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386話 離島研修 ⑪ 〜シュマン王子は四苦八苦

オスカル視点です。

「オスカル様〜♪朝だよ〜♪」


「オスカル!朝だぞ!」


 もう、朝か・・・。


 あれ?

 アンドリースじゃない?

 誰だ・・・。


「う・・・ん。ギルフォード?」


 そっか・・・ここは、獣人の島だった。

 皆はもう起きて・・・


 って、朝っ!?


 あれっ?

 食事の前に勉強して・・・


 あれっ?

 もう、朝!?



「夕べ、オスカルは夕食も食べずに寝てしまったんだよ」

「きっと疲れちまったんだろうなぁ」

「オスカル様、がんばったもん♪」


 そっか・・・

 勉強してる途中で寝ちゃったか。


「今、アシュリーが『ぞうすい』っていう消化のいい朝食を作ってるからさ、それを腹に入れておけってさ」


「ぞう…?」

「ぞうすい。美味いぜ!」

「何で兄上が知ってるの!?」

「いや、アシュリーがちょっと味見させてくれてさぁ」

「ムハンマド・・・」

「ずるい!僕も食べたい!」



「大丈夫です。皆さんの分もありますよ」


「わーい♪アシュリー、ありがとう♡」

「少しだけですからね」

「うん♪朝食は朝食でちゃんと食べたいもんね!」


「おっ!今日も川釣りに行くかっ!」

「良いですね!」

「今日も勝負しようぜ」

「ふふふ・・・負けませんよ」


「兄上も懲りないね」

「分かんないだろ!」


「今、ローラとクラリッサが塩にぎりを作ってくれています」

「しおにぎり?なぁに、それ」

「具の入っていない、ちょっとだけ塩味がついたおにぎりです。焼き魚と食べるなら塩にぎりは最高なのです!」


 何かすごくお腹がすいてきた気がする・・・。


「準備がいいな」

「今日は、本当は森でキノコ狩りをしても良いかと思ったのです」


「絶対、釣り!」

「僕も、釣り一択!」


「それ、食べてもいいか?」


「あぁ、オスカルすまん!」


 アシュリーが小さい鍋に入っていたドロッとしたものを小さい器に移して手渡して来た。


「熱いから気を付けて」


 いい匂い…

 湯気がすごいから熱いんだろうな。


 フーフー・・・


 熱っ!


 でも・・・


「美味しい・・・」


「良かった。お腹は空っぽになっているからゆっくり食べるのですよ」


 何か色々入ってるってわけでもなさそうなのに、

 ドロっとしてどう見ても美味しそうじゃないのに、

 何でこんなに色んな味がして美味しいんだ?





 今朝はゆっくりと着替えをして、すとれっちというのをやってから走り始めた。

 食べたすぐに走るとお腹がびっくりするから駄目なんだって。


 学園があるわけじゃないから、急ぐことはないって言ってたけど、鍛錬しないって選択肢は無いんだよな…。



 昨日と同じように早朝の訓練をして。


 昨日と同じように朝日を見て。


 昨日と同じように川で釣りをした。



 今日、ついて来た護衛はレイトンというグレンヴィルの騎士だった。

 知らなかったけど、護衛は寝ずの番をしてるらしい。明け方から交代して一人は睡眠をとるのだそうだ。


 俺達が起きている時に二人共いたってことは、寝ている時間も短いんだろうな・・・。


 今までそんな事気にした事もなかった。



「オスカル様、あの赤っぽい岩の下辺りを狙ってみましょう!」


 レイトンというグレンヴィルの騎士は、ミッチェルと違って当たりが柔らかい。何か俺を子どもと同じように扱ってる気がしないでもないけど・・・教え方も丁寧かな。



 全然釣れないけどっ!


 一瞬釣れたのに逃げられた!!



「惜しかったですね・・・後、少しでしたのに。次はきっと釣れますよ。あのアシュリー様も、最初の頃は全く釣れませんでしたから。まぁ、6歳くらいでしたけど」


 おい、やっぱりグレンヴィルの奴らは皆アシュリーが釣りをしていたのを知ってるじゃないか!



