奇跡の……
「あ、あれですね!」
「そうです」
「なんだか可愛い渦潮ですね~」
「瀬戸内海と言うと、鳴門の渦潮を思い浮かべる人が多いですよね。あちらはさながらモンスター級の迫力。大畠瀬戸はベビーのような渦潮で、白石さんの言う通り、可愛いですよね。大畠瀬戸は渦潮より、潮流がすごいと思います。海なのに川みたいに横に流れているように見える」
「あ……! 本当ですね。ここ、海ですよね!」
「そうなんです」
そんな感じで大畠瀬戸を楽しみ、そのまま橋を渡り、ついに周防大島へ到着した。
◇
「わあ、瀬戸内のハワイ! ハワイは行ったことがないですが、ハワイっぽいです!」
「白い砂浜にヤシの木。海が広がり、海風も暖かい……。日本人がイメージするハワイそのものがここで再現されている感じですね」
周防大島で予約したホテルは、一泊の料金が少々高め。なぜならいわゆるリゾートホテルに近いから!
そしてそのホテルから向かった片添ヶ浜海浜公園は、もう私にはハワイとしか思えない!
(一着だけ持ってきていた花柄のワンピース。これはトロピカルな感じでこの場所に合う! わざわざチェックインした後、着替えてよかった♪)
ご機嫌でニコニコしていると……。
「あ、えっ!? 今、写真撮りました??」
「撮りました。ほら、見てください」
そう言って波野さんが見せてくれたスマホの画面を見ると……。
空はまだ青い。海も碧い。
そこでヤシの木の下にいる花柄ワンピースの私。
「ハワイにいるみたいですね……!」
「ハワイ気分もいいのですが、ちょっと行きたいところがあります」
スマホの画面を見ながら波野さんは「いいですか?」と私を見る。
「ええ。勿論です!」
車に戻り、向かった先には……。
「えっ、すごいです! 海の中に道!?」
「あの道の先にあるのが真宮島です。干潮時だけ道が現れる。チャンスは一日に一回か二回。ツイていますね」
「歩いてあの島へ?」
「はい。ほら、渡り始めている人もいます」
「本当ですね!」
海に現れた道は、その幅二メートルぐらいか。
「のんびり歩いても、真宮島まで10分ぐらいです」
「急に海が迫って道が消えたりは……」
私の問いに、波野さんはふわっと優しい笑顔になる。
「それはないですよ。三時間ぐらいは出現している。それにじわじわと海水が戻るので、渡っている途中に、秒で道が消えることはないですよ」
「じゃあ安心して渡れますね!」
こくりと頷き、波野さんはこう続ける。
「さっきスマホで潮見表を調べましたが、あと二時間ぐらいは出現しているはず。島には特に何もないので、この海の道を往復して終わり。余裕かと」
「生口島のアートもそうでしたが、いろいろ調べてくださり、ありがとうございます! この旅が特別になっているのは、間違いなく波野さんのおかげです!」
ぺこりと頭を下げて顔を上げると、波野さんは横を向き、手の甲で顔を隠すようにしている。
「……どうしました?」
「……いえ。……白石さんの不意打ち、いつも破壊力が半端ない」
「えっ?」
「何でもないです。せっかくなので渡りましょう」
空の青さはまろやかで、まだ勢いはあるが、陽はゆっくり傾いて来ている。そんな陽射しの中、海の道を歩いて行くのは──。
(すごい特別感がある!)
何よりも海の上のバージンロードを、波野さんと……推しと二人で歩いている気分!
そこで思い出してしまう。うっかり、波野さんが推しであると口にしてしまったことを!
(お、推しというのは、本当に推しているだけで、必ずしも好き、にならないわよね……。ならない……わよね? あれ、本人を前にして、大好きです!って言っていることにならない……よね?)
背中に汗が伝ったその時。
「白石さん、大丈夫です」
私の頭に、ぽすっと波野さんが手を置く。
「上手く行きますよ。大丈夫」
何も言っていないのに、波野さんはまるで私の心が読めるように、優しい言葉をかけてくれる。
(本人がこう言っているんだもん。大丈夫……だよね)
「そうですね! 大丈夫な気がしてきました!」
◇
真宮島の海の道を歩き終え、ホテルに戻ると18時から夕食だった。
「お客様、当ホテルのレストランは海の眺望をお楽しみいただけますが、夕陽はお席からは見えません。お食事で大丈夫ですか? 繁忙期ではございませんので、夕陽を見られてからお席へのご案内も可能です」
レストランの感じのいい女性スタッフに尋ねられ、波野さんは私を見る。その顔には「夕陽をみたいですか?」と書いてあったのだけど。
(いろいろ調べてくれる波野さんが、今回のホテルを見つけてくれた。夕食の時間も18時がいいと言ったのには、何か意図があるはず)
「夕陽は大丈夫です。お気遣いありがとうございます!」
私の返事に波野さんは、ホッとしたような表情に、一瞬なった気がする。
(やっぱり何か意図があったのね)
かくして席に案内され、和食のコース料理がスタートする。旬の野菜、地元で獲れた魚のお料理は、一品一品丁寧に作られたもので、とても美味しい!
