こうなったら……
名物と言われるワッフルを美味しくいただき、その後は宿泊予定のホテルへ向かった。チェックインは15時からなので、スムーズに手続きを終え、それぞれの部屋……シングルルームへ。
移動も多かったし、明日もある。その後は観光より、のんびり過ごす時間にした。泊まったホテルのすぐ近くにアメリカンな雰囲気のダイニングバーがあるので、そこで夕食をとることに。
「……なるほど。牡蠣を取り扱う会社の直営店なので、年間を通じて美味しい牡蠣を食べられるそうです。尾道も広島ですからね。広島と言えば、お好み焼きと牡蠣。牡蠣も食べてみますか、白石さん?」
「そうですね。せっかくなので! やっぱり牡蠣と言えば私の中ではアヒージョ。あとこのオイル漬けも気になります!」
「ではその二つと、おススメの生牡蠣の三種食べ比べを頼んでみましょうか」
「今の時期でも生牡蠣をいただけるなんて! はい! 食べてみましょう!」
明日も波野さんは車の運転があるので、牡蠣に合わせて一杯だけ、尾道レモンハイで乾杯。その後は尾道レモンスカッシュや自家製ジンジャーエールを楽しむ。満腹で部屋に戻ると、胃袋を休めるため、持参していたノートパソコンを起動し、少しだけお仕事。それが終わるとシャワーを浴び、寝る前に律子に今日の旅の報告を行う。
「あー、充実した一日だった。猫にも出会えたし、写真も沢山撮れた……!」
スマホのアルバムを見ると、推しである波野さんと私が映る写真がズラリと並ぶ。
三津浜焼き、尾道ラーメン、恋人の聖地。
天寧寺の三重塔、艮神社のクスノキ、ワッフル、牡蠣料理。
今日巡った地のすべての写真に波野さんと私がいる……!
(友坂夫妻がゾーンに入ってしまった時は「ああ、仕方ない」という気持ちだった。瀬戸内観光はできないと、諦めと残念な気持ちもあったのだけど……。今となってはまさに禍を転じて福と為す――だと思う!)
こうして私は幸せいっぱいで眠りにつき、翌日――。
「おはようございます!」
「……おはようございます」
白のTシャツに、ビタミンカラーのカナリア色のキャミソールワンピースを合わせた私は元気一杯。対してスカイブルーの半袖シャツに、ベージュのスリムパンツの波野さんは、少し疲れているように思える。
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
口では問題ないと言っているが、少し拗ねているように感じる。
そこで朝食を食べながら尋ねると……。
「……白石さんが襲いに来てくれなかったから……」
「!」
「冗談です。……少し、仕事をしていただけなので、気にしないでください」
波野さんもこの旅でノートパソコンは持参しており、どうやら私と同じように、昨晩仕事をしていたようだ。
(少し拗ねた顔で「襲いに来てくれなかったから……」なんて言うとは……! 波野くん、小悪魔だわ!)
とにもかくにも瀬戸内旅行二日目がスタート!
