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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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奇跡の……

「あ、あれですね!」

「そうです」

「なんだか可愛い渦潮ですね~」

「瀬戸内海と言うと、鳴門の渦潮を思い浮かべる人が多いですよね。あちらはさながらモンスター級の迫力。大畠瀬戸はベビーのような渦潮で、白石さんの言う通り、可愛いですよね。大畠瀬戸は渦潮より、潮流がすごいと思います。海なのに川みたいに横に流れているように見える」

「あ……! 本当ですね。ここ、海ですよね!」

「そうなんです」


 そんな感じで大畠瀬戸を楽しみ、そのまま橋を渡り、ついに周防大島へ到着した。


 ◇


「わあ、瀬戸内のハワイ! ハワイは行ったことがないですが、ハワイっぽいです!」

「白い砂浜にヤシの木。海が広がり、海風も暖かい……。日本人がイメージするハワイそのものがここで再現されている感じですね」


 周防大島で予約したホテルは、一泊の料金が少々高め。なぜならいわゆるリゾートホテルに近いから!

 そしてそのホテルから向かった片添ヶ浜(かたぞえがはま)海浜公園は、もう私にはハワイとしか思えない!


(一着だけ持ってきていた花柄のワンピース。これはトロピカルな感じでこの場所に合う! わざわざチェックインした後、着替えてよかった♪)


 ご機嫌でニコニコしていると……。


「あ、えっ!? 今、写真撮りました??」

「撮りました。ほら、見てください」


 そう言って波野さんが見せてくれたスマホの画面を見ると……。


 空はまだ青い。海も碧い。

 そこでヤシの木の下にいる花柄ワンピースの私。


「ハワイにいるみたいですね……!」

「ハワイ気分もいいのですが、ちょっと行きたいところがあります」


 スマホの画面を見ながら波野さんは「いいですか?」と私を見る。


「ええ。勿論です!」


 車に戻り、向かった先には……。


「えっ、すごいです! 海の中に道!?」

「あの道の先にあるのが真宮島(まみやじま)です。干潮時だけ道が現れる。チャンスは一日に一回か二回。ツイていますね」

「歩いてあの島へ?」

「はい。ほら、渡り始めている人もいます」

「本当ですね!」


 海に現れた道は、その幅二メートルぐらいか。


「のんびり歩いても、真宮島まで10分ぐらいです」

「急に海が迫って道が消えたりは……」


 私の問いに、波野さんはふわっと優しい笑顔になる。


「それはないですよ。三時間ぐらいは出現している。それにじわじわと海水が戻るので、渡っている途中に、秒で道が消えることはないですよ」

「じゃあ安心して渡れますね!」


 こくりと頷き、波野さんはこう続ける。


「さっきスマホで潮見表を調べましたが、あと二時間ぐらいは出現しているはず。島には特に何もないので、この海の道を往復して終わり。余裕かと」

「生口島のアートもそうでしたが、いろいろ調べてくださり、ありがとうございます! この旅が特別になっているのは、間違いなく波野さんのおかげです!」


 ぺこりと頭を下げて顔を上げると、波野さんは横を向き、手の甲で顔を隠すようにしている。


「……どうしました?」

「……いえ。……白石さんの不意打ち、いつも破壊力が半端ない」

「えっ?」

「何でもないです。せっかくなので渡りましょう」


 空の青さはまろやかで、まだ勢いはあるが、陽はゆっくり傾いて来ている。そんな陽射しの中、海の道を歩いて行くのは──。


(すごい特別感がある!)


 何よりも海の上のバージンロードを、波野さんと……推しと二人で歩いている気分!


 そこで思い出してしまう。うっかり、波野さんが推しであると口にしてしまったことを!


(お、推しというのは、本当に推しているだけで、必ずしも好き、にならないわよね……。ならない……わよね? あれ、本人を前にして、大好きです!って言っていることにならない……よね?)


 背中に汗が伝ったその時。


「白石さん、大丈夫です」


 私の頭に、ぽすっと波野さんが手を置く。


「上手く行きますよ。大丈夫」


 何も言っていないのに、波野さんはまるで私の心が読めるように、優しい言葉をかけてくれる。


(本人がこう言っているんだもん。大丈夫……だよね)


「そうですね! 大丈夫な気がしてきました!」


 ◇


 真宮島の海の道を歩き終え、ホテルに戻ると18時から夕食だった。


「お客様、当ホテルのレストランは海の眺望をお楽しみいただけますが、夕陽はお席からは見えません。お食事で大丈夫ですか? 繁忙期ではございませんので、夕陽を見られてからお席へのご案内も可能です」


