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せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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14/29

前歯に

「……白石さんが俺の恋人なら、気楽に甘えてくれるんですか?」


 まさに爆弾発言がなされた直後。


 ボーッ。


 一際大きく汽笛が鳴らされ、フェリーが動き出す。


 さらに。


「もうマジ受ける!」

「え、でもせっかくの修学旅行なんだよ!」

「明日で終わりだよ? 無理じゃね?」

「えーっ」

「さち~、私、飲み物欲しい~」

「ねえ、トイレ行かない?」


 修学旅行らしき制服姿の男女がドバッとデッキ席にやって来た。

 しかも……。


「あ、見て。やば! あの人、芸能人じゃない!?」

「本当だ~! え、映画で観たことない?」

「え、俳優がいるの!?」


 波野くんを見つけた女子学生たちが騒ぎ出す。


 こうなると波野くんはサングラスをかけ、席から立ち「一階へ行きましょうか」と私に尋ねる。「そうですね」と学生たちを回避し、その後は――。


 波野くんは知り合いが貸してくれた数年前の瀬戸内のガイドブックを持ってきていた。それを一階席で座り、眺めることになり……。


――「……白石さんが俺の恋人なら、気楽に甘えてくれるんですか?」


 この言葉……残念ながら宙に浮いた状態。


(真意を知りたいが、知るのが怖い! だって私は自分がいいように考えてしまうが、波野くんは……私が言った言葉を、言い換えたに過ぎないかもしれないのだ。それに、それに! 仮に私が「そうですね。波野さんが私の彼氏なら甘えます!」なんて超絶上から目線で言ったとしても。「あ、そうですか。でも付き合いませんよ、白石さんとは」と、あっさり、さっぱり、ばっさり、それはもう一切の迷いなく言われてしまう可能性があるのだ)


 ということを考えた結果。


(いい。あれは推しが言ってくれた嬉しい言葉No.1として私の脳に刻んでおけばいい。そうすれば永遠にあの言葉を思い出し、幸せな気分になれる!)


 健全な推し活精神を維持することで、無用に悩むことはなくなり、無事フェリーは三津浜港に到着した。


 ◇


「はい、いらっしゃい!」


 三津浜港に到着し、向かった先は朝の9時30分から営業している三津浜焼きのお店!


 カウンター席は6席で、波野さんと私が入店すると、座敷も埋まり、満席となる。


「ギリギリセーフでしたね」

「朝のこの時間からお好み焼き、しかもお酒を飲めるとなると、一定の需要を満たすのでしょうね」


 時折、波野さんは冷静に分析をするのだけど、そんなところは彼が理系男子であることを思い出せる。


「あら、ハンサムさんに別嬪さん! どうする? お好み焼き、焼く?」

「はい、お願いします!」

「ハンサムなお兄さんは大学生? ビール、飲む?」

「あ、自分は車の運転があるので大丈夫です。白石さんは飲む?」

「私も大丈夫です! こんな朝から飲んだら……せっかくの旅行なのに爆睡しちゃいそうなので」

「まあ、まだ若いから大丈夫よ。ビールに合うわよ、うちのお好み焼き」


 こんなふうに勧められると、飲みたくなるが「途中で運転の交代をするかもしれないので」とここは我慢で辞退。


(ペーパードライバーだけど、免許は持っている。それに本当に運転を交代するかもしれないしね。何より、飲むなら波野さんと一緒がいい!)


 そう思い、辞退したわけだけど……。


「やっぱり白石さん真面目ですね。飲んでくれて良かったのに」

「え、でも……」

「酔って、少し不良になってくれた方が、こちらとしても都合がいいのですが」

「えっ!」

「そんなふうに顔を赤くされたら……何もできませんね」


 私は真っ赤になり、波野さんは眼福な笑顔でクスクスと笑う。


(い、今のは冗談だとわかっているけど、ずるいわ波野くん……! あのセリフで平常心を保つなんて……無理ゲーですよ……!)


 もう心臓がバクバクだが、目の前の鉄板でお好み焼き……三津浜焼きの調理が始まると、その香りと音で目が釘付けになる。


 まずは茹でた麺をソースを絡めて鉄板で炒めるので、もう食欲をそそる香りが店内に漂う。そしてそれは何度も繰り返されているので、お店の中は常にほんのりソースの香りが漂っているように感じられる。


「生地が薄いですね」


 波野さんも興味津々の様子で眺めている。


「本当に薄いですね。きっとパリパリな気がします!」

「そしてキャベツ、肉、あれは……ちくわかな?」

「はい、ちくわです! 紅白のちくわを載せるのが、三津浜焼きの特徴の一つみたいですよ」


 そして焼きあがると、青のりと削り粉をふりかけるのが三津浜焼きらしい。


「はい、どうぞ~」

「「ありがとうございます!」」


 美味しそうな湯気と香りを漂わせる三津浜焼き。

 スマホで写真撮影していると……。


「! 波野さん、どうしてご自身の三津浜焼きを撮らないのですか?」

「え? 今、三津浜焼きと白石さんを撮影したので」

「私!?」

「ほら、すごくいい笑顔をしているじゃないですか」


 そう言って波野さんは自身のスマホ画面を見せてくれる。


「……! そ、そんな……そんな、あ! あ、あの、私も波野さんと三津浜焼きのツーショットを撮っていいですか!?」

「……いいですけど、それなら白石さんも一緒に」

「え!」


 泰ノ山城跡の時と同じように、波野さんが私の肩を優しく抱き寄せ、スマホを持った手を伸ばす。やはり波野さんに近づくと、レモンの爽やかな香りが漂う。


(初恋の味はレモンだっけ……)


「白石さん、少し上を見てください」

「は、はい!」


 ドキドキしながら写真を撮り終えると「ほら、白石さんも一緒の方が、断然、華があります」と波野さんは言ってくれるが……。


(推しの言葉が尊過ぎてキュン死しそうな件……)


「……白石さんの顔は隠してぼかすので、この写真、SNSに投稿してもいいですか?」

「! 波野さん、SNSやっているのですか?」

「一応やっています。この一年ぐらい、ずっと更新していなかったのですが……。でも今日は白石さんとの瀬戸内旅行の初日ですし、せっかくなので……思い出に」

「なるほど。私は別に構いませんよ」

「ありがとうございます。では食べましょうか」

「はい!」


 わざわざ朝食を我慢して食べた三津浜焼きは……。


「生地が想像通りのパリパリですね」

「麺も外側がパリッとして、中がもちもちで美味しいですね~! あと削り粉とソースの風味が効いて、これは……ビール飲みたくなります。……今度は徒歩で来ましょう、波野さん! フェリーで一時間弱ですから、ここまで。車はなくても余裕ですよ!」


 これを聞いた波野さんはとても嬉しそうな笑顔になる。


「フェリーでふらっと出掛けるが当たり前になる。それ、もう島の住人です。白石さんも立派な中島の人になりつつありますね」

「……! それは嬉しいです……! ありがとうございます……!」


 なんだか今の一言は。波野さんから“仲間”だと認められたように感じてしまう。だから……。


(とっても嬉しい!)


 ビールは飲んでいないが、波野さんの一言で私はハイテンションになる。


 こうして三津浜焼きをぺろりと平らげると……。


「では尾道へ向かいましょうか」

「はい!」

「白石さん」

「?」

「青のり、前歯に」

「あ!」


 三津浜焼き、たっぷりの青のりは風味が効いて美味しいのだけど……。

 前歯の青のりには注意!だった。


お読みいただき、ありがとうございます!

前歯に青のりはあるあるですよね(笑)

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