384話 離島研修 ⑩ 〜シュマン王子の奮闘
オスカル視点です。
「オスカル様〜♪朝だよ〜♪」
「オスカル!朝だぞ!」
もう、朝か・・・。
あれ?
アンドリースじゃない?
誰だ・・・。
「う・・・ん。ギルフォード?」
そっか・・・ここは、獣人の島だった。
皆はもう起きて・・・
「…って!まだ真っ暗じゃないか!どこが朝なんだよ!」
「もうすぐ5時になる」
「5時!?朝の5時に起きて何をするんだ!」
バン!
「鍛錬に決まっています」
「アシュリーまで!?しかも鍛錬!?」
「皆さんおはようございます!」
「おはよう、アシュリー。今、呼びに行こうかと思ってたんだよ」
「アシュリーおはよう♪よく眠れた?」
「はい!皆さんはちゃんと眠れましたか?」
「うん!このアシュリーの上掛けがすっごい寝心地良くって♪」
「おう、匂いもいいしなっ!寮のベッドよりよく眠れたぞ」
「それは良かったです」
うん、これは見た目よりずっと寝心地は良かったな。最初はこのペラペラな緑色の布団で寝るのか・・・ってガッカリしたんだけど。
「皆様、おはようございます」
「ローレンティア、おはよう」
「ローレンティアも一緒に行くのか?」
「はい、皆さんのお邪魔にならないよう頑張ります」
「ローラはずっとゴードン様と訓練していましたから大丈夫ですよ」
ちょっと待ってくれ・・・
こんな真っ暗なうちに鍛錬するのは、こいつらにとって当たり前なのかっ!?
アシュリーとかヘクターは分かるとして、ギルフォード達も?ローレンティアまでも!?
しかも、ローレンティアは嬉しそうなんだけど・・・
分かんないなぁ・・・
「オスカル、早く支度しろよ」
って、俺も連れて行かれるのかっ!
それからしばらく走らされた。
道が悪くて走り辛いし
ってか、あれって道なのかっ!
坂道多いし、わざわざ岩場を登ってどうすんだよ!
アシュリーは朝日が見られるからだって言ったけど、朝日を見て何かあるのか?
ハァハァ・・・
キツい・・・
「あと少しです」
アシュリーがそう言ってからすぐ、ちょっと広い丘まで着くと走るのは終わった。
「私の速さに合わせてくれてありがとう」
「ローラだけではないですよ」
俺か!
あれで遅かったってことか!!
ま、まぁ…確かについて行けたど・・・。
「皆様お疲れ様です」
は・・・?
いきなりクラリッサが飲み物持って出て来たぞ!?
あれか!
黒べーとかいう奴で運んで来たのか。
「クラリッサ、ありがとう!」
「「「ありがとう」」」
少し休憩した後、何かの蔓で作ったっていう『なわとび』っていうのをやらされた。
アシュリーの倶楽部で何度か見た事があったけど、自分で使った事はなかったから、ちょっと興味はあった。
あったんだけど・・・
これは辛いっ!
ただ回しながら跳ぶだけなのに、続けるのは辛い!
ハァハァ・・・
こいつら休む気ないんか!
どいつもこいつも無言でずっと跳び続けてるから、何か俺だけサボってるのもちょっと恥ずかしいような気が・・・
あんまり辛くないように、ゆっくり跳んで・・・
って!ゆっくり跳んでも変わんないよっ!!
クラリッサは灯りの魔道具を持って来てて何か作業してるし、何の為に連れて来たんだ?
なわとびが終わると、アシュリーもギルフォードも無言で何か始めた?
それを見たムハンマドとローレンティアも同じように無言で何か始めた。
「あれはね『シャドーボクシング』って言って、架空の敵を想定してるんだよ」
「架空の敵?」
「うん、頭の中がスッキリして良いんだって」
分かんないなぁ・・・
「オスカルは、僕と一緒に剣の型をやろうね」
「ゲッ!」
「ゲッってなに?剣の型は基本だからね、毎日やらないと強くなれないよ」
「うっ・・・分かった」
「逆に毎日やれば自然と技も身に付いてくるよ」
ヘクターはどこかへ行ってしまったので、何をしているのか分かんなかった。
そして、やっぱりデヴィッドの指導は厳しかった・・・。
型は倶楽部の時よりずっと短かったけど、その後「打ち込みするからちゃんと受けるんだよ」とか言ってガスガス打ち込んで来た!
「アシュリーの障壁纏ってるから当たっても痛くないよね♪」
「痛くはないけど、それなりに衝撃は伝わって来るんだよ!」
「じゃあ、当てられないように頑張って♪」
虫も殺さないような綺麗な顔して・・・
こいつ、アシュリーにそっくりだな!!
