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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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19/29

練習?

 大山祇神社。


 伊予国一宮、日本総鎮守、海の神・山の神の総本社とも呼ばれ、全国の国宝、国の重要文化財の武具類の約八割が宝物館に保存展示されている。ゆえに大山祇神社のある大三島は、国宝の島とも呼ばれているのだ。


「では白石さん、参拝しましょうか」

「はい」


 昼食を終え、向かうことになったが、お店から本当に目と鼻の先に大山祇神社はあった。まずは二の鳥居。


「波野さん、狛犬が大きいです……!」

「多分1メートルは超えているかな? 最初から圧巻ですね」


 威風堂々とした狛犬に見守られながら、二の鳥居をくぐると、今度は総門がドーンと待ち構えていた。やはりその手前にある狛犬は四肢もしっかり太く、安定感がある。


 そのまま参道を進み、まずは手水舎で手を清め、そしてすぐそばにある天然記念物である大楠(オオクス)と向き合う。


「波野さん、これがガイドブックで見た御神木ですね」

「想像以上に大きいな……」


 狛犬もそうだが、見慣れているサイズより大きいものが多く、とにかく圧倒されてしまう。さらに大楠につい目がいってしまうが、そのそばにある十七社社殿も県指定の文化財だった。


「この神門をくぐると、いよいよ拝殿ですね」

「はい。背筋が伸びます」


 そう言うと波野さんがスッと肩を張り、顎を上げる。

 その瞬間、凛々しさが増す。


(もしかして神職の衣装を着た波野さんも素敵かもしれない……なんてこんなところで考えている場合ではない!)


 私も背筋を伸ばす。


 拝殿の奥に本殿があるが、そこは一般参拝では入ることができない。本殿の左右にある上津社(かみつやしろ)下津社(しもつやしろ)も同じく近づくことはできないが、拝殿の左右にある拝所から参拝することになる。


「では拝殿からです、白石さん」

「はい! 二拝 二拍手 一拝……ですね」


 お賽銭箱にお金を入れ、鈴を鳴らし、そこで一度呼吸を整える。


 まず二礼して、そしてパン、パンと手を叩く。

 波野さんと見事に音が揃い、さらに身が引き締まる。

 最後に一礼して完了。


 次は……ということで、波野さんに声をかける。


「次は上津社と下津社ですね」

「ええ、順番に拝所で参拝しましょう」


 無事に全ての参拝を終え、何となく緊張感も緩む。


「ではせっかくなので宝物館も見ましょうか」


 波野さんの提案には「はい! ぜひ!」と即答する。


「ガイドブックによると、宝物館で三つの施設、紫陽殿(しようでん)・国宝館・海事博物館を観覧できるチケットを買えるそうです。宝物館は……これですね」


 地図を見ながら宝物館へ向かい、チケットを購入し、まずは紫陽殿へ。


「なぜ宝物館に多くの武具が集まったのですかね?」


 ふと私が疑問を口にすると、波野さんがサラリと答えてくれる。


「収蔵されている多くの武具が奉納されたものだそうですよ」

「ということは……戦勝に対する御礼で、武士たちが自ら奉納したということですか?」

「そうなりますね。源頼朝と源義経がそれぞれ奉納した鎧もあるようですよ」


 パンフレットを手に中へ進んでいくと、展示されている物のほとんどに「国宝」の記載があり、「すごいです……!」と私は絶句し、波野さんは「多分、ここ、小学生の頃に来ていたら、歴史好きになった気がします」と言うが、それは強く同意できる!


「あ、見てください! これ、女性用の鎧ですよ……!」


 私の声に、波野さんもその鎧をじっくり眺める。


「シルエットが美しいですね。胸の曲線、ウエストのくびれといい、ちゃんと女性の着用を意識している……。でも戦場のような血なまぐさい場所に、女性も赴いたのかと思うと……」

「波野さんは優しいから、女性のことは自分が守りたい派ですね!」

「……それは……。男女では体格や体力に差がありますから」

「きっとこの旅行でも、何かあったら波野さんが守ってくれますね!」

「何もないのが一番ですし、何かあったとしても……」


 そこで波野さんは驚きの一面を明かしてくれる。


「小学校の頃から空手を習っています」

「! そうだったのですね。だから体が引き締まっているのですね」

「はい。今も自主練は続けていますし、中学生の頃にはいろいろな大会にも出場し、優勝したことも……ありました」

「結構本格的に習われたのですね」

「ええ。……空手ができると話すと、『強いんですね』と言われ、攻撃ありきで見られます。ですが違うんですよね。空手の基本は護身であり、自分や他者を守ることにあるんです。自分から攻撃するのではなく、防御と回避で争いは避け、本当に必要な時だけ戦うんです」