「なぁ、アシュリーは何であんなに強いんだ?」


「それはもちろん必死に鍛えたからですよ」

「お前達騎士は誰でも鍛えているんだろ?アシュリーはあの小ささで、しかもまだ少女で、何でいい大人の騎士より強いのか・・・何か特別な理由が無きゃおかしいじゃないか」


「それも同じ答えになりますが・・・アシュリー様は5歳の頃から強くなる為に鍛え始めたようです。毎日毎日、独りでコソコソと♪」


「5歳!?なんでまた!そんな小さいのに・・・」


「強くなりたかったのでしょう。お母上を亡くされてから急にアシュリー様は変わられました」


 そっか・・・アシュリーの母親はそんな早くに・・・。


「お父上であるグレンヴィル辺境伯と共に領地を護りたい、モントローズを護りたい。その一心だったのではないでしょうか。アシュリー様は誰よりも騎士の心をお持ちです」


 他人を護る為に強くなる。

 それが騎士の心ってことなのか?


「アシュリー様がトーマス様…、トーマス様はグレンヴィルの騎士団長でアシュリー様の兄上です。そのトーマス様にグレンヴィルの騎士団の制服をもらった時はとても喜んでいらっしゃいました。クックックッ・・・騎士と認められた事が余程嬉しかったのでしょう、誕生日のパーティにもずっと騎士服を着ていらっしゃいましたよ」


 ドレスよりも騎士団の制服を選ぶとは、アシュリーらしいな。


「12歳で見習いを卒業し、騎士として認められたのはグレンヴィルでも最年少ですが、並大抵の鍛錬ではなかったと思いますよ。なんといっても始めた頃のアシュリー様は走る事さえ全く出来なかったのですから」


「・・・!?」


 何だって?

 走れもしないチビが、独りで鍛錬していたって事か!?


 それが今では王宮騎士団長より強い・・・?


「具体的に申しますと・・・朝の4時には起きて走り込みや体力づくり、そして身体能力を上げる為の訓練、力をつける為の訓練などしていらっしゃいました」


 コソコソしてたっていう割には全部知ってるじゃないか!


「8歳でようやく騎士団の訓練に加わりましたが、その頃には既に剣を振る事が出来ていましたし、走ることや跳躍力などは誰よりも優れていたと思います」


 8歳で大人より速かったって!?

 どんな鍛え方したらそうなるんだよ!!


「その頃、アシュリー様がお独りでしていた訓練をグレンヴィルの騎士団の訓練にも取り入れるようになったのですが、おかげで騎士達の身体能力がグッと上がりました」


 何か・・・聞けば聞くほどすごい女だな。

 こういうのをなんて言えばいいんだ?


 うーんと・・・


「アシュリー様は努力する事を惜しまない努力家なのです。そして諦めません。誰が見ても勝てないような相手でも、負ける事を良しとはしないのです」


 努力家・・・アシュリーは努力家が好きだと言っていた。それは自分も努力をして来たから…。


「そうそう、アシュリー様は武術だけではありませんよ。お勉強もです。無理やり高等部へ編入する為に最高学年までの内容を必死で勉強して試験を受けたので今があるのです」


 そういえば、アシュリーはまだ15歳なのに17歳のギルフォードと同じ学年!?

 今、初めてその違和感に気付いた!!


「何のために!?」

「初等部の授業は簡単すぎてつまらないのと、騎士科がないからだと聞きましたが・・・」


 なんだそれ!


「まぁ、結局騎士科に入る事は出来なかったんですが…」


 馬鹿か・・・。


 違うか、馬鹿なら最高学年までの授業内容を全部独りで勉強する事なんて出来ない。

 どんな天才だ!!