まずは尾道を出発すると、昨日眺めた尾道大橋を通ることになる。橋を支える巨大な主塔が見えて来ると、テンションがつい上がってしまう。しかも二つの主塔は同一デザインで同じ高さ。遠くで見た時は、二つの間に距離があるように思えたが、車だとあっという間だった。一つを通過したと思ったら、すぐに二つ目の主塔も通り過ぎている。
「あ~、終わっちゃいました」
「白石さん、主塔マニア?」
「違いますけど、東京では車より、電車ばかり。こんな橋を渡らないので……」
「今日はしまなみ海道を走るので、まだまだ主塔を見るチャンスがありますよ。因島大橋の吊り橋、生口橋の斜張橋、多々羅大橋の主塔は最大じゃないかな」
「そうなんですね……!」
「うん。今日はこのまま生口島へ行って、その後、大山祇神社のある大三島へ向かうから」
(この迫力のある景色をまた楽しめるんだ♪)
「あ、白石さん、嬉しそうですね」
「はい! お楽しみがまだあるってわかって、嬉しくなっちゃいました!」
私の言葉を聞いた瞬間、サングラスをかけ、車を運転する波野さんの口元がほころぶ。
「……白石さんって、どんな些細なことでも喜べるんですね」
「あ……おこちゃまですみません!」
「褒めているんですよ。素直でいいじゃないですか」
「!」
推しに褒められた私は嬉しくて全身の血流がよくなってしまう。手でぱたぱた顔を仰ぐと「冷房の温度、下げます?」なんて聞かれてしまう始末。そこは「大丈夫です!」なんて答えると、すぐに因島大橋が見えてくる。
「白石さんのお楽しみの主塔、間もなくですよ」
◇
最初の目的地である生口島までは渋滞なしの快適ドライブ。生口橋でも主塔を楽しみ、そして島に到着した!
「今日はてっきり大三島へ、寄り道なしで向かうのかと思っていました」
「もし天気が悪かったらそうするつもりでした。ですが今日も快晴で、生口島には『島ごと美術館』があるんです。アートに興味がある白石さんが楽しめると思い、今回は二箇所のアートを訪ねてみようと思っています」
波野さんによると、生口島には十七箇所のアートが点在しており、車で巡ることができるという。
「一つ目は『ベルヴェデーレ瀬戸田』という作品です。運がいいと、作品の一部になれます」
「作品の一部になれる!?」
それはどういうことかと思っていると……。海の上に、巨大な黄色いリングが見えてきた。
「え、もしかしてあれですか!?」
「そうです。あ、ついていますね! リングは海の上に設置されていますが、ちょうど干潮で潮位が低いから、アートの一部になれます!」
どういうことかと思ったら、巨大なリングは二つあり、そのリングをつなぐ通路に、潮位が低い時は上ることができるのだ! 自転車でやって来た大学生らしき三人組が、一足先に通路につながる階段に向かい、雄叫びを上げている。
「アートの一部になって写真は撮れる……でもそうすると、一人ずつになってしまいますね……」
「そうですね。波野さん、先にどうぞ。私が岸から写真を撮りますよ!」
「別に俺はどうでもよくて……あ、すみません!」
なんと波野さんは後からやってきた車のカップルに声をかけ、順番に写真を撮らないかと持ち掛けた。カップルはアートの一部になったツーショット写真を撮りたかったようで、波野さんの申し出には快諾している。
「じゃあ、行きましょう、白石さん!」
「は、はいっ!」
靴下とスニーカーを脱いで階段を上り、通路を進んで円の真ん中へと向かった。
「こうなったらポーズは……これしかないでしょう!」
波野さんは私と肩を組み、そして私は右手を、波野さんは左手を、お互いの頭の上の位置まで持って行き……。
「アートのリング、白石さんと俺でリング! 完璧じゃないですか!」
「なんだか波野さん、テンション高いです! それにこんなポーズを率先してやってくれるなんて……!」
「せっかくここまで来たのですから、楽しまないと」
そう言うと波野さんは岸にいるカップルに合図を送り、写真を撮ってもらう。
私はもういつになくテンション高めの波野さんに……推しにドキドキしっぱなし!
「じゃあ、岸に戻りましょう。次はあのカップルの写真を撮ってあげないと。それに潮位は刻一刻と変化するので」
「もしかしてこういう写真、いつも撮れるわけではないのですか?」
「はい! 潮が満ちたら撮れないですよ! いい思い出の写真を撮れましたね!」
波野さんが白い歯を見せ、輝くような笑顔になった。
お読みいただき、ありがとうございます!
酒盗マニアならぬ主塔マニア。激レア!?
ちなみに最後のおまけ写真の主塔は
世界初の3連吊り橋で知られる来島海峡大橋です♪
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