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79話 真珠養殖ツアーが役に立った件

 ホールにはいくつもの扉があり、出入口以外の扉はサロンになっている。


 お父様とサロンに入って行くと、既にローレンティア様とゴードン様が待っていた。

 おっと、頭の中でも「ローラ」って呼ぼう♪


 私達の後にも間を空けることなく、王子とエドゥアルド様、デュラン騎士団長とジェイムズお兄様、そしてハロルドお兄様に連れられてデヴィッド君が入って来た。


「揃ったようだな」


 皆が椅子に座ったところで、セバスチャンとクラリッサがお茶を用意してくれる。


「あのぉ…この席に僕はいてもいいのでしょうか?」

「ああ、いてもらわねば困る」

「え?」

「アシュリーの要望だ。だから言ったであろう?目を付けられたと」

「えぇ?」


 目を付けるって悪人っぽい言い方じゃないか?

 もっと他に言いようがあると思うよ!


「コーク領の領民達について、君達に知っておいてもらいたいことがある」

「我が領の?」

「学園の生徒の件だ」

「ああ、お恥ずかしい話を…」

「いや、それがある人物による謀略である可能性があるという話だ」


「「・・・・・!!」」


 ローラもゴードン様も驚いてる。そういう疑いは全く持っていなかったということだ。うちの優秀な使用人が気付いていなければ、もう少しで落ちていたかもしれないが・・・

 アトールのおっさん!今回も邪魔させてもらうぜ!!


「まだ確証は得られていないが、まず間違いないだろう」


 お父様はそう切り出してから、コーク領の生徒達とアトール家の使用人の娘の話を伝えた。二人とも話が進むほどに目が見開かれていく。

 あれはどこまで大きくなるんだろう?目ん玉飛び出そうだよ。


「コーク領は遠いのでな、まだその娘は帝国の人間が入れ替わった者なのかの調べができておらぬ。そろそろそちらの領に着く頃か・・・」

「そのような事までグレンヴィルの方々にご迷惑をおかけしてしまっては…」

「ああ、それは良いのだ。放っておく方が後々危険なのでな」

「何がでしょう?」

「アシュリーがだ」


「「・・・・・・・・・・そうですか」」


 私が危険?

 どういう意味だろう?


「そうまでしてコーク領で何をするつもりなのでしょうか」

「それが先ほど分かったのだよ」

「先ほど?もしかして・・・」

「そう、多分その白い宝石ではないかと思われる」


「でもどうして()()が公爵の手に渡ったのでしょうか」

「デヴィッド君は知っているかね?」

「えーと・・・確か、料理しようとした貝の中に入っていた?」

「誰が料理したのでしょう。貝は日持ちしませんので、その日のうちに調理しなければ食べられません」

「そうだな、料理人が誰の料理人なのか」


「ミランダ様のために取り寄せた魚介だったと思う」

「公爵夫人のミランダ様ですか?」

「そう。ミランダ様が海の食べ物が食べたいって言ったから、コーク領の魚介を凍らせて仕入れてた。ミランダ様はとても貝が好きらしいんだ」

「凍らせて・・・それなら納得です」

「料理人は、ウィルクス伯爵が呼んだ人で、公爵のお気に入りの料理人。王都でもかなりの人気店だよ」


 偶然とはいえ、なんと引きのいい女性だ。

 料理人もきっとここぞとばかりにもて(はや)したことだろう。


「やはりそういったこともあるのですね。どれだけ秘匿しても、昔から噂は流れているのです」


 そうなのか?

 しかし、腑に落ちないことがある。


「ゴードン様。この宝石の名前ですが、どのようにしてそう呼ばれるようになったのですか?」

「あぁ、それまでは『白い宝玉』とか『女神の涙』とか色々な呼び方をしていたようですが、先代のコーク辺境伯、私達にとっては祖父にあたる人がそう名付けたのです」

「長い年月をかけて集めたあの白い宝石でネックレスを作り、王に献上した時に名前が必要だったと聞きました」

「あぁ、それなら私も知っている」


 王子も見たのだろうか、そのネックレスを。


「しかし、その呼び名は聞かされていないな」

「では、その呼び名はコーク領のごく一部の人にしか通じないはずではないですか?」

「確かにそうです」


 やはりか。


「デヴィッド君は何故あの呼び名を知っていましたか?」

「公爵もミランダ様も普通にそう呼んでいたからだよ」


 やはりそうか!


