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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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20/29

妄想

 翌朝。


 朝食の席でワンチャンあるかと思っていた。波野さんが宿の浴衣で登場してくれるかもしれない……!と。だが残念なことにしっかり着替えを終えていた。


 白の半袖シャツ、首元には革紐のチョーカー、細身のジーンズと、これはこれでイケメン仕様。


(チャンスはまだある! この旅の最中で見れなくても、中島に戻ってからでも可能性はゼロではない!)


 ということで、朝食の焼き魚を食べながら波野さんが「今日は江戸の町並みが残る竹原をのんびり散策。午後、周防大島へ移動しましょう」と言っていた通りで、まずは竹原へ向け、出発となる。


「白石さんは昨晩、お風呂の後、どうしていたのですか?」


 いつも通り男らしさ増し増しで車を運転する波野さんに尋ねられた私は即答する。


「ノートパソコンで少し仕事していたのですが、すぐそばにお布団が……。『寝てください』と言われているようで、22時前には寝ていました!」

「え! 21時台に寝たということですか!?」

「そうですね。21時30分過ぎには横になっていました~」

「早くないですか!? 塾や習い事に追われる今どきの小学6年生でさえ、22時就寝が多いとか」

「あー、もう私、おこちゃまですね! 波野さんはどうしていたのですか? まさか私に襲われるのを待っていました?」


 すると波野さんがアンニュイなため息をつく。


「……本当に白石さんは罪深いですね」

「え?」

「その通りですよ。白石さんが来るんじゃないかと、ドキドキしながら待っていたんです」

「えええええっ!」

「今も昨晩の余韻で、体が熱いんですけど」


 バサッ。


 心臓が止まりそうになり、手にしていたガイドブックを膝の上に落としてしまう。もう全身の血流がよくなり、顔を耳も首も熱くなっている!


「白石さんのその初心過ぎる反応……大丈夫ですか? また鼻血出ていません?」

「え、鼻血!?」


 慌てて指で鼻の辺りに触れる私の頭に、ぽすっと大きな手がのせられる。


「全部冗談です。からかい過ぎました。ごめんなさい。鼻血も出ていません」

「え……。冗談……だったのですか(しょぼーん)」

「え? 本気でよかったんですか?」

「えええええっ、本気!? やばい、涎が! は、ハンカチ……あ、スマホが落ちた! あ、ガイドブックが」

「落ち着いてください、白石さん」


 朝から波野さんのドキッとする一言で、私は一人大パニックだった。


 ◇


 落ち着きのない私に対し、訪れた竹原の町は……。


「わあ、何だか江戸時代にタイムトリップしたみたいですね……! 趣があり、静かで大人な雰囲気!」

「江戸後期の町割り、商家の建物が当時の姿のままで残っていますからね。白石さんがそう感じるのも妥当です。それでですね、一つサプライズがあります」


 そこで波野さんが打ち明けたこと。

 それは何と、着物の着付け&ヘアメイクを予約してくれていたのだ……!


「白石さん、スマホでよく写真を撮っていますよね。この街並みも間違いなく写真撮りまくりかと。まるで映画のセットみたいで、実際、ドラマや映画に使われた建物も沢山あるんです。ならば自分たちもこの世界の一員になりきって一緒に写真を撮れたら……楽しそうじゃないですか?」

「……! 波野さん、名案です! そして予約してくれたこと、本当に嬉しい……! 波野さん、やっぱり神です!」

「いえ、人間です。ではお店はあっちなので、行きましょう」


 こうして駅前のお店で着物を着せてもらったのだけど……。


 淡いミント色の綿麻単衣には、細かい幾何学模様。合わせる帯は白の半幅帯。髪はゆるふわ低めのシニヨンでまとめてもらったが……。


(ヤバいです! これはまさに馬子にも衣裳! 私、意外と着物が似合うかも!)


