80話 デヴィッド君の事情
「デヴィッド君。多くの情報に感謝する」
「お役に立てたなら良かったです!」
そうだよな、彼が色々と暴露してくれたから、これだけ話が進むのが早かったのだ。まぁ、何でそこまで知ってるのかってのは疑問だけどな。
多分、お父様はそれを聞き出すつもりなのだろう。デヴィッド君が喋るかどうかは分からんが。
あれ?もしかしてお父様は知ってるのか?
そういえば「儂くらいになれば容易い」とか言ってたよな。
「君は公爵と食事を共にするほど親しいのかね?」
「僕は親しいつもりはないけど、僕が帝国の第三皇子だから向こうは親しくしたいのかも」
「「「ええっ!?」」」
「「「なんだとっ!?」」」
喋ったーーーーー!
しかも、いとも簡単に!!
皆、驚いて固まってるよ。
いや、私も驚いたけど。
お父様も驚いてるってことは、知らなかったのか?
クラリッサは?
うん、一応驚いてはいるけど、皆みたいに固まる程ではないな⋯。
「あれ?グレンヴィル辺境伯は知ってたんですよね?僕の本当の名前知ってたし」
やっぱり、あの名前はデヴィッド君の本名か。
「あ…ぁ、まさか自分から話すとは思ってなかったから驚いた」
「辺境伯にバレてるのに隠しても仕方ないし。何てったって、アシュリーに嘘つきたくないからね!」
そうか!なんて良い子だなんだ!!
ニッコニコの笑顔で私の方を見てくるのが可愛いではないか。
「そうだったのですね!デヴィッド様の剣術は帝国で教わったものですか?あの、剣先を必ず相手に向ける姿勢は独特ですね!」
「うん、城にいる頃は剣術の先生がちゃんといたよ」
「まあ!その先生は強かったですか?」
「うん、もちろん!帝国では先生より強い人はいなかったよ。グレンヴィル辺境伯みたいにね!」
「えぇっ!お父様ほどに強いお人なのですね!」
「そう!権力に興味がない所も一緒だよ。父上も先生には命令とか出来なかった」
「立派なお方なのですね!」
「ちょっと待て、論点はそこではないだろう」
「何か?」
何か問題があったか?
「デヴィッドは帝国の皇子なのだぞ?」
「そうですね」
「アシュリー様は、僕が帝国の皇子でも変わらないね!」
「もちろんです。ここにも王子が一人いらっしゃいますし、帝国の皇子が一人くらいいても良いではないですか」
「ちょっと待て!この国の王子と帝国の皇子を一緒にするな!」
国の一番偉い人の子供ってことは一緒だと思うのだが。
「何故ですか?デヴィッド様はデヴィッド様で良いではないですか。王子殿下は今まで知らずにいたのでしょう?これからも知らなかったと思えば良いことです」
「いや、そういう訳には・・・」
「王子殿下は狭量ですね。何をそれほど憂慮なさるのですか?」
「いや、それは・・・」
「プッ…」
エドゥアルド様が笑ってる?
「ククッ…」
デュラン団長も?