「皆様、公爵と夫人は最初からそれを目的でコーク領の魚介を仕入れているのだと思われます」

「どういうことだ?」

「呼び名を知っていたことが何よりの証拠です。ミランダ様が貝が好きだという事にして、何度も何度も大量に貝を仕入れさせるのに、人気料理店は都合が良いでしょう」

「では、以前に()()の情報を漏らした者がいるということだな」

「はい、多分」


 領民を疑いたくはないだろうが、どこかから漏れているのは確かだと思う。

 そしてそれを偶然耳にしたのか、誰かがご機嫌取りに情報を与えたか、もっと楽に多く手に入れようと画策し始めたということではないだろうか。


 公爵って、結構気の長い奴だな。


「公爵は()()をどうするおつもりなのでしょう」

「私もそれは分かりません。ミランダ様のためでしょうか」

「それもあると思うよ。でも帝国が糸を引いてるんじゃないかな」

「なぜ分かる」

「だって、ミランダ様がいつもキーキー(わめ)いてるから、公爵も仕方なくって感じだと思う」

「キーキー・・・」


 女のヒステリーってとこか?

 何故?


「クラウディア様より自分の方が美しいのにとか?公爵が名前だけの公爵で権力がないとか?王家に献上されたそのネックレスのことも知ってたよ。なんでかな?」


 なんだと?献上品まで知っているとなると、情報を漏らした者はコーク辺境伯と繋がりが深い者になる!

 全員が顔をしかめ、ローラとゴードン様は驚きが隠せないようだ。


 いや…そうとも限らないか。

 王宮の方から漏れた可能性もあるではないか。


「ゴードン様。漏れたのはコーク辺境伯繋がりの者とは限りません。王宮の宝物(ほうもつ)ですから、そちらからの情報もあり得ます」

「そうでしょうか」

「ふむ、そうだな。王宮では関わる者も多いかもしれん」

「公爵の息のかかった者もおりましょう」


 デュラン団長の顔が怖い・・・あれは目星がついていそうな雰囲気だ。

 王子とお父様と何やらコソコソ話し始めた。



 さて、ここで私は先ほどからずっと考えていることがある。

 あのおっさんの計画をぶっ潰すのに、ローラの婚姻を阻止するだけでよいのかと。もっと根本的にコーク領に手を出させないようにしなければならないのではないかと。

 もしかして、海があればいいのであれば、対象はコーク領だけではないかもしれない。


 うーん・・・。


 前世の真珠は、まぁピンキリだったよな?天然のものは高かっただろうけど、そこまで最上級に高価ではなかったのは養殖が行われていたからだろう。

 養殖かぁ~養殖でも1〜2年かかるんだったな。


 ん?

 養殖?



「・・・ゴードン様。少々お聞きしますが、コーク辺境伯様はこの白い宝石がもっとたくさん採れるようになったら困りますでしょうか?」

「え!?ど、どういうことですか?」

「今は争いが起こるほどにとても貴重な宝石ですが、それがちょっと貴重な程度の宝石になるということです」

「えぇ~?意味が良く分からないのですが」


 何と言って説明しよう。

 真珠ができる方法が分かっているというのも変だよな。


「もしかして、アシュリーはこの宝石を増やせるのか?」

「えぇ、私が増やすというよりは、貝が宝石を作る手伝いを魔法でしてしまおうということです」

「できるのか?」

「多分できます」


「「「ええ〜!!」」」


「ですが、その為には私が現地に行き、漁師の方々にあの宝石が作れる貝をたくさん獲ってもらわねばなりません」


 確か、核となるものを埋めてやらねばならないのだが、その作業も魔法でできそうなのだ。それに、核を埋められた貝は弱っているはずであるが、それこそ私の得意分野である。どーんと元気にさせてやろう!


 ・・・いや、巨大な真珠ができても困るからな、適度にしよう。適度に。


 最初は私が手を貸すが、その後はコーク領の人達が頑張って養殖すればいい。ローラに役に立ちそうな魔法を教えれば、彼女の株も上がるというものだ!

 それに、現地に私が行かなくてはできないことなので、コーク領に行けるってことだ!