「とってもよくお似合いですよ! 9月に入ったけど、まだ暑さは厳しいでしょう~。見た目も爽やかな単衣で、バッチリですよ! 彼氏さんも喜ぶと思うわ~。というか、彼氏さんはモデルさん? それとも俳優さん?」


 店員さんの言葉に「いえ、彼氏ではありません!」と否定すべきだったけど、ここは笑ってスルー。


(否定するのも面倒だからね……。というか浴衣を通り越して、波野さんの着物姿が見られると思うと……。これは期待大だわ!)


 そしてその期待は大どころではない! もうこれは……規格外! 私の期待の尺度をはるかに超えている!


 波野さんの着物は、無地の濃紺の綿麻単衣で、グレーの角帯、足元には黒い下駄。髪型は前髪を真ん中分けにしただけで、雰囲気が変わっている!


(ヤバい……! 推しがかっこよすぎてキュン死しそう。意識飛ぶ! でも写真撮りたい!)


 スマホを手に持ち震えていると、親切な店員さんが声をかけてくれる。


「まあ、なんて美男美女なんですか! さあ、並んで! 写真、撮ってあげる!」

「ありがとうございます」


 波野さんが応じ、自身のスマホを店員さんに渡す。


「もっと二人、近づいて! そう、いいわね!」


 店員さんはスマホを縦にしたり、横にしたり、しゃがんだり、距離をとったりしながら、何枚も撮ってくれる。その際に「絵になるわ〜! すごくいい!」と何度もささやいている。そして──。


「おばさんのスマホでも撮っていい? お店のホームページとSNSに掲載していい?」

「ええ、構いません。白石さんは?」

「あっ、えっ、はい!」


 同意したものの、私とのツーショット写真、見た人が勘違いしないかと心配になるが……。


(あっ、それは自意識過剰かも。まさか波野さんと私が恋人同士とは思わないわね! 何せ神と雑草だから!)


「では行きましょうか」


 お店で貸してもらえた和傘の日傘をさし、着物姿の波野さんと歩き出すと……。


(なんだか明治初期、華族のお坊ちゃんと恋に落ちた女中が密会して歩いている……みたい、な?)


 レトロな街並みに妄想が膨らむ。


「白石さん、何ニヤニヤしているんですか? さっきからみんな見てますよ?」

「! それは私ではなく、波野さんを見ているんですよ!」

「そうですか? それより、何を考えていたんです?」

「えっ……それは……」


 我ながら思いついた設定がよかったので、思わず波野さんに話してみると……。


「ちょっと違くないですか?」

「えっ! 違います?」

「はい。白石さんが華族のお嬢様、俺がそのお屋敷に下宿している貧乏な書生、ですよ」

「そうなんですか!?」


 波野さんはこくりと頷く。


「二人は恋仲だけど、お嬢様には親が決めた許嫁がいます。でも二人は深く愛し合い、人目を忍び街中で隠れるように待ち合わせていた。こんなふうに」


 ふわりと優しく抱き寄せられ、建物と建物の間の狭い路地に導かれると──。


 私の手を取り、甲にそっと唇を触れた波野くんは上目遣いで私を見る。破壊力満点の色気、その上で、何とも切なげな声で「お嬢様」と言うのだ……!


「くはっ」と短く叫び、私は腰砕けとなり、その場に座り込みそうになる。


「白石さん、大丈夫ですか!?」

「大丈夫なわけないです! 誰のせいでこんなふうになったと!? 波野さん、もしかして俳優なんですか!?」と言いたくなるのは我慢して、代わりに「慣れない着物で少しクラッとしただけです」と答え、奥歯に力を入れる。


(恐るべし! 私の推しは妄想力も半端なく、そして演技力がありすぎる……!)


 だがしかし。波野さんの思いついた設定はかなりツボで……。


 若き書生とお嬢様のお忍びデートということで、竹原の街並みで山のように写真を撮ってしまった!


お読みいただき、ありがとうございます!

和傘の日傘が欲しいぁ~

明日も二人の旅は続きます。

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