「あー⋯アシュリー。ギルフォード殿下も、一国の王子として、彼が何故このモントローズの国民の振りをして滞在しているのかは知らねばならないだろう」
「そうなのですか?」
「いや、まぁ…一応は犯罪と言えば犯罪だからな」
そうか・・・。
「公爵との繋がりもはっきりさせておかないと遺恨が残るのではないか?」
そう言われてみればそうかもしれない。
このまま聞きたいことを聞いておけば良いのだな。デヴィッド君はニコニコしたままだから、話してくれるだろう。
「では、聞いておきましょう。帝国の皇子だと何故公爵は親しくしようとするのですか?」
「公爵にとっては、これから手を結ぶ帝国の大切なお客様なんだろうね」
「実際は違うと?」
「うん、公爵は知らないだけ。僕は父上には、あ、父上は皇帝のことね。父上にとっては要らない皇子だろうから」
「・・・どうしてそう思うのです?」
いくら皇帝でも、自分の息子を要らないなどとは・・・
「だって、僕、殺されそうだったから逃げて来たんだもん」
「「「え!?」」」
思いがけない返答に、皆が再び驚いた。
「本当は逃げて来るつもりはなかったんだけど・・・母上が・・・」
それから、デヴィッド君は自分の生い立ちを話し始めた。
皇帝には9人の皇子と8人の皇女がいたらしいが、今では何人減ってるかも分からないと言う。
デヴィッド君は7番目に生まれた子供で、1番目の皇子とは3歳しか違わないというのだから、何人に生ませたのか疑問だ⋯聞きたくはないが。
全員生きていたら、本当は第四皇子だったらしいが、第一皇子と同い年の第二皇子が10歳で死んだ為、第三皇子となった。死んだ理由は川で溺れたと言うが、どうだか分からない。
というのも、死んだ第二皇子はとても賢い優れた子供で、皇帝に一番相応しいと言われるほどだったらしく、泳ぎも達者で溺れるなどありえないとデヴィッド君は思っているようだ。
何となく背景が見えるな・・・。
そして次は自分に向けられる周りの目に怯えたのだろう。どう考えてもデヴィッド君は優秀な部類の人間だ。
「デヴィッド君が自分を『僕』というのも、話し方も、優秀さを隠す為なのではないですか?」
「・・・・・・最初はそのつもりだったけど、もうこれが普通になったよ」
やはり。
「剣術でも、勉強でも、絶対兄上達を追い越さないようにしてた・・・でも・・・」
「決定的な何かが起きた」
「うん。僕が乗るはずだった馬の鞍に細工がしてあって、馬は暴走⋯もしその馬に乗ってたら死んでた。可哀想にその馬に乗った僕の従者は・・・」
従者を亡くしているのか、それは辛いっ!
「僕のせいで、彼は死んだ」
「それは違います。貴方のせいではなく犯人のせいです!」
「そうなんだけど・・・」
「貴方は何も悪くありません。間違えてはなりません!」
ひとつ確認したいことがある。
「第二皇子が亡くなった時、皇帝はどのような様子でしたか?」
「父上は無関心⋯なのかな?でも全て見透かしているような・・・結局、最後に残った者が勝者だって考えなのかも知れない」
何だそれは!
「昔、父上に『蠱毒』の話を聞いたことがあるんだ」
「こどく?」
「蠱毒ってね、毒を持つ虫とか蛇とかを小さい器に閉じ込めて、最後の一匹になるまで戦わせるんだ。そうして残った奴で呪う・・・そういう恐ろしい呪いの魔法」
ん?
漫画か何かで読んだ気がするぞ。
「父上は、そういうことが出来る人なんだな…って思った。呪いの魔法が使えるのかは分からないけど、子供も虫と同じで、勝手に戦わせて眺めて楽しめる人なのかもって」
何て気味の悪い皇帝だ。
人の血は流れていないのか…もしかして、青か緑の血が流れているのかもしれない!
「あの時母上が僕を逃がしてくれなければ、今頃この世にいなかったと思う」
ここからの話も驚くことばかりだった!
かなり前から、帝国は密偵をこのモントローズに送り込んでいるようで、まぁ、その辺は何処の国でもやっていそうなのであるが・・・
なんと、密偵の一人はアトール公爵家の執事だと言うではないか!
何年もかけて洗脳していったのだろうな。
公爵も阿呆だな。
モントローズの第一王子がデヴィッド君と同じ年であることで、彼も密偵にしてはどうかとデヴィッド君の母上が皇帝に進言したそうだ。
モントローズへ入国する道中でも、モントローズでも、正体が露顕したり、何が起こるか分からぬ状況で子供を他国に追いやろうするなんて恐ろしい母親だと思いそうだが、そうではなかった。
母親は帝国で殺されるのを待つより、モントローズに逃がすことに賭けたのだった。
出発の前日、母親がこっそりと告げたそうだ。
「何をしても生きなさい。もしモントローズに貴方の生きる場が見つかったなら、そこで生きなさい。この母のことも帝国のことも気にする必要はありません」
危険な賭けだったな。
でも、デヴィッド君は生きているので良い。
これからだ!
公爵の(というより執事の)手引きで、楽団に混じって大回りをしながらモントローズに入国し、その後カーライル子爵家の隠し子だったとして、入学前に子爵家の子供になったのだそうだ。
そこで、問題なのが、デヴィッド君が代わりにした平民で魔力塊持ちの子供は、魔力解放もされぬまま普通の学校に通っているらしく、デヴィッド君はそれがいつも気になっているらしい。
それは後々良くないのでは?