「アシュリーは天才なんだな・・・」


「違いますよ。アシュリー様はいつも言っています。勉強しないと出来ないのは天才ではないと。努力して今の成績を維持しているのです」


 そうだ。

 いつもちゃんと勉強してる。

 夕べだって・・・。



『アカン!これはニュートン先生の勝ちだ!』

『お嬢様、勝ち負けの問題ではありませんよ』

『いえ、きっとこれはニュートン先生の私への挑戦です!』

『もう!習ってないから分からないだけですよ!』


『アシュリーが分かんないなら僕達にも分かんないよね』

『そんな事はありません!こういうのは何かパッと閃く何かがあれば突破出来るものなのです。ヘクター何か浮かびませんか?』


『はい・・・残念ながら』


『うー・・・悔しいです』


『これは本当にニュートン先生のアシュリーへの挑戦なのか?』

『それっぽいよね♪課題作ってくれたのニュートン先生だし』


 先生が生徒に挑戦するってどうしてだよ!


『俺はからっきしだ。分かるのからやるよ』

『そうですね、ここばかりに時間を取られていては全部出来ません』



『クラリッサ、私達は得してますね♪分からなくても教えてくれる人がいるのですから』

『フフッ♪そうですね』


『うん、二人共何でも聞いてよ♪』



 大勢で勉強するのって気が散って出来ないとか思ってたけど、そうでもなかった。



 この後の記憶はない・・・。

 眠ってしまったんだろうな。




「皆さーん!そろそろ終わりましょう!」


「分かった!」

「はーい!」


「ちょっと待ってくれ!あと少し!!」

「兄上、あきらめが悪いよ〜」


「クソッ!今日は成績が悪い・・・」


 と言っていたムハンマドは8匹。

 アシュリーはまた10匹超えみたいだ。


「ふふふふふ・・・今回も私の勝ちのようですね」


「アシュリーは私に教えてくれていたのにすごいです!」

「アシュリー、水魔法とか使ってないよな?」

「アシュリーに限ってそんなずるい事はしないだろう」


「いえ、私だってズルをしないわけではありませんが、勝負となれば話は別。正々堂々としなければなりません!」


「お嬢様、手掴みで魚をとるのはズルではないのですか?」

「ダメなのですか?」


「何!?」

「手掴み!?」

「それは釣るよりすごいんじゃあ・・・」


「アシュリー・・・ベアみたいだな」


 ギルフォード!

 俺も思ったよ!!

 ベアって、本物は見た事ないけど、鋭い爪で魚をとるんだって、どの図鑑にも載ってた。


「「「ベア・・・」」」


「ワイルドボアからレッドベアに変身か!?」

「兄上、また余計な事を・・・」


「フフン♪負け犬の遠吠えですか。手掴みは3匹ですので、それを引いてもどっちみちムハンマドには勝っていますよ」

「いや、引かなくていい!おみそれしました!!」


「野生のアシュリーには勝てないって事だな」

「ギルフォード様まで余計な事を・・・」





 朝食はまたアシュリーの竈で魚を焼いて、

 クラリッサがスープを作って、

 塩にぎりっていうのを食べた。


 美味しかった・・・。


 魚のはらわたを出すのはちょっと慣れたけど、あまりやりたくない。


 川で器を洗った時は、やっぱり手が滑って流してしまったけど、今日はアシュリーのホークが拾ってくれた。







 村に戻るとすぐに畑作業に行かされた。

 昨日、『くわ』とかいう農具を使って土を耕して作った畑だ。



 あれはキツかった・・・。

 剣を振る何倍もキツかった・・・。


 最初はやるつもりなんてなかったけど、ギルフォード達は何か嬉しそうにやってたし…。


『これって鍛錬にもなるよね!毎日続けたら大剣も扱えるようになるかも♪』

『ははっ!デヴィッドは今でも扱えるだろう』

『まぁね♪でも、もっと力つくよ!』


『その通りなのです。これはお嬢様が皆様の力と体格に合わせて作られた農具です』


『『『えっ!?』』』


『だから名前が書いてあるんだ♪』

『体格は分かるけど、力って・・・そうか!重さか!』

『はい、使いやすさより訓練になるよう考えられているようです』

『徹底してんな〜!』


『ちょっとオスカルの持たせてよ』

『あ・・・うん』


『わっ!軽っ!』


 俺のはそんなに軽いのか。


『腹筋も背筋も発達していないオスカル様が、重いくわを何度も振ると腰を痛めるからと言っていました』


そ、そうなんだ・・・。


『じゃ、僕達はこの重いくわで頑張ろー!もう結構進んだよね♪』

『デヴィッド、我々はまだまだだ。アシュリーを見ろ』



『『・・・・・・』』



『うわぁ!さすがアシュリーだね。もう独りであんなに耕してる』

『くわを振る姿勢に無駄がない』

『ヘクターより上手いなっ!』

『私はあまり農作業の経験がありません…』


 従者より農作業の経験が多い貴族令嬢ってなんだよ!


