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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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27/29

唯一無二

 あんなに空は青く高く。

 太陽は眩しい程に輝き、瀬戸内の海は陽射しを浴びてキラキラしていたのに。


 楽しい時間はあっという間。


 気づけば松山に到着している。


 東京から松山に到着した時。私は一人だった。再開発中の駅前を見て、数年後にはレアな景色になると写真を撮り、伊予鉄道の路面電車のレトロ車両に乗車。伊予鉄道の高浜線に乗り換え、ダイヤモンドクロスをリベンジ。そして梅津寺駅の海の近さに感動し、フェリーに乗り込んで……。


 そこで波野さんに出会った。


――「観光ですか?」


 そう声をかけられ、デッキ席へ行くといいと教えてもらった。そこで私は夕焼けの入口へと向かう外の景色を見に行き、波野さんは私の大きなスーツケースを見張ってくれたのだ。さらに中島の夕陽を見たいと思い、ここまで来たこと。その夕陽を見るために、長師海岸へ見に行きたいと思っていると話すことで、会話が生まれた。


 でも最後までお互いに名乗ることなく、フェリーを降りたら「さようなら」だと思っていたら……。


――「あ、あの、友坂夫妻をご存知なんですね……!」

――「中島の人口は3000人未満。そして移住者のコミュニティは自然にできやすいですからね」


 中島でお世話になる友坂夫妻のことを波野さんも知っていて……。


――「……白石あずさ、といいます」

――「俺は波野歩です」


 ついにお互いの名前を知り、そして友坂家での夕食に波野さんも顔を出してくれたのだ!


 そこからはなんだかんだで波野さんと毎日のように会っていた。


 10キロのお米を担ぎ、汗だくになった私を助けてくれたり、うっかりなハプニングが洗面所で起きたり。さらには中島一日観光を請け負ってくれた。その上で今回の瀬戸内旅だ。


(波野さん……私の推しは……なんて親切なのかな)


 頬が緩み、微笑んだ時。


「みかんジュース、ありましたよ」


 デッキ席に座る私のところへ波野さんが来て、行きと同じで、みかんジュースを差し出してくれる。


「これで共通財布のお金は使い切りました。宿代とかクレジットカードで払った分もありましたが、適度に節約しつつ、ここぞと言う時に使った。メリハリのある旅ができたと思います」

「それもこれも波野さんのおかげです。……本当にありがとうございます」

「いえ、そんな……。……でも……楽しかったですね。とても」

「はい! 人生で一番楽しい旅になったと思います」

「それはどうでしょうか」

「……?」

「これが白石さんの最後の旅、というわけではないですよね? 旅をする度に、記録の更新を目指さないと!」

「なるほど……! 記録更新は目指したいです。ですが……」

「ですが?」


 この旅の体験は特別だと思う。


(だって……)


 約束はしている。来年も海へ行こうと。またアートを体験しに行こうと。それでも私は波野さんの恋人ではないし、彼女でもない。何より私は東京に住んでいる。来年を待つ間、中島で出会いがなくても。波野さんのことだ。松山で一人でいたら、逆ナンされてもおかしくない。


 つまり今は約束している。でも波野さんに恋人ができたら、さすがにちゃんと部屋は別々にすると言っても、彼女さんは嫌だろう。東京からわざわざ来た女と二人で旅行する――なんて。


(私がその立場なら嫌だもん!)


 つまり波野さんとの旅行は、これが最初で最後になる確率が高いのだ。


 だから……この旅は特別。


 これから先、私が経験するどの旅とも比べるものではない。


 一生に一度の宝物。私みたいな雑草が神様と旅をした奇跡。

 奇跡なんてそう何度もあることではない。


「今回の旅は唯一無二なんです」

「唯一無二……」

「直島のアートと同じです。今の波野さんと今の私とで旅をできるのは、今回だけ。もしも来年、波野さんとまた旅をすることができても、その時の波野さんと私は、今とは違います。唯一無二なんです。きっとおばあちゃんになってからも、『昔ね、おばあちゃんは一人で中島というところへ行ったのよ。そこでね、ハンサムなお兄さんとフェリーで出会ってね……』って、語ると思います!」


 私の言葉を聞いた瞬間。


 波野さんの黒目の大きなスッキリとした瞳に、(ほむら)が灯ったように感じる。あまりにも熱い眼差しに「何事!?」と思った時。


「白石さ」

「だって美里がさー」「えー、違うから! 瀬戸くんとは何ともないし~!」

「とか何とか言っちゃって~! え、瀬戸のことも呼ぶー?」


 おしゃべりをする女子高校生たちがデッキ席へやって来る。

 そして――。


「うわ、ヤバ!」

「わあ、すごいイケメン!」


 波野さんを見た彼女たちはざわめく。


「白石さん、下へ降りましょうか」

「そうですね」


 ◇


 一階席に腰を下ろした時、波野さんの表情はいつもの落ち着いたものに戻っていた。さっき瞳の奥に感じた焔は、もう消えてしまっている。


(あの時、波野さんは何かを言おうとしていたように思えるけど……)