「なるほど」

「技の威力がわかるから、素人相手に本気なんて……。余程ではないと無理です」


 その言葉に波野さんが表層的な意味ではなく、本当に強いのだろうと伝わってくる。


「だから守りますよ、何かあれば、白石さんを。ただドラマや映画のように、戦うわけではなく、基本は逃げます! 回避、争わないのが一番ですから。そして普通に警察に通報します。……そんなこと言うと、『せっかく空手やっているのに』とつっこまれそうですが」

「つっこみませんよ! むしろ、その方が安心です。だって相手が何者なのか、武器をもっているのか――それって瞬時にはわからないじゃないですか。仮にそばに自分以外の人がいたら、バトルに巻き込まれるわけですよね。だったらみんなを連れて逃げる――賛成です! 派手なアクションでファイトするのは、ドラマや映画の非日常で十分。リアルは平和的解決が一番だと思います!」


 拳を握りしめ、そう言うと、波野さんはクスクスと笑う。


「白石さんのその柔軟性、とてもいいと思います」

「……褒められていますよね?」

「褒めていますよ。そんなのカッコ悪いと、本当は思っている……なんてことはなく、心からそう思っていると伝わってきますし」

「それはそうですよ! 波野さん、間違いなく強いと思うのですが、戦えば怪我をするリスクもある。私は非力です。いざという時は守って欲しい……というか守ってもらえないと、すぐやられるモブだと思います。だからと言って『戦ってください』ではないですよ。『一緒に逃げましょう』ですから!」


 すると波野さんがぽすっと私の頭に手を乗せる。


「大丈夫です。ちゃんと白石さんの手をとって、ダッシュで逃げます……逃げる練習、しておきます?」

「え」

「こうやって」


 そう言うと波野さんが私と手をつないだのだ……!


(え、嘘! 手を……波野さんと、推しと手をつないじゃった……!)


 ◇


 大山祇神社は最後の最後で波野さんと手をつなぐというハプニング(!?)もあったが、参拝と国宝見学は無事終わり、宿へ向かうことになった。


 今回は旅館の朝食付きプランで部屋をとれた。


(男女でそれぞれ別々の部屋をとるのは、実はなかなか難しい! でも瀬戸内はサイクリングで訪れる人も多いので、宿の公式サイトで探せば、女性一人、男性一人でも泊まれる部屋は見つけられる!)


 ということで部屋は見つかったものの、夕食はついていない。宿の外へ食べに行くが、閉店時間が20時30分と早い!


「でもイチオシは海鮮丼定食ですし、これならすぐに食べて宿へ戻れます」


 波野さんの言う通りで、しかもこの海鮮丼、ハマチ、カツオ、タイ、イカ、タコ、エビなどが丼からはみ出しそうな勢いで載っている! さらに卵黄がのせられ、お好みでかける出汁もついており、とても美味しくいただけた!


「お風呂は大浴場ですね」

「……うん。浴衣だわ……」


 旅館なので浴衣が用意されている。


(……波野さんの浴衣姿……みたいな)


 とはいえ風呂上りの浴衣で波野さんの部屋を訪ねるのは……気が引ける。


(入浴後、ロビーで明日の旅程確認をしてはどうかと提案してみる……?)


 だがしかし!


 旅館ゆえにフロントとロビーが近すぎて、そこでおしゃべりするのは……落ち着かない気がするのだ。


(残念だけど波野さんの浴衣はお預けね)


 お風呂から出た後は部屋でパソコンを起動し、少し仕事をして……。


 旅館ということもあり、部屋には既にお布団が敷かれている。その布団を意識すると、眠気がわいてくる。


(律子に今日のお宝写真を送って……ふわぁ、眠い……)


 盛大に欠伸をして、気づけば22時前には眠ることになった。


お読みいただき、ありがとうございます!

空手をやっている人から聞いたリアルな話は目から鱗が落ちるでした~

そしてドキドキの瀬戸内の旅は続きます!

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