どこからかヘクターが帰って来ると、全員それぞれやってた訓練をやめた。
「皆さん、そろそろ日が登りますよ」
ヘクターがそう言ったからだけど・・・そういえばいつの間にか明るくなってたな、気が付かなかった・・・。
丘の上から海の方を見ると、今まさに太陽が見えて来るところみたいだ。ちょこっとだけ太陽の端が見え始めた。
まだ薄暗い海に太陽の光が・・・
うわぁ・・・これは・・・
「美しいですね」
「はい、美しいです」
本当に美しい。
アシュリーはこれが見たかったのか。
「海から顔を出す太陽か、これはいいな。王都では決して見ることが出来ない景色だ」
うん、シュマンの王都でも見れない。
「僕も初めて見た・・・すっごい綺麗!」
「朝の訓練が終わって見るのも格別だな!これから一日、また頑張ろうって気になるぜ!」
頑張りたくないけど・・・
ま、まぁ、少しは頑張ってもいいって気になるかな。
「アシュリー様、連れて来てくれてありがとうございます」
「気に入ってくれましたか?」
「はい♪とても素敵な景色です」
そうか、アシュリーはクラリッサにもこの景色を見せたかったのか。訓練しないクラリッサをわざわざ連れて来た理由はこれか。
・・・ってことは、アシュリーは前に見た事があるってこと?
色んな所に飛んで行っていそうだから、こういうのも見てるのかもな・・・。
全員でしばらく太陽を眺めていたら、ちょっと目がおかしくなった。
何かチカチカチラつく。
「お嬢様、あっちから戻ると途中に魚が釣れそうな川がありましたよ」
「それは良いですね!朝食は釣った魚にしましょう!」
は・・・?
今から魚を釣るのか?
「川で魚釣りをするのか?」
「はい!ギルフォード様も挑戦しますか?釣竿は皆さんの分も準備して来ましたよ」
「ありがとう、準備がいいな」
「自給自足と言えば魚釣りかと」
「おっ!俺のもあるか?」
「もちろんです!ムハンマドは釣れるでしょう?」
「おう!まかせとけ!」
「僕もやる〜♪楽しそう!」
「ローラの釣り竿もありますよ」
「わぁ♪嬉しいです!やってみたかったのです」
何故、全員喜んでるんだ?
ま、まぁ、俺もやりたくないわけじゃないけど…。
着いた場所は、大きな岩が並ぶ結構流れの早そうな細い川だった。
こんな所で魚が釣れるのか?
アシュリーが全員分の釣竿をどっかから出した。
先っちょに何かキラキラした物がくっついてる。
「アシュリー、これは釣れそうだなっ!」
「でしょう!」
「この綺麗なのって魚だよね」
「これが餌になるのか?」
「そうです!ヨアブに作ってもらったのです」
「虫とか付けなくて良いのですね」
「はい、このキラキラに騙されて食いつきます」
へぇ〜・・・
「よし!まずは俺が見本を見せてやるよ。渓流釣りはな・・・」
ムハンマドが竿の振り方とか説明しながら、何度か川にキラキラの魚を投げた。
4回目に投げた時・・・
「おっ?かかったぞ!」
ムハンマドがそう言って竿を上げると、本当に魚がかかっていた。
ムハンマドの手と同じくらいの大きさか?
「やりましたね!」
「兄上すごーい♪」
なんだ、簡単そうだな。
「流れが早いので川に落ちないように気を付けてください」
「ピッ!」
「溺れたらタイガーがすぐにアシュリーに知らせてくれるみたいだぞ」
「ピッ!」
「頼むよ、タイガー」
「お願いしますね」
「ピィ〜♡」
こ、こいつらホークと会話してる・・・。
ま、まぁアシュリーが飼ってるホークだからな、普通じゃないとは思ったよ。
「アシュリー、競走しようぜ!」
「望むところです!」
ムハンマドとアシュリーは釣った魚の数を競うみたいだ。
二人共自信があるんだ・・・何で二人共釣りが得意なんだ?
変な女と変な皇子だ…。
「差し出がましいとは思いますが、私がお教えしましょうか?」
ミッチェルだったか?
騎士団長も釣りをするんだ・・・。
「釣りが得意なのか?」
「得意というわけではありませんが、私の所属する王宮第五騎士団は、王都ではない直轄地を主に、遠方へ行くことがほとんどなので、野営をする事が一番多い騎士団なのです。川を見つければよく魚釣りをしますよ」
へぇー・・・旅の多い騎士団か。
気障ったらしい見た目からは、そんな風には見えないのにな。
とりあえず、投げ方を教えてもらったけど、ちっとも釣れない。
岩陰は狙い目だと言うので狙ってみたけど、全然釣れない。
竿の動かし方も習ってみたけど、全く釣れない。
簡単そうと思ったのに・・・。
「アシュリー様ー!もう7時ですよー!」
「はーい!皆さん、終わりましょうか」
結局、俺は一匹も釣れなかった!
