わかっています
直島でアートを楽しむ!ということでまずは予約していた地中美術館へ向かった。
ここは完全予約制で、その存在を知った時の私は「瀬戸内は地中海っぽいから、地中海の”地中”をとって、地中美術館なのね?」と思っていたが、それは大間違い!
地中美術館は地中海からネーミングしたわけではなく、本当に地中にある美術館なのだ。
なぜ地中なのかというと、景観を壊さないため。直島の自然と景観維持のために、美術館は地下へ潜った! つまり建物が地中に埋め込まれた。さらに自然光を活かし、館内では作品を照らすために電気は使われず、自然光を採用している。安全のための最低限以外では極力電気を使わないようにしているという。
「作品の展示で電気を使わないのは、ある意味、光さえも展示の一部と考えているのかもしれないですね。自然光は一度たりとも同じにならない。今日見た作品は、自然光により再現性不可能なこの日限りのものになります。それを見ることが出来たのは、その場にいた白石さんと俺だけです。……ものすごいスペシャリティですね。二人だけの秘密、みたいで」
波野さんにそう言われた時、『推しと二人だけの秘密ができた!』と、異常なぐらい胸がときめいてしまった! しかも……。
「展示室は三つだけなのに、そこに行くまでの通路、空間の存在感が半端ないですね。通路やその途中にある空間まで、あたかも作品の一部のように感じます。しかも吹き抜けや壁、そこから届く光……。まるで迷路に迷い込んだような不思議な気持ちになります。この体験を白石さんとしたことは……忘れないでしょうね、一生」
この言葉を聞いた時は私も「同じくです!」と大いに同意することになる。
「この地中美術館もそうですが、私は今回の旅そのものが一生ものだと思っています」
「……白石さんは……不意打ちが過ぎます」
なぜか波野さんは手の甲で顔を押さえるようにして、深呼吸を繰り返している。私は「?」と思いつつも、「ミュージアムショップも来館者のみしか入れないので、友坂夫妻のお土産を買いたいですね」と提案。地上にあるミュージアムショップに加え、これまた来館者のみが利用できるカフェにも足を運び、地中美術館を大満喫した。
これだけでもかなり満足度が高かったが、さらに地中美術館から徒歩圏内にあるベネッセハウス ミュージアムも堪能することに。現代アートが中心で、屋外展示も充実している。散策しながら、一度は何かの機会で見たことのある作品群をその目で見られる――これは実に得難い体験。特に草間彌生の「南瓜」は想像より大きかったし、碧い海と空のコントラストで、その存在感が増していたと思う。
そして屋外展示は触れたり、よじ登ったりは禁止されているが、写真撮影はOKなのだけど……。
「このアートはこの場所に来て、体験することが重要に思えます。地中美術館と同じで、アートそのものは不変でも、周囲の自然が刻一刻と変化するから……その時だけのアートになっていますよね。写真で切り取れるのはその一瞬だけだから……まさに体感型アート」
「本当にそう思います。多分、何度訪れても新しい発見がある気がしますね。それは自分自身の心境の変化ともリンクするから……」
私がそう言うと、波野さんはふわりと優しい笑顔になる。
「またここに白石さんと来ることができたら……その時は俺、どんな気持ちなんですかね」
「!」
(まさかの直島にまた波野さんと来る未来があるの……!?)
胸がトクトクと高鳴ってしまう。
「今度来る時は……時間帯を変えてもいいかもしれません。例えば夕方に見たら……印象が大きく変わりそうですよね?」
「はい! 絶対に変わると思います!」
水着を持参していない私は、すでに姫ヶ浜で来年こそ泳ぐと約束している。その際は、波野さんが軽トラックではなく、ちゃんと車で案内してくれると言ってくれたのだ!
(来年があるなら、再来年だってあるかもしれない。なんなら来年も二週間ぐらい休みをとれれば、直島にだって来れるだろう。直行のフェリーはないから、松山からの高松ルートで5時間ぐらいはかかる。それだけの時間をかけてでも、もう一度見る価値はあると思う!)
そんなことを思いつつ、ランチをして、屋内展示を見た。その後は本村エリアへ移動。ここでは家プロジェクトが現在進行形で行われており、アーティストが空き家や古民家を自身の作品として生まれ変わらせている。今回は角屋、護王神社、南寺の三つを鑑賞したが、どれも体験するアートで、それは速さと遅さであったり、新しいと古いであったり、光と闇であったり。とにかくこれまで観たことのないアートの世界を満喫できたが――。
「明日で中島へ帰ることになりますが、きんざの予約が10時半でとれました。最終日はまず、きんざを一人ずつ体験し、ランチをして港へ移動。フェリーで高松へ向かい、松山へ、そして中島へ帰るフェリーに乗る。ほぼ移動でお終いになってしまいますが……」
「波野さん、十分ですよ! 本当に密度の濃い一週間を過ごせたと思います。それもこれも友坂夫妻がゾーンに入ったのを受け、波野さんがガイド役を申し出てくれたおかげです。もし波野さんがいなかったら……今頃私は中島でただただ、だら~んと畳に寝そべって過ごしているだけのような気がします」
「それはそれで良さそうですけどね。白石さん、東京では忙しく仕事をしていそうですし」
「それは……否定はしません。確かに何もせずだらだらも……たまにはいいかもしれません。ですがこの瀬戸内の旅をして、訪れた先々の魅力を知ってしまった今となっては……。寝ている場合ではないと思います! 本当にありがとうございました!」
宿に着いて夕食をとりながら、改めて波野さんに感謝の気持ちを伝えると……。
「まだ旅は終わっていません。家に着くまでが遠足と言いますよね?」
「……! そうでした! 最終日もよろしくお願いします!」
「ええ、お任せください」
◇
旅の最後の日が始まった。
朝から太陽がすがすがしく昇り、今回は本当に天気に恵まれたと思う。
(東京にいると9月は秋雨前線の影響を受けるし、台風だって多いイメージ。でも瀬戸内は四国と中国地方に挟まれ、雨は少ないと思う。とはいえ雨が降らないわけではないし、秋雨前線がやってきたら、ぐずぐずと鈍い天気が長続きしたはず。そうならなくて本当によかった!)
ということで今日も日中は汗ばむ感じになりそうなので、淡いピンク色のポロシャツにフレアのロングスカート、そして薄手のカーディガンを肩からかけるのは冷房対策!
「おはようございます」
宿の一階の食堂に降りてきた波野さんは、白シャツに濃紺のスリムズボン、手首には革のバングルで、オシャレカジュアルな装い。
朝から健康的な和朝食で、炊き立てのご飯と焼き魚を食べ始めると、波野さんはしみじみとこんなことを言う。
「結局、白石さんは来てくれませんでしたね」
「え?」
「俺としては白石さんにいつ襲われてもいいように、毎晩部屋で待っていたんですよ」
「! そ、それは申し訳ないことをしました!」
いつも通りで私が動揺すると、波野さんがくすくす笑う――というのは想定内!
しかし最終日の今日、私はパワーアップする。
「据え膳食わぬは女の恥。どうします? 今からでも襲っていいですか?」
「え!」
そう言うと波野さんは……驚くほど頬を赤くし、白シャツから見えている首元まで赤いような?
「……冗談ですよ~!」
「わかっています」
フイッと波野さんは横を向いたが……そのせいで耳まで真っ赤なことに、私は気づいてしまう。
(さんざん私をからかったけど、波野さんだって……初心なんだから!)
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朝からピザとか食べちゃう派なのでザ・和食な朝食は憧れます~
旅館に泊まると朝食で白米3杯おかわりしたこともw
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