口封じに消されてないだけ良いのか?
しかし、そうやって考えると、入れ替わるのって結構簡単に出来そうである。コーク領の女生徒も⋯。
もう少し戸籍とかしっかりした方が良いのではないか?学園の通行証のように血の証明をするとか・・・まぁ私が考えることでもないか。
さて、ここまで聞いて王子はどうするのだろうか。
私がジーッと王子を見つめると、オロオロとしだした。
「アシュリー!そんなに睨まないでくれ!悪いようにはしないと約束する」
あれま、無意識で睨んでいたようだ。
「今、彼が帝国の皇子だと公になることは絶対避けなければならないだろう。だから、アシュリーが言う通りデヴィッド君はデヴィッド君のままだ」
「そうですか!良かったです」
「デヴィッドも、誰にも露顕してはいないという前提で動いてくれ」
「うん、分かっ…りました。殿下ありがとう!」
「い、いや⋯まぁ、クラスメイトだしな」
デヴィッド君のニッコニコ笑顔に照れている王子⋯あまり可愛くはない。
「僕、学園入った頃はギルフォード殿下はチョロそうだし、密偵としてがんばるのもいいかなって思ってたんだけど⋯」
「なん、だと?」
「あ、怒らないで聞いてね」
「・・・」
チョロそうだというのは私も同感だ!
「殿下は誰でも分け隔てなく話すし、チョロくても好かれてて、帝国の皇子達とは全然違ってて凄いなって思ったんだ」
「そ、そうか。今ひとつ褒められている気がしないのは何故だ⋯」
「褒められてないからでは?」
「エドゥアルド、うるさいよ!」
「高等部に上がって、騎士科になって、学園で僕に剣術で勝てそうな人がいなくて、この程度なのかって思ってたんだけど⋯」
「アシュリーが編入して来た」
「そう!編入前に騎士科へ来た時に見てびっくりした!グレンヴィルの人ってこんなに強いのかって!殿下の暗殺事件の時にアシュリー様が活躍する現場が見られなくて凄い残念だった!」
そうだったのか。
まぁ、あれだけ強ければ、天狗になってもおかしくはないか。
「この研修にも、色んな理由を付けて来させてもらったんだ。一番効いたのは、殿下も来るだろうからって言ったのだけど、本当に来るとは思わなかった。殿下が来てくれて、ちゃんと理由ができたからすごい助かった!」
「そ、そうか…」
「今日の剣術大会で、グレンヴィルの人達の強さをもっともっと実感したよ!ヘクターってば強すぎるよ!僕、あんな簡単に負けたの生まれて初めてだ」
そうだろ、そうだろ。
ヘクターは強いのだ。
(まぁ、私が知ったのも最近だが⋯)
「こんなに充実した毎日が送れるなんて・・・」
「デヴィッド様。まだまだこれからですよ」
「え?」
「研修も始まったばかり。まだまだこれからもっと強くならねばなりません!」
「うん、そうだね」
「それで、デヴィッド様と王子には、暗殺阻止の為の特別訓練を始めようと思います」
「え!?」
「私もか!?」
「王子殿下⋯あの無様な試合は何ですか!攻めどころが全くなっておりません!相手の剣の動きを全く察知できておらぬではありませんか!」
「は、はい…」
「あの…僕は?」
「デヴィッド様も、これからいつ狙われるか分かりません!口封じの可能性もありましょう!生き残る為に己を鍛えるのです!」
「は、はい…」
「アシュリーよ、デヴィッド君にまで特別訓練をするとなると、彼の出自が露顕するのではないか?」
「大丈夫です。特別訓練は志願生のみということにしますので、他に参加したい訓練生も引き受けるつもりです」
「そうか・・・」
「準備がありますので、明日はまだ出来ませんが、近日中に始めます」
「準備?」
「はい、ヨアブに頼みたい物があります」
「また何か作ってもらうのだな。楽しみに待とう」
お父様はいきなり楽しそうに笑った。
お任せあれ!
「僕もちょっと楽しみだな♪」
「お前は経験がないからだ」
「そうなの?」
「ああ、きっと作ってもらうのは『飛んで来る武器』に違いない⋯」
おぉ?冴えてるじゃないか!
その通りだ。
楽しみにするが良い!
「それはちょっと・・・」
「諦めろ」




