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81話 念願叶う 〜吸盤付きアロー

「出来ました!」


 研修生達の一日の訓練も一通り終わる頃、私も午後の淑女訓練を終えて訓練所に戻った。

 ある物を大量に持って。


 私が大声で叫びながら入って来たので、訓練生達は皆注目してくれたようである。


 よし!


『吸盤付きアロー!』


 テレレテッテレー!と、某猫型ロボットが道具を出すが如く掲げて見せると、全員が呆れたような目をしている。

 ちょっと興奮しすぎたか。


「アシュリー、それはもしかしてアレか?」


 王子が怪訝(けげん)そうな顔で聞いてくる。


「そうです!王子殿下のお望み通り『飛んで来る武器』です!」

「望んでないわ!」



 私の誕生日は本当に色んな事があったが、あれから何事もなく充実した日々を送っている。

 ザックの様子もトムから毎日聞いて、昨日は顔も見に行った。


 今日は、ヨアブに頼んでいた『ダブルおうじ』の訓練に使う飛び道具が出来たのだ!

 見た目は弓矢であるが、この(やじり)部分はラテックスもどきの吸盤になっている。ヨアブ作の吸盤に、私がちょちょっと魔法をかけた特別製である。


 皆がもの珍しそうに弓矢を見始めた。


「アシュリー様、これも訓練に使うものですか?」

「ゴードン様、これは『特別訓練』の為に作りました」

「特別訓練ですか?」

「はい。察知能力、反射神経、動体視力を上げる為の訓練で、王子殿下のように命を狙われる可能性がある方は早急に能力を上げる必要があるのです!」


「この鏃は変わった形だな。しかも柔らかい」


 そうなのだ。

 最初はラテックスもどきで吸盤形にしただけだったのだが、ヨアブが心配そうに言ったのだ。


『お嬢様。これではまだ硬いのではないでしょうか。お嬢様のお力で射られて当たったらきっとかなり痛うございますよ』と。


 それで思いついて魔法をかけたのだが、ただ柔らかくしただけではない!



「王子殿下。この鏃は私と庭師の合同作品で特別製なのです。当たっても痛くないように考えてありますので、これなら安心でしょう?」

「いや、安全ではありそうだが、安心ではないと⋯」


 ちっ!

 ちょっと鋭くなったか。


「では、手本をお見せしましょうか。少々お待ちください」



 私は騎士団へ行って、弓矢の得意な騎士を4人連れて来た。一人に矢を3本ずつ持たせて、バラバラに配置し、自分は彼らから15mくらい離れて立つ。本当はもっと近くても良いのだが、一瞬過ぎて見学者に分からないと意味がないからな。


「では、射ってください!続けて射って構いません!」


 四方から矢が私めがけて射られたが、それらを全て木剣で叩き落としたり回転して避けたりし、最後の一本を掴んで見せると、研修生達から大きな拍手と歓声が飛んだ。


「さすがです!アシュリー様!」

「動きが非常に美しい!」


 そ、そぉか?

 ちょっと照れるな。


「本来ならこのような何も無い所ではなく、外で訓練する方が良いのですが、まずは前方からだけの練習をいたしましょう。王子殿下、あちらに立ってください」

「え?もう私が?」

「他に誰が?」

「えーと⋯やはり、私だな」


 一瞬デヴィッド君を見ようとして止めたようだ。

 よく分かっている。


「では始めましょう」


「ちょっと待て!何故アシュリーまで矢を持っている!」

「私、弓矢は得意ではありませんので、このまま投げようかと思っております」

「そういう意味ではないのだが⋯」

「大丈夫ですよ、先程より間隔を空けて矢を射ってもらいますからね」

「分かった⋯」


「では、始めっ!」


 騎士は順番に矢を射っていく。

 もちろん私は投げる。


 王子は、必死で飛んで来る矢を木剣で打ち払おうとするが、続けて飛んで来る矢全てに対応は出来ず、半分以上当たっている。

 私が投げた矢は全て当たった。


 私が目掛けた場所に、ピッタリと。



 手持ちの矢が全て射られたので終わった合図をするが、全員が無言だ。まぁ、無言になる気持ちも分からないでもない。


 王子は頭とおでこに3本の矢をくっ付け、身体にも7本の矢をくっ付けた状態でこちらに歩いて来る。


 そう!

 念願の「おでこにピッタリ矢」の完成だ!


 学園で王子の鍛錬を始めた時にやりたかったことが、数ヶ月を経た今、叶ったのだ!

 頭に刺さった2本の矢が、これまた落ち武者のようで完成度が高いと思う。

 写真が撮れないのが残念でならない・・・。



「エドゥアルド、笑いたそうだな」

「まぁ、我慢できますよ」

「笑いたいってことじゃないか!」

「よく分かりましたね」


「もういい。アシュリー・・・この頭の矢は全て君だろう」


 うっ!

 鋭い!


「そうでしょうか、ちょっと分かりません」


 王子は矢を取ろうとして「これはどうやって取るのだ!」ともがいている。


 ふふふ⋯私の魔法で、時速30km以上の速さで飛んで行った場合はどこにでもくっ付くようになっているのだよ。普通に触っただけでくっ付いたら面倒だからな。衝撃を拡散吸収するようにもしてある。柔らかくても刺さったら大変だ!


 私ってば天才じゃない?


「これは魔力をほんの少し流すと外れるようになっています」

「そうか…手が込んでいるな」

「はい。こうすれば、何本がどこに当たったのかが後からでも分かりますでしょう?鍛錬の為に作られた優れものだと思いませんか?」

「そ、そうだな⋯」


 よし!