 レストランの感じのいい女性スタッフに尋ねられ、波野さんは私を見る。その顔には「夕陽をみたいですか?」と書いてあったのだけど。


(いろいろ調べてくれる波野さんが、今回のホテルを見つけてくれた。夕食の時間も18時がいいと言ったのには、何か意図があるはず)


「夕陽は大丈夫です。お気遣いありがとうございます!」


 私の返事に波野さんは、ホッとしたような表情に、一瞬なった気がする。


(やっぱり何か意図があったのね)


 かくして席に案内され、和食のコース料理がスタートする。旬の野菜、地元で獲れた魚のお料理は、一品一品丁寧に作られたもので、とても美味しい!


 それに夕陽は見えないが、茜色に染まる空や、次第にオレンジ色から金色に変化する空の様子は、十分楽しめた。


 今日は竹原を満喫し、大畠瀬戸を見て、真宮島にも行った。大満足で乾杯かと思ったが、波野さんは私に飲むことを勧めつつ、自身は自家製ジンジャーエール。


(どうしたのかな? 今日は飲む気分じゃない?)


 そう思いつつ、飲む・飲まないは本人の自由と思い、私は地酒を一杯だけいただき、食事を終えたが……。


「この後なんですけど、星のビーチに行きませんか?」

「星のビーチ! そういえばガイドブックで見て気になっていました! 名前が素敵ですよね」

「星がデザインされた風向計があって、多分、白石さん、気に入ると思います」


 その言葉を聞いた瞬間。


「もしかして波野さん、お酒飲まなかったのは……」

「歩いてもいいんですけど、20分はかかるので。車だと5分」

「私は別に歩きでも……いえ、ありがとうございます!」

「俺も行きたいと思っていたんです。行きたいと言うか、見たかった」


 星のデザインの風向計が見たかった……なんか波野さん、可愛い──そう、思っていたところ。


「えっ、すごい……!」


 ホテルを出発し、無料の駐車場に車を停め、降りると、風向計の星のモニュメントが点灯している! そちらに目がいってしまったが──。


「白石さん、上を見て」

「えっ、上……?」


 言われて見上げた夜空には──。


「えっ……これって……」

「夏の天の川。天の川って四季により見え方が違うんです。夏が一番見えやすい。今は夏の終わりで、ラストチャンスでした。本当に今回の旅、天気に恵まれましたね」

「すごいです……!」

「実は中島からも見えます。でも白石さん、ほぼ毎晩友坂家で飲んでいて、夜に外は出ていないですよね」

「そうでした……!」

「それに風向計と天の川のツーショットは、白石さんが写真を撮りたくなるのでは?」


 その言葉にハッとして、風向計の方を見て、目線を上に上げると……。


「……!」


 天の川の下に、ぽっかり浮かび上がる星をデザインした風向計。


「天の川も一晩中見えるわけではありません。夏の終わりは、この時間帯しか見られません」

「そうなんですね……!」

「そして夏休みも終わった今だから、そもそも観光客も少ない。さらに夕陽を見た後のこの時間、多くの観光客が夕食です。だから今の時間は人がほぼいません。その結果、白石さんが撮りたくなる奇跡のツーショット写真――天の川と星の風向計、これで撮影できるのでは?」


 夕陽を見なかったのは、ここへ来るためだった。この美しい夏の終わりの天の川と、星型に灯る風向計を私に見せるために、波野さんはいろいろ調べ、調整してくれたんだ……!


(全部、私のために……!)


「ありがとうございます! とても嬉しいです。この奇跡の景色を見られたこと。そのために波野さんが頑張ってくださったことが!」


 そこで私は波野さんの背に手を添えて、腕を伸ばす。


「景色の写真もいいですけど、せっかくなので波野さんと一緒に撮りたいです!」

「……! わかりました。ではスマホを調整しますね。星空とライトアップされた風向計を同時撮影って、難しいんです」


 そう言いながら波野さんは斜め掛け鞄からミニ三脚を取り出す。


「手持ちだと絶対にブレてしまうので……。あとはオートではなく、シャッタースピード、感度を調節して……」


 真剣な表情の波野さんの横顔は拝みたくなる美しさ。


「よし。準備完了。セルフタイマーにするので、白石さん、こっちへ」

「あっ、はい!」


 こうして撮影した天の川と星の風向計、そして波野さんと私の、奇跡の写真が撮影できた!


お読みいただき、ありがとうございます!

夕食は18時ぐらい食べたい派です。

でも仕事で21時ぐらいになるともう腹ペコ過ぎて大変(笑)

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