「オスカルも全くか。私もだ・・・」
「私もです・・・釣りって難しいのですね」
「僕だって一匹だけだよ」
「一匹だけでも釣れたならいいじゃないか!」
「まあね♡釣れた瞬間は気持ちいいね♪」
「うっ…羨ましい・・・」
「羨ましいですね」
ギルフォードもローレンティアも釣れなかったみたいだ。
俺だけじゃなくて良かった!
「大丈夫ですよ、私もムハンマドもたくさん釣れましたから、皆さんの朝食の心配は要りません」
「おう!いっぱい釣れたぜ!」
そう言って腰の籠を見せて来たのだが・・・
「わぁ!兄上すごーい!」
「まあな♪」
「アシュリーもたくさんですね!」
「おっ、アシュリー!勝負だ!」
「はい!数えますよ!」
「「いーち、にー、さーん、しー・・・」」
二人で籠の中の魚を出しながら数え始めた。
「「はーち、きゅー、じゅー・・・」」
あ、ムハンマドは10匹で数え終わっちゃった…。
「じゅうにっ!やったー!勝ったー!!」
「クソッ!絶対勝ったと思ったのに!!」
「ふふふ・・・私に勝とうなんて100万年早いですよ」
「何でだよ!俺の方が絶対経験も長いはずなのに」
「ムハンマド様、アシュリー様は6歳の頃からグレンヴィル家の池で釣りをしておりましたので、多分それほど経験年数は変わらないと思います」
「屋敷の池で釣りをするなよっ!」
「外に遊びに行けるようになった8歳の頃なら頻繁に川に釣りに行っていました」
「な…何でヘクターがそんな事を知っているのです!!」
「屋敷中の人が知っていたと思います」
「そ、そんな・・・」
「アシュリーに隠し事は無理だよね♪」
「そうだな、今ですら無理なのに、そんなに小さい頃ならもっと無理だろう」
「そうですよね」
「毎回『もらった』と言っては、釣りたての魚を大量に持って帰って来れば誰でも分かります」
「そんな・・・」
「しかも、街の人達には『主』と呼ばれていた大きな魚を、何かで殴ったような捕まえ方をして来た時もありましたので、お嬢様以外には有り得ませんでしょう」
「「「アシュリー・・・」」」
「えーと・・・」
何か、アシュリーの小さい頃を垣間見た気がする・・・。
「兄上、負けを認めるしかないね♪」
「経験でも負けてたかぁ〜、そりゃしょうがないなっ!」
「これはどうするんだ?」
「早速焼いて食べましょう!」
そう言って、アシュリーはまたあの鉄製の竈を出した。
「オスカル、魚の仕込みです!」
は・・・?
「はらわたを取ってから焼いた方が良いだろう?オスカルははらわたも食べるのか?まぁ、そういう人もいるが・・・」
「食べないよっ!」
「では、取るのだ」
「ワイルドボアの解体よりずっと楽だぜ」
「・・・・・・」
そうして、俺は・・・
魚の腹を切って
ぐちゃぐちゃしたはらわたを取って
川の水で洗う
・・・という作業をさせられた。
半分以上はムハンマドがやってくれたから、俺は8匹やっただけだけど。
二度とやりたくない!!
アシュリーの竈で焼いている魚からいい匂いがして来た。
ギルフォードとデヴィッドが準備した竈でも、クラリッサが作っているスープからいい匂いがしている。
何かお腹減ったな・・・
「皆さん、焼けましたよ!」
「おぅ!美味そうだな!」
「わーい!僕、自分で釣った魚食べよ〜っと」
「私は、この魚がいいな」
「オスカルはこれが良いな」
「どうしてだ?」
「骨が大きめで外れやすくて食べやすいからです」
「そ、そっか・・・」
アシュリーは川魚に詳しいのか。
そりゃ、そんな前から釣りをしていたら詳しくもなるか・・・。
「どれも美味しいですよ!」
「私はこれにします」
「ミッチェル団長もどうそ!」
「ありがとう♪うーん本当に美味しそうだ」
「ヘクターもクラリッサも焼きたてを食べましょう」
「はい、ありがとうございます」
朝も早くから何やってんだろうな・・・
でも、
ちょっと悪くない。
片付けが無かったらもっと良かったんだけどな・・・。