 私が頭ばかりに矢を投げたことはごまかされた!


 まあ、王子のおでこにくっ付けるという念願は果たされたので満足した。これからは本気でやらせてもらう。


「王子殿下は15本中10本当たっております。前方のみで多いような気がしますが、最初ということを考えますとまずまずといったところでしょうか」

「そうか?」

「しかし、これが本当の弓矢でしたら、1本でも命に係わります!安全ではありますが、訓練ではそのおつもりで挑んでください」

「分かった!」



「王子殿下には急務ですので強制的に訓練していただきますが、他にもこの訓練をお望みの方はいますか?」


「僕、やりたい!」

「「「私も!」」」

「私もお願いしたい」

「私も是非!」


 おっと!結構な人数になってしまうな。

 矢が足りるかな?


「私もお願いしたいところですが、ギルフォード殿下の訓練の(さまた)げになってもいけません。次回またお願い出来ればと思います」

「はい、研修は来年も続くでしょう。この特別訓練もご用意します」

「私は次も必ず来るつもりだから遠慮しようか。まだあと2年はある。それまでに自分である程度鍛錬しておきたい!」

「そうだな、あまりに無様な状態では、矢を射る騎士殿に、申し訳がない」


 皆律儀だな・・・。


「僕は次に来れるか分かんないから・・・」

「私は、殿下と共に行動するので、同じ様に急務であると思います」


 なんと!

 エドゥアルド様は最初からやる気だったようだ。


 と、いうことで

 参加者は王子とエドゥアルド様とデヴィッド君に加え、最高学年のメイビル様とヨナ様の5人となった。メイビル様とヨナ様は矢を射る方にも加わりたいとのこと。二人共結構出来る人だったのでありがたい。


 毎日、訓練が終わった後、半刻ほどをこの特別訓練の時間にすることにした。




「まずは目に頼った場合ですが、一本の矢を見ながら全ての矢を見るのです」

「そんなことができるのか?」


「王子殿下、私の顔を見てください。そうです・・・そのまま視線はそらさず、隣にいるヘクターの顔は見えますか?」

「見える」

「では、少し離れた赤髪の騎士は見えますか?」

「見える」

「では、もっと離れたソルは見えますか?」

「見える・・・手を振っている」


「そういうことです。見えているのに、意識してないと視界に入っていないと思っているだけなのです。人間は広い範囲を見ることができるのだということを忘れないでください」

「そうか…分かった」



「次は反射を早くすることです。剣でも矢でもその動きを予測した対応ができるのが一番です。それにはやはり訓練するしかありません。頭で考えるだけで動けるものではありませんが、何も考えずに訓練していても上達しません」


「アシュリーは考えているのか?」

「もちろんです。相手が足を一歩動かしただけでもその後の動く方向が分かります」

「そ、そうか・・・さすがだな」

「王子殿下もできるようになりますよ」



「最後に一番難しいことかもしれませんが、気配察知こそ一番身に付けて欲しい能力です!気配を察知する訓練を王子殿下には以前しましたので、ある程度はできると思います」


「ああ、あれか⋯」


「言葉では説明し辛いので・・・空気の動きを感じると言いますか、全て感覚なので上手く説明することが出来なくて申し訳ありません」


「・・・まぁ、自分でも何となくは分かるか」



「ではそれらを意識して挑戦してみましょう!」

「よ、よし!」



 王子に向かって、扇方に広がった射手から時間差で矢が放たれると、意識しすぎているのかかなり中途半端に矢を木剣で打ち落としている。

 一応、全ての矢に反応はしているようだが、2本刺さった。


 2回目も2本。

 3回目から5回目は1本。

 6回目は1本も刺さらなかった。


 王子はなんだかんだ、習得が早い。


 次のヨナ・ビュートは4回目で全て打ち落とし、その次のメイビル・ハンティントンは7回目で全て打ち落とした。


 デヴィッド君は最初から全て打ち落とすことが出来たので、王子達より差を縮めて連射したところ、2回に1回は1本刺さってしまうのが続いた。


「あと一本なんだけどな…」

「デヴィッド様なら全身で反応するようにすれば、撃ち落とさずとも、半分は避けられます」

「そうかな」

「はい。移動する時の動作を最小限に・・・」



「次はエドゥアルドだな。お前に矢が刺さった所が早く見たい!」

「趣味が悪いですね」

「笑うのは我慢してやる」

「それはありがたいですね」

「クッ!動じないのがエドゥアルドだった…」

「無駄なことを…ご期待に添えるかは分かりませんよ」

「なに!?」



 私がデヴィッド君と話している間、王子とエドゥアルド様がまた何やら漫才をしていたようだ。



 エドゥアルド様の番になり、王子達と同じ時間差に戻そうと思ったら・・・


「私にもデヴィッド様と同じ速さでお願いします」

「なんだと?」

「分かりました」


 何故王子が反応しているのか…。


 そして、なんと!

 エドゥアルド様は最初から全て打ち落とした。


「もっと早くても良さそうですね」

「はい、お願いします」


 また全部打ち落とした。


「では、もう少し範囲を広げましょう!」

「はい!」


 射手の広がりを120度くらいだったのを倍の240度くらいに広げたら、最初は3本刺さったが、4回目には全て打ち落とすことが出来た。


「素晴らしいです!エドゥアルド様はさすが気配を消せるだけのことはありますね。察知能力に長けているようです」

「父から特訓されましたから」

「まぁ!宰相様が!?」


 やはり、宰相様は只者ではなかったか!


「クッ!笑えん・・・」


 王子よ、悔しさは鍛錬で補うのだ!






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