『アシュリーの姿勢の真似しようぜ!』

『うん!足はこうやって広げて・・・あんまり振りかぶらないように・・・』


『うん!イケるぞ!』

『ギルフォード様、上手いなっ!王子とは思えないぜ』

『ムハンマドもなっ!』


『オスカルもアシュリーの真似してごらんよ、腰とか楽だよ』


 何でこいつらは王族の癖に楽しそうに農作業してるんだ!

 どっかズレてるって・・・


 もしかして、ズレてるのは俺なのか?




 昨日のうちに畑は完成した。

 本当に完成したんだ!

 綿の木の畑と同じだった・・・。


 全員でちまちまと種を植えた後は、一気にアシュリーが魔法で育てた。

 こういうのを『ズル』と言うのだとアシュリーは言ってたな。




 今日は雑草を取り除く作業だって・・・。



 何で雑草がこんなに生えてるんだよ!

 昨日の今日で、こんなに伸びるのかよ!



「アシュリーが作物を育てると雑草も育つんだね・・・」

「はい!グレンヴィル邸の庭の畑は、毎朝雑草引きが欠かせません」


 グレンヴィル家には庭に畑があるのかっ!?


「お嬢様の朝の日課の一つです」

「へえ〜♪」


「鍛錬が終わって、草引きも終わった後に、畑の熟れた野菜を収穫するのは最高のご褒美なのです!」


 野菜の収穫がご褒美・・・。


「こりゃあ頑張らないとな」


「一気に成長させたので雑草も一気に伸びてしまいましたが、畑の面積も我が家の畑の4分の1にも満たない程です。全員でやればすぐですよ」


 これの4倍以上って、どんな広い畑が庭にあるんだよ!


「オスカルも頑張るのですよ。雑草に栄養を取られてしまっては野菜が美味しく育ちませんからね」


 雑草を取る理由はそういう事なんだ…。


「なるべく根っこから引き抜かないとすぐに生えてくるのです。こうやって・・・」


 プッ!

 スッ!

 プッ!


 ふーん・・・

 簡単そうだな。


 ブチッ!

 ブチッ!


「オスカル、ちぎっては駄目だ。こうしてもっと根っこに近いところを真っ直ぐ引くのだ」


 プッ!

 スッ!


 クソッ・・・面倒だなっ!


 プチッ…


「少し上手くなったぞ!」


 プッ!


「そうだ、その調子だ!」


 プチッ!


「面倒だろ?」


「・・・・・・」


「オスカルが日頃食べている野菜も、畑を耕して種を植え、毎日水をやり雑草を取り除き、美味しくなるように手間をかけて育てられているのだ。私はズルをしたが、普通はこれをもっと長い月日をかけてやるのだ。農家の人達の苦労が分かるか?」


「だって、それが仕事なんだろ」


「そうかもしれない。だが、仕事だから当たり前だと言うのなら、国王も仕事なのだから何をしようが感謝する必要もないのではないか?」


「・・・・・・」


「気持ちの問題だ。農家の苦労が分かれば、食べ物を無駄に出来ない。同じように世の中に出回っている全ての物は、国民が汗水垂らして働いた物だと国王として理解するべきだと私は思う。同じ事をシュマンの国王もモントローズの国王も言うだろう」


「・・・モントローズの国王陛下は同じような事を言っていた気がする」

「やっぱりな。その時よりは理解出来たか?」


「・・・・・・少し」


 面倒な事をしてるってことは分かった。

 でも、何でそれが感謝に繋がるのかは分かんない。


 分かんないって言ったら、何させられるか分かんないから言わないけどっ!






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