「アシュリーの考えている事が分かった!あの宝石の価値を低くしてしまおうとしてるんだね」

「そうです、ハロルドお兄様!誰でもちょっとお金を出せば手に入るものになれば、コーク領にわざわざ手を出そうとは思わなくなります」

「ローラへの縁談も消えると」

「はい!」


「そんなことが可能なのですか・・・」

「やってみなければ分かりませんが、多分できるでしょう」

「アシュリー様ならできるような気がします」


「私がお手伝いするのは最初だけですよ。その後はコーク領の産業として根付かせると良いでしょう」

「我々にもできるのですか?」

「はい、急ぐ必要がなく、根気さえあれば、平民でもできると思います」

「平民でも・・・」


「夢のようなお話ですのに、アシュリーが言うと実現するのだと思わずにいられませんね」

「ローラ。実現するのですよ」

「そう、ですね…」

「これは我々兄妹だけで判断できることではないので、父に相談しなければなりません」

「もちろんです」

「父に手紙を書いて返事が帰って来るのは、早くても20日後くらいでしょうか・・・長いですね」


「焦る事はありません。どうせあの公爵も直ぐに動ける手立てがある訳でもないと思います」

「申し訳ありません。つい…」

「お許しが出るのであれば、私が行くまでに準備して欲しいこともありますので、私のお手紙も同封していただけますか」

「承知しました!」


 養殖場を造ってもらわねばならないからな。

 私が行って、チャチャッと造れないこともないだろうが、そこまでやってしまうのは良くないだろう。


 問題は、お許しが出た後でいつコーク領まで行けるかだな。学園が始まる前には無理だと思う。

 研修のこともあるし、ザックの病気のことも気になる。休暇中はグレンヴィルから出るつもりはないのだ。


 そうすると、学園を休んで行くしかない。あの学園には必要な出席日数とかあるのかな?出席日数足りないと落第するとか無いといいが・・・。


 コーク領かぁ〜

 どんな所だろう。


「アシュリーの頭の中はもうコーク領でいっぱいみたいだね♪」

「アシュリーが行くとなると、時期を考えねばならぬな」

「その貝っていつでも獲れるのかな?」


 ハッ!

 そういえば、その問題もあった!


「幼い貝が良いのです!漁に出て獲って来るのではないので、一朝一夕には獲れません。その準備もしてもらわないといけませんね」

「どうやって獲るの?」

「貝の方からくっ付いてもらうように細かい網を仕込みます」


 後は、核を作るのに川の貝を採って来ないとな・・・結構忙しいな。どれくらい真珠を作れば良いかで、作る核の数も変わるのだが、ダイヤモンドと同じくらいの価値にするとしたらどれくらいになるだろう。


「お父様。高価な宝石…例えばダイヤモンドは、どれくらい出回っているものなのでしょうか」

「そうだな…大きさによって価値が変わるからな。大きな物は高位貴族が一つ持っている程度ではないか?」

「細かいものは、他の宝石と共に装飾に使われますので、多くの貴族が持っているでしょうね。アシュリー様がローレンティア様から贈られた宝石を飾っていたのもダイヤモンドだったかと」


 そういえばそうか。

 じゃあ、大きい物だけ対象にすると、高位貴族の家の数って事か。辺境伯以上はすぐに数えられるが、伯爵家っていくつあるんだ?


「では、伯爵家というのは、この国にいくつあるのでしょう」

「確か、今は26家だったはずだが」


 26家か、結構あるな。

 そうすると40家弱が高位貴族ってことか。


 大きなものは単体に装飾して、小ぶりなものはまとめて使うようにしたり、色んなタイプのものを作るとすると…とりあえず、500粒くらい欲しいところだが、すぐには無理かも知れない。

 まあ、いきなり全部出回らなくても徐々に増えていくと思えば大丈夫か。


 ははっ!

 アトール公爵のお抱え業者が真珠を勧めた時が見ものだな。


 見れないのが残念だ。



「アシュリーは何であの白い宝石にそんなに詳しいのだ?」


 ゲッ!

 恐れていた質問が来た!


『前世の家族で真珠養殖ツアーに参加して、自分の真珠を作った事があるんだよ〜!』などと言える訳もない!


「そうですね…不思議ですね」


 エドゥアルド様の興味津々な目が怖いぞ。ちょっと調子に乗って喋り過ぎてしまったかもしれない。

 これはかなりヤバい!


 真珠を知っている理由・・・

 何か良い案は・・・

 真珠・・・

 しんじゅ・・・



「神獣のおかげです!」


「そうか、納得だな」

「何百年も生きている神獣なら、知らぬ事などなさそうですね」


 なんと!

 賢いエドゥアルド様まで簡単に信じてしまった!



『神獣さま〜すまん!許してくれ!!』



『何だ?』

『嘘の片棒を担がせてしまった!』

『あぁ、聞いてなかったから良い』

『そうなの?』

『どうせ大した嘘でもなかろう』

『そうかな?嘘は嘘だよ・・・』

『お前は隠し通すのであろう?ならば、迷惑がかからぬ事を気に病むでない』

『ありがとう!でもやっぱり聞いてたんじゃん!』

『ははっ!分かったか』



 神獣の気遣いがちょっと嬉しい。

 では思いっきり知識をひけらかしても大丈夫って事でやりやすくなった。


 用意するものを皆にも説明して、できるものはコーク領で準備してもらうことにした。あんまり私が何でもやってしまってはダメだからな。

 コークの領民もきっと働き者だ。頑張って準備してもらおう。



 そうして、ローラとゴードン様はサロンを退出して行った。

 後の人達はまだ残っている。


 そう・・・


 これ以降はデヴィッド君の話に切り替わる。







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