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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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18/29

味見

「次のアートは間もなくですよ、白石さん」


 『ベルヴェデーレ瀬戸田』から移動を開始して、五分ぐらい経つと、もう次のアートに到着だったが……。見えている建物は、尾道市瀬戸田B&G海洋センター。


「……センターの中にあるのですか?」

「センターの敷地内にありますけど、屋外ですよ。芝生広場にひょこんとあります」


 波野さんのテンションの高さはまだ続いているようだ。


(だって「ひょこんと」だなんて! なんだか可愛い!)


 ほっこりした瞬間、車が駐車スペースに到着。そして確かに“ひょこん”と何かがある!


(例えるならばそれは、縦長の水槽……。二回りぐらい大きなサイズの電話ボックス……。全面ガラス張りの縦長の箱)


「何だか地面にめり込んでいる感じですね」

「そう。だから『地上と地下の間で』というタイトルなんだと思います」


 これには「なるほど」と大きく頷く。


「あのガラスの中が、下がどうなっているか、気になりませんか」

「……気になります」

「では近づいて見てみましょう。俺も来たのは初めてなので、気になります」


 こうして波野さんと一緒にガラスのボックスに近づき、中を覗き込むと――。


「わっ!」「わーっ!」


 思いっきりビックリすると、波野さんが爆笑している!


「もう波野さんっ!」

「ごめんなさい! でもあまりにも白石さんが真剣な表情だから……つい、からかいたくなってしまって」

「ええっ! いつもからかっているのに!」

「まあ、そうですね。でも今回は驚いて抱きつかれるかと、期待していたんですよ」

「!?」


 いきなりの言葉にドキッとして、目を大きく見開き、波野さんを見てしまう。すると波野さんは一瞬照れたような表情になったが、フイッと視線を逸らし、いつもの表情でこんなことを言う。


「そうそう、来るときにジェラート屋さん、見かけましたよね?」


(あー、なんだ! ちょっと期待しちゃったけど、やっぱりからかわれただけね)


「ジェラート……えーと、あ、サーモンピンクの壁の建物、あれ、ジェラート屋さんなんですね!」

「そうです。瀬戸田のレモンを使ったシャーベットが人気だとか」

「……食べたいです」

「ですよね。行きましょうか」

「はい!」


 そのまま徒歩でお店に向かうと、店内は広々としている。テーブル席にカウンター席、そしてテラス席があった。


「色紙が……サインがいっぱい……!」

「それだけ人気、ということでしょうね」


 ショーケースを見ると二十種類以上もフレーバーがある……!


「どら焼きもあるんですね……!」

「……豚まんもあります」

「えっ、本当ですね……!」


 ジェラート以外のメニューも大変気になってしまう。


「決まりましたか?」

「……この後、ランチですよね?」

「そうです」

「……トリプルは……諦めて、ダブルにします!」


 断腸の思いで告げると、波野さんが畳み掛ける。


「いいんですか? 本当は三種類、食べたかったのでは!?」

「それは……だ、大丈夫です! お昼もあるので! それでフレーバーですが、レモンはマスト。あとは……みかん系が四種類、オレンジも二種類あるので、この中から一つにするか。ライムや伊予柑もあるんですよ。イチジクやラムレーズンも……。もう一つが難しいですね」

「シャーベットなんて、溶けたら液体ですよ。もうトリプルにしてしまえばいいのでは? それに白石さんなら食べられると思います。トリプルを食べても、ランチを」


 そう言われてしまうと「確かに……!」と思えてしまう。


「で、ではお言葉に甘えて、トリプルで」

「もちろん、俺もトリプルですけどね」


 こうして迷いに迷い、私はレモン、デコみかん、イチジクにした。


「波野さんは……レモン、ライム、ラムレーズン……。何だか酒飲みっぽいチョイスですね」


 海が眺められるテラス席に横並びに座ると、全部白っぽい波野さんチョイスのトリプルを見て、思わず指摘すると……。


「でもレモン以外は白石さん、食べてみたかったやつでしょう?」

「! え、まあ、そうですが……」

「はい」

「え……」


 波野さんがカップに三種盛りのアイスを私の方へ差し出す。


「味見したらいいですよ」

「……!」

「俺もいいですか、白石さんのデコみかんとイチジク、味見しても?」

「も、勿論でございます! 召し上がってください!」

「白石さん、急に敬語。どうしたんですか?」


(波野さんが、推しが、神過ぎる件! え、自分が食べたい物ではなく、私が食べたいものを優先してくれたんです!? いくら親切でもこれだと波野さん、自身の食べたい物が食べられないのでは……)