それに夕陽は見えないが、茜色に染まる空や、次第にオレンジ色から金色に変化する空の様子は、十分楽しめた。
今日は竹原を満喫し、大畠瀬戸を見て、真宮島にも行った。大満足で乾杯かと思ったが、波野さんは私に飲むことを勧めつつ、自身は自家製ジンジャーエール。
(どうしたのかな? 今日は飲む気分じゃない?)
そう思いつつ、飲む・飲まないは本人の自由と思い、私は地酒を一杯だけいただき、食事を終えたが……。
「この後なんですけど、星のビーチに行きませんか?」
「星のビーチ! そういえばガイドブックで見て気になっていました! 名前が素敵ですよね」
「星がデザインされた風向計があって、多分、白石さん、気に入ると思います」
その言葉を聞いた瞬間。
「もしかして波野さん、お酒飲まなかったのは……」
「歩いてもいいんですけど、20分はかかるので。車だと5分」
「私は別に歩きでも……いえ、ありがとうございます!」
「俺も行きたいと思っていたんです。行きたいと言うか、見たかった」
星のデザインの風向計が見たかった……なんか波野さん、可愛い──そう、思っていたところ。
「えっ、すごい……!」
ホテルを出発し、無料の駐車場に車を停め、降りると、風向計の星のモニュメントが点灯している! そちらに目がいってしまったが──。
「白石さん、上を見て」
「えっ、上……?」
言われて見上げた夜空には──。
「えっ……これって……」
「夏の天の川。天の川って四季により見え方が違うんです。夏が一番見えやすい。今は夏の終わりで、ラストチャンスでした。本当に今回の旅、天気に恵まれましたね」
「すごいです……!」
「実は中島からも見えます。でも白石さん、ほぼ毎晩友坂家で飲んでいて、夜に外は出ていないですよね」
「そうでした……!」
「それに風向計と天の川のツーショットは、白石さんが写真を撮りたくなるのでは?」
その言葉にハッとして、風向計の方を見て、目線を上に上げると……。
「……!」
天の川の下に、ぽっかり浮かび上がる星をデザインした風向計。
「天の川も一晩中見えるわけではありません。夏の終わりは、この時間帯しか見られません」
「そうなんですね……!」
「そして夏休みも終わった今だから、そもそも観光客も少ない。さらに夕陽を見た後のこの時間、多くの観光客が夕食です。だから今の時間は人がほぼいません。その結果、白石さんが撮りたくなる奇跡のツーショット写真――天の川と星の風向計、これで撮影できるのでは?」
夕陽を見なかったのは、ここへ来るためだった。この美しい夏の終わりの天の川と、星型に灯る風向計を私に見せるために、波野さんはいろいろ調べ、調整してくれたんだ……!
(全部、私のために……!)
「ありがとうございます! とても嬉しいです。この奇跡の景色を見られたこと。そのために波野さんが頑張ってくださったことが!」
そこで私は波野さんの背に手を添えて、腕を伸ばす。
「景色の写真もいいですけど、せっかくなので波野さんと一緒に撮りたいです!」
「……! わかりました。ではスマホを調整しますね。星空とライトアップされた風向計を同時撮影って、難しいんです」
そう言いながら波野さんは斜め掛け鞄からミニ三脚を取り出す。
「手持ちだと絶対にブレてしまうので……。あとはオートではなく、シャッタースピード、感度を調節して……」
真剣な表情の波野さんの横顔は拝みたくなる美しさ。
「よし。準備完了。セルフタイマーにするので、白石さん、こっちへ」
「あっ、はい!」
こうして撮影した天の川と星の風向計、そして波野さんと私の、奇跡の写真が撮影できた!
お読みいただき、ありがとうございます!
夕食は18時ぐらい食べたい派です。
でも仕事で21時ぐらいになるともう腹ペコ過ぎて大変(笑)
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