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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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純愛と普通の恋愛

 たっぷり竹原のレトロな街並みを満喫し、ランチは駅前の洋食屋。店主が一人で切り盛りしているお店のおまかせランチを波野くんが予約してくれていたのだ!


「着物をレンタルすることを考えると、時間が逆算できたので、勝手に予約してしまいました。……どうでしたか?」

「最高でした! 着物で洋食屋って、憧れだったというか……。このレトロな雰囲気にぴったり! しかもお料理もハンバーグとエビフライの二種盛り! ザ・洋食という感じでよかったです!」


 大満足で食事を終え、コーヒーを飲みながら撮影した写真の振り返りとなる。テーブルに置いたスマホの画面を操作し、まずは旧笠井邸!


「ここは外観だけではなく、中を見学出来たのがよかったですよね~!」

「そうですね。塩業で成功しただけあり、その邸宅は豪商のお屋敷、という感じでした」

「土間に入った瞬間から、圧倒されました。広くて高くて、太くて大きな梁はすごい!という感じで」

「お嬢様、おかえりなさませ──というコンセプトでしたよね、この時の写真は」


 波野さんがスマホの画面をトンとタップし、私はドキッとしながら小声で伝える。


「……はい。付き合わせてしまい、申し訳ないです」

「いえ、割と俺、乗り気でしたから」

「!」


 私が反応すると、波野さんはフイッと視線を逸らし、スマホの画面をスライドさせる。


「この畳の大広間もすごかったですね」

「は、はいっ! ここで宴会とかあったのかなぁといろいろ想像できました」

「お嬢様のお父様に、娘との距離が近いと叱責され、少し沈んだシーン……でしたっけ? ここで撮った写真は」


 波野さんが口元にフッと微笑を浮かべる。


「……はい。何度もやり直しさせてすみません……」

「でもこだわりの一枚に仕上がったじゃないですか。少し逆光な感じで、光の粒子が散らばり、俺自身驚くぐらい、いい男に映っています」

「! ですよね! 逆光で顔が影になることで、書生の傷ついた心を表現しています! あと、こうやって……」


 私が熱くなると、波野さんはスマホを操作し、話題を変えてしまう。


(もっと波野さんの魅力を語りたかったのに! あれ、でも波野さんの耳が赤い……? えっ、照れている?)


「この二階の写真もこだわりましたよね。わざわざ人に頼んで、二階にいるお嬢様と書生の姿を下から撮影してもらった」

「……そうです。でもなかなか撮れない写真だと思うので……。それに撮影してくれた外国人もすごくいいって褒めてくれたので……」

「お嬢様の着物姿が美しかったおかげですね」

「!」


 にっこり微笑む波野さんは、私の妄想の中の書生そのもの。


(ヤバい! 妄想がリアルになった気持ちになる!)


 心臓がバクバクな私に対し、波野さんは落ち着いた様子でスマホを操作して──。


「竹鶴酒造さんの建物は、内部見学は出来ませんでした。でも外観だけで十分雰囲気が出ていましたよね」

「はい! 杉玉が雰囲気があってよかったです! うっすら茶色を帯びた緑が、時間の経過を感じさせて」

「ドラマのロケ地でもあり、人も割といたので、順番に写真を撮ってもらえてよかったですね」


 デートしているお嬢様と書生という設定で、日本人のカップルに撮ってもらったのだけど……。


(いい! かなりいい写真だと思います!)


「旧松阪家住宅は、旧笠井邸と同じ塩業で成功した商人の家ですが、全く違っていましたね」


 波野さんがスマホを操作しながらそう口にするが、まさにその通り!


「旧笠井邸の方が規模が大きかったですよね。塩に関する展示もありましたし。旧松阪家住宅は住居、という感じが強かった気がします」

「ええ。こじんまりとしていますが、落ち着いて過ごすことができそうでした。何より、坪庭を望む円窓が素晴らしかったです。……自分の家にも作りたくなりました」

「作れるんですか!?」

「俺一人では無理でしょうけど、みんなに相談したらできそうです」


 これを聞いた私は「いいなぁ」と思ってしまう。


 東京の一人暮らし、近所付き合いなんて皆無。困ったら便利屋に頼むなど、お金で解決するしかない。でも中島ではゆるくつながるコミュニティの中で、助け合いが自然に行われている。


(今回ゾーンに入った友坂夫妻のことも、周囲の人が自然に支えている……)


「西方寺の普明閣(ふめいかく)は眺望が素晴らしかったですよね」


 波野さんの言葉に「はいっ!」と即答する。


「竹原の街並みが一望できて、感動でした! 普明閣を下から見上げるショットも風情があって……。ここは外観も、中からも、沢山撮影しちゃいました!」


(何気にここで、波野さんにフォーカスし、背景を少しぼかしたポートレートモードで撮影した写真は、私のお気に入り! 美青年書生様♡って感じで待ち受けにしたくなる)


 私がそんなことを思っていると、波野さんはスマホの画面をスライドして……。


「竹原市歴史民俗資料館はこじんまりとしていましたが、中の展示はいろいろと詰め込まれていましたよね」

「そうですね。さっと見てしまいましたが、民俗資料なので、昔の人の生活を垣間見た気持ちになれました。憧憬の広場の方にある街灯は、夕方に……ブルーアワーの時に撮影したら、雰囲気が出ただろうな~」

「憧憬の広場と言えば、資料館を眺めるように設置されたニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝とその妻・リタさんの像は印象的でしたね」


 そうなのだ。ドラマのモデルにもなったご夫婦であり、竹鶴政孝氏は竹原市の出身。生誕120年を記念して銅像が建立されていた。


「当時は珍しい国際結婚、しかも恋愛結婚。おしどり夫婦だったとか」

「なんかいいですよね。純愛って感じで」

「……白石さんはもしかして、純愛に憧れがあるのですか?」

「! それは……。はい、あります!」


 そこで店主から「お寛ぎのところ大変申し訳ないのですが、そろそろランチ営業のお時間が終わりでして……」と声をかけられ、店を出ることになった。


 この後、瀬戸内のハワイと言われる周防大島へ移動となる。波野さんは車の運転もあるし、てっきりあの話はあれで終わると思ったのに……。


「さっき白石さんは純愛に憧れがあると言っていましたよね。普通の恋愛ではなく、純愛がいいんですか?」


 ゆっくり車をスタートさせ、流れに乗ると、波野さんがさっきの話の続きを始めたのだ! 驚きながらも質問されたので、私は答えを口にしようとして、はたと気づく。


「……普通の恋愛……。普通の恋愛って、よく考えると何なんですかね!?」

「……そう言われると難しい……。普通の恋愛を定義するなら、その前に純愛を定義した方がわかりやすそうですね」

「理系っぽい発言!」

「理系男子であることは否定しません。……純愛は……打算のない愛、ですかね? 嘘や偽りのない純粋な感情、気持ちのみの愛。そうなると普通の恋愛は、理想と現実の落としどころみたいなものでしょうか」

「それはつまり……たとえば電話をしていて、好きだからまだ話したいけど、明日は仕事だから切ることにする――みたいな?」

「白石さん、うまいですね。まさにそうだと思います」


 そこでふとずっと忘れていた西園寺さんのことを思い出す。


「純愛に憧れるのは……多分、直近で打算だらけの普通ではない恋愛をしちゃったからだと思います」


 そこで私はぽつり、ぽつりと中島に行くことになった経緯、つまりは西園寺さんとの苦い恋の結末を、波野さんに話していた。


お読みいただき、ありがとうございます!

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