 心配になったまさにその時。


「でも不思議と白石さんとは味覚が似ているのでしょうか。デコみかんもイチジクも。ライムやラムレーズンと同じぐらい、食べたかったんですよね」

「そ、そうなのですか……男性でイチジクが気になるって……珍しい気もします」

「東京に住んでいたら、自分から食べることはないと思います。でも瀬戸内って、イチジクが結構有名なんですよ」

「え、そうなんですか!」

「尾道もそうですし、岡山や香川、淡路島でも栽培されています。中島では作っていると聞かないですけど、フェリーで入ってくるので、旬の時期によく食べます。ジャムも美味しいですよね」


 アラサー28歳の人生の中で、イチジクが好きという男子には初めて会いました……!


「というか白石さん、溶けるんで、味見するなら早く、早く!」

「あっ、そうですよね! では遠慮なく、いただきます!」


 ◇


 ジェラートをいただくと、朝食を存分に食べ、落ち着いていたはずの胃袋が覚醒し「そろそろお昼ですか?」と騒ぎ出す。


「生口島から大三島まで、五分ぐらいで着いちゃうので、少しだけ我慢してください」

「だ、大丈夫ですよ! このお腹の虫は気にせず! それより橋、多々羅大橋が楽しみだな~!」

「お腹が鳴るのは生理現象です。恥ずかしがらなくていいですよ。俺もよく鳴りますし」


 なんて会話をしている間にも、大三島に到着してしまう。


「鮮魚と海鮮料理のお店があるので、そこへ行きましょう」


 向かったお店は海沿いで、駐車場から海がバッチリ見えていた。お店に入ると生け簀もドーンとある。座敷は家族連れ、サイクリスト四人組などで埋まっており、テーブル席に案内してもらえた。


「私たちの次で満席ですね」

「まだ十二時前ですが、人気ですね」


 そんなことを話しながら、さて何を頼むかとなる。


「ここはひらめの養殖場があるので、ひらめはイチオシでしょうね」

「限定八個のひらめの茶碗蒸し。気になります!」

「そうしたら……ひらめも含めた四種盛りのお刺身定食、ひらめと鯛の唐揚げ定食にしますか。単品でひらめの茶碗蒸しを一つ追加で」

「波野さん、茶碗蒸しは?」

「味見をさせてもらいます」


 ジェラートで波野さんと味見するのが当たり前となったけれど……。


(料理をシェアするのとも違う、注文した料理の食べ比べのための味見。これまでより波野さんとの関係が深まった感じがするのは、気のせいかなぁ)


 旅を通じて波野さんとの心の距離も、どんどん縮まっている気がする。


(推しだから愛でる……そう肝に銘じているものの。強靭な精神の持ち主――というわけではない)


 縮まる距離にいろいろ期待しそうになるが……。


(いやいや、推しは神。私は雑草。格差あり過ぎて無理、無理!)


 私がそんなふうに自分自身に喝を入れている間に、波野さんは注文を終えている。すると彼はガイドブックを開き、この後向かう大山祇神社についておさらいを始める。そこで私は大山祇神社について覚えていることを話しだす。


「大山祇神社に祭られているのは、山の神であり、大海原の神、渡航の神……まさに瀬戸内の守り神ですよね」

「だからこそ友坂夫妻も、白石さんに行くことを勧めたのだと思います。そして御神木の樹齢は約2600年。艮神社のクスノキの約三倍。途方もない時間を生きている」

「樹齢が2600年……。古代エジプトが3000年の歴史ですから、それに匹敵する長さ……。すごいことですね」

「それだけではありません。本殿と拝殿は国指定重要文化財、摂社 上津社は愛媛県指定重要文化財。これはしっかり見ないと」


 波野さんがそう言ったところで、「お待たせいたしました~。定食二つ、お持ちしましたよー」とボリューム満点の料理が運ばれて来た。


お読みいただき、ありがとうございます!

木の樹齢のスケール感が半端ないですね(@@)

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