き――とは違いますよね? ちゃんと異性として好きですか? 抱きしめられたり、キスをしたりもいいと思える好き――ですよね?」


(推しはなんて質問を私にしているんですかー!?)


 で、でも、波野さんに抱きしめられる。

 キ、キッスをする……。


(え、していいの!?)


 遠慮がちだが、波野さんにさらに自分から近づく。


「……白石さん?」

「ぎゅっと……して欲しいです」

「!」


 私の言葉に、一瞬息を呑んだ波野さんだったけれど……。


「女に二言はないですよね?」と言い、私が頷くと――。

 優しく、ぎゅっと抱きしめてくれた。


お読みいただき、ありがとうございます!

余韻をお楽しみくださいませ☆彡

明日はお昼に更新します~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリの作品を紹介】
作品数が多いため、最新作を中心にバナーを並べています(2025年12月の大掃除で・笑)。 バナーがない作品は、作者マイページタイトルで検索でご覧くださいませ☆彡

●新連載●
バナークリックORタップで目次ページ
やらかしてしまったモブ令嬢です
『やらかしてしまったモブ令嬢です 』

●出版社特設サイト●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!②
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!② 』

●紙書籍&電子のコミカライズ化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●章ごとに読み切り!●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~
『ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』

●商業化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●宿敵の皇太子をベッドに押し倒し――●
バナークリックORタップで目次ページ
宿敵の純潔を奪いました
『宿敵の純潔を奪いました』

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●妹の代わりに嫁いだ私は……●
バナークリックORタップで目次ページ
私の白い結婚
『私の白い結婚』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