「多分、まだ友坂夫妻はゾーンに入っていると思うので、夕食は港の近くで済ませて帰った方がいいと思います。さすがに旅の疲れもあるので、帰宅して作るのはやめた方がいいかと」


 波野さんは淡々と帰島した後の話をしている。


 その様子を見ると、さっきの熱を帯びた眼差しは、それこそ「幻~」みたいに思えてしまう。


 そんなことをしていると――。


「まもなく中島、大浦港に到着いたします」


 船内アナウンスが流れる。


「下船ですね」

「はい」

「車に戻りましょうか」

「そうですね」


 こうして車へ戻り、そしてフェリーは港に到着。

 車で順番に下船して――。


 フェリーを降りると、また一段階、空が夕暮れの色に近づく。


「白石さん」

「はい」

「夕食の前に一か所、寄り道をしませんか?」

「……寄り道、ですか?」

「……もうお腹空きました?」

「いえ、まだ大丈夫です。いいですよ、寄り道、行きましょう!」


 まさか「寄り道」を提案されると思わず、それはもう不意打ちで、一瞬私は言葉が出ない。


(驚いたけど、波野さんが私とまだどこかへ行きたいと思ってくれているのが……嬉しいな)


 もう旅は終わるというのに、トクトクと胸はときめいてしまう。


 が、しかし!


「着きました」

「あ、え、はい!」


 港を出て十五分ほどで目的地に到着している。


(ここは……)


 海岸線が続き、そこにはチラホラと人がいる。観光客っぽい人もいれば、カメラを手にした人。地元のカップルらしき二人組もいるけれど――。


「白石さん、ここ、どこだかわかりますか?」

「……うーん、海岸、ですよね?」

「そうです。長師海岸ですよ」

「え、えーっ!」


 長師海岸は、中島へ行くことを決意させた、あの夕陽が綺麗に見える場所だった!


「夕陽を見るなら10月……とさんざん話したのですが、来ちゃいました」

「あ、でも、今も空の色がすごく綺麗ですよ。淡い水色に柔らかいオレンジが混ざって……」

「ちょっと移動すると、ベストポジションになります」


 言われて少し移動すると……。


「あっ……!」


 すでに太陽はかなり低い位置。そちらを見ると、とても眩しい!


「間もなく日没です。あの写真ほどではなくても、この辺り一帯はオレンジ色に染まると思います」

「そうなんですね。すごいです。太陽がとても大きく見えます」


 会話している間にも、太陽はどんどん水平線に近づく。


「今回の瀬戸内の旅、始まりは『日の出』でしたよね」

「そうですね」

「だから旅の終わりはこの『夕焼け』で締めたいと思ったんです」

「あっ……!」

「尾道も大三島も周防大島も、宮島も小豆島、直島だって、夕陽は綺麗に見えます」


 そこでついに太陽が水平線に接した。


「でもあえて俺は……今回の瀬戸内の旅では、夕陽を避けていました」

「そうなんですか!?」

「白石さんには、中島の夕陽を見て欲しかったんです」

「!」

「他の島ではなく、中島の夕陽を見て、惚れ込んで欲しいと思いました」


 太陽は海の中に潜り込むように沈み、空は明るいオレンジと黄色、金色の光で輝く。


「俺はこの島に住んでいます。中島は、俺自身を象徴しているというか……」


 夕陽を見た方がいいと思いつつも、今の言葉の意図が気になり、つい波野さんを見て、息を呑む。オレンジの夕陽の光を受け、波野さんの瞳に、フェリーで見たような焔が再び灯っている。


「中島の夕陽だけを白石さんに見て欲しい。中島の夕陽に惚れ込んで欲しい――って言うのはつまり、俺だけを見て欲しい、俺に惚れて欲しい――ということなんです」

「!」

「白石さん、無自覚天然系で気質は猫だから……俺、すっかり沼ですよ! 白石さんという沼にハマり、抜け出せません!」


 今、夕陽はクライマックスかもしれないが、私は波野さんから目が離せない。


(というか、推しは今、今、何を言って……)


「好きなんです、白石さんのことが。初めて会話した時から、夕陽を見て、中島を選んだと言われた時から……。どんな時でも『ありがとうございます』と感謝の気持ちを素直に伝えてくれた。度々目の当たりにする白石さんの優しさに心が和んで……。軽トラックのことも好き、だなんて言いだして。物より思い出を大切にする姿勢とか……もう全部、俺のツボなんです。この旅は俺にとっても唯一無二でした。大好きです、白石さん!」


お読みいただき、ありがとうございます!

余韻をお楽しみくださいませ☆彡

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